廻り逢い





 朔に叱られながらも、無事にへの贈り物を用意出来た景時。
(気に入ってくれるかな───)
 桜の花弁が刻印されている可愛らしい櫛と薄い桜色の髪紐。
 途中で寄る小間物屋とお菓子屋さんの場所も確認済み。
 後は朔と譲手作りのお弁当とを待つばかり。
 気持ちが落ち着かず、庭をウロウロしていると朔の声がした。
「兄上、軽食の用意が出来ましたよ。それに、も準備が出来た
ので、お早く用意して下さい」
 さっさと簀子を去る朔。
「ひどいな〜、この緊張を労わってよ・・・・・・」
 心臓を押さえながら、玄関へ向かった。



 玄関でを見た瞬間、景時の心臓は壊れた。
 桜色の着物姿で立っていたのだ。
(か、可愛すぎるっ!)
 鼻ではなく、心臓が大変だ。身体中を血液が駆け巡っているのが
よくわかる。
(死ぬかもしれない───)
 と出かけずして死ぬわけにはいかないと、気力を振り絞って
耐える景時。
「なんか、いつもと違うから驚いちゃったな〜、あはは〜」
 ここで褒める言葉が出ないのが景時らしいといえばそうなのだが。
「景時さんも・・・いつもと違うんですね・・・・・・」
 も景時の普段と違う着物姿を直視できないでいた。
 お互いの変な様子が、お互い様で気がつかない二人。

(兄上、しっかりして下さい───)
(景時さん、手ですよ手!ここで繋がないでどうするんですか!)
(私も神子と行きたかったのに───)
 朔、譲、白龍の心の声は聞こえなかった事だろう。

「じゃあ、行って来るね〜」
 景時が歩く後ろをが着いて行く。
「兄上、忘れ物です!」
 朔が弁当を突き出す。
「あ!そうそう、これがないとね〜」
 上の空で歩き出す景時。
 二人の後姿を見送りながら、三人から盛大な溜息が漏れた。
「・・・・・・こちらも用意しないといけませんね」
 譲が立ち上がり、さっさと準備を始めた。
「朔〜?」
「ん?私たちもお花見に行くのよ」
 白龍を抱きかかえ、仲間の待つ部屋へ向かった。



 六条の梶原邸から歩くこと半刻。
 会話らしい会話もなく、困った二人。
 景時の最初の目的地である小間物屋に着いてしまった。
「あのさ、ちょっと寄り道していかない?」
 景時の声で顔を上げる。小間物屋が目に入る。
「わ〜!可愛い〜」
 の喜ぶ様子を確認して、景時は店内へとを連れて入る。
 並ぶ小物を手にとっては、戻し、店内を回る
 その様子を眺めつつ、適当に景時も店内を見て回った。

「何か気に入ったものある?」
 考え込んでいるの後ろから声をかける。
「あの・・・これ・・・朔とおそろいで・・・・・・」
 桜の花を象った匂い袋を二つ手に持っていた。
「あはは!いいよ。これと一緒に買おうか」
 景時の手には、桜模様の巾着袋があった。
「・・・・・・景時さん?」
「ん?ちゃんに」
 代金を支払い終えると、巾着の口を開けて匂い袋を二つ入れてか
へ渡した。
「ありがとうございます!」
 両手で受け取り、巾着の紐に腕を通す
「可愛い〜、桜がいっぱい!」
 景時は、ここで勇気を振り絞り左手を出す。
「い、行こうか」
 が景時の手に気がついて、右手を乗せた。
「はい」
 二人は手を繋いで歩き出す。
 
 

 その後方に数人の陰。
「や〜っと手を繋いだよ。じれったいなぁ」
「ふふふ。仕方ないですよ。景時殿には精一杯なのでしょうね」
「・・・・・・行くぞ」
 この三人、何かあった時の対処要員も兼ねての尾行班。
 ヒノエ、弁慶、リズヴァーンである。
「ま!行き先はわかってるけどね〜」
 ヒノエに知られた時点で、作戦が立てられていた。
 名付けて、『せめて告白くらいしろよな、景時』大作戦。
「まあ、途中賊などいたら大変ですからね。きっちりたどり着けるよう
護衛もしないといけませんしね」
 気づかれない程度の距離を保ちつつ、尾行を続けた。



 途中のお菓子屋さんでお菓子を買い、神泉苑にたどり着く。
「景時さん?ここ・・・神泉苑・・・・・・」
「そ。仁和寺は遠いから、ここから馬で行くからね」
 頼んでおいた馬に乗り、一気に仁和寺へ向かう。
(馬だと・・・平気なんだけどな・・・・・・)
 を抱えているものの、落馬してはいけないという緊張感からか
心臓も落ち着いていた。
(今なら・・・・・・言える?)
 自身に問い掛けてみる景時。
 しかし、それではどさくさ紛れと思われるのでは?との懸念もある。
(ちゃんと仁和寺の桜の下で言わなきゃね〜)
 で、今日景時に告白すると決めていた。
(初デートで告白って変かな〜?でも、今日言わないと・・・・・・)
 将臣の件は、一応納得したが。
(景時さん、きっとモテるもん。早く言わないと、とられちゃう!)
 朔に聞いても、ちっともモテないから安心しろとしか言われない。
(こんなにくっついてても、ドキドキしてるの私だけみたい・・・・・・)
 そっと見上げると、真剣な様子で手綱を引いている景時。
(景時さんからみたら、私コドモだよね・・・・・・)
 買ってもらった巾着を落ちないように握りしめた。



「よ〜いしょっと!」
 景時がを馬から降ろした。馬を預けてから、また手を繋ぐ。
「もう見えてきたね〜、後少しだから」
 参道を歩くと、桜の花弁が風で運ばれて来た。
「わ〜、綺麗ですね〜」
 の手が離れた。くるくると花弁と戯れている。
(桜の精みたいだ───)
 青い空に桜の花弁。桜色の
 不安になって、の腕を掴む。
「桜ね、あっちなんだ」
「景時さん?」
 手首を掴まれたまま、景時の後ろを歩く。
「ここがいいね」
 朔が持たせてくれた敷物を敷くと、二人並んで座る。
「あっちの桜はまだ蕾なんですね」
「御室桜は少し遅咲きなんだ。十日くらい後かな」
 ごろりと仰向けに寝る景時。
「ん〜!空が青いね〜」
「はい!」
 も並んで寝転んだ。



「どうして何も言わないかな〜」
 ヒノエがおにぎりをパクついている。
 朔たちは、先に仁和寺で桜の木陰を陣取り、景時たちを待ち受けて
いたのだ。
「なんつ〜か。じれったいんだよな〜、あの人」
「兄さん!声が大きい!」
 将臣が譲に窘められる。
「九郎は静かですね?」
 お茶を飲んでいた九郎が、弁慶他の面々をチラリと見る。
「・・・・・・暇だろ、お前たち。どうしてそっとしておかない・・・・・・」
「九郎殿?放っておいたら、一生このままですわ」
 普段物静かな朔が声を上げたので、リズヴァーンまでビクリと肩を
震わせた。
「我々も桜を楽しみましょう」
 敦盛が膝に白龍を抱え、お菓子を食べさせている。
「あれだな〜、きっかけ作らないと駄目かな?」
 ヒノエが弁慶の方を見る。
「・・・・・・いえ。大丈夫だと思いますよ?しかし、あちらのお客様の相
手はして差し上げないといけなさそうですね?」
 将臣が弁慶の視線の先を追う。
「何だよ、あいつ等。チッ。譲、リズ先生、さっさと片付けて、続きを見
守らないとな!」
 今日、仁和寺に訪れた盗賊には災難な一日となる幕開けだった。
 金品を強奪するどころか、気がつけば縄できりきり締め上げられ、
役人へ流れ作業の様に引き渡される始末。
「手際が良くて助かりますね」
 弁慶と朔は顔を見合わせて、のんびりとお茶を楽しんでいた。
 朔の膝で白龍は、譲の手作りクッキーを食べている。
 息を切らせて戻ってくる面々。
「ど、どうなった?!」
「ん〜、お弁当食べてるだけですね〜」
 またしばらくして。
「どうなったっ?!」
「お茶を飲んでますね〜」
 賊を片付けて、何度も弁慶や朔に訊ねるが、まるで進展なし。
 そのストレスの矛先は、運の悪い盗賊へ向けられるという循環が出
来ていた。
「弁慶、少しは手伝おうとか思わないのか?」
 九郎が、敷物に膝をついてお茶を口に含む。
「いえ、ここで全体を見る役目が必要ですし。ああ、九郎。今日一日で、
京の賊が随分と片付きましたね〜。お手柄ですね、皆さん」
 まったりとした空気を醸し出す弁慶。
(こいつ・・・・・・全部計算してたな?!)
 九郎の頭には、『一石二鳥』という文字が浮んでは消えていた。



 陰で仲間が働いている事も知らず、のんびりお昼を食べて寛ぐ二人。
 は、買ってもらった巾着から金平糖を出してはカリコリ齧っていた。
「いいな〜、オレにもちょうだい」
 景時が口を開ける。
「えっと、その、何色がいいですか?」
「なんでもい〜」
 がそっと景時の口へ金平糖を入れる。
「ん〜、ありがと」
 飴を強請る景時の様子が可愛くて、が笑う。
「な〜にぃ〜?楽しい事あった?」
 景時が首を傾げるのが、ますますのツボをついた。
(大人の男の人なのに。景時さんって、可愛すぎっ!)
 飛びつきたいけど我慢する
「そうそう、これ・・・・・・ちゃんに!」
 紙の包みを受け取る。
 カサカサと開けてみると、櫛と髪紐。
「わ!これ、どうしたんですか?」
ちゃんに、似合うと思って・・・・・・」
 頬を指で掻く景時。
「それで・・・・・・あの・・・・・・話が・・・・・・」
 包みを両手で持ったまま、景時を見つめる
「オレね・・・・・・今日こそ君に言おうと思っていた事があって・・・・・・」
 の肩を掴み、肺いっぱいに空気を入れる。
「オレね・・・・・・ずっと・・・ちゃんが・・・・・・」
 を思いっきり抱きしめた。
「好きなんだっ!!!」



「・・・・・・か、景時さん・・・・・・」
 の声で、慌ててから離れる。
「ご、ごめん!いきなりこんな事して・・・・・・」
 の返事も聞かずに抱きしめたのだ。謝るしかない。
「は〜、苦しかった。景時さん、いきなりぎゅうぎゅうするんだもん!」
 包みを巾着へ入れて、そっと敷物の上へ置いて正座する
 景時もに倣い、正座をする。
「あのね、景時さん。私もお話があるんです。それでね、とりあえずは
立ってくださいね」
 が立ち上がる。景時も立ち上がった。
「いいですか〜?よ〜く聞いてください。景時さんが大好きですっ!」
 が景時に飛びついた。少しよろけつつも受け止める景時。
「え・・・・・・」
「さっきね、コレしたかったの。楽しいことはコレ!」
 景時の腰に抱きついて、頭をぐりぐりさせる
 先程よりは少し緩めにを抱きしめる景時。
「うん、確かに楽しい事だね」
 想いが通じた二人は、笑いあった。





「よかったですね〜。これで安心して帰れますね!」
 弁慶が立ち上がり、帰り支度を始める。
「あの兄上が、あんなにはっきり気持ちを言えるなんて!」
 景時の幸せを喜ぶ朔。
「・・・・・・俺たちの苦労を察して欲しいよ・・・・・・・・・・・・」
 本日の労働報酬は、この一瞬の為。盗賊退治にくたびれた面々。
「早く片付けて下さい!二人より先に戻るんですから!」
 普段控えめだが、計画通りに事を運びたい人の見本のような譲。
 尾行担当以外は、さっさと片付けて帰り始める。
「さ〜て。最後の仕事をするか」
 ヒノエが膝を伸ばし、折りし身体を解す。
「まあ、そう慌てなくても。帰りはもう少し距離を置きましょうか」
 弁慶とリズヴァーンが視線で確認しあう。
「ま、野暮な事はしないようにってね!」
 ヒノエが頭の後ろで手を組み、桜越しに空を見た。





「ただいま〜」
 手を繋いだと景時が帰宅した。
「お帰りなさい」
 慌てて手を離す二人を見ないふりする朔。
「お土産あるんだ〜」
 が巾着の口を開ける。
「これが朔で。このお菓子は譲くんと白龍にだよ。それでね・・・・・・」
 が玄関口で桜の花弁を拾う。
「あれ?どうして桜の花弁が・・・・・・」
 一瞬ギクリとしたものの、態勢を立て直す朔。
「綺麗ね。の髪から落ちたのかしら?」
 がプルプルと頭をふると、髪からハラハラと桜の花弁が舞う。
「ほんとだー。お土産にね、綺麗なのだけ集めてきたんだ。零れたの
かと思った〜」
 紙の包みを開いてみせる。桜の花弁がふわりと揺れた。
「ありがとう、。さ、ここで話すのもなんだし。お茶入れるわね」
 朔が台所へ行く後姿を、景時が見ていた。
「えへへ。少し冷えちゃいましたもんね。お茶しましょ」
 が景時の腕を引っ張る。
「あ、うん。そうだね・・・・・・」
 そのままお茶を飲みながら、いつもの五人で話をする。
 場がお開きになった時、景時は朔を呼び止める。
「ちょっとオレの部屋に来てね〜」
 黙って部屋まで歩く二人。



「さて。朔は、今日一日何をしていたのかな?」
 景時が脚を崩して座り、切り出した。
「普通に過ごしていましたわ。白龍と遊んだり」
 景時の正面に正座する朔。
「ふ〜ん。それで花弁がここにあるんだ。不思議だね?」
 景時が片膝立ちになり、朔の袖の後ろの方から花弁を摘む。
「ね?家の庭にはさ、枝垂桜はないよね〜?」
 手のひらに乗せた花弁に、息を吹きかけ飛ばす景時。
 はらはらと花弁が床に落ちた。
「あ、兄上・・・・・・」
 落ちた花弁を拾う景時。
「別にいいんだよ?朔がひとりで出かけたんじゃないならさ。色々心配
かけちゃって、悪かったね。オレね、ちゃんに告白したから」
 照れくさそうな景時に微笑む朔。
「よかったですね、兄上」
「・・・・・・やっぱ知ってるんだ」
 景時の指が、朔の額を突いた。
「いいよ、きっと皆も一緒だったんだよね?それならそれでいいんだ」
 明日からからかわれるであろう事は明白。しかし、それすら嬉しい。
ちゃんを大切にするから。皆に認めてもらえるように頑張らないと
いけないね」
「そうですわね」
 意外に鋭い景時に、少し安心した朔。
「今度はさ、皆で御室桜を見に行こうって約束したんだ。よろしくね」
「はい、兄上。それじゃ、失礼いたしますね」
 景時の部屋から朔が去った。
「くすぐったいね、どうも・・・・・・」



 仲間の心遣いが嬉しくもあり、照れくさくもあり。
 人と人との廻り逢いに感謝を。
 
 大切な人が出来た喜びと、幸せなひと時。
 明日からは、ちょっと違う関係の二人。

 いつか、求婚するからね。お嫁に来てね───
 
 





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≪遙かなるお題配布所≫からお題拝借。お題元はコチラからどうぞ。

 あとがき:景時を応援し隊の仕事をご紹介(笑)それと、桜の季節に告白させてあげたかったというvそして、ちょっとはスルドイところをご披露♪
          (2005.3.6サイト掲載)




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