親友





 『ちゃんの親友は誰?』
 この位置にいる人物は、ひとりは間違いなく妹の朔だと思われる。
 しかし───

「他に女の子いないからな〜。友達って、男だよなぁ・・・・・・」
 の友達の中でも、とくに親しい友達を知りたい景時。
 朔に話そうものなら、からかわれそうで怖い。
 他の人物に助力を頼みたい。幼馴染の二人も当然数に入るだろう。
 譲は既に協力者の一人だ。
 自室の前の階に座り、溜息をつく。
「将臣くんかぁ・・・・・・」

 その様子を窺う者がひとり。である。
 朔に景時の様子をみてきてと頼まれたのだ。
 ここ数日、景時がぼんやりしていることは、も気になっていた。
(景時さんの好きな人って───将臣くんなのっ!?)
 景時の口からこぼれた言葉だけで判断したは、ひどい勘違いをしていた。
(や、やだ!ライバルが将臣くんだなんて・・・・・・)

 は将臣の心を確認すべく、京の町を走り回った。
 以前、下鴨神社の辺りで会えた記憶を頼りに探し回る。
 すると、将臣がひとり剣の稽古をしているのを見つけた。
「ま、将臣くん!」
 が将臣に駆け寄る。
「ああ、か。どうした、そんなに慌てて」
 剣を下ろし、に向き合う将臣。
「将臣くんは、好きな人いるの?」
 いきなり直球勝負の
「・・・突然、何でそういう話になるんだよ?」
 いつもの事ながら突拍子もないとは思いながらも、この手の質問には裏があるだろう
と、探りを入れる。
「いいから!教えて!!」
 の目は真剣そのもの。
(俺に好きな奴がいたら、どうだっていうんだよ───)
 の真意が読めず、返事を渋る。

 が景時を気にかけていることは、仲間内ではわかりきった事だ。
 一部の例外を除いて。
 それなのに、からこのような質問が飛び出すということは・・・・・・
(頼むよ、景時。こいつにアホな勘違いさせるなよ───)
 どこで間違ったことになったかはわからないが、景時の想い人が将臣という図式が
の中で確立しているらしいと推測する。
 あまりの馬鹿馬鹿しさに、少々悪戯心が沸き起こる。
「まあ、好きな奴はいないけどよ。気になる人はいるな」
「えっ!?誰?」
 が将臣に飛びついた。
 にしてみれば、将臣に好きな人がいれば景時の想いは成就されない。
 藁にも縋る気持ちで、将臣の答えを待つ。
「ん、なんかさ。気になるんだよな〜、景時って。いい身体してるよな」
 将臣から離れる
「な、な・・・どこ見てるのよ〜!!!」
「あ〜?腕とか、腹とか。いい身体してるだろうが。あれが大人の男ってもんだよ」
 将臣が頷きながら話を続ける。
「リズ先生は、隠しすぎててわかんないし。景時は、あの雰囲気もいいよな〜」
 将臣大絶賛。、項垂れるの図。
 傍からみたら、将臣に告白したがふられたように見えなくもない。

 タイミングの悪い男、景時がそれを目撃していた。
 将臣を探していたら、将臣とが二人でいるのを見つけてしまい、声をかけられずに
木陰へ潜んでいたのだ。
ちゃんの好きな人って・・・将臣くんだったの?!)
 この距離では、会話の内容は聞こえない。しばらく、様子を見守る。

「将臣くんの馬鹿ーーーーーーっ!!!」
 大絶叫とともに、走り去る
 耳を押さえながら、将臣は目もつぶる。
「・・・・ったく、激しすぎんだよな、あいつは」
 落とした剣を取り、また稽古を始める将臣。

 木陰で景時は、こっそり喜んでいた。
(ごめんね、ちゃん。君がふられて、オレは喜んでるんだ───)
 こちらの勘違いも、確実に進んでいた。





 将臣は、この悪戯により数日もの間に付き纏われまくった。
「だーかーら!そういう意味じゃねえって言ってるだろ!!!」
 いいかげん、面倒になったのだが、はしつこい。
「ちゃんと普通の恋愛をした方がいいってば!」
 は、将臣に諦めてもらうまで心配で仕方ない。
 景時に言えばいいのに、言えない辺りがの可愛いところである。

 二人を遠くから見つめる景時。
ちゃん・・・諦められないんだね・・・・・・」

 景時を、さらに後ろから見守る目がいくつか。
「もう、救いようがないですわ・・・・・・」
 陰から見ているだけで、行動を起こさない景時に焦れる朔。
「兄さんも、言っていい冗談と区別しないから・・・・・・」
 将臣のつまらない悪戯だなと見当がつく譲。
「神子と将臣は仲がいいね!」
「・・・そうだな」
 白龍の頭を撫でながら、譲は溜息をつく。
「いつも、いつも。兄さんと先輩は面倒を増やしてくれるよ・・・・・・」



 さらに数日後。将臣に呼び出された景時。
「な、何かな?話って」
 話しにくい空気の中、景時が切り出す。
「・・・頼むよ、あいつなんとかしてくれよ」
 将臣が景時の両肩を掴んで揺さぶる。
「冗談のつもりだったのに。がそれ信じちゃって。なぁ〜、なんとかしてくれよ!」
 揺すられながら、景時は頭の中で話を整理する。
「将臣くん・・・君は冗談でちゃんを傷つけたの?」
 景時自身でさえ驚くような、冷たく低い声が絞り出された。
「・・・は?どうしてそういう・・・・・・」
 将臣の手が景時から離れた。離れた左手をそのまま景時に掴まれる。
「・・・君は。冗談でちゃんを・・・ふったの?」
 手首が痛い。しかし、ここでも勘違いが起きているとわかった将臣。
 自分で蒔いた種だが、こんなに大きな事になっていたとは考え及ばなかった。
(がぁ!景時まで勘違いしてたんかよ!まずい、すっごくまずいんじゃねえのか!?)
「あ、あの。景時、何か勘違いして・・・・・・」
「勘違いなんて・・・・・・将臣くんらしくないよ?言い訳なんて」
 景時の目が冷たい。このままだと確実に腕を折られる。

「あいつが勘違いしてるのは、俺の好きな人が男ってことで!!!」
 将臣が大声で叫ぶと、景時の手が緩んだ。
「・・・どういうことか、説明してくれるよね?」
 景時の、目が笑っていない微笑が痛い。
 しかし、の気持ちを勝手に言うわけにはいかない。
「なんとはなしに恋愛話になって。俺の好きな人とか聞くから・・・面白くて、つい。大人の
男は格好いいなぁ〜って。そうしたら、ちゃんとまともな女の子と恋愛しなきゃ駄目って」
 とにかく焦点を暈かしまくって説明をする将臣。そろっと景時の表情をみる。
 先程までとは打って変わって、にこにこ顔だ。
「そうか〜、将臣くんがそっちの趣味って勘違いしちゃったんだね。可愛いなぁ〜、もう。
ちゃんにしてみたら、それは信じられなかったんだよ。頑張って誤解をときなよ!」
 将臣の肩をぽん!と叩き、ご機嫌の景時。
「・・・あんた、協力しろよな」
「え〜?!オレ?無理だよ〜」
 将臣の機嫌ゲージが、一気に下がる。
 景時がさっさとに告白すれば、こんな目にあうこともなかったのに。
 原因が自分とはいえ、景時に殺されかかる恐怖まで頂戴したのだ。
「うるせえ!アンタが好きなんだろ!俺が協力するから、誤解とくのも協力しろ!!」
「ど、どうしてわかっちゃったの〜?」
「あんた、あんなに俺に詰め寄っといて、馬鹿か?アホでもわかるわ!!!」
 怒りで口調が乱暴になっている将臣。
 そんなことにも気がつかず、当初の予定通り協力者を得られるこの機会に飛びつく景時。
「よし、のった!」
 がっちりと手が握り合わされた。

 

 の将臣への誤解は解けたが、景時との仲はいまだ進展せず。
 けれど、景時は親友を手に入れた。
「だからさ〜、こう、がぁーっと!どうして押せないんだよ〜」
「そうですよ、ここは男らしくビシッと!」
「でもさ〜、恥かしいよ〜〜〜」
 有川兄弟に挟まれて、嗾けられる景時を見かける度に、朔から笑いが零れる。
(兄上にも親友が出来て、よかった───)
 今日は、と買い物の約束だ。
 と白龍をあまり待たせるわけにはいかないと、朔はそっと庭から去った。
 穏やかな午後の日。梶原邸の庭での出来事。





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≪遙かなるお題配布所≫からお題拝借。お題元はコチラからどうぞ。

 あとがき:増えてきましたよ〜“景時を応援し隊”の隊員が!次は、誰だ?     (2005.3.1サイト掲載)




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