ケジメの日





 書類を出し終えて受理されたところで記念撮影となる。
「撮れた?」
 が譲の手元を覗き込めば、景時と二人仲良く写っている。
 この瞬間からの名字が変わったという事だ。
「きゃ〜〜!これだよ、この瞬間なの。朔にみせたぁ〜い!!!」

 景時も嬉しいし、有川兄弟とての今までの事を知っているから喜ばしい。
 けれど、程のテンションで喜びを全身で表すのは無理。

「先輩・・・場所をわきまえて・・・・・・」
 窓口の前で大騒ぎのジャンプである。
 止めなくては、他の人々の迷惑になってしまう。
「・・・・・・譲。俺たちは他人だ。話しかけるな」
 明らかに将臣は逃げの体制。
 譲の服を掴んで外へ出ようとしている。

ちゃん、可愛いなぁ〜。オレも!」
 景時は一緒になって飛び跳ねていた。





 ようやく喜び終えたと景時が通りへ出てきたのは、将臣と譲が外で家の両親と
有川家の両親に会い、その後、関係者全員をかなりお待たせしまくった頃だ。

「あれ〜?パパにママにぃ・・・おじ様たち・・・・・・あ、そっか。写真ですね〜?」
「そう、写真だよ。は景時君のお嫁さんなんだから大人しく。わかったね?」
「は〜い」
 まるで普段着の雅幸。もやや軽く考えていた。
「それでは、あちらの車で行こうか」
 用意された車に分譲して見慣れぬ景色の果てにたどり着いたのは、海が見える豪華ホテルである。


「パパ?写真・・・・・・」
「そう、写真。写真だねぇ・・・は時間がかかるね?」
 雅幸が花奈を見ると、花奈が首を傾げる。
「そう大仰にしなくてもいいとは思うけれど。ゴテゴテしいのは、私が嫌だわ。でも可愛らしくね」
「その辺りは紫子さんと適当に決めてくれればいいよ。私たちはあちらで休むから。じゃあ、景時君。
これからは花奈と紫子さんの言うとおりに頼むね。私は行成たちと休ませてもらうから」
 さっさと車から降りてしまい、雅幸は先に降りていた行成の肩を叩くと姿を消した。
 有川兄弟も、雅幸たちと行ってしまう。
 残された景時としては、男一人で心細いが言われた通りでいいのならと腹を決めた。

「花奈さん。やっぱりアレが先よね」
「ええ。アレは紫子さんにお任せするから。その後は私よ」
 女二人で密談の後、いきなりエレベーターへ乗せられ、やたら広い部屋へと連れてこられる景時たち。
 部屋には様々な衣装が用意されていた。
「これって・・・・・・」
 が目を見張る間も無く、紫子の指示が飛ぶ。
「はい、ちゃんはここ。景時君はそこに立っててね。今日の服を決めないと」
 とはいえ、初めから厳選させていたらしく、数種類の白いドレスが係の者によってに見せられる。
ちゃんが着たいなぁ〜っていうの、選んでね。景時君の服は、それに合うのを決めるから」
「え?・・・・・・ええっ?!」
 各々が手にしているドレスから決めていいらしい。
 けれど、いきなり言われても迷ってしまうのが乙女心だろう。

「ど、どうしよぅ・・・・・・」
 視線を右へ左へと彷徨わせていると、景時がある一点を指差す。

「・・・あれ・・・どうかな?」
 真っ白でいて、そうボリュームがないデザインのドレスである。
 も少し大人っぽくていいなとは思っていたが、母親の前で見栄を張るのもと躊躇っていたのだ。
「あの・・・似合う?」
「うん。あっちのふわふわもいいけど。あの感じなら・・・こっちの色がいいなぁ」
 桜の花が咲いた様な広がりの淡いピンクのドレスを指差す景時。
 係が手にしていない方も見ていたらしい。
「景時君たら〜。そっちは白の後に考えていた方なのに、さすがだわ。私もそれがいいと思っていたのよね」
 紫子が景時を褒め称えながら頷く。すべて同意見だったらしい。

「あの・・・・・・」
 が景時を見上げると、景時が大きく頷いた。
「嫌ならいいんだよ?ちゃんが好きなのが一番いいから」
「違うの。私もあれがいいなって思ってたけど、大人っぽいからどうかなって迷ってたの。だから・・・・・・」
 の心を見透かしたような景時のひと言が嬉しかったのだ。
 
(いつも・・・景時さんは私が何をしたいかわかっちゃうよね・・・・・・)
 まじまじと見つめていたら、景時が真っ赤になっていた。

「そんなに見られると、ドキドキしちゃうな〜。あはは〜〜〜」
 頭をかきながら誤魔化す景時を、花奈と紫子が小さく笑う。
 真実、を大切に思って気遣ってくれているのだと伝わるものがあるから余計に嬉しく、また、頼もしく
見えるのだ。

「さあさ!次は着物もね?ママ、には着物も着て欲しいの。お写真だけでも」
「ええっ?!三回も撮るの?」
 写真とは言った。記念に欲しいと言ったのはだ。
 まさかこんなに大掛かりになるとは、考えもしなかった。
「少ない方よ?ドレスで式だけして。後はお写真だけなんだから。皆で夕食会しましょうね」
 普通の事のように言われ、の肩に着物がかけられる。
「お式?そんなの聞いてな・・・・・・」
「あら。今言ったんですもの、聞いてるわけないでしょう?」
 からからと軽く笑われて、まったくの話を聞かない花奈。
 紫子は景時の服を決めた後は、係との髪型を決めるのに景時と話し込んでいる。
 かなり楽しそうな光景があちらでは繰り広げられていた。
「えっ?あの・・・ええ〜っ?!」
 頭が混乱しているのはだけで、他の者たちはすっかり今日を楽しんでいる。
 夢が突然かなってしまった者は、目の前に用意されると慌ててしまうものなのだろう。
 だけが呆然としている中、それぞれ別の部屋へ連れられて着替えとなった。





ちゃんも、いよいよ花嫁さんですねぇ?」
 すっかり着替えを終えた雅幸たちは、部屋でコーヒーを飲みながら寛いでいた。
 男性陣は着替えが簡単なので、時間が余っている。
「・・・いいんだ。小さい時は、私の後をついて来てくれたものだが。それより、例の件は?」
「ええ。雅幸さんがお考えの通りでした。なんというか・・・将臣がいるのでそれはいいのですがね。譲。お前にも
関係があるから話しておく。弓道部の事なんだが・・・・・・」
 こちらはこちらで話をするのに都合がよい時間となっていた。





 景時が扉を睨みつけている。
 先に支度が終わった紫子も景時同様、扉をひたすら見つめている。
 この様な時は、案外母親の方が落ち着いているのか、花奈だからなのか、のんびりお茶を飲んでいた。



「お支度、整いました」
 美容師が部屋から出てきた。扉の向こうにはがいるはず。
「そう。それじゃ・・・雅幸さんに電話してから行くわ。景時さんは紫子さんと先に行ってて下さいね」
 花奈だけががいる部屋へと入って行く。

「・・・・・・オレは見ちゃダメって事ですか?」
「・・・私もなのね。残念だけど・・・チャペルでって事にしましょうね。景時君は・・・向こう!行きましょう」
 迎えに来た係に案内されて、紫子と景時は部屋を後にした。





 結局、式場へ入る前のの姿を見たのは花奈と雅幸だけである。
「へっ!おやじも母さんも見せてもらえないでやんの」
 すっかり肩を落としている行成を将臣がからかう。
「私もなのよぅ。花奈さんたら、後でって」
「それはそうでしょう。母さんが見たら、騒々しくて迷惑でしょうから」
 冷たく譲が言い放つ。
「・・・譲が冷たいわ」
「いいじゃないか。楽しみは後でというだろう?」
 諦めがついたらしい行成は、式場の扉へと視線を移す。
 祭壇までの途中では、景時が落ち着かない様子で立っていた。

「アイツ・・・度胸あるんだか、無いんだかわかんねぇよな」
 将臣が肘で譲をつつくと、小声で話しかける。
「兄さんも結婚してみればわかるだろ。景時さんは、こっちの世界は何だってはじめてなんだからな」
 問題は、誰もがを喜ばせたいのと、その手段についてはサプライズを好む傾向にあるという事だ。

(もう少し普通に・・・なんて、言っても無駄だよな)
 譲は両親、将臣と視線を移し、続いて花奈、さらに景時を見る。
 その時、扉が開く音がする。

(筆頭が先輩のお父さんだしな・・・・・・)
 軽く肩を竦めると、真っ白なドレスに包まれたを見つめる。
 幼い時からの憧れとの決別だ。
 確認した事はなかったが、将臣とて同じ気持ちだろう。

「兄さん・・・・・・これから・・・・・・」
「ああ。誰にも・・・邪魔させねぇし?」

 将臣もから視線を離す事無く答える。
 何度も還内府であると告げようとしたが、出来なかった。
 そんな将臣を仲間だと言い、全員そろうと楽しいと言ってくれていた景時。
 そして、景時が好きだと必死に追いかけて、信じ続けていたを知っている。


(つか。勝負になんねぇよな?のおやじはアレだし。家はこうだし?向こうから仲間が来た日にゃ)
 これ以上考えると、とてつもなく恐ろしいので思考を止めた。
 景時との仲を割こうとするからにはかなりの覚悟を持ってしないと返り討ちにあいそうな顔ぶれだ。

(・・・せいぜい被害が広がらないようにサポートしますってな)
 途中で雅幸の手を振り払って景時へ駆け寄ってしまったを見るにつけ、引き離すのは無理だと思う。



「景時さん!すっごく似合う〜〜〜」
ちゃん・・・・・・あのぅ・・・・・・」
 今すぐ褒めたい。けれど、雅幸が肩を竦めるのが目に入るのだ。

(・・・困ったなぁ。すみません、お父さん)
 父親と新郎の挨拶なしでのエスコートが交替となってしまったのだ。
 花奈が雅幸を手招きをして、式が続行となる。

 の耳元で小声で囁く景時。

「・・・綺麗だよ。オレって幸せ者だね」
 満面の笑みでに応えられ、景時も微笑んで返した。





 指輪の用意をしていなかった景時だが、今回は気を利かせて事前に打ち合わせがされていたのだろう。
 とくに何も言われずに式は進み、誓いの口づけで終わる。
 今まで至るところで写真を撮っていたカメラマンが、初めて全員に並ぶ事を要求し、集合写真が撮られた。

「うわ〜、贅沢かも」
 が隣を見れば、景時が軽く片目を瞑って返す。
「本当に夫婦になったのは今日だから。甘えさせていただこう?」
「うん!」
 何枚か撮影が済むと、女性陣だけ着替えに別室へ戻る。
 今度は別のドレスになるのだろう。
 景時はぼんやりと椅子に腰掛けた。

「疲れたかい?」
 景時の隣に腰を降ろす雅幸。
 こちらも当然待ちぼうけ組みなのだから、座っているしかない。

「いいえ。何から何まで甘えさせていただいちゃって。オレ・・・そういうの無かったから・・・・・・」
 景時に厳しかった父が亡くなって戻った家で、景時が甘える事が出来る人物は誰もいなかった。
 景時が動かない限り、何も事は進まないのだ。
 このような嬉しい隠し事の贈呈など、あった例がない。
「ああ・・・・・・父上を早くに亡くされていたのだったね。は実に驚かせ甲斐がある娘でね。これからは
こんな事ばかりだから、覚悟しておくように」
 今後は景時にも降りかかるぞと、しっかり宣誓されてしまった。
「あはは。・・・嬉しいだけですから覚悟は必要ないです。それに、オレもちゃんの驚く顔、好きですよ」
 驚いた後に、とびきりの笑顔を見せるのだ。
 あの顔が見たくて、皆が驚かせたいだろう事は想像がつく。

(花火に驚いてくれた時の笑顔・・・・・・アレは参るよな・・・・・・)
 不思議なほどにベラベラと話をして引きとめてしまった勝浦の浜辺での出来事。

「花が咲くって意味・・・わかったんです・・・ちゃんと会ってから」
「・・・羨ましいね。そんなにたくさん・・・・・・もっとも、王子様は特別か」
 雅幸は雅幸で、に見事にふられた日を思い出していた。
 

 『の王子様が迎えに来てくれるから───』


 半ば予言めいたあの自信のある発言は、今の未来が見えていたのだろうか。
「本は・・・役に立ちそうかい?」
「はい。歪みは、人によってもたらされたところまでは突き止めました。ただ、歪みを正そうとしている役目を
負っている人にも出会えましたので」
「そう・・・それはよかった」
 そのまま何となくおしゃべりを続けていると、ドアの音と共にの声がする。


「景時さん!これ、どうかな〜?」

 ドアの前で一周してみせる
 景時は迎えるために駆け出していた。
 そんな景時を、のんびりと立ち上がってから見つめる雅幸の瞳は穏やかだ。
 雅幸を見ていたのは花奈。

 の運命も数奇なものといえるが、その運命を知っていながら見守るしか出来なかった。
 雅幸にとっても、花奈にとっても、これから先は予想が出来ないけれど痛みは無い。

(こう・・・お魚の骨が痞えちゃった感じ。すっかり無くなったのよねぇ)
 のんびりしている花奈でさえ、なんとなくすっきりしないまま日々を過ごしていたのだ。
 几帳面な雅幸にとっては、神経が休まる事はなかっただろう。


 雅幸の肩に触れると、座っていた雅幸が花奈を見上げる。
「・・・どうかした?」
「いいえ。怖いのと心配と不安って、違うのねって・・・改めて考えてたから」
 娘が戻ってこなかったらという恐怖、向こうで大変な目にあっていないかという心配、そして漠然と日々の
不安が、来る日も来る日も胸にあったのだ。
「そう。もう心配しなくても、婿殿がいらっしゃるよ」
 雅幸が何もしなくなるわけはないだろうが、景時がいれば物理的にも心理的にも荷は半分といいたいのだろう。
「・・・・・・あなた。きっちり半分ならいいですけれど。とぼけてたくさん渡そうとしてない?」
 肩を竦める雅幸。
「それはそうさ。これからは・・・花奈と楽しく暮らすんだ。私も忙しい身でね」
が拗ねるわよ?」
「拗ねる暇などないだろうね。ほら」
 雅幸が視線で景時との様子を見るよう花奈へ促がすと、まんまと二人ははしゃぎまくって撮影されていた。
 続いて、
ちゃん、おばさんとも撮りましょ〜」
 紫子が割り込んだり、行成が割り込んだりと、かわるがわると記念撮影中だ。


「・・・ちゃんとした披露宴は、卒業式の翌日に正式にでいいのかしら?これは・・・仮よね?」
 花奈にとっては、そのような位置づけだ。
「ああ。それに・・・景時君がいうには、京都でドカンとだしね?」
「そうだったわ。それは素敵!お父様たちも呼べるし、もちろん・・・私の父たちも」
 絶縁状態だった花奈の両親と再び話ができるようにしたのは景時と

「・・・・・・あの子、あなたに似てるわよね」
 どこが似ているかは言わないで、雅幸に似ているとだけ告げる。
「私かい?私は・・・あんなに騒々しくないと思うけれど?」
 口では否定しつつも、雅幸の口元は笑っていた。





 撮影会が無事に終わり、すぐに夕食の時間となる。
 誰もが予言が正確であった事に感謝しつつ、これからについて考えていた。
「だからぁ・・・物理の宿題。将臣くんはもう終わったの?」
「・・・宿題ねぇ・・・あったな、そんなの」
「どぉ〜してそうのんびりしてるの〜?もう少し慌てなよぅ」
 異世界から還って、すぐに冬休み。
 さらに、年末年始は京都で遊びすぎてしまったために、の宿題はあまり進んでいない。
「譲くんは?その・・・宿題」
「俺は京都で終らせました。明日から部活があるんです」
 の頬が引きつった。
「明日から真剣にしなきゃだよ〜。いいもん、頑張るから」
 軽く握り拳を作り、気合を入れる。

「やれ、やれ。困った若奥様だね。しっかりするんじゃなかったかな?」
「ひどぉ〜い!いいの、間に合えば。全部してないわけじゃないもん」
 雅幸に何か言われる前に済ませておきたかったのだが、景時との初旅行ではそれも無理だ。
「・・・何とか・・・する。景時さんも、お片づけ・・・だし・・・・・・」
「うん。大丈夫!オレがお掃除でも洗濯でも頑張るからさ。ちゃんは宿題しようね」
 尻に敷かれているのか、上手く誘導されているのかわからない景時との新婚家庭の会話に、
誰もが微笑んで耳を傾けている和やかな夕食会。
 雅幸だけが窓に映る夕闇の海へ視線を移す。


(いつまでも・・・が幸せならば・・・・・・)
 目先の邪魔な人物はひとりとも言える。


「・・・雅幸さんのその顔。イヤ〜な予感がしますが?」
 雅幸の向かいに座る行成が雅幸のグラスへワインを注ぐ。
「イヤ〜といわれても。あちら様が犯罪行為にならない程度の事をしてくれるならいいけどね」
「くっ・・・犯罪行為をしてくれれば捕まえられるとでも言いたげですよ?」
 雅幸の本心がいまひとつ掴みきれない。
「私はね・・・に後ろ暗い思いはさせたくない。それだけだよ」
「同感ですよ。紫子も先日の件は大変・・・むかっ腹が立つとまで言って・・・・・・」
 紫子らしくない発言があった事に雅幸が目を丸くすると、すぐに口元に笑みを浮かべた。
「最強の味方に頼もしい事を仰っていただいたとは。・・・彼にはさっさと退場いただくとするか」
「・・・来てもいないのに退場の話もどうかと?」
 行成も口元を緩め、しばし悪巧みの相談の様な二人。
 主婦ふたりは楽しく本番の式をどうしようか打ち合わせ。
 若い世代は異世界の仲間を夏休みに呼べるかと、未来を楽しく話し合って食事会の時間は過ぎた。





「ええっ?!私と景時さんだけお泊り?だって・・・宿題残ってるのにぃ・・・・・・」
「だから。何事にも備えて早めにと言っていただろう?が悪い。それとも帰るかい?」
 結婚の記念に豪華スイート宿泊まで手配されていたらしい。
 と景時が着替えに使った部屋が予約なしで使えるわけもなく、考えてみればすぐにわかる事だ。
「・・・いやっ。せっかく・・・せっかく記念日だもん!宿題なんて、人生の中でこれくらいだよ」
 指でその僅かさ加減をしてみせる
「その僅かすら出来ないなんて困った娘ねぇ・・・・・・」
「ううっ・・・・・・」
 痛いところを花奈に突かれ、が景時の背に隠れた。

「えっと・・・お言葉に甘えさせていただいて、明日帰ります。今日はありがとうございました!」
 景時が見送りに頭を下げると、も追従する。

「大丈夫。宿題なら・・・将臣。いつもちゃんにお世話になってるんだから。さっさと貴方が
終わらせておきなさい」
「げっ!ありえねぇ・・・・・・」
 紫子のなんとも遠回しな協力のおかげで、の苦手科目はなんとかなりそうだ。
 将臣の得意科目がの苦手科目となれば、どうにかノートが借りられそうだからだ。
「ありがとう!おば様大好きっ!!!」
 に抱きつかれてご満悦の紫子。
 景時とだけを置いて、その他の家族は引き上げた。





「景時さん。新婚さんみたいだね?」
「ええっ?!新婚さんじゃないの?オレたち」
「だってぇ・・・向こうから考えたら、ずぅーっと景時さんの奥さんなんだもん。ちょっとだけ変」
 考えてもみなかった式とウエディングドレス。
 こちらでも先に一緒に暮らせてしまったために、今頃という感覚が拭えない。
「では・・・ここへ来た時の服に着替えて。この辺りをデートしちゃうってのはどうかな?遊園地とか」
 窓から見える観覧車を指差す。
 何もかもが景時にとって気になるモノなのだ。
「あ!それいいかも〜。あれって一番大きいのかな?二番目なのか忘れたけど。一周二十分だって!」
「それは長いね〜。見たところ、かなりゆっくり回ってるみたいだしね」
「うん!恋人同士の定番なの。行こう、行こう〜」
 すっかりドレスなどの衣装類が片付けられ、景時との着替えがたたまれているだけの部屋。

「景時さ〜ん。明日の着替えも買いに行こう?」
 が自分の着替えだけを両手に持つと、別室へ移動する前に振り返った。

「ん〜〜〜。あるかも?ちょっと探してみる」
 景時がクローゼットを開けると、しっかり箱が置いてある。

「・・・やっぱりね。ちゃん、あったよ!」
 が小走りに景時が着替えに入った部屋へとやって来た。
 先に箱を出して開けている景時の手元を覗き込む
「わわわっ!可愛い〜〜〜。まっしろふかふかワンピースだ〜〜〜」
 には真っ白のニットワンピースが用意されている。

「ママってば・・・あるならあるって言ってくれればいいのにぃ・・・ケチ」
「あはは!言い出しにくくなっちゃったんだよ、きっとさ」
 景時にはシンプルなセーターとパンツが用意されており、なんとも気が利いている。

「さて!安心して遊びに行こ〜〜〜」
 景時が軽く片手を上げると、も真似して片手を上げて飛び跳ねる。
「うんっ!早くしないと閉まっちゃうもの。最後に観覧車ねっ」
 再び着替えを手に持ち、隣の部屋へ消える
 景時の前では着替えたくないらしいのがいかにもらしい。

「う〜ん。可愛い」
 の後姿を見送った後、あっさりフォーマルなスーツから来た時の服へ着替える。
 食事会用に用意されていた服を脱ぐと、肩の辺りがすっきりする。
「こぉ〜んなの毎日は大変だね〜〜〜」
 ネクタイを伸ばしながら脱いだ服を眺めていると、
「景時さん。いい?」
「ん。ど〜ぞ」
 一応は景時の着替えを覗かない心遣いだったのだろう。
 景時の返事の後に入ってきたが景時の脱いだ服をハンガーへかけて整えた。

「早く行こう!」
「そうだねっ。早く行こ〜!」
 手に手を取り合って小さな遊園地を目指した。





 新婚初日は遊園地で終わるのも、珍しくていい?───






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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→現代へ

 あとがき:みんな望美の性格をよくご存知で(笑)ウキウキの一日。場所はみなとみらい辺りをイメージしました。     (2006.09.15サイト掲載)




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