色付く事を知った刻





 梶原一族へのお披露目も恙無く終わり。
 花の宴を始める一族の者たちとは別に、かつての仲間だけでの
小さな披露宴を始める予定になっている。

「疲れた〜早く帰ればいいのに。季節がいいもんだからさ〜」
 景時は、ご年配方の相手に疲れたのか不平を漏らす。
「兄上!この後は私たちで小さな宴をしますから。そう文句を言わ
ないで下さいな」
 だらしなく座る兄を窘める朔。
「だぁ〜ってさぁ〜。オレのちゃんにちゃっかり触ってるし。何が
『龍神のご加護』だよ〜。それなら白龍の手を触ればいいのにさ〜」
 朔は、話がズレてきた景時を放っておく事にしたようだ。



「じゃ〜景時はこっちに座ってくれよ。そろそろの支度も終るだろ
うしな」
「御意〜〜」
 将臣の仕切りにより、それぞれが自分の場所へ座る。
、遅いわね」
 朔が戸を振り返ると、右近が戸を開け、頭を下げていた。
「お支度、整いました」
 右近に手を引かれてが入ってきた。
「綺麗よ、
 声をかける朔。
 ヒノエなどは、口笛を吹いたりする仲間の温かい出迎えの中、景時
だけがの足元へ視線を落としていた。
 
 が景時の隣に座ると、将臣が説明を始めた。
「俺たちの世界では、神様の前で指輪を交換して夫婦の証しを立てる
んだ。で、神様は白龍が居るから、面倒な言葉とかは全部すっとばす
として。指輪はが欲しいかな〜って用意したんだ。これは、俺と
ヒノエから。サイズも適当に測ってあるから大丈夫だと思う。みんなの
前で交換して、キスしてオシマイ。よろしく!」
 譲が景時との前に、指輪を差し出した。

「こ、これを?」
 景時が小さい方の指輪を手に取る。
「そうです。先輩の左手の薬指に嵌めるんです」
 言われた通りにする景時。
「わ〜、これピッタリだ。不思議〜」
 が指輪をした手を眺める。

「先輩も景時さんにして下さい」
 譲に言われて、も指輪を景時の指に嵌めた。
「・・・・・・指輪って初めて」
 普段腕や耳に飾りを付けていながら、指には何も付けていない。
 なんとも不思議な物を見る目で景時も手を眺めていた。

「いや、そこ!指輪見てる場合じゃないから。誓いのキスしろよ〜」
 将臣が急かす。
「えっ?皆の前でするの!?」
 が将臣を見る。
「あ〜?そういうもんだろ、普通」
「で、でも・・・そのぅ・・・・・・」
 景時を気遣う
 本日の景時、一度もと目を合わせていない。
「無理だよ・・・・・・景時さん、大変な事になっちゃうもん・・・・・・」
 と将臣の会話を注意深く聞いている景時。
「えっと・・・オレが何かするのかな?」
 将臣に訊ねる。
「今日からこの子が嫁さんですって誓いに。軽く口づけをな!」
 将臣が笑いながら今後の行動について口にする。
「ええ〜〜〜っ?!無理だよ!そんなの・・・・・・だってオレ・・・・・・」
 俯く景時に、仲間から野次が飛ぶ。
「男らしくないな〜。姫君を待たせるなよ」
「景時殿?ここはさんの世界に倣ってと、決めていたではないですか」
「・・・早くしろ」
「・・・・・・神子と何かするの?」
「兄上!さっさと決心して下さい!!!」
 ここぞとばかりに言いたい放題の面々。

「・・・だっ、だから!無理だってば。オレ、今日一回もちゃんとちゃんを
見ていないんだから!」
 景時が力いっぱい叫んだ。

「は?!」
 以外、全員が口を開けたまま固まった。
「・・・ちゃん見たら、オレもう今日起き上がれないから!だから・・・・・・」
 両手を拳にして、益々俯く景時。微妙な沈黙が流れる───

「景時さん。目を閉じて下さい」
「え?」
 顔を上げる景時。
「そのままこっちを見ないで目を閉じてて下さいね」
 が動く気配を感じる。何かが景時の唇に触れた。
「おぉ〜〜〜」
 声を出す者、冷静な者、固まる者と反応が面白い。
「さて!次は何があるの?将臣くん」
 衣擦れの音がして、が元の場所に座ったのがわかり、目を開く景時。
ちゃん───君は───)

 譲がケーキを運んできた。
「わ〜!大きい。皆で食べられそうだね〜」
 喜ぶ
「あの、一応ナイフがなくてこれで代用を・・・・・・」
 譲が小刀をに手渡した。
「あ、そっか〜。ケーキカットだね。景時さん、左手出して!」
 景時の左手に小刀を持たせ、右手を添える
 そのままケーキへ刃を下ろした。
「きゃ〜v皆で食べようね〜〜〜」
 ケーキを譲が切り分け始める。
「景時さんも食べてくださいね〜」
ちゃん!」
 景時がの方を向く。
「あ、あの・・・・・・今日は・・・・・・」
 氷重ねを着ている。白がよく似合っていた。
 続きの言葉が出ずに黙っていると、が首を傾げた。
「はい。あ〜んして下さいね?」
 箸でケーキを口元へ差し出された。素直に口に入れる。
「おいしいですか〜?これは、幸せのシルシだから食べないとダメですよ」
 またがケーキを食べ始めた。
 景時、何も言い出せないまま時間だけが過ぎた。
 


「皆ありがと。ケーキカットまで出来ちゃうなんて、思わなかった〜」
 ぺこりと仲間へお辞儀をする
「まだ続きがあるんだな〜、これが」
 将臣が九郎を見る。
「俺と弁慶からは、景時に一週間の休暇を。のんびりしろ」
 真っ赤になって言い捨てる。
「あ、ありがと。いや〜、気を遣ってもらっちゃって、ごめんね〜」
 景時が頭を掻く。
「我々からは、これを」
「掛け香です」
 リズヴァーンと敦盛が包みを出す。
「お香?」
 が包みを開けると、組紐で編まれた中に白いまゆ玉が入った物が
現れた。
「縁起の良いものなのです。白い物と聞いたので・・・まゆ玉が白いので
これならと。リズ先生と選んだのです」
 紐の端を手にとり、香りを楽しむ
「可愛い〜、触っちゃお」
 まゆ玉を指でつつく。
「最後は私と白龍から。お花を譲殿に教わって、“ぶ〜け”にしてみたの。
それと、これを」
 舞扇が手渡された。
「白龍と選んだの。ね?」
「うん。神子に似合うと思って」
 白龍が扇を開いて見せた。
「桜の花弁が・・・・・・」
 白地に桜の花弁の柄。
「また神子が舞うのみたい!」
「そうだね。また桜の下で・・・・・・皆でお花見の時にね」
「うん!」
 白龍が大きく頷いた。

「あの・・・わざわざ私に合わせてくれて・・・・・・ありがと。すっごい幸せ
者だよね。えっとね、今日から景時さんの奥さんなんだけど。皆とも家族
だって思ってるから・・・・・・」
 が俯くと、景時が立ち上がった。
「オレじゃ頼りないって思うかもしれないけど!オレの精一杯で頑張るから!
みんな、これからもよろしくお願いします。それと、今日はありがとう」
 景時の勢いについてこられたのは、リズヴァーンだけだった。
 黙って景時の肩を叩く。
「リズ先生・・・・・・」
「皆が居る。案ずるな」
 リズヴァーンの言葉で、全員が我に返る。
「うわ〜、景時が真面目だ。びびった」
「兄さん、また馬鹿な事言って・・・・・・」
 将臣の口は止まらない。
「だってさ〜、さっきまでの顔見られないって言ってたんだぜ?」
 ヒノエも参加する。
「だよな〜。今日の姫君はいつもに増していい女なのにな?」
「いつも可愛らしいですけど。確かに今日は特別ですね」
 弁慶まで煽る。
 九郎と敦盛辺りは、景時の気持ちがわからなくも無い様で、大人しい。
「うん!神子、とても綺麗だよ?景時」
 白龍がに飛びついた。
「ありがと・・・白龍」
 が景時の方を見る。
さんの姿を見て、感想はないんですか?」
 弁慶がくすくすと笑いながら景時に訊ねる。
「そ〜、そう!それだよ。姫君はいつも景時を格好良いとか、優しいとかベタ
褒めなのにさ〜。言葉にしないのは良くないよな〜」
 ひらりとヒノエは立ち上がると、景時を肘でつつく。
「まあ、あれだ!男は黙ってのタイプ・・・じゃねえなぁ、景時は」
「フォローになってないよ・・・・・・」
 譲は、将臣を止めるのを諦めた。

 景時が、屈んでの膝から白龍を抱き上げた。
「白龍、ちょっと朔の所へ・・・・・・」
 そのまま床へ足を下ろさせると、白龍は朔の膝へ移動した。
 景時は、腰を下ろしての両手を取った。
「オレね、今まで情けないところばかり君に見せてるけど。今日からは違うか
ら。こんなに綺麗で可愛いお嫁さんをもらえるオレが、一番の幸せ者だから。
大切なものをなくさない努力をするよ。だから・・・・・・」
「景時さん!一番は私だから譲れませんよ?」
 が笑うと、つられて景時も笑った。
「あ、あれ〜〜?一番って・・・・・・」
「景時さんのお嫁さんになれて。皆に、こんなに大切にされて。一番は譲れま
せん。でも、二人で一番って言うのはアリです」
 の言葉に、仲間が笑い出した。

「まったく。敵わねえな〜、には」
「景時もさ、やれば出来るじゃん」
「これからも、しっかり働いていただきませんとね」
 和やかな空気に包まれて、婚儀の日が終ろうとしていた。



 白が幸せ色に染まる日───




 





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≪遙かなるお題配布所≫からお題拝借。お題元はコチラからどうぞ。

 あとがき:景時が変る時。望美が変る時。二人で踏み出す日♪     (2005.3.19サイト掲載)




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