両刃の剣と片刃の刀





 梶原邸の庭は、すっかりたちの社交場になっていた。
 朔もたちの世界について知りたいし、その逆もしかり。
 譲の作ったお菓子を食べながら、おしゃべりをする四人。
「将臣くんの剣って、中国っぽいよね〜」
「ちゅうごく?」
「あ!今だと何なのかな?」
先輩・・・宋です。朝鮮が高麗で蒙古が金」
 白龍を抱えながら、説明をする譲。
「そっか!大陸の武器っぽいなって!あれは頑張ってるよ。うん」
 が、譲のウンチクが始まる前に矛先を変える。
「そうね。少し重そうかしら」
「でしょ〜!それよりね。どうして私の剣、こんなに重いのよ、白龍!」
「?それは・・・神子が使うと封印出来る剣なんだよ?」
 は首を左右にふる。
「違うの!大体ね?か弱い私がこの剣で。九郎さんが日本刀だよね?」
 以外の三人は首をうんうんと縦にふる。
「リズ先生だって、アラビアンみたいな細い剣でしょ?」
 またもや首を縦にふる三人。
「こんな最悪の条件で、同じく花断ちしろって。おかしくない?」
 微妙に空気の流れが悪い方向へ流れつつあるのを察知した譲は、腰を
浮かせて逃げの態勢を整える。
 万が一に備えて、白龍にも被害がないよう、小脇に抱えられる態勢だ。
「そ、そうね。には少し大変かしら」
 朔がとりあえず返事をすると、
「神子より八葉の方が、軽くて便利な装備ってどうなの?!」
 がすっくと立ち上がった。
「譲くん!」
 譲がに指を指され、条件反射で立ち上がる。
「はいっ、先輩!」
「弓なのよ。大きくて邪魔だけど弓。しかも遠距離で戦える武器」
 が朔に向かい合う。
「ヒノエくんなんて、軽々な小刀ざっくざく〜みたいな武器だし?弁慶さんは
薙刀だけど。あれもなんだかんだと遠距離で戦えるわよね?敦盛さんも杖
じゃない?先についてるのは重そうだけど。まぁ、鈍器よね。殴り倒し。これ
だって遠距離向き。私があんな重い剣で接近戦なのによ?朔だって、扇で
かなりの接近戦じゃない!扇は軽いけど〜〜〜」
 朔は、この展開はよろしくないと思った。が壊れかかっている。
 ここであの兄が帰宅したら・・・・・・。
「そうよね。はとっても頑張ってると思うわ」
 振向けば譲と白龍はいなくなっていた。朔の応援者はいないということだ。
「そ、そうかな〜」
 照れる。しかし、それは一瞬だった。
「でもね!この前、生田の森で知盛と戦ったでしょ?あ〜んな大きな人が二刀流
でさ。私なんてこんな重い剣一本で。両手でやっとだよ?死ぬかと思ったよぅ」
 朔は、だんだん話の流れが読めなくなってきた。
 このままでは、誰よりも遠距離で戦え、誰よりも軽い武器を持つ景時が不利と
読んでいたのだが・・・・・・。
「この剣って両刃でしょ〜。向き考えなくてもガンガン攻められていいってことは
わかったんだ。他の剣とかだと、包丁みたいに片刃でしょ〜」
「そ、そうなの」
「うん。もう少し軽量化してくれたら、やる気もでるんだけどな」
 どうやら、一通りの文句は言い終わったらしい。
 朔は胸を撫で下ろす。
「ね〜朔は?朔はズルイな〜とか思わないの?」
「わ、私はあまり戦闘に参加しないから・・・・・・」
 朔には封印の力がないため、扇が武器と言えど後方にいることが多かった。
「あ〜、そっか。でも、大変だよね〜」
 は段々落ち着いてきたらしく、朔の隣に腰を降ろした。
。そろそろ洗濯物を取り込まない?」
 が景時を思い出す前に、話をそらしたい朔。
「あ!そうだね。景時さん、早く帰ってこないかな〜」
「え!?」
 朔は耳を疑った。
「ん?どうしたの?朔」
は・・・兄上が好きなの?」
 恐る恐る話を振ってみる朔。
「えへへ〜。だって、この前すっごく格好よかったんだよ。朔だって知ってるでしょ?」
 朔は、慌てて記憶の糸を手繰り寄せる。

(いつ?いつあの兄が格好いい事をした?!)

「生田で迷子なった私を迎えに来てくれて。大事な人って。きゃ〜」
 朔も思い出した。それで景時への文句が出なかったのか。
 洗濯物を抱えたまま、可愛らしくぴょんぴょん飛び跳ねて照れている

(あの頼りない兄上には。これ位冷静に分析するぐらいの人が丁度いいわよね。それに。
自身が兄上を好きみたいだし。が本当の兄上の姿に気がつかないうちに!!)
 朔は瞬時に計算をした。兄の恋心は知っていた。
 の為にあえて協力しなかっただけなのだ。
(どうして今日に限って兄上はお帰りにならないのですか!!)
 朔がイライラしていると、のん気な声が庭に響いた。

「ただいま〜って。ちゃん、それ重いでしょ〜」
 景時は、が抱えている洗濯物を取り上げる。
「お、おかえりなさい、景時さん」
 がぽ〜っと景時を見上げながら返事をする。
「ん、ただいま〜」
 さっさと簀子へ置きに行く景時。
「あ、兄上!」
 もう少し二人で会話をさせるべく、朔が景時を呼ぶ。
「ん〜?」
 そのまま靴を脱いで簀子へ上がる景時。
「私が取り込みますから。と二人でたたんで下さい」
「だ、駄目だよ。景時さんは疲れてるんだから!私がやります!」
 がとてとてと洗濯物を取り込み始める。
「景時さんは、着替えて寛いで下さいね」
 振り返ったの満面の笑顔に、心臓を鷲掴みされた景時。
「あ、ありがとう。そうだね、着替えてこようかな〜」
 ふらふらと立ち去る景時。
。私がたたむわね!」
 朔は急いで簀子へ上がると、に気付かれる前に雑巾で赤い斑点を拭いた。
 
 こんなに鈍い二人の想いが通じる日はいつ?───





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≪遙かなるお題配布所≫からお題拝借。お題元はコチラからどうぞ。

 あとがき:望美ちゃんも景時くんが気になってきた!それに気がつかない景時(笑)
         残念ながら、気づかせてあげませんよ〜♪天然vsヘタレの構図が気に入ってるんですもんv     (2005.2.23サイト掲載)




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