日常の始まり





「た、ただいま〜・・・・・・」
 わずかばかりの手荷物を置くと、ブーツを脱ぎ始める

「・・・ただいま?」
 が玄関で挨拶をしたので、ついの瞳を覗き込む景時。
「・・・ただいまですよ?お家だもん。景時さんも!」
「ふ〜ん。じゃ・・・ただいま〜!」
 誰もいないのを知っている家で声を上げるのも妙な気分ではある。

「お帰りなさいっ」
「うわっと!」
 に飛びつかれ、やや体制を崩しながらも受け止める景時。
「あはは。まいったな〜。このままリビングへ移動!」
 を片手で支えながら、もう片手には荷物をかき集めて持つとリビングのソファーを目指す。
 もう少しで到着というところでが腕を放してするりと景時から離れた。

「窓を開けなきゃ〜!空気が重い」
 勢いよくカーテンを開け、続いて窓を開け放つ。
「ぷはぁ〜〜〜!明日は荷物も届くし。お洗濯しなきゃですよね〜」
 外の冷たい空気が一気に部屋へとなだれ込むが、それが気持ちよい。
 コートを着たままで、しばしソファーで休憩する二人。


「そぉ〜だ!これ・・・早速使いませんか?これね、景時さんのだけど、私のもあるの」
 京都で買ったお土産を景時へ手渡す
 そのまま立ち上がり、リモコンで暖房を入れると台所へ向かう。


「オレに・・・お土産かぁ・・・・・・」
 京にいた頃は、景時が出かけて土産を買うという事はよくある事だった。
 しかし、土産を貰うとなれば別。
「もしかして・・・誰かに貰うのって初めてじゃないかな〜?」
 幼い時に父からの土産の記憶があるにはある。
 けれど、馬だったり刀だったりと、さすが武家としかいいようのない土産ばかりだ。
 景時のためにといっても、意味合いが違う。
「重い?」
 包み紙を丁寧に開くと、木箱で中身がわかってしまった。
「陶器・・・なのかな?・・・・・・」
 蓋を開ければ、ほどよい大きさの湯飲みと、小ぶりの湯呑みの二つが入っている。
「わ・・・これは・・・うん。手にしっくりくる・・・・・・」
 青釉の丸みを帯びた形の湯飲みを、そろりと両手で包むように持つ。
 やや深いその青は、深海を思わせる。
「・・・もうひとつ?あ・・・こっちはちゃんのなんだね〜。桜色か・・・・・・」
 景時の湯飲みよりも小さめの、それでいて同じく丸みを帯びた形の桜色のそれは、
気遣いが伝わる。


(オレのと・・・同じにしてくれたんだ・・・・・・)


 この湯飲みのセットを買った時、はどんな表情をしていたのだろうと考える。
 両手に持って手触りを確認し、並べて見た目を確認し・・・とはしなかっただろう。
 景時と別行動をしたのは、ほんの僅かな時間だからだ。


(あはは!・・・ほんっとにひと目で欲しかったんだろうなぁ・・・・・・)


 余所見ばかりしているの手を引いて歩くのはお手のものだ。
 時々は何を見ているのか、横から窺っていたりもする。
 けれど、この湯飲みには景時も気づかなかった。


「ま〜るいの・・・可愛いね・・・・・・これって、二人のだ〜」
「だって・・・おそろがよかったんですもん!」
 景時の隣にが座る。
「うん。オレもすっごく嬉しい。そうだ!オレのも開けてみて?」
 景時もに買った土産の袋を手渡す。
「わ!なんだろう〜〜〜」
 小さめで軽い袋の中身は、とても可愛らしい髪飾りが三つ。
「・・・簪だぁ。これが・・・着物用?こっちは・・・浴衣でも可愛いかも!ありがとう」
「そのぅ・・・向こうではあまり可愛い髪飾りあげられなかったから・・・・・・」
 に似合う簪を探して、小間物屋を見かけたら必ず覗いてはいたのだ。
 思うような髪飾りが見つからず───

「ごめんね。もっと着飾って楽をさせてあげたかったのに・・・・・・」
 の長い髪を手に取り、さらさらと指から落ちる様子を眺める。
 京では、髪を巻いてひとつにまとめたり、編みこみをしたりと工夫をしているのは知っていた。
 その髪につける髪飾りが、ほとんど同じモノである事も。

「・・・着飾るのと楽は別な気がしますケド。・・・・・・あのね、贈り物も嬉しいけど、景時さんと
いる時間の方が何倍も大切だったんですよ?そういうのが楽しくて幸せだったんです。お姫様みたいな
暮らしがしたくて景時さんのお嫁さんになりたかったんじゃないです。お家が大きいのはビックリだった
けど。そういうんじゃないもん」
 が景時の肩へと寄りかかると、その手を取って自分の手のひらと重ねる。

「あのね?景時さんの大丈夫が好きなの。朔に言わせるとやせ我慢って言ってたけど。それでも、相手を
気遣って言っちゃう景時さんが大好きなの。あんまり無理しちゃう時は怒っちゃうかもだけど。それでも、
優しい景時さんがいちば・・・・・・」
 

 景時の唇がに触れる。静かに唇が合わせられていた。
 

「参っちゃうな〜。ちゃんから大告白されちゃって。オレね、嫌われたくないだけなんだと思うよ。
臆病なのかな」
「違うもん。優しいのっ。・・・・・・今日のお夕飯は京都風にしますからね?でね、いつお菓子ツアー
します?明日?でもぉ・・・明日は宿題だけはしないといけないしぃ・・・・・・」
 帰ったらの約束ではあったが、菓子の食べ歩きは最初にすべきではない。
「じゃ・あ!明日は荷物がついたら一緒にお洗濯して〜。オレは本の整理しなきゃだろうし?だから、
ちゃんはその間に宿題でどうかな?早めにしなくちゃいけない事から終わらせて。冬休み中とはいわず、
土日にでも鎌倉を案内してもらいがてらでお菓子ツアーはどうかな?」
 休み明けにテストだとも言っていたのだから、あまり色々しようとすると無理がある。
 素早く優先順位を考え、カレンダーへ目を走らせ計算する景時。
 冬休み中よりは、テスト明けの土日の方がの心理的にも楽だろうと判断を下した。
「そうだ〜。土日もあるんですもんね!それにぃ・・・景時さんのあの荷物も届いちゃうんだった!しっかり
お片づけしないと、ダンボールの中で生活になっちゃう!」
 口元に手を当てて笑う
 余程ダンボールに埋もれていた景時が面白かったと見える。
「う〜ん。そう言われると・・・頑張らないとって思うよなぁ。だよなぁ・・・並べる方が大変かぁ」
 景時の首が項垂れる。
 ダンボールへつめるのは上から下、ダンボールから出すのは下から上になる。
 さらに、出すときに考えて出さないと必要な時に必要なモノは手に入らない。
「あ・・・何だが明日が怖くなってきた・・・・・・」
 景時のはの字になった眉毛を見て、ますますが笑う。
「だめですよぉ〜だ!あんなの何が書いてあるか私にはわからないもん。分類は手伝えませんからね!」
 手伝わないといいつつ、分類はと限定してくるところがの気遣いなのだろう。
「うん・・・オレでも分類は大変だと思う。はぁ・・・・・・ちゃんの宿題の方が早く終わりそうだ」
 始めこそを気遣っていたつもりだが、よくよく考えれば景時にもする事があったのだ。
 なんとなく今のうちだという気分でを抱きしめる。
「うふふ。景時さんったら。景時さんの書斎用のお部屋、しっかりお掃除して待ってなきゃ」
 が景時を見上げたのを見計らい口づけしようとすると、無常にも響く音がお湯が沸いたと知らせる。

「あ!お湯が沸いた〜。早速お茶にします?」
 立ち上がったが、テーブルの湯のみを指差す。
「もう少しこれ見ていたいな〜。紅茶は?」
「わかりました!じゃ、紅茶の用意してくる〜。最近日本茶ばかりだったし」
 が小走りにキッチンへ向かうのを見送ってから、テーブルに並ぶ湯飲みへ視線を移す。

「オレの・・・居場所のシルシだね。だってさ・・・・・・」
 景時用の湯のみなのだ。景時がいない場所には必要が無い。
 それだけの事。それだけの事なのだが───

ちゃんって・・・いつもスゴイよ・・・・・・)
 景時の欲しいモノを的確に示してくれる。
 こちらの世界では異端なる存在。けれど、誰もがいていいのだという。
 そう言われても、目に見える証が欲しいものだ。

「・・・・・・これ・・・オレのなんだ。母上・・・朔・・・・・・」
 空へ向ければ京にいる人に見えるというわけではない。
 ただ、目の前にかざして眺めながら呟く。

「・・・使わないで飾るってのはアリなのかなぁ?」
 再び二つの湯のみを並べて眺める。なんとなくだが、二つを離したくない。

「うん。だってソレ、景時さんのだもん。景時さんが眺めたければ、そうすればいいんだよ?」
 コートを脱ぎ、部屋着に着替えたが紅茶のセットをトレーで運んできた。
「うわわ!・・・・・・聞かれちゃった?」
 何となく気まずくて身体を引く。
「聞えちゃいました。別に、湯のみはお茶を飲まなくてもいいんですよ?こういうのディスプレイしてるの
ありますよね〜。景時さんのお部屋に飾ります?」
 ティーカップをセットしながらが景時を見つめる。
「う・・・うん。そうしたいなぁ・・・・・・これ、並んでるのいつも見たい」
「じゃ、そうしましょう!景時さんのお部屋に決まり!景時さんもコート脱いできたら楽だよ?のんびり
しましょ!」
 砂時計を景時に見せる。あと二分程度しないと紅茶が注げない気配。
「よしっ!楽しいおやつの時間にしようね〜〜〜」
 二分で戻るつもりなのか、景時が言いながら姿を消す。

「うふふ。この子達、気に入ってもらえたんだ〜。よかったね?」
 湯のみに人称扱いも妙ではあるが、それだけも一目ぼれの一品、一セットだったのだ。

(景時さんポイ色で、まあるいの・・・・・・これ、可愛いもんね)

 深海色の湯のみに軽く触れてから、再び砂時計を見て、時間が経ったのを確認してから紅茶を注ぎ始める。
 
「明日からは景時さんの奥さんと女子高生の兼業だから、しっかりしなきゃ!」
 気合を入れなおして景時を待つひと時が楽しかった。







 一夜明けると、早々と午前中の便で荷物が届く。
「ね〜〜、ちゃん。お洗濯ってさぁ〜〜〜」
 景時が気になるのは、声に出すとに叱られるだろうアレの行方だ。
 しかるというよりも、が恥ずかしがって教えてくれない。
「何ですか?」
「あのね〜〜〜?アレっていつお洗濯してるのか・な〜〜?なんて・・・ね!」
 可愛らしく両手を合わせてに伺いを立てる景時。
「あれって何ですか?お洗濯?」
 テキパキと洗濯機に分類して入れられてゆく中に、景時の希望の品は入っていなかった。
 さすれば、「聞くしかない!」と、一大決心で口にしたのだが───

「う〜〜んとね、そのぅ・・・・・・」
「お洗濯は洗濯機がしてくれるんですから!景時さんは玄関を気にして下さい?」
 朝も早い八時に到着したのは、ホテルから送った旅の荷物のみ。
 景時の荷物の到着予定時刻は午前中とだけ。
 引越し荷物のように運ばれるであろう荷物たちを考えると、通り道に邪魔なものがないよう点検し、後は
待つばかりといった状態ではあるのだが、午前中とは範囲が広い。
「え〜っとね、それはきっと運んでくれるだろうから。本棚も後から買いに行くしさ〜〜〜」
 さらに一晩考えてみると、本を納める場所が無いと気づいたのだ。
 当面、先に読みたい本が入っているダンボールはわかっているから、残りは積んでおく予定。
「そんなに見ていたって、全自動なんですから。お洗濯物を入れたら・・・はい!」
 スタートボタンを押してみせる
 勝手に重さを考えて、勝手に洗い出すであろう洗濯機の仕事の始まりだ。
「脱水が終わってからしかする事ないですよ?」
 景時の前で軽く跳ねる
「うん。そうなんだけど・・・・・・」
「今のうちにお茶にしましょう!届いたら大忙しになっちゃう!」
 に腕を引かれるままリビングのソファーへ座る。
 景時が知りたいのは、の夜着の洗濯方法だったりする。

(ふわふわのアレ・・・溶けちゃわない?)
 水に濡れると溶けそうな気がするのは景時だけ。乾けば元に戻るのだ。
 さらに、が手洗いをしているわけではなく、横着して洗濯用の袋に入れるという手がある。
 しっかり一緒にお洗濯中。
 それを知らない景時。
 行方不明のの夜着がいつも気になっている身としては、今日こそわかると期待をしていた。

(ま!普通に聞くのもアリだよな?)
 気になることは放置できない性格である。

「よ〜いしょっと!ね、ちゃん。しつも〜〜ん!」
 紅茶を二つのカップへ注ぎ終わったのを見計らい、を膝へと抱える景時。
「何ですか?何かありました?」
 としては、できる限りこちらの世界の事に答えようと努力している。
 コンビニでの下着の説明など、少々困った事になる場合もあるが、自分の精一杯で景時を手助けしたい。
「ん〜〜?あのね、ちゃんの・・・・・・」


 ピンポーン───


 軽やかな音が響く。まんまと質問は中断されてしまった。
 管理人室を通過したのであろう宅配便の業者と思われる。
「あ!景時さん。届いたみたい」
 素早くが景時の膝から降りると、玄関へ向かう。
「待って!オレが・・・・・・」
 この部屋へ到着するにはいくつかのハードルがあるから心配はないとは思うが、慌てて景時が後を追う。
 
ちゃんに何かあったら大変!)
 雅幸の手配なのだからある意味一番心配ないが、常に油断しないようにと心がけていた。





 ドア越しに景時が送った荷物である事を確認し、景時がドアを開けた。
「ど〜も!中へお願いしてもいいですか〜?」
「はい。そのつもりで、ここで流れ作業でさせてもらいます!」
 元気のよい若者たちが、交互に空き部屋へとダンボールを運び入れる。

「・・・蟻さんの行列みたい・・・・・・」
 景時も一緒になって運んでは、部屋で重ねる順番を指示している。
 その姿は、蟻が角砂糖を運ぶ・・・といった風情だ。
 ぼんやり眺めていただが、徐に人数を数えると冷蔵庫へと小走りに向かった。



「どうも〜!助かりました。本って思ったより重いね〜」
 詰めてから室内を移動程度には持ったが、距離を歩くという事はしなかったのだ。
「いいえ。引越しよりは楽ッス!家具とかで傷を作らないようにとか・・・・・・」
「ええっ?!引越しの荷物まで?そりゃ大変だ〜〜〜。体力勝負だね」
 景時が労をねぎらいつつ玄関まで歩きながらおしゃべりをしていると、が買い物袋片手に小走りに
やって来た。
「あの!そのぅ・・・ありがとうございました。これ、皆さんで」
 冷蔵庫からお茶のペットボトルを数本と菓子を入れてきたらしい。
 の手から景時が受け取り、間を仲介する。
「え〜っと・・・こういうのは頂くわけには・・・・・・」
「まあ、まあ、まあ!オレの可愛いお嫁さんが心配してたんだ。オレ一人じゃ無理〜って思っていたところ
で運んでもらえちゃったからね。少し時間もかかっちゃったしさ。よければ貰って欲しいな〜なんて」
 押し付けるでもなく、かといって手を引くわけでもなく、景時が程よい距離で袋を差し出している。

「あの・・・奥さん?」
 兄弟とは思えなかったが、だからといって夫婦というにも妻がやたら若い。

「・・・景時さん!どうしてそうぺらぺら〜ってしゃべっちゃうの?」
 真っ赤になったが景時の背を叩く。
「え〜っと?オレの奥さんってば可愛い上に気配りさ〜んって・・・これって自慢になっちゃう?」
 背中を叩くは放っておき、一番前に立っている若者に、なおも続けて話しかける。

「・・・・・・う〜ん。旦那さん、あんまり奥さんからかっちゃ可哀想ですよ?これ、いただきます!
ありがとうございました。それと・・・またのご利用をお待ちしております」
 飲み物を受け取った換わりにチラシが景時の手の中へ納まる。

「こちらこそ。ありがとね〜」
 手を振りながら見送ると、チラシの表を読み始める。

「何、何・・・集荷までしてくれるんだって!よかったね〜、ちゃん」
 景時がようやく背中のを振り返ると、が唇を尖らせている。
「あらら〜。どうしたの?」
「だって・・・まだ正式に奥さんじゃないもん」
 書類はまだ。卒業まであと一年という、重い現実があるのだ。
「あ〜〜、そのこと?だったら先に入籍してもいいってお父さんが言ってたでしょ。先に結婚しよ?」
「へ?」
 どこで話が変わっていたのか思い出すべく、は首を捻ったまま記憶の糸を手繰り寄せる。



「ああっ!そういう意味だったの?え〜〜〜!!!」
 雅幸と景時が確かに話していた。そして、その場にはもいたのだ。


 『気になるなら籍だけ入れなさい───』


「パパ・・・言ってた・・・・・・・・・・・・」
「うん。いつにする〜?何かの記念日とかがいいのかな?ちゃんはいつがいい?あれっていつでも
受け付けしてくれるんでしょ?」
 ここで一気にの思考を奪うべく、畳み掛けるように疑問系で話しかける。
「やっぱりさ〜、二人で行きたいよね。あれだね?将臣くんたちにも見てもらう?二人で出したところとか。
デジカメで撮ってもらっちゃったり〜?記念に残しておいて、後で朔にびしっと見せたいな〜。たまには
オレだって色々頑張っちゃってるトコ、見せてみたいよ〜」
 そう急かすつもりもないが、出来れば早めに手を打ちたい景時。
 実際、雅幸が言うからには入籍はすべきという解釈の方が良さそうだからだ。

(外観を先にって・・・ことなんだろうなぁ・・・・・・)

 星の一族の出方がわからないからには、出来る事をするしかない。
 こちらの世界でも、現実に婚姻の証を得られるならば───

「景時さん!今日!今日行こう!え〜っと・・・今すぐ!ママに電話しなきゃ」
パタパタとスリッパの音を立てながら、が携帯を片手に部屋中を走り回る。


「・・・うん。そうなの。ダメかなぁ?・・・そうなんだ〜。でもぉ・・・今日だと五日なの」
 急に入籍したいのには訳がある。
 さすがに三月まで待つのは厳しいが、景時が生まれた日と同じ五日にしたいのだ。
ちゃん?・・・・・・」
 訳も分からず、携帯片手に話しながら歩くの後をつけて歩く景時。

「うん、うん。わかった。書類はママが・・・・・・有川のおじさまたちって帰ってるの?」
 軽く景時へ手を振ると、だけの部屋に入る。
 景時はその扉の前で立ち尽くすだけ。

「だって・・・景時さんの実家っていうか・・・そういう事だし。何も言わないで後でって・・・・・・
うん。将臣くんと譲くんにもついてきてもらいたいかな〜って。・・・・・・そうなんだ!午後なら帰って
来るんだね?じゃ、こっち片付けたら午後に二人で行くよ。その方が全部出来ちゃうし」
 クローゼットを開き、本日のための服を探す。
 この季節に白い服というのは中々に厳しく、ニットくらいしかない。
「ママ〜〜。白い服がないよぅ。なんとなく白がいい気がしたのにぃ・・・・・・ニットしかないの」
 あまりに突然ではあるが、白い服にしたいのは乙女心である。


 『コート着るんでしょ?いいじゃない、春用だけど、白いミニのワンピースで』


「ええっ?!・・・・・・あれかぁ・・・可愛いかなぁ・・・・・・」
 ワンピースを着ている姿を想像したまではよかったが、足元が思いつかない。
「靴が無いよ〜〜〜」
 何が気に入らないのか、決まらないらしいに花奈が溜息を吐く。


 『ふぅ。・・・わかったわ。パパにどこかでお写真が撮れるようにしてもらうから。服は我慢なさい』


「う〜ん。思いっきりいつものかっこで行けってコト?」
 ただいま部屋着のとしては、いわゆるよそ行きの格好がしたいのだ。


 『あら。可愛いミニとブーツを年末に紫子さんにいただいたじゃないの。あれは?』


「そうだ〜!あのミニスカはまだ穿いてな・・・・・・どうしてママの方が詳しいのよぅ〜」


 『が忘れんぼさんなのよ!いいわ。とりあえずは午後に二人でいらっしゃい』


「はぁ〜い。・・・・・・そうだ!景時さんの服は何がいいかな〜〜〜」
 自分の服は決まったとばかりに、がドアを開けると───



「あいてっ!!!」
「景時さん?!」
 まんまとドアに頭を打った景時。余所見をしていたのがまずかった。

「ごめんなさい!どうしちゃったの〜、こんなところで。それよりも!景時さんも着替えしなきゃですね!」
 景時の頭を撫でてコブになっていない事を確認すると、景時の手を引いて景時の部屋へと入る
 さっさとクローゼットを開け放つ。
「どうしよ〜。景時さんは何を着ます?」
 が振り返ると、景時の首が横へと傾く。
「何って・・・何?」
 景時と反対の向きへも首を傾ける。
「何って、籍を入れに行くのにですよ?パパとママのとこへ行って、有川のおじさまのお家にも行って。
でね、写真も撮ってもらうの〜〜〜」
「ええっ?!ホントに今日にするの?!」
 これには景時の方が真実驚いた。思わず仰け反ってしまった
「うん!今日がイイの。ぜ〜ったいに今日!」
 が手にしたのは、少しばかりおしゃれなシャツだ。
 これにスーツの上下が軽くフォーマルな格好でいいと思う。



「これっ!景時さんは、これを着て下さいね〜。今はあの片づけが先。明日は本棚を見に行かなきゃだし。
うん。やっぱり今日!」
 景時が着る組み合わせを除ける。
「・・・・・・今日・・・いいの?」
 まさかこんなに話が加速して進むとは思わなかったのだ。
 つい声も小さくなる。
「今日がいいんです!午前中しか時間がなくなっちゃったから〜。私は大至急英語の宿題しちゃうから。
景時さんも先に読みたかったっていう本探ししなきゃですよ?」
 なりに残り日数でいかに宿題を済ませるか計算しているらしい。
 指折り数えて軽く頷いている。
「だね!そうしよう!オレ、張り切っちゃうよ〜〜〜」
 軽く腕まくりをして、景時はダンボールを積んである空き部屋へと消えた。

「ずるーい!私だって!!!」
 も気合を入れて宿題を終わらせるために、自分の部屋から英語の辞書他、一式を手に持ってリビングの
テーブルへ移動する。





 日常の始まりは、午後から非日常の始まりに変わる───






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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→現代へ

 あとがき:と、いうわけで。ようやく念願が叶うのでありました。     (2006.07.16サイト掲載)




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