習い事 が舞を舞うと知ったのは、神泉苑での雨乞いの儀式の時。 院の我侭のおかげで見る事が出来た。 (あの時は・・・・・・) 思い出したくもないが、九郎が、彼の許婚ということで場を収めた。 (オレじゃ駄目だったんだよね・・・・・・) 源氏の軍奉行程度では、院を納得させられなかったであろう。 頼朝の弟である九郎だからこそである。 (あの二人、お似合いだと思う。息もぴったりあっててさ───) いつまで経っても告白できないままの景時。 悩みは深かった。 は、今でも朔に舞を習っている。 今日は天気がいいので、たぶん下鴨神社辺りで稽古だろう。 こっそり見たい気もするが、景時も習っている事があった。 何気に歌も詠む景時だが、楽については門外漢。 舞といえば楽。 熊野でがヒノエの要求により舞を舞った時に笛を吹いた男、敦盛。 (負けるわけにはいかないっ!) こそこそと笛を持ち、習いに行く景時であった。 皆が梶原邸へ逗留しているため、家では練習が出来ない。 いつもの通り清水寺方向へ向かう。 ところが、今日は先客がいた。 「敦盛くん、どうしたの?」 音羽の滝を見つめ立っていた敦盛。 あまりにも儚げで、つい声をかけてしまった。 「あ・・・景時殿・・・・・・なんでも、ないのです・・・・・・」 何でもない様子とは思えない。 「あのさ、オレでよければ話でもしない?そこに美味しいお団子屋さんがあるんだ」 敦盛を誘うと、景時は先に歩き出した。 店先に腰を降ろすと、団子とお茶を頼み、歩いてくる敦盛を手招きした。 「ここ!ここ座って」 景時は、自分の隣を手で叩いて指し示した。 「敦盛くんはさ、あんまり自分が思ってること外に出さないでしょ?そういうのってさ。 ここがパンパンになっちゃって苦しいんだよね〜」 親指で自分の胸の辺りを指す景時。 「だからさ、話したければ話せばいいし。話したくないなら、こう青空みて。美味しい もの食べるといいと思うんだよ、うん」 運ばれてきた団子を一串パクつく景時。 「・・・・・・景時殿も、苦しいのですか?」 敦盛が、俯きつつもポツリと漏らす。 「まぁ、仕事もあるし。家の事もあるし。自分の事もあるけど。秘密いっぱい抱えてる とね。わかるんだよね、そういうの・・・・・・」 「秘密・・・・・・景時殿にも?」 「誰にでも、大なり小なりあるでしょ?そりゃ」 食べ終わった串を、ぽんと串入れに入れる。 「でも・・・真実を話すだけが正しいとは限らないとも思うんだ。あ〜、こんな言い方じゃ ちっとも頼りにならないよな〜、オレって」 照れくさそうに頬を掻く景時。 敦盛の手が、団子の串に伸びた。 「いえ・・・・・・あってもいいと。そう言われただけで救われた気がします・・・・・・・・・」 敦盛は人ではない。 熊野で本宮に入れなかったのは、穢れにあったわけではなく、彼自身が怨霊だった からだ。 他の者が気がつかなくても、神子や白龍、陰陽師である景時には、いつ気づかれる かと、常に一歩引いていた。 景時からの言葉は、それでもいいという肯定のようで嬉しかった。 「・・・景時殿、どのような用事でここへ?」 敦盛に突然問い掛けられ、お茶を噴きだしそうになる景時。 「い、いや〜、あはは〜〜」 「・・・・・・・・・・・・」 湯呑を置き、咳払いをする景時。 「笑わない?」 「はい」 敦盛の返事に安心して、ここは指南をしてもらおうと景時は決心した。 「その・・・オレもね、笛が吹けたら格好いいかな〜って。敦盛くんが羨ましかったんだ よね。こっそり練習してたんだけど。ひとりじゃなかなかね〜。教えてもらえないかな?」 あまりにも素直な景時の申し出に、敦盛は景時が持っている袋に視線を移した。 「あ!これ笛入ってるんだ。音は出るんだけどね。出てるってだけで・・・・・・」 大きな身体の景時が、小さくなってもじもじしている姿が面白い。 しかし、笑わないと約束したばかりだ。 敦盛は笑いを堪え、自分の笛を取り出した。 「そうですね、山の方で練習しましょうか」 「ほんと!ほんとに教えてくれる?いや〜、よかった。オレさ〜、困ってたんだよね」 景時の、心底嬉しそうな笑顔につられて敦盛も微笑んでいた。 「お役に立てればいいのですが・・・・・・舞に合わせられる曲を練習しましょうか」 「ええっ?!」 敦盛の発言に、背中をそらせて驚く景時。 「ど、ど、ど、どうしてそんな・・・・・・」 敦盛は、わかってますというように微笑む。 「神子が・・・舞う時に合わせたいのでしょう?」 「わ、わかっちゃった?」 景時の汗を拭う様子が可笑しい。 「ええ。よく私が笛を吹くと、景時殿が指をみておられたから・・・・・・」 「・・・・・・よろしくお願いします」 頭を下げる景時。 「いえ、こちらこそ。ただし、厳しいですよ?」 数日後、清水寺のそばでは、時々雅やかな笛の音と・・・・・・ お祭り囃子のような音が聞こえるという噂がたった。 景時の練習の成果が現れるのは、まだまだ先のこととなりそうだ─── |
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あとがき:そして敦盛くんを攻略♪このままではお笑い路線まっしぐらだよぅ、景時くん(汗) (2005.3.3サイト掲載)