覚えきれない漢字技





 最近では、仲良く二人でおやつを食べる景時と
 突然、が話題を変えた。
「景時さんって、どうやって技覚えたんですか?」
 本日のおやつはバウムクーヘン。むせる景時。
「・・・けほっ・・・・・・どうしたの?突然」
「だって、聞いてると、どう考えても漢字尽くしっポイですもん」
 口をもごもごと動かしながら、が首を傾げた。
「文とかちっとも読めないもん。うねうね〜って、線が波うってる
だけにしか。あれで漢字だって言われても・・・・・・」
 しばし考える景時。
(そういえば───)
 に歌を書いた書を贈った時、読めないと言っていた。
 しかし、丁寧に楷書で書いたものは読んでいた。
(興味があるのかな?)

ちゃんも、術を覚えたいの?」
「え?」
「だって、知りたいんだよね?」
 お茶を飲んで一息つく。
「ち、違うの!そ、そのぅ・・・・・・」
 赤くなって俯く。
「ん?」
 湯呑を盆に置き、の言葉を待つ。
「景時さん・・・・・・格好いいなぁって。それに、将臣くんも譲くんも、
どうして漢字の呪文覚えられたのかな〜って」
 いきなり褒められ照れつつも、やはり知りたいのだと覚る。
「そっか。あれね、漢字というよりは、名前だったりするんだよね。
招請とかも単に丁寧な言い方ってだけだったり。例えば、白虎様
の力を借りたい時の呪文は長いけどさ、内容は力を貸して下さい、
お願いしますみたいなもんなんだよね」
「そうなんですか?」
「そ!だから、気持ちがこもってれば、力は貸してくれるはずだよ」
 の目が輝き出した。
「じゃ、あの!景時さんが使ってる陰陽術の呪文は?」
 景時が頭を掻く。
「あ〜、そっちは。呪文と印の組み合わせなんだよね。ちょっと違う
んだ。これは誰でもってものでもなくて。少し知識が必要だね」
 申し訳なさそうな景時。
「そうですかぁ・・・・・・・・・・・・」
 がつまらなさそうに俯いた。
「何か、使ってみたい術があるの?」
 の頭を撫でる。
「式神、私も欲しいなって。そうすれば、景時さんに・・・・・・」
 の耳が赤い。
「オレに?何?」
 見当はつかないが、が式神を使うことは不可能ではないと
思われる。
 なんといっても龍神の神子だ。呼び出す式神も格が違うだろう。
「迷子になったら、景時さんに知らせてもらうとか・・・・・・」
 景時がを抱き寄せた。
「あのさ、たぶんいつも一緒だから。必要ないけど・・・・・・逆に
ちゃんの為になるなら、それもいいかもね」
 を守るもの。一番は自分だと、堂々と言いたい。
 しかし、景時は頼朝の部下だ。
 八葉とはいえ、実際の優先順位が一番と断言できる環境ではない。
「景時さん?」
「うん?何がいいかな。ちゃんに似合う可愛いのがいいよね」
 の顔を覗き込む景時。
「あ、あの・・・・・・私に出来る?」
ちゃんの方が、すごい式神を使役出来そうだよ〜?」
 おどけた調子で景時が請け合う。
「飛ぶのがいい!」
「飛ぶものか・・・・・・」
 飛ぶといえば鳥。しかし、の期待する飛ぶものとは?
「ふかふかで可愛いのがいいなぁ〜」
 の思っている生き物は何?
 鳥は失礼だが、ふかふかとは縁遠い。
 足なんて最悪に可愛くない。何気に止まられると痛いし。
「昔読んだ漫画にあった、『ももんが』とかいいな〜」
 の想像している生き物が判明。 
(ももんが?!またなんでももんが?)
 景時が考えていると、が景時を見上げる。
「肩に乗せたら可愛いと思いませんか〜?」
 のんびり口調の
ちゃんのほうが1000倍可愛いって!)
 久しぶりののうるうるきらきら上目使い攻撃!
 景時、至近距離でダメージ20000ポイントといったところだろうか?
 素早くから身体を離し、危険回避に努める。
「そ、そうだね〜。じゃあ呼び出してみようか〜」
 


 庭へ出て、空へ向けて印を放つ。
「じゃあ、ちゃん。ももんがって強く念じて。後は、ちゃんが
捕獲すれば、それが君のものだよ」
 が胸の前で手を合わせ、真剣に念じる。
 空にももんがが飛び交い始めた。
「これまたいっぱい来たね〜。さすが龍神の神子って感じ」
「えっ、でも!どうやって捕まえるの〜〜〜」
 が飛び跳ねている。
「どうしようか〜。あ、そうだ」
 景時が銃を取り出し、再び空へ向けて放つ。
 網が飛び出し、数匹のももんがが捕獲された。
「すご〜い!これで次はどうするんですか?」
 が景時の腕に縋る。
「後は、ちゃんが捕まえて。主だってわからせれば終わり。主従
契約みたいなもんなんだよ。ちゃんのおかげでももんがが呼べた
し。オレがまずはお手本をみせましょうかね〜」
 網のそばへ歩み寄り、中から適当に一匹の首元を掴む。
「さて。今日からオレの式神となって働くように。よろしくね?」
 景時の指が、ももんがの額を押すと、途端に大人しくなるももんが。
 手を緩めると、肩にふわりと飛び乗った。
「わ〜!いいな。私も、私も!」
 も同じように一匹を捕まえる。
「よろしくね?モモちゃん!」
 が名前を呼ぶと、ももんがが大人しくなった。
 そっと手の平に乗せなおすと、モモがの指を掴む。
「握手してるみた〜い!」
 モモを景時に見せる
 がモモに決めたら、いつの間にか他のももんがは消滅していた。
「さすがだね。名前は存在を縛るものなんだよ?名前つけちゃうなんて
やっぱりちゃんは、神子様なんだね〜」
 肩にモモを乗せて、景時の手をとる。
「違いますよ。景時さんが居なかったら出来なかったですもん!それに
おそろい〜!」
 景時の肩にもももんが。の肩にもももんが。
 二人は顔を見合わせ、笑いあった。

「景時さんは、なんて名前つけるんですか?」
「へ?今まで名前なんてつけた事ないよ〜?」
「だって。それじゃ呼べないですよ?」
 
 はこういう子だった。
 名前・・・・・・その存在を指し示すもの。
 呼べば応えるもの。

「何がいいかな?ちゃんが考えてくれる?」
 景時が手のひらを広げると、ももんがが肩からひらりと移動した。
 ももんがの頭を撫でながら、が考え込む。
「チョビかな〜。ほんとは犬につけたい名前なんだけど」
「じゃ、チョビに決定!お前は今日からチョビな」
 景時もチョビの頭を撫でた。
「これでお使いしてもらえますね!景時さんがどこに居てもわかるし」
「へ?オレ?」
「あっ!言っちゃった・・・・・・」
 が真っ赤になって俯いた。
「だって・・・・・・景時さんに迷惑かけたくないもん・・・・・・」
「オレに?迷惑なんてかけられたことないよ〜?」
「嘘!生田で景時さんが私を探して無理したって、皆言ってたもん!
この子が居れば、自分で景時さんの所まで戻れるから!」
 景時がようやく記憶を手繰り寄せること、しばし。
 生田で迂闊にもを置いて兵を撤退させてしまったのだ。
「あれは・・・・・・オレが悪いんだよ。ちゃんが居るか確認しなかった。
オレが悪くて。だから・・・・・・ごめん。気にしてたんだ・・・・・・」
 景時が項垂れる。
「違うの!私が悪いの。でも、信じてたから。景時さんを信じていたから。
全然平気だったよ!大事な人って・・・・・・嬉しかったし・・・・・・」
 今度はお互い照れあう二人。
 ももんが二匹がやってられんとばかりに、それぞれの頭の上へ、ひらりと
移動した。

「えっと。今度から気をつけますね。それに、モモちゃんも居るから」
「オレも。今度は手を繋いでいようね。もしもの時は、チョビが居るから」
 そっと手を繋いだ。

「兄上!!二人で頭に変な物乗せていないで。そろそろ部屋にお入り
下さい」
 おやつのお盆を下げに来たであろう朔が、簀子から二人に声をかける。

「違うよ〜、朔!おそろいの式神なの。モモとチョビだよ〜。ね!」
 景時に目で同意を求める。
「式神が増えたんだよね〜。ももんがなんだけど」
「だからって、頭に乗せて歩かなくても・・・・・・」
 朔があきれた顔をしている。
「いいの!おそろいなんだから。それに・・・・・・景時さんの髪がへしゃげてる
の、可愛い〜!!!」

「「は!?」」
 朔と景時が目を合わせる。
(兄上のどこが?)
(オレが可愛い?!何かの間違いじゃ・・・・・・)

「景時さん、可愛いですよ?いつだって飛びつきたいもん!言っちゃった〜。
恥かしい〜〜」
 言葉通りに景時に飛びつく
(この態勢は嬉しいけど・・・・・・なんか複雑・・・・・・)
 男として、『可愛い』は褒められているのだろうか?
 またも景時、の天然攻撃にあい、ダメージ50000ポイント。
(でも、抱きつかれるの悪くないよね〜〜〜。でもこの姿勢はまずい〜)
 鼻の下を伸ばしていたら、朔に睨まれダメージ1000ポイント。

ちゃんが一番可愛いよ」
 さり気なくの額に口づけ、立ち去る景時。
 これ以上のうるうるきらきら上目使い攻撃を受けるわけにはいかない。
「や〜ん!景時さん、格好いいよぅ!!!」
 ぴょんぴょん飛び跳ねる
 朔は真実を知っている。
(兄上、久しぶりに鼻血出しましたわね?)
「さ!兄上の事はいいから。夕飯の支度を手伝ってくれない?」
「あ。そうだね。よぉ〜し。景時さんにおいしいって言ってもらわなきゃ」

 朔の頭には、『恋は盲目』という言葉が過った。
(ここまであの兄上が格好いいなんて言ってくれる人、もう現れないわ!)
 朔は、空に見え始めた星に誓った。
 兄の為に、何でも協力する事を───
 





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≪遙かなるお題配布所≫からお題拝借。お題元はコチラからどうぞ。

 あとがき:『動物のお医者さん』好きでした。とくに漆原教授が!どうして教授ってあのタイプ多いんですかね〜(笑)     (2005.3.14サイト掲載)




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