初年越し 景時の携帯が鳴る。 「あ・・・景時さんの方だ!」 手を伸ばして、テーブルの上の景時の携帯へを景時へと手渡す。 「ありがと。・・・もしもし?」 相手は将臣だった。 「そ〜。そうだよ。でね、平安神宮の方に露店?があるらしくてさ」 も携帯へと耳を寄せる。 景時と、とても近い距離。その上、微かに零れる将臣の声も拾える。 が口を動かして景時に意思を伝える。 待ち合わせなら、ガイドブックでみたあの場所がいいと決めていた。 『ト・リ・イ・ノ・マ・エ』 「あ〜っと。待ち合わせは鳥居の前でいいかな?」 の唇の動きを読んだ景時は、そのまま待ち合わせの場所を告げる。 「うん。だね。オレたちは着物だから、すぐに見つかると思うよ?じゃ、後で」 携帯を耳から離すと、と額を寄せ合う。 「・・・相当退屈してるみたいだね?」 「将臣くんだけ・・・だと思うけどなぁ。譲くんは、おば様からお料理係任命されてると思うし」 幼い頃より美味しいものを食べている譲の舌は肥えている。 そこに探究心旺盛な性格が加わるのだから、料理は面白くて仕方なかったのだろう。 遊びのつもりが、本気で料理を作るようになっていた。 「かな?・・・うん。そんな感じだったけれど。譲くんも、お料理あきたみたいだよ」 将臣の口調は、とにかく家を出たがっていた。 譲とは話をしていないが、将臣は手伝わされるのが嫌だと言っていたので、そろそろ限界なのだろう。 「しまった!譲くんのご飯に招待してもらう手もあった〜〜〜」 もそれなりに料理の練習をしているが、譲のレシピ数とは勝負にならない。 「そうか〜。でもさ、それは鎌倉でも出来るよ?招待して作ってもらうとか」 「うふふ。家に来てもらうのに、作ってもらうの変ですよ?」 招待する人に作らせるという案なのだ。普通は持て成すものだろう。 「大丈夫!将臣君も譲君もさ、お客様っていうより・・・・・・」 景時がを膝から下ろして立たせた。 「・・・いうより?」 景時を見上げながら、が鸚鵡返しをする。 「もしも家にいても、普通だよなぁ。一緒に旅したり、その・・・向こうでも家にいたでしょ?だからさ、 つい、いるつもりで呼びそうになりそうだな〜」 指で頬の辺りを掻く仕種をする景時。 と暮らし始めたものの、まだ日が浅い。 新しいものに追われている内はいいが、気が抜けたら仕出かしそうだ。 「そうですよね。いつも皆いたし。そうしよう!譲くんと一緒にご飯作って、レシピを盗んじゃおっと」 手に羽織を持ちながら、が出かける支度にとりかかる。 の後姿を見つめる景時。 (───大丈夫。皆が応援してくれてる) 将臣が退屈なのは真実だと思う。けれど、わざわざ出てきてくれるのだ。 譲にしても、何かを感じているのだろう。 (確かにさ・・・藤原さんのトコじゃ、一部の人にいい顔されなかったけど) それでも、行成や紫子、純忠のように認めてくれた人もいる。 懐かしい面影が残る街で、新しい年を迎えるのも運命だという気がしていた。 「よう!」 いつもと変わらない格好の将臣と譲が、人混みを少し離れたところで立って待っていた。 「お待たせ〜〜〜。すごい人だね!しかも、この辺りだけ明るいね」 初詣の客を見込んだ露店が、道路の両脇を埋め尽くしているのだ。 平安神宮でもライトアップをしているので、付近だけがとくに明るい。 「だな〜。でもさ、道ひとつ変わると暗いんだ。な!」 将臣が振り返ると、譲が頷く。 「ふうん?でも、わくわくするね!こう・・・今日の続きなのに、新年の時は日付の境目が気になるよね」 景時と手を繋いだままのは、周囲を見回している。 「ちゃんが気になるのは、向こうのお店じゃないの?」 しっかりとの視線の先にある露店に気づいている景時が、目線の先を指差す。 「だって〜〜〜!西の方が美味しいかもだよ?たこ焼き〜とか、お好み焼きぃ〜とか。大阪焼きってあるし」 夕食は既に済んでいる。言い出し難くくて見ていたのに、景時に指摘されての頬が紅く染まった。 「・・・着物だろ?は今日くらい大人しくしてろ。譲!買って来い。皆で食おうぜ」 将臣が譲の肩を叩く。 「あっ!オレが・・・・・・」 「いいって。景時の奢りだし?」 しっかりと手を出す将臣。景時は笑いながら財布を取り出した。 「え〜っと・・・お願いしてもいいかな?足りるかな〜」 「すみません。これ、多いくらいですよ?ひとつを二人で分けるくらいでいいですよね」 先に将臣と決めてあったのだろう。文句も言わずに譲が店へ行きかけた、その時、 「待って!あのね、あれも食べたい!チョコがいい!」 が空かさず指差した先は、クレープの文字。 「・・・先輩。他には?言うなら今ですよ」 眼鏡を軽くかけ直す譲。弟分としては、姉の意向に従わなくてはならない。 「飲み物!酒は無理だよな、買うのが譲じゃ。飲めればなんでもいいさ」 将臣がついでとばかりに追加注文する。 「はぁ〜〜〜。兄さん、ここでは未成年なんですから。自覚してください」 譲が将臣を睨む。 「へ〜、へ〜。悪うごさんした!・・・先に広場へ行ってるからな」 「まだ時間は早いから大丈夫。買ったらすぐに行くから」 息が白くなり始めているが、新年への期待感が寒さを半減させてくれるようなそんな時間。 譲だけを露店へ向かわせて、三人は平安神宮の敷地へと足を向けた。 「太鼓の音がする?」 「銅鑼じゃねえの?太鼓は音が違うだろ」 を真ん中に三人で歩く。 一見すると将臣とがカップルの様なのだが、着物を着ているのは景時と。 手を繋いでいるのも景時と。明らかに余分が一名の組み合わせだ。 「そうだね〜、あの音は銅鑼かな。それに・・・ここは四神を祀っているんだね」 「えっ?!いるの?四神さんたち」 景時を凝視する。 「ん〜?本当に四神はいないけれど。よろしくねって四神を祀っているし、実際に気脈も整っているよ」 庭の白虎楼を指差す景時。 「うわわ!ホントだ〜」 「だな〜。案内板みると、全部それらしき名前ついてるし。しかも・・・あれ。売ってるし?」 応天門の脇では、四神のストラップまで販売している。 「う〜ん。神様が売られてる」 景時の言葉で笑い出したところへ、タイミングよく譲が戻ってきた。 「・・・どうしたんですか?三人で笑って」 最初にへクレープを手渡す譲。 「景時がさ、あれ見て、『神様が売られてる』なんていうから、つい・・・な。俺たちの世界じゃなんでも 商売にしちまうもんな〜。返ってああいうのがお守り代わりとか思ってるくらいだよな?」 譲も、いま自分が通り過ぎてきた場所を振り返る。 そこには、見覚えのある神獣が売り物になっていた。 「・・・まあ、案外可愛く出来ますから。四神も許してくれるんじゃないですか?はい、景時さん」 真面目な譲らしく、全員暖かいお茶かコーヒーになった。 「まぁ〜だ、十一時過ぎたくらいだよ〜。あんなに並ぶの嫌だなぁ」 千葉のレジャーランドのように、人々が参拝するべく並びだした。 ただし、まだ新年を迎えていない。並ぶだけで、参拝は出来ないようだった。 「つかさ、この後八坂神社へも行くんだろ?ここから歩きか?」 将臣が景時の方を向く。 「うん。歩けない距離ではないんだよね。まあ、様子を見ながらかな。ちゃんが風邪引いたら困るし」 「大丈夫だよ〜。ほら、羽織も着たし」 がくるりと回って見せた。 「景時は寒くねぇの?」 景時の羽織は、が持っている。将臣と譲は厚手のコートを着ている。 どう考えても景時だけが薄着なのだ。 「あ〜、向こうの世界に比べたら暖かいよ?爪先が痺れるほど寒いわけじゃないし」 「だよな〜。寒さに関しちゃマシだな。けど、夏は厳しいぜ?」 将臣が景時を脅かすと、が将臣の背を叩く。 「将臣くんの方がへばるだけだよ〜だ。景時さんは、熊野でも平気だったんだから」 「そうですよ。兄さんはそうやって景時さんが知らないと思って。ここより、向こうで並んだ方が人の中で 暖かいかもしれないですし。そろそろ行きませんか?」 譲の提案に誰もが頷く。 「そうだな。の腹も落ち着いたようだし?」 「べ〜だ!景時さん、行こう!」 が景時の手を引いて、列の最後尾に並ぶ。その後ろに将臣と譲が並んだ。 「そういえばさ、将臣君は何が退屈だったの?今すぐ家を出たいって言ってたよね?」 景時が振り返ると、将臣が首を傾げた。 「何?そんな事言ったか?・・・ああ!言ったな。そう、そう」 携帯を取り出すと、と景時をカメラで撮る。 すぐにそれを紫子へメールで送った。 「これで、ヨシッ!、わりいけど母さんに電話してくれ。気にしててグチグチ煩くて、大変だったぜ」 将臣が携帯で発信をプッシュして渡す。 が受け取った時には、コール音が鳴っていた。 「あ、こんばんは!将臣くんは隣にいますよ?あはは。そうですよね、これ、将臣くんの携帯だし」 の様子から、紫子は将臣からだと思って電話に出たに違いない。 将臣のささやかな仕返し振りがおかしくて、景時が下を向いて笑う。 「んだよ、笑いやがって。大変だったんだぜ〜?景時がもう家へ遊びに来てくれないとか。が口を聞いて くれなかったらとか。な〜、譲」 「僕は殆ど料理してたから、あまり相手をしなかったけれど。あの母さんがオロオロ、ウロウロしているのは 珍しいなとは思いましたよ。・・・料理をつまみ食いする余裕はあったようですけど」 二人の話がおかしくて、益々景時が笑う。 景時と背中合わせで、は気にしていないとせっせと紫子と話をしているようだ。 「どちらかといえばさ、オレの事、ちゃんの事を本当に考えてくれてたんだな〜って再認識したんだけど。 すぐに連絡をしなかったのは、悪かったね。気づかなくてごめんね〜〜〜」 景時は将臣と譲に向かって言ったのだが、がしっかり景時へ携帯を向けていたらしい。 「ね〜?景時さんも、ちっとも気にしてないですよ!」 「ちゃん?!」 これには景時の方が驚かされた。紫子に景時の言葉は聞かれてしまっただろう。 けれど、また背中を合わせて電話を続けるに意見は出来ない。 「参っちゃったなぁ〜〜。言うならきちんと言いたかったよ〜〜〜」 頭を掻きながら景時が漏らすと、譲が首を振る。 「態々言われるより、真実味があってよかったんじゃないですか?母さん、今頃飛び跳ねてますよ」 景時が首を傾げる。 「そうかな〜?え〜?挨拶したいな〜〜〜〜」 「じゃ、景時はこっちにすれば?実はさ、親父が二人の助けに行って来いって。を京都で一人にするなとさ」 将臣は譲の携帯を奪うと、行成の番号を押してから携帯を景時へ手渡す。 「うわわわ!まだ心の準備が!!!」 慌てて携帯を手に取ると、コール音が止まる。 「も、もしもし?景時です・・・・・・」 「・・・お人よしだよな〜、景時も。あれだけ言われてて、これだもんな?」 将臣が電話中の景時を指差す。 「兄さん!人を指差したら失礼だろ!・・・まあ、確かに心が広いよな。しかも、俺たちにも今まで通りだし」 藤原の一族に連なるもの、すべてを嫌悪しても仕方ないと思う。 けれど、景時ももそうはならなかった。 「はい!年が明けたら・・・それでは。よいお年をお迎え下さい。はい、替わります」 景時が将臣へ携帯を向ける。 「はい。替わって、替わって〜〜〜」 「お?俺か?」 将臣が手に取り、携帯電話を耳へ当てる。行成の用件は至って簡単なものだった。 『お前達、邪魔にしかならんな?適当なところで戻って来い』 「・・・意味わかんねぇ。親父、勝手に切ってるし」 譲へ電話を投げる。 「いつもの事でしょう。父さんも、雅幸おじさんに並ぶくらい隠し事が上手くて、わからない事だらけだし」 ポケットへ携帯電話を入れながら、譲が肩を竦めた。 「ま、違いないな。つか、母さんは長すぎだな。強制終了だ」 将臣がが持っている携帯電話へ手を伸ばす。 「あっ!な、何?」 「いいから!」 さっさと奪うと、話もせずに電源を切ってしまった。 「もそこまで母さんに付き合わなくていいって。せっかく景時と年越しなんだしな」 が振り返って見上げれば、黙って笑顔で立っている景時。 「むきゅっ。だって、これからもお世話になるんだし。きちんとしなきゃだもんね?それに、今は行成おじ様と お話してたのにぃ。よいお年をって挨拶出来なかったよぅ」 景時の腕にもたれながら、の頬が膨らんだ。 「大丈夫。さっきオレが行成さんと話したから。それに、将臣君が犯人ってわかったと思うよ〜〜〜」 が将臣を見ると、将臣は夜空へと視線を反らす。 「んお?星がきれいだぜ〜」 「わざとらしいよ、将臣くん。でも、いいや。おじ様たちのトコへは、年明けに挨拶に行くもん」 景時も賛成と頷く。 「えっ?!来るのか?帰れないぞ〜〜〜、母さんがしゃべって。譲の料理は食べられるけどな」 「簡単なものしか作っていないですけどね」 が反応する。 「あ、あのね、譲くん。家に遊びに来て?一緒にお料理して、そのぅ・・・・・・」 家に招待するというのに、作ってくれというのはやはり図々しいかとが口篭る。 「家で皆でご飯を食べない?なんだかさ、いつも皆がいたでしょ?だから、つい二人の名前呼びそうだよねって、 さっき話してたんだよね〜。招待なんて大げさなものじゃなくて。いつでも来て欲しいな〜、なんて」 景時が素直に思っている事を告げると、将臣も譲も笑い出す。 「そうは言われてもなぁ?邪魔だろ」 「その・・・先輩が料理を覚えたいなら、いくらでも手伝いますけど・・・・・・」 外部へ景時との関係を公表しないとしても、事実上は新婚家庭だ。 そこへ、そう度々お邪魔するのは考えもの。将臣と譲が返事を渋る。 「うん!来て、来て!あのね、向こうの皆もそのうちに招待したいの。二人のアイデアも聞かせて?お部屋も キープしてるから、お泊りOKなんだよ?下の階のお部屋もパパが用意してくれてたの。だから!」 「あ・・・それ、ラッキー!俺、バイトしたいんだよなぁ。家にいると時間に煩くて」 将臣が指を鳴らす。 「バイトって・・・将臣君、働くの?」 景時にしてみれば、将臣が働く理由がわからない。 「そ。どうせ先は決められちまってるみたいだし。でもさ、出来れば雅幸おじさんみたいに、自分の自由も確保 出来るくらいの器になりたいよな〜〜〜。まさかそんなにいくつも会社経営してて、サラリーマンして遊んでる とは思わなかったぜ?あの人、土日とか家でのんびりしたり、家族サービスしてたしさ」 譲も首を縦に振る。実によく騙されていたものだと思う。 誰もが雅幸の奥深さに納得しつつも、いったいどういう頭の切り替えをしているのかと不思議に思う。 「パパはさ、ママ大好き人間なんだよ。なんか、自分をよく知ってるよ・・・・・・」 騙され続けていたとしては、他に言いようが無い。 けれど、ここまで自分を見守ってきてくれたのも雅幸だと思う。 「パパって、大切なモノを壊されないように必死だったのかなぁ・・・・・・」 光の中に浮かび上がる応天門を見ていた景時が、の手を強く握った。 「お父さんはさ・・・親戚に裏切られてしまったから。家族の繋がりが怖かったんだと思うよ。でもさ、お母さんが 真っ直ぐな人だったから。もう一度、信じようって思えたんだろうね」 の眉間にわずかに皺が寄る。 「ママって・・・真っ直ぐっていうか、周りを見ていないっていうか、自分中心っていうか・・・・・・」 花奈の場合、時間の進み方が違うのではと疑いたい時もある。 「ま、いいじゃん。いい家族だよな。恵まれてたよ、俺たちも・・・な」 「そうですよ。それより、列が進みだしましたよ?」 新年にはまだ早いが、人の波が動き出した。 「わわっ!ちょうど新年にお参りは無理っポイけど。ここで迎えるんだから、四神様たちも嬉しいよね!」 龍神の神子が四神を祀っている神域で年を越す。 「だね!神子様と新年を迎えるなんて、光栄だな〜」 「もぉ!これからずっとだもん。今年が初めてなだけですよ?」 景時の手を引きながらが歩き出す。 「ついでに、俺たちも一緒だしな。おっ?白虎は二人そろってるな〜。それはそれで意味アリ?」 将臣が景時と譲を交互に見る。 「ホントだ!どうしてなんだろ〜〜〜」 首を傾げる。 景時にしてみれば、西に味方が多く必要なのかと思われる事なのだ。 鎌倉からみて、西方へ位置する都に本拠地がある藤原一族。 (西の守護神なんだよなぁ・・・白虎ってさ。オレ一人じゃ役不足って事か・・・・・・) またも心が沈みかけたその時。 「わかった!白虎様は風の神様だから。ふらふらしてるんだ、きっと」 白虎が聞いたら怒りそうだが、が言うと笑い話にしかならない。 「ふらふらって・・・・・・」 譲が項垂れる。 「ふらふら・・・ねぇ?じゃ、景時もふらふらか?」 をからかう将臣。 「あ〜〜〜、ふらふらかぁ。だよねぇ、オレって軽いもんね〜」 「ちっ、違うんだから!ふらふらは白虎様で、景時さんはふらふらじゃないもん」 慌てて言い訳を始める。 「じゃあ、譲がふらふらか?」 まったくふらふらに適さない譲。 「・・・・・・あれ?どうして二人が白虎なんだろう?ちっともふらふらくないね?」 が自分の発言に自信を失くす。 「で、俺が青龍だぜ?東で水の守護か・・・・・・なんだ?この組み合わせ」 場所が場所だけに、会話が盛り上がる。 そうこう話をしている内に、周囲がカウントダウンを始めた。 「明けましておめでとう!今年もよろしくお願いします」 四人で最初に挨拶を交わす。 「・・・まだ参拝には遠いけどな」 賽銭箱は見えるが、まだお参りには遠い距離だ。 「いいのっ。景時さんと京都で新年だよ〜。嬉しいな」 待ち時間はまったく気にならないらしい。 「いいよね、新年を待ちながら迎えられるっていうのがさ」 「まぁ・・・そうだよな。安心して迎えられるっていうのは・・・な」 都落ちした平氏と行動を共にしていた時から考えれば、いつも通りののんびりとした正月を迎えられるのだ。 将臣にしても、並ぶのが退屈と言える幸せを感じずにはいられない。 「来年までに、お節を全品制覇しないと。今年は簡単なモノになってしまいましたからね!」 譲が話の流れを変える。しんみりしては、が気にしてしまう。 確かに異世界での正月は、いつ新年だったのかもわからない日々だったが、今は違うのだ。 「・・・譲の今年の目標はそれか?」 「目標は弓道の大会で優勝ですよ?俺の師匠はあの那須与一ですからね。今までのように、途中で集中が切れる様じゃ、 師匠に顔向け出来ませんから」 ここ一番に弱かった譲。団体戦は各自が一斉に的を射るだけだからよかったのだが、個人戦はそうはいかない。 相手が先に決めると、緊張してしまい的を外してばかりいた。 「そうか〜。新年の抱負というものを考えなきゃいけないね」 何も目標がなかった事に気づく景時。 「ええっ?!将臣くんは?将臣くんもあるの?私、何にもないよ?どうしよ〜。景時さん、決めなきゃね?」 も特には決めていない。 あるにはあるが、『景時の妻』というのは今年の目標にはならない。 「俺はないぜ?今まで通り。てきとー、てきとー」 「え〜?じゃあ、オレは・・・・・・いい旦那様の準備とか?待てよ、お父さんに何か言われたな」 が着付けしている間に話した事を突然思い出す。 「何?パパに嫌味言われたの?」 心配顔になる。景時は静かに首を横に振った。 「それは無い。お父さんはオレの事、全面的に信頼してくれちゃってるから。そうじゃなくて、教えるのは好きかって 聞かれたんだよね〜。何だろうね?」 その時の事を思い出しながら、結論だけを話す。 「はぁ?何だ、ソレ」 流石に将臣にも想像がつかないらしい。 「・・・何を・・・かが問題ですね」 譲は真面目に考え出す。 「パパに・・・じゃないよね?何だろう?」 三人がそろって同じ方向へ首を傾げている。 「う〜ん。見事に傾いてるね?はい、こっち、こっち〜」 手で傾いている方向と逆を示して、傾き加減を戻させる仕種をする景時。 「ま!武術じゃなければオレでも役に立つかな〜なんてね。正直、剣の腕前はちゃんに負けてるし」 「きゃ〜!そんな事言わないでっ。普通の女の子は、そんなの自慢にならないのっ」 慌てて景時の口へ手を当てる。景時の首がやや後ろへ反った。 「だよな〜。そうだ、そうだ。と喧嘩は出来ねぇな〜、景時。負けるって」 「兄さん!」 将臣が笑うのを、譲が嗜める。 「喧嘩しないもん」 「・・・勝ち負けはいいんだ。喧嘩もね、二人いないと出来ない事でしょ?だからね、してもいいし」 (大切なのは、皆が居るって、居てくれる事なんだよな───) 「景時さん?あの・・・・・・」 景時の袖を引っ張る。 「あ、ああ。ごめん、ごめん。別に喧嘩したいわけじゃないからね?」 「うん。それはわかるんだけど・・・そのぅ・・・大丈夫ですよ?ずっと一緒だよ」 「もちろん!そろそろお参り出来そうかな〜?」 蛇行しているので、目の前にあるのにたどり着けない拝殿。けれど、あとわずかの距離まで列は進んでいた。 白い布が広げられている中央の賽銭箱へ賽銭を入れられるのは一握りの人々だけだろう。 「っしゃ!投げるぞ〜、賽銭!」 「兄さん、それ違うから」 譲のツッコミにもめげずに、将臣は小銭を用意して握り締める。 「うぅ。袖が邪魔で頑張れないかもぉ」 「大丈夫。オレが持ってようか?」 こちらもお参りの準備を始めた。 すべての人に幸せが訪れますように─── |
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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→現代へ
あとがき:ようやく新年。でも、まだ新年・・・・・・(汗) (2006.01.31サイト掲載)