源氏と平氏





 遡れば平氏だったと思い起こす景時。
 源氏についたのは、石橋山の戦いから。
 本意であったのだろうか?
 恐怖だけで従ってしまったのだろうか?
 今ではいい仲間にも出会えてよかったとは思う。
 思ってはいるのだが───

「景時!何してるんだ!!!」
 九郎に怒鳴られ、思考を中断する景時。
「あ〜、ごめん、ごめん。何だっけ?」
「はぁ〜〜〜」
 頭をふり、項垂れる九郎。
「お前、この前から変だぞ?何か心配ごとでもあるのか?」
「いや、ないよ〜。やだな〜」
 紀伊湊でヒノエの戦術には、ただ感服するしかなかった。
(あれほどの作戦を瞬時に立てられるなんて・・・)
「・・・・・・言いたいことがあるなら言え!鬱陶しくてかなわん!」
 九郎は、時々考え込む景時が気になってはいたが、面と向かって素直に
訊ねられないでいたのだ。
「・・・オレって役に立っていないなぁ〜ってね・・・・・・・・・・・・」
 どこか遠くを見ている景時。
「お前・・・・・・」
「オレね〜、リズ先生みたいに強いわけでもないし。ヒノエくんみたいに
戦術立ててってのも出来ないし。なんで軍奉行なんだろうね〜」
「だからお前は馬鹿なんだ!」
 九郎が景時を怒鳴った。
「俺が間違いそうになったら止めるのがお前と弁慶の仕事だ。間違えるな!」
 くるりと景時に背を向けてから小声で九郎は続ける。
「・・・ついでに。お前がボケッとしてると兵が安心するんだ。それくらいで丁度
いいんだからな・・・・・・」
 景時が振り向いた時には、九郎の背中は遠くにあった。
「ん〜、元気づけられちゃったのかな?」
 景時に出来る事。周囲を安心させること。
(そうだよね、これでいいんだ───)
「さ〜て!また何か発明しちゃおっかな〜〜」
(オレ、源氏にいてもいいんだよね)
 景時は、また何かを発明すべく仕事部屋へ戻って行った。



「どうしたんですか?九郎」
 音を立てて歩く九郎の足が止まる。
「弁慶か・・・・・・」
「顔が赤いですよ?」
 弁慶がくすくすと笑いをもらす。
「う、うるさいっ!景時が・・・・・・」
「景時殿が?」
 九郎がしどろもどろになる。
「げ、元気がなかったから・・・・・・それだけだっ!」
「元気がですか・・・・・・」
 弁慶が顎に手をあてて思案顔になった。
「何だ?思い当たる事があるのか?」
「ええ。とてもよく思い当たる事がありますよ?」
 景時の行動がおかしくなる時。それはいつもに関係することばかり。
 これで気がつかない方が難しいというものだろう。
「知ってるのか?」
「・・・知りはしませんが。元気づける方法はわかってますよ?」
 にっこりと微笑む弁慶。
(こ、怖い・・・・・・)
 九郎は顔がひきつるのを感じながら、弁慶の策を聞くことにした。



「か・げ・と・き・さん!」
「あれ〜、どうしたの?ちゃん」
「お散歩しませんか?」
 が外から部屋の中の景時へ手をふる。
「いいけど・・・・・・」
 景時の鼓動は通常の二倍の早さになっていた。



「景時さん、あの鳥って、どこから来たと思いますか?」
「へ?鳥?」
 見上げれば、庭の木に鳥が数羽とまっている。
「どこだろうね?」
 の質問の意図がわからず、曖昧に返した。
「でしょ!」
 がくるりと景時と向かい合い、両手を握られた。
「あの鳥は、来たいからきてここで休んでるんです。居たい所にいればいいと
思いませんか?」
「・・・・・・」
 午前中に九郎と会話したことを思い出した。
(皆に気をつかわせちゃったな・・・・・・)
 景時が苦笑いをすると、が景時の手を叩く。
「そうじゃなくて!景時さんの居たい場所はどこですか?私は、皆と居たいから
ここにいます。源氏とか、平氏とか二つから選ばなきゃ駄目ですか?」
 が景時を見上げる。
「・・・・・・そう・・・だね。オレは、ここに居てよかったと思うよ・・・・・・」
「いいんですよ?八葉だからとか、そんなの気にしなくて。将臣くんなんて、いつ
だっていないし。景時さんが、居たい場所で、したいようにすれば。ね?」
 ぽんぽんとが景時の手を叩く。
「・・・・・・オレさ、あんまり役に立っていないなぁ〜って」
「景時さんがいなかったら、皆ケンカばかりですね」
 景時の目が見開かれる。
「それに、朔だって甘える人いなくなっちゃうし。花火綺麗でしたよ?」
 が景時の手を離して、空に両手を伸ばして続ける。
「結界も解いてくれたし。星の一族も探してくれたし。役に立つって、出来る事を
出来る人がするだけの事だと思うんですよね〜」
 背伸びをしすぎたが倒れかかるのを、景時が支えた。
「・・・私を支えてるのは景時さんの手で。無かったら私、頭をぶつけてますよ?」
 が自分の足で立つのを確認して、景時は手を離した。
「今度は、何を発明する予定ですか?」
「え?」
「だって、景時さんにしか出来ないですよ?また見せてくれるんですよね?」
 がにこにこと訊いてくる。
「まだ・・・考えてるんだ。色々してみたいんだけどさ」
「じゃあ約束ですよ〜?」
 が小指を景時に向ける。
 景時はの指に小指を絡ませた。
「指きり拳万ですからね!約束破ると〜〜」
「破ると?」
「皆でタコ殴りですよ〜。拳万ですから!数えるの大変そう!!!」
「え゛!?」
 景時の顔が青ざめる。
「な〜んて!夕餉は何がいいですか?朔と作りますよ?」
 今度は景時の顔が赤くなる。
(それって・・・期待してもいいのかな・・・・・・)
「な、何でも食べるよ〜〜」
 景時の声は、裏返っていた。
「何でもって一番難しいんですよね〜。美味しいご飯作って待ってますね!
お仕事頑張ってください」
 が庭を走ってゆく後ろ姿を見送りながら、景時はそっと鼻に手をあてた。
(なんだか・・ちゃんが奥さんみたい・・・・・・)
 そこまで考えたところで、景時の血管に限界が来たようだった。



「ね?上手くいったでしょう」
 九郎の執務室の格子から、庭の様子を窺っていた弁慶と九郎。
「・・・・・・景時は、が好きだったのか?」
「ええ。気がつかなかったですか?」
「ああ。悪いことをしたな・・・・・・」
 院の前で、止むを得ずとはいえを許婚と宣言してしまった。
 一部の貴族たちの間では、事実のようにとられている。
「あいつは源氏の軍奉行だし。必要な存在だからな。要らぬ気遣いをさせて
しまったな」
「九郎がそう言ってあげれば一番早かったのに」
 照れ屋の九郎がそんなことを言えないのを知っていて、弁慶が進言する。
「う、うるさいな!いいんだ。源氏も平氏もない、平和な世にすれば、あいつの
要らぬ不安もなくなるからな」
「そうですね」

 勢力図が二つで無くなれば、争いが無くなる。
 源氏の中でも争ってきたのだ。
 そんな夢物語は無いことはわかっている。
 それでも───

「ところで、は景時をどう思ってるんだ?」
 こういう時に、この人に着いて行こうと思う弁慶。
 人の気持ちを大切に考える九郎が、そのままで居られるように。
「そうですね・・・・・・それはさんにきいてくださいね?」
 弁慶は九郎の部屋を後にする。
 源氏も平氏もいらない。弁慶に必要な将は九郎のみ。
「僕は、九郎のそばが居場所なんですけどね」
 くすくすと笑いながら、景時の手当てに向かう弁慶。
「景時殿には、貧血の薬を差し上げないといけないかな?」
 次の弁慶のオモチャは、景時に決まった様だった。






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≪遙かなるお題配布所≫からお題拝借。お題元はコチラからどうぞ。

 あとがき:弁慶は、源氏というわけではなく。九郎の味方というアングルから。そして・・・景時くんを応援し隊に参加したのは九郎だけと(笑)
          こんな面白い状態を、弁慶が見逃すはずがないでしょう〜♪基本的には応援してくれてるんですけどね!     (2005.3.4サイト掲載)




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