旅の終わり 「景時さん・・・覚えてるの?」 雅幸が運転する車で一度行ったきりだ。 方向音痴気味のにすれば、地図を見ただけよりもスゴイ特技を見せられている状態。 「うん。降りたら少し歩きだけどいいよね。電車の方が早く着くし」 晴明神社から地下鉄の駅へ移動している二人。 景時はとくに何も確認しないままでと手を繋いだまま足早で歩いている。 すると、その歩を突然止めた為に、景時の背にがぶつかった。 「あっ!」 「景時さん?・・・きゃっ!!!」 「ごめんっ、ちゃん!痛かった?」 慌てての手を離すと、景時がの肩を掴んで全身を確認し始める。 「その、ぶつかったのは痛くないですよ?景時さんこそ、何かありました?」 がしゃがんでいる景時の頭を撫でると、ようやく景時が立ち上がる。 「あ〜っと・・・その・・・突然行ったら迷惑かなって・・・・・・」 「あ゛・・・・・・」 しばしも考える。 それでも、の訪問をあんなに喜んでくれた祖父と祖母が住まう家なのだ。 「大丈夫!おじいちゃんとおばあちゃんの家ですもん。駅についてから電話すれば」 「・・・だ〜よね〜。いつでもって、いつでもだよねっ!」 気を取り直して、二人は再び手を繋ぐとまずは電車に乗るために切符を買った。 上鳥羽駅に降り立つ二人。駅からは徒歩ではなくタクシーを利用することにした。 そのまま昨年訪れたばかりの、雅幸の生家へと到着する。 「待ってたわ、ちゃん!もう少し早く電話をくれれば、もっと色々作れたのに」 車の音で着いたのがわかったらしいの祖母が玄関から飛び出してきた。 「あっ。ごめんなさい・・・じゃなくって。あけましておめでとう、おばあちゃん!」 景時も続いて新年の挨拶をすると、慌てて温子も挨拶を返した。 「さあさ!寒いから後は中でね?お雑煮しか温まっていなくて・・・・・・」 「じゃあ・・・何かお料理教えて下さい!景時さんが喜びそうなのを!」 ここぞとばかりにが両手を合わせてお願いのポーズをする。 景時の用事は本の整理にあるのだから、が手伝えることは少ないのだ。 「あら!それは楽しそうね。景時さんは、雅幸のお部屋を片付けてくれるのよね?助かるわ」 「あ〜・・・片付けって・・・・・・あははははっ!」 あまりの温子の物言いに景時が笑うと、つられても笑い出す。 「や〜っぱり迷惑さんだったんだ、パパってば!感謝されちゃったね」 景時の背を叩いて笑い続ける。 「・・・う〜ん。床が抜けないうちに間に合ったという意味ではそうかな〜?でもなぁ〜」 首を捻りつつ、景時も蔵書の量を思い出して青くなる。 「捨てると怒られちゃうし。少しでも減るなら嬉しいわ。ゆっくり探して?それとも、泊まって 行く?おじいちゃんはお篭り中だから、呼んでも出てくるかわからないけれど。夕飯は食べていけ るわよね?」 どうにか長く滞在してもらえないかと、温子は思いつくことをそのまま述べる。 「え〜っと・・・明日には鎌倉へ戻らなきゃならないかもしれないので。夕飯はご馳走になります」 京都で最後の夜はと過ごしたい景時としては、申し訳ないがさりげなく宿泊を断った。 「・・・そうなんだ。もしかして、パパが?」 初めて聞かされたが景時を見上げる。 「いや・・・どちらかといえば・・・さっき寄ったトコの方かな。色々調べたいことがあるんだ」 「ふ〜ん。そっか。じゃあ!美味しい夕ご飯をお祖母ちゃんと用意するから食べてね!」 温子と台所の方へが姿を消したのを確認してから、雅幸の部屋へと入る景時。 「・・・・・・多いし。読まなくても、必要なのだけ適当に集めるか」 背表紙等で辺りをつけて眺めていると、近くにあるダンボールの束が目に入る。 まるで分かっていたかの様に用意がされていたのだ。 「・・・何だかほんとに行動を読まれているよな〜」 送り状もしっかりと用意されており、雅幸が年末帰った後にこちらへ準備しておいてくれたの だろうとわかる。 今回、帰る前に必ず景時が寄るだろうと確信していなければ、ここまではしない。 (・・・あはは。参っちゃうな〜〜〜。オレってわかりやすい性格とか?) とにもかくにも、行動あるのみ。 「はじめますか!」 腕まくりをして、本の選別を始めた。 一方のは、昔ながらの台所で大はしゃぎ。 梶原邸の台所の気配が残っているのだ。天井が高く、広いテーブルがある台所。 テーブルで食材を切ったり準備をするという、田舎ならではの風景。 「ちゃんは、お料理得意なのね?」 くるくるとよく動くに温子が声をかける。 「え〜っと・・・景時さんのために・・・なんだ。最初は大嫌いだったの。でもね、譲くんが皆の ご飯を作った時に、景時さんが美味しいって言ってたの。でね、私も上手になったら言ってもらえる のかなって思って・・・練習して・・・だから・・・まだ得意じゃなくて・・・・・・」 真っ赤になって一生懸命に説明するが可愛らしくて、つい微笑んでしまう。 「そうね。そういう理由なら、とっても頑張れそうね。煮物ばかりでいいの?」 が温子に頼んだのは、とにかく京風のあまりしつこくない料理。 「うん。出来るだけ身体に良くて、あっさりしてるのにしたいの。普段はね、パスタとかそういう日も あるから、交互だとあきないし、バランスがいいかなって」 「だったら、若い人の食べ物をひとつ教えてもらおうかしら。おじいさんたら、飽きたっていうのよ?」 が食材を眺めながらしばし思案する。 「バター使っても平気ですか?お魚あるからムニエルとか・・・・・・」 ここにある食材では、突然ハンバーグというのも無理である。 のレパートリーにも限りがあるので、間をとると魚のメニューを思いつく。 「あら、豪華!ホテルのお食事みたいね?」 「おばあちゃんも作れちゃう?」 首をゆっくりと横に振る温子。 「そういうのは、食べなくなったら作り方を忘れてしまったわ。それに、ちゃんが作ったなら、誰か さんも部屋から飛び出してくるかもしれないわね」 笑いながら、成範の部屋の方を向く温子。つられても同じ方向を見た。 「・・・煙で燻りだしにならないように注意しなきゃ!」 「まあ!ちゃんたら」 そのままのんびりと台所で食事の支度を続けた。 「景時さんっ!入りますよ〜?」 外で一度声をかけてから、雅幸の部屋へ入る。 そこには、すっかり片付いた本箱と、重ねられたダンボールがあるだけだった。 「・・・景時さん?ええっ?!消えちゃった・・・・・・」 ダンボールの山をかき分けて部屋の奥へ進むと、転がってせっせと送り状を記入している景時を見つける。 「景時さんっ!もぉ〜〜〜、返事くらいして下さいっ!」 寝そべって書きものをしている景時に、十字になる形で重なる。 「あ・・・ごめんね〜?もう何枚書けたかな・・・・・・」 箱詰めしたまではよかったのだが、送り状を書かねば発送は出来ない。 せっせと住所を書いていたのだ。 書き溜めた束を数え始める景時。 「そういうのは私だって出来るんですから、言って下さい!手伝いますよ?」 景時の隣へ移動して転がる。 けれど、もうほとんど書き終わっていたらしく、景時の手元には大量の記入済みの送り状があった。 「え〜っとね、あとは箱に貼るだけかな?・・・ちゃん、美味しい匂いがする〜〜〜」 鼻を鳴らしながらの髪に顔を埋める景時。 かれこれ三時間は作業をしていたのだ。 時間にして夕方の六時。外は真っ暗、寒さすら感じる。 「私は美味しくないですっ。すっかりご飯の用意も出来ちゃったし。お祖母ちゃんと景時さんが出てこないねって。 さっき来た時は、ものすごい音がしていたから、邪魔かなって思って、声をかけなかったの」 景時の髪を撫でると、が先に正座した。 「あ〜っと・・・・・・何してたんだろ?最初に箱を作って、後は手当たり次第に詰めちゃってたしなぁ?」 すっかり時間の感覚が無くなっているらしく、景時もの正面に胡坐で座りつつ首を捻っている。 「そんな事より!これ!貼らなきゃですよ?横にずぅ〜っと貼ればいい?」 本棚の前に詰れている箱の山を指差す。 「そ!そのつもりで、二重には積まなかったんだよね。じゃ〜、お願いしちゃおうかなっ」 「はいっ!そうしたら夕ご飯ですからね」 高い場所の箱は景時が、低い方はがと、何も言わなくても自然と分担をして作業を終わらせた。 「これはちゃんが作ったのか〜」 お篭り中だったハズの成範までもが顔を並べる家の実家。 「・・・おじいさんったら。ちゃんがって言った途端に飛び出してきて・・・・・・」 常の成範ならば、温子の言葉など耳に入らない。 都合よく“”という単語にだけ反応を示すらしい。 「・・・煩い。景時さんは、ちゃんの料理が毎日食べられるなんて羨ましい・・・・・・」 食卓に並ぶおかずを眺めながら呟く成範。 (・・・・・・どこかで聞いた様な話の展開だなぁ・・・・・・) 有川家でが小さい頃の大騒ぎの話を聞かされていた景時としては、実に返事に困る。 「え〜っとね、それは私が景時さんのお嫁さんだから普通なんだよ?これからは、遊びに来た時におばあちゃんに 教わりながら作りますね?」 「ほんとうかい?」 成範が若者のように首を素早く持ち上げると、満面の笑みを見せる。 わかりやすいというよりも、わかりすぎな機嫌のよさに苦笑している温子。 「・・・まったく。そんなにちゃんに無理を言うものではないわよ?こんな遠くに何度もこられるわけが無い でしょうに・・・・・・」 温子とて、人が尋ねてくれるのは嬉しいのだ。 まして、可愛い孫ともなれば大歓迎である。 「ふんっ」 険悪になりそうな空気になりかかった時、 「あの・・・またお父さんのお部屋のもので欲しいモノがあったら伺いたいですし。それに、ちゃんと京都の 桜が観たいねって約束したので。ね?」 隣に座るをみれば、大きく頷く。 「そぉ〜なの。あのね、どうしても桜見たいの。墨染の桜を景時さんと。だから・・・春休みに来られたらなって」 成範と温子の表情が輝きだす。 「そうか、そうか。あの桜はここでしか観られないからね。それがいい」 「ええ。美味しいものを用意して待っているから、よってちょうだい。家からは近いのよ?」 京都の話をしたり、雅幸の話をこっそり聞きだしたりと、楽しい時を過ごした。 「えっと・・・それじゃ。明日ダンボール、お願いいたします」 「ええ。あのお部屋に案内するだけでいいのよね」 ダンボールを運び出す手配まで済ませた景時。 送り状があるからには、書いてある電話番号に電話をすればいいだけだ。雅幸が用意した業者ならば安心である。 勝手に取りに来て、鎌倉へ届けてくれる手筈になっている。 「それじゃ、気をつけて。春を楽しみにしてるよ」 「はい。またね、おじいちゃん、おばあちゃん」 タクシーの窓が閉められ、走り出す。 が振り返ると、成範と温子がまだ手を振っていた。 「なんだか寂しいな・・・・・・」 「うん・・・・・・明日、帰りたくない?」 思ったより街灯も少なく、もう少し市街地へ行かないと明かりは望めそうも無い。 「違うの。帰り道が暗いのって寂しいなって。それに・・・私にもおじいちゃんとおばあちゃんがいたんだし。 もっとたくさんお話したかったなぁ」 今までまるで接点がなかったのだ。 それなりに事情があったとはいえ、十年もだけ京都での付き合いを断絶していた様なものだ。 「京都に・・・住めたらいいね」 「うん。でもね、鎌倉にもいたいんだ・・・・・・我侭かな?」 景時がの頭に手をやり、そろりと自分の肩へと寄りかからせる。 「じゃあ・・・半分半分にするとかね。そういうのも楽しいかも?居たい時に居たい場所に・・・ね」 「うん。それ、すっごくいいアイデア・・・・・・」 そのまま目を閉じた。 景時は水脈の気配を探りつつ、宿泊しているホテルまでの道程を頭に刻み込んだ。 「お部屋に行かないの?」 「ん?お父さんとお母さんにただいまって言わないと〜」 雅幸たちが泊まっている部屋の前に立つと、気配でわかったのか花奈がドアを開けた。 「お帰りなさい。寒かったでしょう?鳥羽のお母様から電話を頂いたの。夕飯を食べたって」 招き入れられるままに入れば、お茶の用意が整っていた。 「お帰り。が夕飯を作ったんだって?」 「違うよ。おばあちゃんにお料理を教わりながら作ったの。楽しかった〜。台所が広くってね」 ソファーに座ると、すぐにお菓子に手を伸ばす。 景時は後からの隣へ座った。 「すまなかったね。それで?荷物は用意出来たかい?」 「はい。色々とありがとうございました。後は明日、業者の人がまとめて送ってくれるので」 花奈に出されたコーヒーを受け取りつつ、返事をする景時。 カップが温かいのが有り難い。 「パパも手伝いにくればよかったのに。景時さんがダンボールに埋もれてたんだよ〜」 食べ終えたお菓子の袋をテーブルに置くと、座り直す。 「でね、私たち、荷物が明後日には着いちゃうから、明日帰りたいの。パパたちは帰りどうするの?」 雅幸たちも帰ることを知らないが、ちゃっかり帰りの切符を頼もうとしているのが可笑しい。 けれど、笑うわけにはいかない景時は、腹に力を入れる。 「それなんだけど・・・明日帰ろうかって話をしていたんだよ。それで、まだたちには聞いていなかった んだけどね、これ」 雅幸がの手渡したのは、明日の日付の帰りの切符である。 「うわ!偶然。パパは仕事?」 「そうなんだ。それに、雪が降りそうだから、新幹線が止まったら面倒だからね」 新聞の天気予報の欄を開いてみせると、が手にとって確認する。 「ほんとだ!混んでるのも嫌だし。止まったらもっと疲れて嫌だし。早目がいいよねっ。・・・宿題あるし」 最後は小さめに言ったのだが、雅幸の耳が動く。 「休み明けはテストだったんじゃないのかい?」 「いいのっ!後半に頑張ればなんとかなるの。まだ休みはあるんだし。じゃ、明日はお昼に駅なんだね」 帰りのチケットを景時に預ける。自分で管理するつもりは無いらしい。 「・・・ったら。お昼は何がいいの?出かけるなら、先に買って待ってるわよ?」 花奈がの様子に溜息をつきながらも、明日で最後なのだからと気遣いをみせる。 「うん。何か適当に買っておいて。景時さんと行っておきたい場所があるから。直接駅に行くから、新幹線の 中で会えるよ」 「あら、あら。ごめんなさいね、景時さん」 花奈が手を伸ばしての額を軽く叩く。 「いいえ。そんな事はなくて・・・次はちゃんが春休みにならないと来られないですし」 雅幸が景時に視線を合わせる。 「・・・こちらは面倒が多そうだよ?」 珍しく雅幸の方から藤原家の人々について触れた。 「ええ。その件は別にどうでもいいんです。今となっては・・・・・・」 実際問題、の力の制御の方が大切だ。 「それは、それは。頼もしいね」 雅幸の口元が緩む。 「そうなんです。オレ、よく考えたら、ちゃんに拒否されること以外には怖いことないんだなぁって」 数度目を瞬かせる。 「拒否なんて無いよ!だって・・・景時さんといたくて、でも、こっちに帰りたくって我侭いったの私だもん」 景時の腕を取ると、しがみ付く。 「あははは!はもう、我侭を言い尽くしたらしいね。それならいいかな」 「まだまだあるもんっ。まだ正式にお嫁さんじゃないしぃ〜」 が景時を見上げると、景時は窓の方を向いて誤魔化した。 「別に、構わないよ。そんなに気になるなら籍だけ入れなさい」 小さな欠伸をすると、雅幸がコーヒーを口に含む。 「へ?籍をって・・・・・・」 またもが目を瞬かせる。 「ああ。別に。の我侭なのだろう?好きにしなさい。さ、帰る荷造りもあるだろうし、少しは宿題もする んだね?」 「・・・むぅぅぅぅぅ。いいよ、パパなんてさ。行こう、景時さん」 からかわれたと思って唇を尖らせたが景時の手を引いて立ち上がる。 「それじゃ・・・明日・・・・・・おやすみなさい」 に手を引かれながらも振り返って景時が頭を下げた。 雅幸が軽く手を上げて応え、花奈は手を振って二人を見送った。 「もう、もう、もう!パパったら、いかにも私がおばかさんで我侭みたいにぃぃぃ」 勢いに任せながら部屋の前に着くが、カードキーを出したのは景時。 扉を開けたのも景時で、はドアが開くと部屋の中へ突き進むとソファーへ音を立てて座る。 戸締りを確認した景時が、少し遅れての隣に座る。 「心配されて・・・だよ。それに、我侭の件は、オレの我侭でもあるから。オレだってちゃんとね・・・ そのぅ・・・正式に認められたいわけで・・・・・・」 切実な願いである。 にも伝わったらしく、景時の膝に転がった。 「・・・ごめんなさい、景時さん。私が子供だから」 「ちっ、違うんだ!オレがね、まだ何も出来なくて、知らなくて。だけど、気持ちは負けないから」 の額を撫でれば、髪の感触が指先に伝わる。 「オレの・・・大切な人・・・・・・だからね」 「うん」 額から熱が景時に知られてしまいそうだ。 (・・・赤い。間違いなく赤いよぅ・・・景時さんって、無意識で言うんだもの・・・・・・) それでも景時の手は気持ちがいい。 動かないで撫でられることにした。 知ってか、知らずか、景時は視線を窓の外へと移す。 (ここ・・・だからお父さんがここにしたのかな・・・・・・) 陰陽術に心得が無くとも、あの雅幸の事だ。 幼い頃のの体調が悪くならなかったか、陰陽道を多少調べてから宿泊地をここにしたかだろう。 (まあ・・・両方だろうね。いきなり陰陽道っていうのもね・・・・・・) 雪が降りそうで降らない空は、水分を多量に含んでいる。 (水・・・・・・調べないとね) 「ちゃん。今夜が京都、最後だね?」 もったいぶって、かなり遠回しに謎かけをする景時。 「そうですね。・・・もう少し眺めたかったなぁ・・・・・・ここの風景」 どの風景を思い浮かべているのか、が目蓋を閉じる。 「うん・・・ところで、明日行きたいトコって?」 明日の予定は、景時もまだ聞かされていない。 「あのね・・・ガイドブック見てて思い出したの。東寺行きませんか?」 「東寺?あ・・・そうか。東寺か・・・・・・」 東寺は場所にして京都駅の西になってしまっているが、昔はその名の通り、大内裏の東に位置していた。 二人でよく市の日に散歩をした場所である。 「うん。なんとなく・・・ですけど。それとね、お土産を買いたいの。仲良しの友達に」 が思い浮かべたのは、いつもお弁当を一緒に食べる女の子二人なのだが─── 「それって・・・女の子?」 景時が涙目になりかかっている。 「・・・景時さん。また一人で先にヘンなコト想像しちゃってるでしょ?今度紹介しますね。くるみちゃんと 遥ちゃん。仲良しなんですよ」 いなにも女の子の名前に景時が安堵の溜息を吐く。 「よ、よかったぁ・・・・・・。ほら、将臣君だって友達だもんね?男の子かな〜とか・・・・・・」 景時の手は、いつの間にかの頬へと移動している。 「う〜ん。クラス自体仲がイイから、いないわけじゃないですけど。お土産買うほどじゃないなぁ。今回は、 将臣くんも譲くんも京都にきてるし。他に買う人いないですよ?」 首を動かして、が景時の手に頬ずりする。 「ちゃん・・・お風呂、入ろうか?」 珍しく照れずに景時からを誘う。 「・・・うん。私も思ったの。次に来るのは春ですもんね」 「そうと決まれば!お風呂にお湯が溜まるまでに帰り支度しておかないとね!」 を抱えて立ち上がり、軽く口づけるとを降ろす景時。 「それでは!お風呂準備担当だね、オレ」 に敬礼をすると、バスルームへ駆け出す景時。 「景時さんたら・・・そんなに帰り支度ないよ?大きな荷物を送るだけだし」 明後日に荷物が着いたら、二人で洗濯が出来るなと考えながらが寝室へ向かう。 (明日は・・・晴れるといいなぁ・・・・・・) 何となく帰ったら屋上で景時と過ごしたいと思う。 「・・・その前に宿題がぁ・・・・・・」 「宿題かぁ〜。頑張らないとね?」 「ひゃっ!」 いつの間にかの背後に景時が立っている。 「ん?宿題。テスト〜っていうんだっけ?あるんでしょ。オレも本を読むくらいしかする事ないから。二人で リビングにいようよ。でさ、オレが出来そうなのなら手伝うし」 部屋は別々にあるのに、わざわざリビングでと場所指定された。 「景時さんたら・・・本を読んでる時は、返事もしてくれなくなっちゃうくせにぃ」 何か発明のネタが思い浮かぶと、本に夢中になってしまうのだ。 「あ・・・あ〜〜〜、信用ないな、オレ。確かにそうだよねぇ・・・・・・」 音が聞えそうなほど項垂れた。 「・・・嘘です。いいの、隣にいるんだなってだけで。明日の朝、送れるようにしておきますね」 「オレもする〜」 明日の着替えと必要な荷物だけをより分けて、他は旅行バッグへと詰め込む。 手早くしているつもりだが、そこそこ時間がかかってしまった。 「あ!お風呂。もういいかもね。・・・一緒に入ろうね?待ってるから」 小走りで部屋を出て行く景時。 が返事をする暇はなかった。 「・・・入るけど・・・ただのお湯だったらどうしよぉ!」 入浴剤が入っていないのは、何となく気恥ずかしいのだ。 慌てても景時を追いかけた。 「薔薇のお風呂は〜〜〜楽しいなぁ〜〜〜」 歌のようで歌ではない節をつけながら、バスタイムを満喫中の景時。 の項を眺める姿勢は大変密着度が高くて楽しい。 右手を湯船から出すと、の目の前で人差し指を立てた。 「ね、ちゃん。ちょっぴり陰陽術してみない?たぶんね、ちゃんもできるよ。お守り効果で」 「ほんとですか?何?」 振り返るに軽く口づけると、視線で指先を見るように促す。 「オレの指先を見ててね〜〜〜」 指先にゴルフボール位の水球が出来る。 「わ・・・・・・シャボン玉みたいだけど、お水ですよね?」 球体の中で液体が動くのだ。 「そう。正しくは水の気・・・かな?ここって晴明公のお邸があった辺りでね。気も安定してるし、あの お守りもあるし。何より、お風呂だから水気は十分だしね。ちゃんも、指先にこう・・・気を集める感じで 集中してみて?」 「はい!」 も湯船から手を出すと、大きく深呼吸をしてから指先を睨みつける。 集中すればよいのだから、睨むのは少々違う気がするが、そう時を待つ事無く、ピンクの水球が出来上がる。 「わ・・・出来ちゃったかも・・・・・・あはは!くるくる回ってますね?」 出来るとは思っていたが、色つきとは考えていなかった景時が笑い出す。 「さすがだね。具現化はお手の物だよね〜。それにしても、桃色って・・・・・・あははは、可愛いね」 「ええっ?!だって、お風呂の水、ピンクだもん。お水使うんですよね?」 景時の指が、の水球に触れると少し大きさを増す。 「たとえであってさ、本当にこのお湯を使うんじゃないし。水の気だからね」 「あっ!・・・あれ?そういえば、景時さんのは透明だった〜。どうして私のピンクなの?」 具現化している本人が一番理解していないところがらしい。 「ちゃんの力はさ、ちゃんが考えている事に一番影響を受けるんだよね。つまり・・・・・・」 今度は景時が指を離す。の水球は再び元の大きさに戻ってしまった。 「・・・やだぁ・・・私って勘違いだよぅ・・・・・・」 の動揺が指先に伝わり、桃色の水球は小さな音を立てて弾け飛んだ。 「でもさ、出来たよね。一回で出来ちゃうなんて、スゴイよね〜。これからも時々お風呂で練習しようね」 「は〜い。もっと大きいのが作れるといいんですよね?」 「そうなるかな。まずは安全な水からってね。いきなり火は危ないしね〜」 の承諾の返事は、今後、かなりの確率で景時と一緒に風呂に入るという意味にもなる。 あえてその辺りには触れずに、今度は四角の水の形を作って見せたりと、の興味を惹きつけて楽しんだ。 旅の終わりの夜が静かに更けてゆく─── |
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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→現代へ
あとがき:色々なこと、つめすぎちゃった感がありますが(汗)この後のために必要って事で! (2006.06.24サイト掲載)