主導権





 部屋のチャイムを鳴らすと、花奈が景時とを迎える。
「あら・・・早かったわね」
「ただいまっ。あのね、景時さんの着付けを私がして、その後私の着付けして?」
 いきなり用件を切り出すを花奈が笑う。
「入ってからでもいいんじゃないかしら?」
「そうかも・・・・・・お茶ちょーだい」
 景時の手を引っ張り、さっさと部屋の中へ入る
 部屋では雅幸が寛いだ様子でテレビを観ていた。



「おや、おや。おかえり。景時君、大変だっただろう?」
 軽く手を上げて景時を労う。
「いっ、いいえ!そんな事は、ぜんぜん、ちっとも、まったく無くて・・・・・・」
「パパっ!パパの意地悪っ。わかってるでしょ〜〜〜!」
 雅幸の隣へ大きな音を立ててが座った。

「・・・意地悪ねぇ?何かしたかな。そうそう、行成たちとは昼を食べてきたよ。今晩は将臣君たち
と初詣なんだって?」
 さりげなく手で隣のを押しやる雅幸。
 は景時の隣へと座りなおした。
「べ〜だ。パパの意地悪には負けないですよぉ〜だ」
 景時の腕を取って寄りかかる。

「二人とも、年の瀬につまらない喧嘩はしないでちょうだいね。はい、寒かったでしょう?」
 花奈が景時との前にお茶を出す。
 続いて雅幸と自分の分をテーブルへ置いてから、雅幸の隣に座った。

「喧嘩じゃないもん。ママだって、お豆腐知ってたんでしょ?お豆腐屋さんで作ってないのとか。
年末は早く店じまいなのとか。・・・私が予約を忘れているのとか」
 湯呑みを両手で持ち、手を温めながらが雅幸と花奈を交互に見た。


「よく出来ました。まぁ・・・いつもの様に行き当たりばったりというのはよろしくないよ。
次は準備する事だね。それで?どこでお昼を食べたの?」
 雅幸が軽く眉を上げて続きを促す。
 の眉間に皺が寄り、雅幸への視線が厳しいものになった。
「あぁ、ちゃん!ほ〜ら、美味しかったからよかったよね〜〜〜」
 景時の指がの眉間を揉み解す。
 事情を知っている雅幸からの質問がお気に召さなかったのだろうの機嫌が戻るように。

「はっはっは!“菊幸亭”にでも行ったのかな?」
「ええ。京都の事は京都の人にと思いまして、オレが洋二に電話したんです」
 景時が真相を明かすと、花奈が微笑んだ。
「ほら。やっぱり景時さんは素直に電話したじゃないの。の事を一番に考えてる証拠よ」
「参ったなぁ。そうきたか・・・・・・行くところが無くなってからじゃなくてかい?」
 肩を竦めながら雅幸が景時に質問をした。
「ええ。ちゃんが予約を忘れたと気づいた時点ですぐに。なので・・・最初から・・・ですね」
 景時の隣では、が勝者の笑みを浮かべている。
「ふむ。景時君のおかげで負けてしまったようだよ?」
 景時は本来、かなり慎重派だと雅幸は考えていた。
 こちらの世界で慣れないので手順がわかっていないだけで、自ら確認する完璧主義だと。
 だからすぐに人を信用するとは思えなかった。

(・・・面白い二人だねぇ・・・本当に)
 の為ならば何でも利用するし、飛び込むだけの度胸もあるという事になる。

 今回は素直に負けを認める気持ちになれたのも、景時のおかげかもしれないと花奈の手を握りしめた。
「あら、随分素直です事。景時さん、、ママの勝ちだわ〜。ありがとう」
「は?ママの勝ちって・・・・・・何を賭けてたの?!」
 つい先程まで余裕で笑んでいたの口が開いたままになる。
「賭け・・・なのかしら。たちがお昼をどうするか賭けないかってパパが言うもんだから、つい」
 の首が項垂れた。

「・・・・・・それで〜?何を賭けたの」
 気分はよくないが、賭けの内容はそれなりに気になる。
「パパとね、手を繋いで着物で初詣!ママもね〜、たちを見ていたら羨ましくなっちゃったの」
 手を合わせて嬉しそうに花奈がへ告げた。

「手・・・ですか」
「手・・・なんだよ。まったく。いい年して恥ずかしいだろう?着物は毎年の事だから構わないんだが」
 景時が首を横に振った。
「年は・・・関係ないですよ。オレは・・・ちゃんとシワシワになっても手を繋ごうって約束したん
です。だから、年じゃないですよ」
 の手をとって繋いでみせる景時。
 雅幸が溜息を吐いた。
「我が家は私に分が悪いようだねぇ・・・・・・」
「いいじゃない。私たちがいない間は手を繋いでたんでしょ?パパって照れ屋だったんだ〜〜〜」
 空気が漏れるような、意地の悪い笑いをする
 珍しく雅幸を遣り込められそうなので、楽しくて仕方ないようだ。
「偶にはいいさ。何時にお出かけの予定だい?」
「十時くらい。あんまり早くても、寒いし退屈かなって」
 にとって初めての京都での年越しだ。
 店が早じまいしてしまう事がわかった以上、外でいられる場所の確保は難しい。

「それだと・・・新年丁度に八坂さんは難しいかな。早い時間から規制がはいるよ。平安神宮を先にすれば、
周囲は露店でいっぱいだし明るいね」
「そぉ〜なの?じゃ、そうする〜。夕飯は年越し蕎麦を軽めにしよっと」
 すっかり露店をみて回るつもりの。隣では景時が幼い頃の自分を思い出していた。


(オレは・・・行かせてもらえなかったんだよね・・・・・・)
 武家の跡取りとしての景時は、遊びが限定されていた。
 こっそり抜け出して遊んだものだが、金子ばかりは子供にはどうしようもない。
 ただ通り過ぎるだけで、何も買えなかった。
 

「景時さん?あの・・・・・・」
「ああ。ごめん、ごめん。食べ歩きしようか。楽しそうだね」
「でもね、お着物だから・・・・・・」
 景時が無理をしていないかと、着物だからしなくてもいいと言おうとしたのだが、
「そっか、着物ね!大きなハンカチ?とか用意すればいいかな?何だったら、タオル持ち歩く?」
 景時が手で示したサイズは、バスタオルサイズ。

「面白いね〜、景時君は。のお守りに慣れてるね。には涎掛けかな」
 雅幸が手で赤ちゃんが着ける涎掛けの大きさを作ってみせる。

「もぉ〜!そんなにボタボタは零さないもん。ちょこっとはねたら嫌かなとか、そういう意味なのにぃ」
 が悔しそうに手を拳にして膝を叩く。
「いいわよ。染み抜き出来なければ、それはそれだし。楽しんでらっしゃい。座る場所には困るでしょうから、
何か持っていくといいわね。それこそ手拭とか、さらっと敷けるもの」
「そっか。そうしよ。それなら袖に入れておけるもん。さすがママ!」
 景時も嫌ではないらしい事もわかり、出かける楽しみが増えた
 そのまましばし家族の団欒となった。
 




「じゃ、着物にお着替えしよっ」
 時計を見たが声を上げた。
「あまり早いと疲れてしまわない?」
「大丈夫・・・じゃないかも!景時さん、窮屈な格好苦手だもんね」
 が景時の袖を引っ張った。

「・・・向こうで着物じゃなかったの?」
 花奈が首を傾げる。
「着物だよ?でも、景時さんは重いの苦手〜って、上着がね・・・ちょっと楽な感じの服だったんだよね。
私も上は袴用の着物だったけど、下はミニスカで靴にしてたし・・・・・・」

 花奈の目が点になった。そのような組み合わせは、聞いた事がない。
 しかも、そんな変な格好をしていたのが自分の娘なのである。
?その格好でずっといたの?」
「うん。着物だと動きにくいし。あ!でもね、戦が終わってからはずっと可愛いお着物着てたよ?景時さんの
お家に居候しながら花嫁修行したんだ〜〜〜。だからね、私は着物平気!」
 話の論点が微妙にずれているのだが、雅幸は訂正するつもりは無い。
 後は花奈さえ納得すればいいと思う。

(一応は異世界という事だし・・・そう変でもなかったのかな?花奈には難しいか・・・・・・)
 幼い頃より巫女装束、着物に親しんできた花奈に許容できるか不明だ。
 雅幸としては、無事にここにいるのだからどうでもいい事だと思う。
 
「もうしてしまったものは仕方ないわね。着物は自分で着られるようになったの?」
「ちょこっとね!でも、可愛い帯は出来ないの」
 花奈は立ち上がると、軽くの頭に手をのせた。
「じゃあ。パパと景時さんは一緒に着付けをしましょう。先に準備するから」
 そのまま隣の部屋へ花奈だけ先に入った。


「・・・パパ。ママってば、もしかして怒ってる?」
 花奈がいなくなると、が雅幸に小声で尋ねる。
「どちらかといえば、驚きすぎて・・・かな?とはいえ、景時君はどういう上着だったんだい?」
 が着物にミニスカなのだ。景時の楽な上着が気になる。

「・・・・・・こちらの世界で言うところのTシャツなのかなぁ?」
 景時も絵を描くわけにもいかず、一番近いような服を想像しながら口に出す。
「ちびTだよ。で、陣羽織だったの。だけどめっちゃ格好良かったんだよ?風にパタパタ〜って」
 身を乗り出して雅幸に説明する
 いつも景時の背中を見ていた。風になびく陣羽織が安心の目印。
「まぁ・・・変わっている事だけはわかったかな?他の八葉さんたちの格好も面白そうだ」
 口へ手を当てて雅幸が静かに笑う。

「他は普通。わりかし時代劇で見る感じ。あ、ヒノエくんと先生は例外だけど。どこにも属さない服着てた」
「どこにもって・・・・・・」
 でも変と思う格好とはと、つい繰り返してしまった雅幸。
「その辺にいそうな男の子と、忍者!しかもマント付忍者!」
 複雑な表情の景時と楽しげな。雅幸がついに吹きだした。
「あっはっは!どういう集団だったんだろうね?そこにがスカートでいたんだ。楽しそうだ」
「笑うトコじゃないし。もうね、必死に戦ってたんだから!そ〜だ。剣道習おうかな?頑張ったんだ、剣術」
 景時がの腕を引く。

「する?しちゃうの?また痣とか出来ちゃうよ?せっかくキレイに治ったのに〜〜〜」
 いつも心配で見ていた。
 そして、手当てをされる姿を見たくなくて、いつも戦闘では自分の背に隠したのだ。
「・・・・・・ぷよぷよになっちゃうよ、運動しなきゃ」
 なりに悩ましいのだ。
 過去の運動量に比べると、日々怠け者のような生活をしている事に。
「そう!スポーツだね?それはイイ。でも、剣術はダメ」
 景時も引けない。の怪我はみたくない。
 剣術は打ち合いなのだ。どうしても打ち身などの怪我をしやすい。

「・・・二人で近所のスポーツクラブでも通えばいいさ。マンションの近くにあるだろう?」
 雅幸が話しに割り込む。

「えっ!?そんなトコ行ったら、景時さんがナンパされちゃう!」
 瞬時にインストラクターのお姉さんにナンパされる景時の姿が思い浮かぶ。
「二人で行けばいいだけだろう?何か問題あるのかい?温水プールもあるし、勝手に行って勝手に帰っていい
んだよ?」

 ようやくが頷いた。
「それなら・・・いいかなぁ・・・・・・景時さん一人は絶対にダメ。嫌だもん」
ちゃんが!だからねっ。絶対に一人で行かない事。オレ、ついてく」

の運動の話だったと思うけれどね?」
 またも大笑いの雅幸。そのままソファーから立ち上がる。
「二人でやってなさい。私は花奈のところへ行こう」
 雅幸も隣の部屋へ行ってしまった。



「・・・今、面白い内容ありましたっけ?」
「いや?オレには心配な話ばかりだったけど」
「私もです」
 しばし見つめ合う景時と

「あはは!何もしないうちから心配しても仕方ないね〜、オレ」
「だけど、スポーツクラブは一緒だよ?行く時は声をかけて下さいね?」
「うん。約束!」
 景時が小指を出す。に教えられた約束の仕方だ。
「約束〜〜!そろそろ着替える?大変ならもう少し後でも大丈夫だよ」
 指切りをしてから、が景時に寄りかかった。
「大丈夫。直垂みたいのじゃないでしょ?楽勝、楽勝〜〜〜」
「もぉ!ああいうのは無いの。普段お家で着てた方です!」
 二人で立ち上がり、隣の部屋のドアをノックした。





「あら〜、がそんな事が出来るようになったなんて。よかったわ〜、向こうの世界へ行ってくれて」
 無事に帰ってきたからこそ言える事ではあるが、花奈は感心したようにの手元を眺めている。
「景時さんは自分でも着られちゃうんだけど、手伝いたかったの。奥さんみたいでしょ?」
 雅幸と景時が背中合わせで立ち、花奈とがそれぞれを着付けている。

「ど〜しよ。やっぱりコッチの方がポイ〜〜〜。洋服も格好いいけど・・・落ち着くぅ〜」
 が景時の腰に腕を回した。
 景時としては、このまま抱きしめたいが両親の手前、直立不動で耐えるしかない。

「はい、はい。そういうのは後でいいから、手を動かしなさい」
 花奈は無視して雅幸の着付けを終えた。



 無事に着付けも終わり、雅幸と景時を眺める母と娘。
「・・・パパはさ、着物になるとオジサンになるよね」

 ペチリ!───

 の後頭部に軽く花奈の手が飛ぶ。
「パパのは渋いっていうのよ。はもう少し言葉を覚えた方がいいわね〜」
「ママのは勘違いだよ。景時さんはね、格好いいの。どうしてだろ〜」
 うっとりと景時を眺めるから、着物姿の景時へ視線を移す雅幸と花奈。
 景時は天井を見上げて、頬をかきながら照れを誤魔化していた。


「背も高いし・・・わからなくもないな。さて、景時君は私が借りるとしよう。向こうでお茶でも飲みな
がら待つとしようか」
「はい」
 軽く頭を下げると、雅幸の後について部屋を出て行った。



「パパってば、すっかり話し相手にしてる〜〜〜」
「いいじゃないの、仲が悪いより。とてもお気に入りみたいよ?」
「う〜ん・・・複雑。パパにとられちゃいそうだよ。じゃ、着物までは自分で着るから帯してね?」
 景時の洋服をたたみながら、は自分の着物が入った箱を引き寄せた。
「はい、はい。私が先に着替えてしまわないとね」
 花奈は慣れたもので、もう着替え始めていた。



「・・・そうだった。晴着の帯はこういう事なんだ」
「そうね〜、緩いのはみっともないわよ?羽織は着るの?」
 京都の冬は底冷えがする。念のため羽織も用意してあった。
「着たら・・・可愛さ半減だよね?」
「寒くて震えているよりいいと思うけれど?」
 腕組みで考え出す。確かに寒いのだ。けれど───

「羽織を着たら、帯を結んでもらった意味がないような?」
 首を傾げる。花奈が笑う。
「大丈夫よ。人混みを歩いたら暖かいから・・・ただ、帰りが遅くなると寒いわよ?簡単に車も拾えない
だろうし」
 が軽く手を打ち鳴らす。
「よし!持ってく。景時さんが心配しちゃったら悪いもん。すっごい私の事気にするんだよ?」
「景時さんの羽織もあるわよ?パパのだから、色目は少し地味だけど」
 花奈が箱から羽織をたたんだままへ手渡す。
「うん!景時さんの分も持たなきゃ。やせ我慢しそうだし」
 景時は、とにかく不平不満の類を飲み込む癖がある。の唯一の心配ドコロだ。

「それじゃ、お披露目ね?」
「褒めてくれるかな〜」
 軽く帯を叩きながら、隣の部屋へと移動した。





「ど・・・かな?」
 ソファーに座る景時の前で、軽く回ってみせる

 景時がようやく一度だけ瞬きをした。
「あ・・・その・・・うん。似合うよ、とっても」
 景時の家では、あまり華やかな着物は着ていなかった。
 淡い色目のピンクに、雪輪に小花といったかわいらしい模様の着物を着た
 婚儀の時の正装とは違う可愛らしさに、景時は言葉を上手く選べなかった。

「すっかり娘らしくなってしまったねぇ・・・・・・嫁に行くんだから、これくらいで普通か」
 顎に手を当ててを眺める雅幸。
「そうよね。がお嫁さんになるなんて!・・・・・・ご迷惑をおかけしそうね」
 どこか落ち着きの無いが心配な花奈。

「二人とも!ここはすっごく褒めるトコなんだってば」
 腕を振り回してが抗議する。袖があるので風が起きた。

「どうしよ・・・紐で結んじゃおうかなぁ・・・・・・将臣君たちもいるし、大丈夫かな?」
「紐?わんこみたいに?」
 犬の首輪を思い浮かべる
「迷子になったり・・・誘拐されたら困るでしょ?」
「え?・・・・・・逸れちゃったのは前科もちだから・・・自信ないけど・・・・・・」
 いくらなんでも“誘拐”は大袈裟だ。

ちゃん。逸れた時はオレが探すから動かないこと。必ず見つけるから、人がいない方へは行かない
で、できるだけ明るいトコにいてね」
 の手首を掴んで、真剣な表情でそう告げる景時。
「う、うん。呼ぶから大丈夫。景時さんって大声で呼ぶから。あの時みたいに来てくれるでしょう?」
「任せといて!絶対に君の声は聞こえるから」

「迷子札でも首からぶら下げて立っていればいいさ。そろそろお蕎麦が来る頃だね」
 雅幸が時計を見上げると、部屋のチャイムが鳴った。
「ほらね?時間通りだ」
 満足げに立ち上がり、雅幸がドアを開けると料理が運び込まれた。





「八時に夕飯って遅いよね?」
 首にタオルを巻いて、着物を汚さないよう食べるが顔を上げた。
「・・・そうは言っても、あちらこちらで何か食べたりしていただろう?そうお腹が空くとも思えないね」
 雅幸が確信をつく。
 確かに、観光にお茶は付き物。お茶にデザートは付き物である。
「・・・パパって。モテないよ、そういう言い方」
 渋い顔でが雅幸を睨む。
「付き合わされる景時君が大変だと思って。それに、私はひとり限定でモテれば問題ないんだ」
 珍しく雅幸が大欠伸をした。
「ママ限定って事?・・・飽きっぽいんだから〜、欠伸なんかして」
 退屈で欠伸をしたと思っている
 雅幸もそう思われている事を否定はしなかった。

「パパだってこうみえて働いてるのよ?疲れもするわ」
 花奈の手が雅幸の額へと伸びる。

「もしかして・・・風邪とか?薬を飲んでいるから眠いの?」
 途端に心配顔になる
「単純だね、は。風邪ではないから心配しなくていいよ。皆で初詣を楽しんでおいで」
 花奈が淹れたお茶に手を伸ばす。
「う、うん。パパたちは何時頃に行く予定なの?」
 話をはぐらかされたのが気になる。
「時間かい?決めてはいないけれど・・・・・・会う事は無いだろうから安心しなさい」
「それって何に安心?・・・えっと。あのね、京都楽しいよ?ありがと、パパ」
 今までなんとなく言いそびれていた感謝の気持ちを伝える
「おや、おや。どうした?急に」
 雅幸が軽く眉を上げた。
「だってさ・・・いろんなコト、知ってて黙っててくれて。それに・・・私を信じてくれていたでしょう?
ありがと。パパ、ママ。今年終わっちゃう前にお礼言いたかったの」
 雅幸と花奈が顔わ見合わせた。
「・・・が幸せなら。それだけで十分さ」
 花奈も静かに頷いていた。



「ど〜しようかな。お部屋に戻るね?今出たら早すぎだもん」
 部屋の時計は二十一時になったばかり。が時計から視線を景時へ移す。
「そうしようか。将臣君から電話くるかもしれないしね?」
 と手を繋ぐ。
「えっと・・・お邪魔しました。それと、来年もよろしくお願いいたします!」
 景時が雅幸と花奈へ頭を下げた。

「・・・ずっとよろしくかな?ね、
「うん!でも、これからはお家も別だから、挨拶はちゃんとしなきゃだもんね。来年もよろしくです」
 も景時に倣ってお辞儀をする。

「景時君がいると、が実にお行儀がよくなっていいもんだね?」
「そうね〜、いつの間にか・・・ね?」
「今まではコドモだったけど、今度は奥さんだから景時さんの恥になっちゃうもん!じゃ、また明日ね」
 が手を振りながら部屋を出て行く。



 景時とがいなくなり、雅幸が溜息を吐いた。
「申し訳なくもあり・・・寂しくもあり・・・嬉しくもあり・・・かな?」
「それは、景時さんに?に?」
 花奈は立ち上がると、雅幸の手を引いてソファーへ座る。

「景時君に・・・かな。は面倒な運命を持った娘だからね・・・・・・」
 花奈の隣へ腰を下ろした。
 雅幸の頭を花奈が抱き寄せる。
「少しお休みになったら?そう一人でたくさんの事をしなくても」
「ああ。当面は大丈夫・・・景時君がいてくれるし、滅多な事にはならないよ」
 花奈の膝に頭をのせて目を閉じる。
「それで?何を隠していらっしゃるの?」
「ん?わかっていたのか・・・・・・が学校へ行けばわかるよ」
「・・・どっちも、どっちねぇ?向こうはご存知?」
 雅幸の口元がわずかに緩んだ。
「さあ?何手先でも読んでみせるさ」
 花奈が笑いを漏らした。
「悪い人・・・・・・」
「困ったな。花奈には見捨てられると悲しいな。そう・・・モテないといけないんだった」
 の言葉を思い出して、使ってみる。
「そうね〜、あんまりモテないのも可哀想ですもの。私くらいは・・・ね?」
「少し休んだら・・・除夜の鐘を近くに聞きに行こう。そう大きくない寺でもしているからね」
「ええ。静かに年を越しましょう・・・・・・今年は特別でしたものね」
 が無事に戻ってきたのだ。
 雅幸と花奈は、積年の思いをすべて清めるかのように静かに過ごす予定を立てていた。





「うぅ〜。帯が大きくて椅子は厳しい」
 椅子に深く腰掛けられないが不満を漏らした。
「そ?じゃあさ、こっち、こっち!」
 一方の景時は、裾だけ気にすれば問題ないのでいつも通りだ。
 テーブルを除けると、ソファーに腰掛ける景時。
「はい!ちゃんはココ」
 景時が指差す先は、景時の膝。
「・・・・・・無理。抱っこ無理だよ」
「横なら大丈夫だよ。ね?」
 景時が手で座り方を示すと、が頷く。
「そっか!いつものは無理だけど横なら帯も邪魔しないかも」
 別に景時の上である必要もないのだが、納得させられてしまって気づかないは素直に従った。

「これなら顔も見られるし・・・ごめんね。こういう可愛い着物、用意してあげられなかった」
「えっ?だって、これってお出かけ用だもん。普段家事するのには不向きだし・・・景時さんのお家
では、何から何まで良くしてもらってましたよ?」
 が腕を持ち上げると、振袖がだらりと床へ着いた。

「ね〜?こんなに長いし。かまどで燃えちゃうよ、これじゃ」
「・・・それは怖いけどさ。こう・・・もっとお洒落したかったかなって」
 朔が出家してしまった事もあり、着物は処分してしまっていた。
 へ揃えた着物は、どちらかといえば、質素・倹約を重んじる鎌倉風のものばかり。
 京にいながら、華美な着物をどうして一枚も用意しなかったのかと悔やまれる。

「変な景時さん。毎日楽しかったもの・・・・・・。ごめんなさい、病気だけは怖くて・・・こっちへ
帰りたいって我侭言って。草をね、煎じた薬が悪いわけじゃないの。でも不安で・・・・・・」
「気にしないで。わかってる」
 を抱き寄せた。

 どんなに弁慶の薬が効くと知っていても、こちらの世界に比べれば雲泥の差だ。
 知識を得た事によって、逆にの不安の意味がよくわかる様になっていた。

「オレもこっちで長生きして。一日でも多くちゃんと楽しく暮らさなきゃな〜」
「そんな先の話して〜。でも・・・パパとママみたいになりたいな。楽しいお家にするの。あ・・・
景時さんは子供にイジワルしちゃ嫌だよ?パパみたいに」
 景時が笑い出した。
「どうかな〜、心配だとついしちゃうかも?」
「パパの味方なの?!え〜〜〜?」
 が頬に手を当てて叫ぶ。
「味方って事じゃないけどさ。心配だと、本人に自覚してほしくて。小言を通り越すとイジワルになる
かもね?」
「・・・・・・やっぱりパパの味方だぁ」
 が唇を尖らせた。
「だって、オレもパパになるんでしょ?そりゃあね?」
 先の話だが、子供を持ちたいと思っている。
 今回は無かったが、将来はと景時なりの未来図もあった。
「うん!パパだね。ど〜しよ。早いトコ産んで、朔にみせたいかも。うふふ」
 誰よりも喜んでくれそうな親友の名を口にする。

「朔にかぁ・・・・・・『父のようにならないでね』って子供に言われそうで怖いな」
 景時が視線を天井へ向ける。
「どうして〜?景時さんに似たら優しい子になるもの。そんな事、言われないよ」
「うっ。・・・だといいけど」





 来年より遠い未来の話をすると、鬼も笑わない?───






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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→現代へ

 あとがき:早く初詣に行ってって感じ(汗)お蕎麦好きv     (2006.01.08サイト掲載)




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