あちらとこちらの鎌倉で 「へんな感じぃ〜〜。ね、譲くん」 「ん〜、だいたい僕等のいた世界の景色と似通ってはいますけどね」 二人は、梶原邸に向かう途中の七里ヶ浜で感想を述べあっていた。 「学校がある辺りって、どうなってるんだろうね?」 「さあ?誰かのお邸とかだと思いますよ」 「何か埋めてみたくない?タイムカプセルみたいに!」 がぴょんと譲に向き合った。 「先輩・・・家が上に建ってしまってたら?物が残ってるかより、取り出せるか の方が心配ですよ」 譲が冷静に嗜めた。 「夢がないなぁ〜、譲くんは」 がつまらなさそうに貝殻を探している。 「大体、元の世界に帰れるかだって・・・・・・」 「それはそうなんだけど・・・・・・」 譲の言うことはもっともだ。だって100%帰れるとは思っていない。 しかし、帰れる日が来たとして。 (帰っちゃったら、景時さんがいないもん───) 元の世界に帰るであろう譲に、自分がいた証明を探して欲しかったのだ。 「あ〜、桜貝だ」 「先輩、桜貝はもっと南の方にしか・・・・・・」 「いいんだよ、ピンクでかわいいから。本物かどうかはいいんだ」 が大切そうに砂を払い、ポケットに仕舞う様子を譲は眺めていた。 いくつか見覚えのある風景を通り過ぎ、大きな邸の前についた。 「狭いけど、ごめんね?」 景時が、申し訳なさそうに仲間へ向かって謝る。 「・・・・・・狭いって・・・」 の口が開いたままだ。 「僕たちの基準と違いすぎです・・・・・・」 譲とは顔を見合わせ、溜息をついた。 (これで狭いなら、普通の家ってどんなのなの〜) はあらためて景時は偉い人だったんだと、自分との差を感じてこっそり 落ち込んでいた。 翌日になり、怨霊探索を始めた。 怪異の情報を景時の母から仕入れた事もあり、手始めに隠れ里稲荷へ行く事に なった。 詳しい話を聞くことができ、譲の狐火の話で池の中を探すことになる。 「オレの式神で、軽〜く調べちゃうから!」 景時は、素早く池の中へ式神を放った。 「わ〜〜!式神って何ですか?」 今まで見たことがない動くモノに、は池の淵でしゃがんで水中を覗いている。 「今のは・・・サンショウウオ?」 譲も図鑑でしか見たことが無い。 「格好いい式神を使えたらいいんだけどね。オレが使える式神って、動きが速くない ものばっかりなんだよね〜」 景時が気まずそうに頬を掻きながら池を見つめる。 「そんなことないです!なんか、小さくて可愛かったですよ〜」 はまだ池の端で、サンショウウオが陸へ上がってくるのを待っていた。 ちゃぷん─── しばらくすると、サンショウウオが何かを咥えて陸へ上がってきた。 「さっそく何か見つけてきたね〜。・・・いやな物を拾っちゃったみたいだな」 景時が呪詛の人形へ手を伸ばそうとすると、が先にサンショウウオを手に乗せ 頭を撫でていた。 「ごめんね、お使いありがとう。後は私がするね」 サンショウウオから呪詛の人形を取ると、浄化を念じる。 人形は、白い光とともに消えた。 「すっごいな〜ちゃん、神子様って感じだね!」 景時から賞賛の声が上がる。 「景時さんだって、すごかったですよ。サンショウウオちゃんも頑張ってくれたし」 の手には、しっかりとサンショウウオが居た。 「・・・・・・ちゃんはさ、そういうの平気なの?」 「そういうのって?・・・・・・わ〜!この子指がありますよ、景時さん!」 そっと指でサンショウウオの手を挟んで、 「ほら!握手って感じ〜〜〜」 楽しそうにサンショウウオと遊ぶ。 (女の子って、普通気持ち悪いって言うよね?) の反応に、どう返していいものかと考える。 「・・・気持ち悪くないの?」 「どうしてですか?景時さんの式神なんですよね?今日は大活躍だし〜」 が両手で景時へ差し出す。 「そろそろこの子もお家に帰らないと。あ!ご飯とかって食べるんですか?」 「・・・・・・君って」 景時が笑い出した。 「な、なんですか〜、また変なこと言っちゃいました?」 は手のひらのサンショウウオと景時を交互に見ながら、何が可笑しいのか考える。 「いや、式神だから。ご飯は無理かな〜。でも、そんな風に大切に思ってくれたのは、 ちゃんがはじめてだよ。よかったな〜、サンショウウオ」 景時の手のひらにサンショウウオを乗せると、軽く跳ねて消えた。 にお辞儀をしたようにも見えなくもない。 「もう!景時さんって、すごいって思ったのに・・・あ」 は何かを思い出したらしく、景時の腕を引っ張る。 「景時さん、私行きたい所があるんです」 「え?」 二人の様子をみて、譲は気を利かせることにした。 「景時さん、先輩。俺は先に帰って、夕飯の支度しますね」 「あ、譲くん・・・・・・ありがと」 譲に手を振ると、は景時に向かい合う。 「あのですね、鶴岡八幡宮に行きたいんです」 「・・・いいけど。何かあるの?」 「まだヒミツです!」 景時は案内すべく少し前を歩き出した。 「景時さん、あのっ」 が景時の左手を掴む。 「手・・・繋いでもいいですか?」 「い、いいよ〜。そうだね、迷子にならないようにしないとね〜〜」 は精一杯の勇気を振り絞って言ったため、景時の様子に気がつく余裕はない。 (やった〜、手繋いじゃった。いいんだ、思い出作らなきゃ───) 景時の家をみた時から、景時にはしかるべき家の人を嫁に迎えるだろうとは思った。 それまでの短い時間でいいから、思い出作りをしようと。 一方の景時。 (うわ〜、手だよ、手!繋いでるよ〜。ちゃん、夕方だから寂しくなっちゃったのかな?) 少々の勘違いはご愛嬌。 (鶴岡八幡宮なんて、帰り道だし。すぐ着いちゃうよ〜。いや、それよりも・・・・・・) の方を見ることが出来ない景時。みれば大変なことになる。 会話らしい会話もないまま、目的地へ着いてしまった。 「ちょっとだけ待ってて下さいね」 が石段の方へ駆けて行く。 「あ、オレも行くよ〜」 慌てての後を追った。は銀杏の木を数えている。 三番目の木の根元を、落ちていた木の枝で掘りはじめる。 「ど、どうしたの?」 景時はの隣にしゃがんで、穴が掘られる様子を見る事にした。 「これを・・・埋めたかったんです。私がここに居たシルシに」 はポケットから、貝殻を取り出した。 「貝殻?」 頷くと、穴へ入れて土を被せた。 「元の世界に戻れたら。ここを掘りに来ようかなって。戻れなかったら・・・・・・」 「戻れなかったら?」 「戻れた人に、私のいたシルシを探してもらえるかなって。それも駄目なら。見つけてくれた 人が、誰かが埋めたんだなって思ってくれればいいんです」 は立ち上がり、石段から若宮大路を見つめた。 「この景色は、私が知っている景色に繋がっているかも知れないんです。だから・・・・・・」 景時もの隣に立って、同じ景色を眺めた。 「君が戻れた時は・・・・・・貝殻は見つからないかもね」 「え?」 が景時を見上げた。 「・・・多分、オレが取り出しちゃうから」 「・・・・・・それって」 「うん。君がここに居たシルシ、オレが欲しいから・・・ね」 景時は数段降りると、に手を差し出した。 「帰ろう?」 「はい」 二人は手を繋いで、家路を歩いた。 ゆっくり、ゆっくり、影が長くなる黄昏時─── |
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あとがき:ちょっぴり告白モドキの景時。たまには渋めで?おや?(笑)お宝getメニューのかげかげと望美っぽくv (2005.3.5サイト掲載)