同行か連行か 「なんだか、将臣くんってエラそうだよね〜」 「どうしたの?」 今日は朔とが庭でおしゃべりをしていた。 「そうなの、今考えるとさ・・・・・・」 (何?今度は何があったの?!───) 譲と白龍が居ないため、を止めるのは朔しかいない。 ここで景時が帰ってこない事を祈りながら朔は話の続きを待つ。 「リズ先生はさ〜、一歩間違うとストーカーだよね。遡ること宇治川って。 ちょっと驚き。だったら助けてくれればいいじゃんっ!て思うでしょ〜。九 郎さんはさ、いきなり乙女な私に『戦場にはつれていけん』とか言うしさ。 普通、足手まといじゃなくて。俺が守るから、封印の力を貸して下さいだ と思わない?師弟そろって、デリカシー足りないんだわ。そこいくと弁慶 さんは、穏やかでいい感じよね。うん、話がわかるお兄さんって感じよ。 ヒノエくんは若いのに、女の子を守るのは男の務めだって。いいな、こう でなきゃなのよ。あの師弟、無愛想すぎだわ。敦盛くんは控えめすぎて。 なんだか、同行してもらってるっていうより、『連行』だわ。無理矢理引っ 張り回してるみたい。気をつけなきゃ〜ほんと」 ここでが大きく息を吐く。 「れ、連行って・・・・・・」 朔が慌てて立ち上がる。 「あの首と手の鎖。あれ取れないかな〜。うん、あれが『連行』感を高め るのよ。困ったなぁ」 顎に手をあて、考えている。 「?話が見えないんだけど・・・・・・」 階に座るの前に立つ朔。 「あのね、怨霊を封印しに行くでしょ〜。あんまり人数多いと目立つから、 四人くらいで行くじゃない?町の人の目が微妙なのよ。同行する人によっ てさ〜」 が脚をプラプラさせる。 「他の人に頼めばいいんじゃないかしら」 とりあえずは一番安全な意見を述べる。 「他かあ〜。そもそも将臣くんって、後先考えなさすぎなんだよね。突っ込 んで行っちゃうから。着いて行くので精一杯。逆に譲くんは着いてくるだけ だしさ。景時さんは・・・・・・」 「兄上は?」 朔が期待の目でを見つめる。 (兄上を売り込むいい機会?!) 「景時さんが一緒だとね、すっごいバランスがいいの。あ、バランスってわ かんないよね。皆が仲良しでいい感じなの。景時さんには、いつもいて欲し いな〜なんて」 朔の肩が落ちた。 (あの軽さと安請けあいだけが売りですものね・・・・・・) 景時の良い所を懸命に考える朔。早く思い出して売り込みたい。 「いいなぁ、朔は。景時さんに守ってもらえてさ・・・・・・」 「え!?」 いつ景時が朔を守ったというのだろう?朔は、の言いたい事が本気 でわからなくなってきた。 が言っているのは精神的な話なのだ。龍神温泉での景時は、とても 朔の事を心配していた。いつもとは違い、真剣に大切に守ろうとしている気 持ちがに伝わったのだ。 (私なんて、『かっこいい』って景時さんに言われちゃってさ───) 景時の醸し出す空気が心地よい。いつも同行をお願いしてしまうのも、仲 間のバランスだけでなく、いつも傍にいて欲しいと思うからだ。 (大事な人って言ってくれたけど───) 『大事』の範囲は広いのだ。家族も含まれるであろう。仲間に対しても。 先達ての『見守る』発言も、白龍が言うのと同じ意味なのだとしたら。 (景時さんの特別になりたいんだけどな───) ぐるぐると考えがまとまらないの傍で、朔も必死に景時を売り込もうと 考えをめぐらせ、不思議な沈黙が続いていた。 同時刻、リズヴァーンに連行されている男がひとり。景時である。 「お前は、いつも神子を見ているな?」 「なななななな!リズ先生、どうしてそれを!!!」 景時の顔からは、滝のように汗が流れ落ちている。 「私は、いつも神子を見守っているからだ」 「へ?」 (いつも?いつもって、いつも?) 景時の頭に浮んだのは、の湯浴み。地面に両手をつく景時。 「どうした?・・・・・・」 片手で鼻を押さえ、リズを睨む景時。 「リズ先生、いつもって・・・・・・どれくらいいつもなんでしょうか?」 やっとの思いでそれだけを告げる。 「常にだ。神子を見ていると、いつも視界にお前が入る」 (オレ?いつもオレが・・・・・・) 後方の木の根元まで景時は後退った。 (どこまでバレてるのさ〜) 鼻血も止まる程の衝撃を受けた景時。 突然後ろから肩を叩かれる。 「・・・・・・使いなさい」 リズヴァーンに手拭を差し出された。 「あ・・・・・・すいません・・・・・・」 黙って鼻の辺りを拭う。 「お前・・・神子が好きなのだな?」 折角止まった鼻血が、興奮したため再び噴き出してしまった。 「リ、リズ先生・・・・・・」 よもやリズヴァーンから『好き』などという言葉が飛び出すとは予想も出来ず。 景時のうろたえる様は、さながら蛇に睨まれた蛙といったところだろう。 (神子に懸想するなんてって・・・オレ斬られる!?) 景時は両目を瞑り、衝撃に堪える態勢をとる。 (・・・・・・あれ?痛くない?) そろりと目を開けると、リズヴァーンは立っているだけだった。 「・・・あの・・・・・・」 「・・・・・・お前がいると、神子の纏う気が柔らかい・・・・・・」 「は?」 (どういう意味?リズ先生、言葉少なすぎだよ〜) 「そのうち二人で出かけるといい。私が見守ろう」 「え?!」 (それって二人じゃない気がするんですが・・・・・・) 「帰るぞ」 さっさと歩いていってしまうリズヴァーン。 ようやく景時も腰をあげる。 (遠まわしだけどさ・・・・・・) リズヴァーンも景時を応援しているという事だろう。 そして、景時の挙動不審ぶりはすべて見られていたわけで。 (オレって、ものすごぉ〜く格好悪くないですか〜?リズ先生) リズが景時をどう思っているのかわからないが、好意的なのは確か。 「よぉ〜し!まずはちゃんと出かける約束を取り付けないとね!」 リズヴァーンの後を追って駆け出した。 景時が、元気に庭へ回ると、そこには誰も居なかった。 (あれれ?どうしたのかな?) まずは朔の部屋へ行く。 「あの〜、朔?入ってもいいかな〜?」 恐る恐る戸口で声をかける。 「・・・・・・どうぞ」 冷たい声が中から聞こえた。 (オレ・・・何かしたっけ?) そっと中へ入ると、景時の顔を見るなり朔が溜息を吐く。 「あの・・・・・・」 「兄上の良い所を探してたら、疲れてしまいました・・・・・・」 「は?」 話の流れはわからないが、景時の長所を探そうとしていたらしい。 (オレの良い所・・・・・・無い、まったく・・・・・・) 景時も自身を振り返ると、思い浮かばなかった。 「・・・・・・ごめんね、朔。ほんと、頼りないよね・・・・・・」 肩を落としたまま朔の部屋を後にする。 自室の前の階へ座り、夕日を眺める。 「・・・・・・折角頑張って誘おうと思ったのになぁ・・・・・・」 項垂れてると、庭から足音がした。 首を上げると、が歩いてくるのが見えた。 「おかえりなさい、景時さん。今日は遅かったんですね」 そのまま景時の隣にが腰を下ろした。 「あ、うん。ちょっと帰りに色々あってね。おやつ間に合わなくて残念〜」 何とか平静を保つ。 「景時さんの隣って、居心地いいんですよね・・・・・・」 「へ?」 が夕日を見ながら漏らした言葉に、つい横顔を見つめる。 「朔の事、とっても大切にしてるし。景時さんが同行してくれると、怨霊を 封印するのもね、とっても楽なんです。皆が和やかっていうか・・・・・・」 「そ、そうなんだ」 「・・・そうなんです」 はそれきり言葉を発しなかった。 (今だ!誘うなら今だろ〜、オレ!) 頭ではわかっているが、口から言葉が出てこない。 「今日の夕飯は、譲くんが天ぷらだって言ってましたよ!」 がぴょんと庭に降り立って、歩き出した。 「ま、待って!ちゃん」 くるりと振り返る。 「・・・天ぷら、嫌いでした?」 「違う。違うんだ、そうじゃなくて!」 立ち上がり、裸足のままの傍へ駆け寄る。 「オレね、いつも同行の指名してもらえて嬉しかったよ。それに、オレは いつも君に笑っていて欲しいなって思ってる。いつも隣に居たいって思って るんだ・・・・・・」 が俯いた。 「・・・・・・景時さん、裸足。それで簀子に上がると、朔に叱られますよ?」 「え?あ!あ〜〜〜」 足元を見ると、地面にしっかり足の裏がついている。 困り顔の景時が可笑しくて、が笑う。 「景時さん、私桜が観たいです」 「そ、そうなの?じゃあ桜、観に行こうか?」 「はい」 返事と同時には走り去っていた。 (期待しちゃってもいいのかな?景時さん───) の耳が真っ赤だったのは、夕日の所為で景時にはわからなかった。 景時が呆然と立っていると、上の方から声がした。 「しまらねえな〜、オッサン!」 木の上で昼寝でもしていたのだろう。ヒノエが飛び降りてきた。 景時の鼻先を指さす。 「ちなみに。今だと桜は仁和寺かな」 「ヒノエくん・・・いつから・・・・・・」 「ん〜?最初からに決まってるじゃん!しっかし・・・姫君にはちゃんと言葉 にしないと伝わらないよ?誘い方もさ、ちゃんと『二人』を強調しないと」 景時の肩を軽く叩く。 「まあ、約束は出来た事だし。気の利いた贈り物でも用意していけば?」 ヒノエはさっさと庭を横切って歩いていった。 その顔が、笑っていたのは景時からは見えない。 「オレって・・・・・・」 肝心の言葉をに言えないばかりか、先に仲間に気持ちを知られてば かり。それでもと出かける約束は出来た。 「仁和寺か・・・あと贈り物・・・・・・」 先程、良い所がないと冷たく言われたばかりだが、朔に相談すべく駆け出 した。 この後、簀子を汚して歩き、こっ酷く叱られる運命が待っているとも知らず、 景時の頭の中は、と二人で出かける事でいっぱいだった。 |
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あとがき:『連行』はぁ、無理矢理引っ張られて。『同行』はぁ、行きますか!って感じで。
そして、リズ先生の意外な一面を。一応これで、全員そろったかな。応援し隊隊員v (2005.3.6サイト掲載)