東寺にて ≪景時side≫ 京都最後の日、東寺へ散歩。 京都駅からかなり近く、そして─── 「ここは同じだね〜」 五重塔も本堂も、面影そのままである。 「そうですね!いつもお買い物に来ましたもんね。楽しかった」 日用品を値切りながら買うのが楽しいのが市。 近隣より人が集まるので、時々珍しいものにも出くわす。 モノだけではなく、人にも。 「そうだね〜〜〜。時々ヒノエくんとかいたりして・・・・・・」 または、ヒノエの部下にヒノエはどこかと尋ねられ。 「そう、そう。ヒノエくんたら、何してるのか教えてくれなくて」 景時に言わせれば、情報収集には人混みが一番である。 にはわからなかったのだろう。 いつもがヒノエに何を探しているのか尋ねてもはぐらかされていた。 「・・・そういえば。景時さんってヒノエくん見つけるの早かった〜」 に見つめられ、景時がやや首を傾げた。 「目立つんだよ、彼。それにさ・・・・・・」 軽くを抱え上げてみせる景時。 景時と同じ位置からの視線で見回すと、確かにより視界が広い。 「いつもこんな風に見えてるんだ〜。不思議ぃ〜〜〜」 景時はを見つけるのが上手かった。 確かに、好きな人はつい見てしまうし、見つけられるものだ。 それだけではなく、現実に見つけやすかったのだとも思う。 「これじゃすぐに見つかっちゃうのも納得だ〜〜〜。でもね?」 降ろしてもらったが、手招きをする。 と同じ高さに屈んで辺りを見回す景時。 「ほら〜〜。背が高い人って目立つでしょ?」 「あらら〜。でもさ〜、八葉って皆背が高かったよ〜?」 五重塔方向に気になる人影を見つける景時。 「先生とかはもう別格ですよ。もうね、壁っぽかった」 マントの中に隠れれば、などすっかり見つからなくなる。 白龍とかくれんぼをした時には重宝したものだ。 「・・・ちゃん。ちょっといいかな?五重塔観に行こう」 「えっ?は、はい」 を一人にするわけにはいかない。 しかし、あの後姿を確認したい。 景時は、何も拝観しないうちにの手を引いて五重塔を目指した。 景時たちの気配を察したのか、五重塔を見上げていた人物が振り返る。 「見つかってしまったかな?」 そのやや波打つ髪を指で弄ぶ人物が優雅に微笑む。 「・・・わざと見つかるようにされていたでしょう?」 雰囲気に気おされそうになるが、景時もしっかりと言い返す。 予想が間違っていなければ─── 「あ。ひ・・・・・・」 景時がの口を軽く手で塞ぐ。 「ちゃん。この方は伏見の方とは違うよ。それに、ここでは名前は黙って いようね」 それなりに人目があるこの場所で、迂闊に名前を出すのは良くない。 京都が藤原一族の縄張りなら尚更だ。 「ふふふっ。・・・・・・話の通り、面白いね。君達が帰られる前に一度は 会っておいた方がいいと五月蝿い男がいてね。今日はココだろうと当たりを つけて来たのだよ」 再び五重塔の天辺を見上げる。 「はぁ・・・・・・その・・・五重塔に何か?」 つられて景時も空を見上げる。 隣ではもやや口を開き加減で空を眺めていた。 「妻との想い出の場所でね。・・・この私が初めて痛い思いをした場所でもあり、 大切な人を自覚した場所でもあり・・・・・・鬼の少年と追いかけっこらしきを した場所・・・かな。・・・・・・そちらが春の姫君なのだね?」 写真よりもやや大人びてはいるが、強い意志の瞳は変わらない。 「伏見の者より無神経ではないつもりでね。貴女の姿は写真にて存じていましたよ」 軽くに会釈をする。 「その・・・どうして東寺・・・・・・」 景時たちが東寺に寄るとは誰にも言っていない。 「それは簡単。君達がまだ訪れていない場所で・・・昔から変わらず、かつ、駅から 近いという条件ならば限られているよ。それに、私は個人的にここが気に入っていてね」 勝負に負けないよう気持ちを新たにするには、屈辱を味わった場所がいい。 二度と同じ過ちを犯さないように─── 「綺麗ですよね。声が聞えてきそう・・・・・・」 が片手を空へ伸ばす。 件の人物がを見た。 「・・・どんな声?」 大きく深呼吸をひとつすると、がその人物を見上げる。 「誰の声でもないですよ。それは・・・そう思った人が自由に聞き取ればいいんです。 そんな大層な事じゃなくて・・・・・・空の声でも風の声でも。何でもいいの」 その人の心の中にこそ、声がある─── 「参ったね。これは・・・写真ではわからないことだ。確かに会えてよかったと・・・ いえるかもしれないね。私の名前は・・・・・・」 友雅が言いかけると、が自分の口元に人差し指を立てる。 「しぃ〜っ。私も知ってるから大丈夫です!その・・・伏見で聞いちゃいました」 「それは、それは。どんなお噂を耳にされたのか・・・・・・さして悪いものではないと 信じても?」 が口元を隠して景時の背に隠れた。笑いを堪えているのが表情に出てしまっている。 こめかみの辺りを指で掻きながら、景時が噂の内容を一言でまとめた。 「その・・・かなりの愛妻家でいらっしゃるとだけ・・・・・・」 「おや、おや。その情報には少しばかり間違いがあるね。今風でいうならば・・・・・・ マイホームパパというものなのだよ、私は。そろそろ見つかってしまうな。またの機会に。 そうそう、景時殿」 景時が背筋を伸ばす。 「こちらの事は心配しなくてもいい。それなりに見張りをつけてある。何らかの形で君達に 情報は届くから。それと・・・・・・あまり素直に遊ばれないようにね」 軽く片目を閉じると、風のように消えてしまった。 「景時さん・・・あの人って・・・・・・」 「うん。優雅な方だったね・・・・・・古くは貴い血筋の方なのだから・・・・・・」 橘といえば、その昔に遡れば帝の血筋に交わる。 そして、かの人物は貴族制度全盛であった時代の八葉である。 洗練された所作は、当然といえば当然の事だった。 (あ・・・晴明の時代の人・・・なのかな?) ふと思いついたが、今はまだその時期ではない。 「ふ〜ん。エライ人なんだ〜。・・・・・・なんとなくわかるかも」 それでも、マイホームパパらしい。 「ね、景時さん。会ってみたいね、その・・・奥さんとお子さんに!」 わざわざ言い直したからには、子供も含めて大切にしているという事だ。 「会わせてもらえるといいね・・・・・・」 向こうから会わせたいと、そう思ってもらえたなら─── 「会えますよ。だって・・・色々教えてくれるって、そういう意味じゃないの?」 「・・・あはは!そっか」 (ちゃんはそう感じたのか〜。だよな〜。遊ばれないようにって、お父さんの事だろうし) 雅幸に遊ばれないように─── そういう意味だとはすぐに気づいたが、情報をくれるという部分は仕事という意味なのか、 個人的にという意味か図りかねていたのだ。 (次はオレの番か・・・・・・鎌倉で何があるんだろうね) 翡翠にも遊ばれているらしいのはわかっている。 その遊ばれ方次第で友雅の出方もかわるのかもしれない。 友雅にも認められれば、それだけ景時は動きやすくなる。 「よしっ!それでは、元に戻りまして〜、名物の立体曼荼羅を観に行こう!」 「名物って・・・有り難さが半減だよぅ」 今一度振り返り、五重塔を見上げてから講堂へ戻る。 空は・・・鎌倉にも続いてるしね? どこの空でも、空は空─── |
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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→現代へ
あとがき:ようやく出番のあのお方。東寺といえば、東寺ですよ!遙か1ネタ☆ (2006.06.25サイト掲載)