幼馴染





 景時はが好きだ。
 を知る、貴重な情報源を見逃すはずがない。
 しかも、大人の狡さを最大限に利用し、譲の淡い恋心に引導を渡す予定。
 仕事が早く終った時は、庭に行くのだが・・・・・・
 今日は譲がいつも弓の練習をしている庭へ足を進める。

(いた、いた。この時間なら稽古だと思ったんだ───)
 早く帰ってきたのも計算らしい。
 何事もないかのように譲に声をかける。
「譲くん、弓の稽古?えらいね〜〜〜」
「あ、景時さん」
 階に腰を降ろす景時に一礼をすると、弓を置き隣に腰を降ろす譲。
「ごめんね、邪魔しちゃったかな?」
「いいえ」
「ちょっと・・・いいかな?」
 景時は、一気に話をしようと軽く空気を吸い込んだ。
「あのさ・・・譲くんはちゃんの幼馴染なんだよね?オレさ、彼女のことを
色々知りたいんだ。彼女の好きなものとか・・・教えてもらえるかな?」
 譲の目が泳ぐ。譲ものことをずっと想ってきた。
 つまり、景時は恋敵ということになるのだ。ここをどう切り抜けるべきか?
「そ、そんなに詳しくないですよ?家が近くてよく遊んだくらいですし・・・・・・」
「そ〜かな〜?だって譲くんさ、彼女の好きな食事や花に詳しかったよね?」
 さっくり確信をつく景時。
 常に朔にツッコミされている分、ツッコミされて痛いところも心得ている。
「あ、あれは・・・そのぅ・・・・・・」
 真っ赤になって、慌てる譲。
「もしかして、譲くんもちゃんが好きだったとか?!ご、ごめんね〜。だったら
悪いこと聞いちゃったね」
 大袈裟に驚いてみせる景時。わざとらしく謝ることも忘れない。
「いえ・・・そういうんじゃないで・・・す・・・し・・・・・・。祖母が花を植えるのを一緒に
手伝った時に言ったのを覚えていただけとか。それくらいで・・・・・・」
 譲が平静を装い、言葉を紡ぐ。
「そっか〜、うん。よかった。オレさ、ちゃんが好きなんだよね。彼女の喜ぶ顔
みたいな〜なんて。何を贈ろうか考えてたんだ〜。譲くんが協力してくれるなら、
間違いなしって感じだね〜」
 両手で顎を支え、両肘を両足に置き、へらっと笑う景時。
 笑った理由は別なのだが。
 譲と将臣のやりとりから、譲は押し切られるのに弱いとの判断だ。

 景時はが好きという事実を突きつけられて、どういう反応にでるか?

 みたところ、譲の想いは『あこがれのお姉さん』の領域を出ていないと踏んでいる。
 景時の予想通り、譲は、の笑顔を想像して笑っているといると解釈したようだ。
「そうですね・・・甘い小さなお菓子とか好きでしたよ。小さなものがいっぱいなのが
いいらしいです。小物も好きみたいです。よく鞄に色々マスコットがぶら下がってま
したし。最近だと、ビーズクッションが気持ちいいって騒いでましたね」
 景時は、譲に悪いと思いつつも。流石によくみているなと感心した。
 所々意味不明の語彙が存在しているのが難点だが。
「そのさ、“ますこっと”とか“びーずくっしょん”って何?」
 つい自分たちの世界の人のつもりで話してしまった事で、譲は反省した。
「すいません。わかりにくかったですよね。そうだ!マスコットは厳しいですけど。
クッションなら・・・。景時さん。俺が手伝いますから。クッション作りましょう!」
 俄然やる気の譲に、怯む景時。
(オレは何を作らされるんだ?!)
「そうですね、可愛い色の布と。糸と。綿なんてあると出来ますよ。枕でもいいな」
 どんどんひとりで話を進めていく譲。
 策士、策に溺れる。
 景時は、譲に諦めてもらう牽制だけのつもりだったのだが。
 思いっきり強力な助っ人を手に入れてしまったようだ。
 後押しではなく、急き立てられるという表現しか思いつかない。
(譲くん、自分の時は行動を起こせないのに。こういう性格だったなんて!)
「ほらほら、景時さん。お買い物行きましょう。俺、裁縫も出来ますから」

 譲の背中をみながら歩く景時。
(弟って、こんな感じなのかな〜。ごめんね、譲くん。ちゃんを大切にするから。
もしも君たちが帰れないときは、オレの弟になればいいよ───)
 のこともあるが、弟まで出来たようで嬉しい景時であった。



≪後日談≫
 
「景時さん、これって・・・」
 薄桃色のかわいい枕をぽふぽふしながら、が景時をみる。
「ええっ?!枕だよ?こういうの・・・好きじゃなかった?」
 努力は報われなかったと、焦る心はあるものの様子を窺う景時。
「大好き!ものすっごく嬉しいですけど。こっちの世界の枕と違いますよね?」
 枕を抱えて首を傾げる
「譲くんに教わってね〜、オレが縫ったの。どうかな?」
 の仕種に貧血ものだが、ぐっと堪える景時。
「ありがとうございます!ほんとは首痛かったんですよね〜。きゃ〜v」
 枕を、もふもふむぎゅむぎゅと抱きしめ、頬擦りする
(枕になりたい───)
 景時の頭を過ぎった不埒な思考。鼻に走る激痛。
ちゃん、ごめんねっ!」
 またもや走り去る景時。
「あれ〜?景時さ〜ん???」
 目をぱちくりさせて佇む
 
 柱の陰には人影が二つ。
「はぁ〜。兄上ったら・・・・・・」
 これから簀子を雑巾がけしなくてはと、朔が溜息をつく。
「景時さんって、押しが弱すぎですよ」
 自分のことは棚上げの譲。
 恐るべし小姑軍団がここに結成されていた。
 





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≪遙かなるお題配布所≫からお題拝借。お題元はコチラからどうぞ。

 あとがき:そして景時を応援し隊が結成され(笑)ただいま隊員募集中!主な仕事は、景時のヘタレぶりを望美にみつからないようにする事v
            (2005.2.26サイト掲載)




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