忘れ物





「でね?きっと源氏さんの一族なんだよ〜。よくね、テストに出るの。金と銀」
「ふ〜ん。銀ねぇ・・・・・・すごいね。足利氏・・・か・・・・・・・・・」
 銀閣寺を庭から建物まで展望できるところまで上りきった景時と
 またもの少しだけしったかぶりな知識披露。
 一見自慢のようだが、こちらの世界は違うと念押しの意味もあるようだ。

「で〜、どこが銀なのかっていうとね。あの白い砂をもりもりしてるでしょ?プリンみたいに。
あれにね、夜に月の光が当たるとキラキラするからなんだっていう説もあるんだよ」
「ふ〜ん・・・月・・・か・・・・・・」
 景時の返事が極端に減った。
 が景時を見上げる。
「景時さん?あの・・・ここ、つまらない?えっとね、美術で銀閣寺のビデオを中学生の時に
観てね・・・特別に夜に撮影してて、月のキラキラが反射してて・・・銀色なんだよ?ほんとに」
 向月台を見ていた景時がへと視線を移した。
「うん。大丈夫・・・・・・ただ、ちゃんが消えちゃったら嫌だな〜って。竹取物語みたいにさ。
オレ、ちゃんって月みたいだなって思う時があるんだよね・・・・・・」
 が景時の腕を掴んだ。
「じゃあ!私だって、景時さんがこっちに居るの信じられない時あるもん。不安なんだよ?でも
頑張って、夜はおやすみなさいして、朝はおはよって確認してたんだよ?私だって・・・・・・」

 後から上ってきた旅行者たちが二人をどんどん追い抜いて先へ行く。
 人が減ったところで、景時がを抱き締めた。

「・・・ごめんね。そうだよね・・・向こうにいた時のオレと同じ気持かな?今のちゃんは。オレ
もね、毎日・・・ちゃんが今日もここに居るって確認してたよ」


 想いが通じる前も、通じた後も───


「・・・・・・うん。だから、たくさん一緒に居なきゃ。一緒が普通になるまで!」
「よし!じゃあ、次はどこへ行こうか〜〜〜」
「あ゛!!!」
 が叫び声を上げて時計を見た。

「・・・・・・電話忘れちゃった・・・・・・」
 俯いてしまう
「・・・電話って・・・携帯ならあるよ?」
「違う・・・・・・お昼の予約・・・・・・行きたかったお店の・・・・・・」
 一瞬空を見上げる景時。

(あ・・・お豆腐のお店か・・・・・・言ってたよね・・・・・・)

 が行きたかった湯豆腐のお店。人気店らしい上に、年末なのだ。
 予約無しでは不可能だろう。

「ふえっ・・・・・・朝起きた時は覚えてたのにぃ・・・・・・まだ早すぎだろうから、後で電話・・・・・・」
「とりあえず電話してみようか?」
 景時はが貼ったであろうシルシのあるお店へ電話をする。
 残念ながら年末で忙しく、昼も無理、営業時間も短く夕刻も無理の様だった。

「え〜っと・・・また今度来た時にしようか。それで・・・と。まずは今日の昼だよね」
 すっかりしょげてしまったの頭を軽く撫でると、景時は名刺の存在を思い出す。

(京都の事は、京都の人に聞けってね!基本でしょ)
 昨日知り合ったばかりだが、菊池洋二の携帯番号をプッシュする。

「え〜っと・・・・・・もしもし?あの・・・梶原です。昨日は・・・・・・あはは!うん。そうだね、そうしよう」
 始めは緊張していたのだろうが、お互い友達になろうと決めた二人。
 最後は古くからの友人のような話し方になり、用件を済ませていた。


「・・・景時さん?」
「なんだかね、昨日の菊池さんが家へ来いって。同じ豆腐でもっと美味しいモノを食べさせてくれる
らしいよ〜〜?」
 途端にが元気になる。
「同じで美味しいの?どうして?それに・・・菊池さんのトコって・・・・・・」
 料亭である。高校生が知るはずもない場所。
 景時とて、知識と経験は別なので返事のしようがない。
「タクシーに乗って『菊幸亭』って言えばわかるってさ。ココに住所もあるにはあるんだけどね」
 名刺をに見せる。
「・・・ここから近いのかな?東山だしぃ・・・・・・」
「そうなんだよね。でも、タクシーで来いって。なんだろうね?とりあえず行こうか。豆腐が同じは
簡単な理由なんだよ。同じ豆腐屋さんから、もっといい豆腐を仕入れているって言ってたよ?」
 いよいよの目が輝きだす。
「そうなんだ〜。お豆腐を仕入れて・・・・・・お豆腐屋さんで作ってないの?!」
「そうみたい。知らなかったね〜」
 肩を軽く竦めると、の手を取り出口を目指して歩き始める。

「え〜・・・・・・ちょっと豪華なランチの花御膳がぁ・・・・・・・・・料亭じゃ高そうだし・・・・・・え〜〜」
 ひとり考えだしてしまったを振り返りながら歩く景時。

「今度はオレが予約とかさ、ちゃんと全部するから。二人で来ようね」
「二人でするの!全部先に決めて、準備しなきゃいけなかったんだぁ。パパもママも意地悪だよね?」
 いつでも、すべてが思い通りにはならないと身をもって学んだ
 ここで雅幸を頼ればなんとかなるかもしれないが、頼まない道を選んだ。

「あれだ。オレもよく朔に叱られたんだよ、もっと計画を立てろって。だぁ〜よねぇ〜?」
「あ〜〜!そんな事言って。朔が来たら言っちゃうんだからっ」
 景時の腕を引っ張る
 ややバランスを崩しても景時は倒れることなく、と手を繋いだままだった。
「内緒にして?ほら、その時はバッチリ計画たてて皆を呼ぶしさ」
「ですね〜」
 
 塀と竹林に挟まれた道を抜け、狭いながらも通りへ出るとタクシーの行列がある。
 そのまま乗り込み行き先を告げると、気のいい運転手が振り返った。
「お客さん、予約してありますか?あそこは・・・かなり前から予約しないと駄目だよ?知り合いの紹介
無しで入れる店じゃないんだ。聞いた事ないですか?」
 いわゆる、『一見さんお断り』である。
「あ、それは大丈夫だと思うんです。この人と知り合いで、来いって言われてて・・・・・・」
 景時が菊池の名刺を運転手へ見せた。
「あ〜、この名刺をお持ちでしたら・・・裏へ着けさせてもらいます」
「裏〜〜?!」
 名刺があるのに表ではなく裏という。
「そうです。裏の奥座敷側へ。危うく失礼して叱られるとこでしたわ」
 そのまま狭い道を走り出した。

「せま〜い・・・・・・」
 山の奥へ進んでいる。
 は車窓から外を眺めているのだが、道幅が二台はすれ違えるかどうかくらい。
 木々の合間なので舗装されていなくともなんとかなりそうではある。
「お嬢さんは京都は初めてですか?なんでしたら、一日貸切で案内というのもありますよ?」
 タクシー会社のレンタルプランのチラシを手渡された景時。
「あ〜、貸切プラン」
 さっと目を通す。タクシー会社にしても、先に一日の予定を確約されるのは有難いのだろう。
「機会があったらココ、電話しますよ」
 すかさず運転手が自分の名刺を出した。
「指名してもらえると助かります。その・・・・・・」
「ええ。でも、今回は挨拶に来ただけなのですぐに鎌倉へ帰るんですよ。また春に来た時にでも・・・・・・」
 そのままどこかの門前へタクシーが横付けする。ひとり案内の者が立っていた。
 
「ようこそ。若旦那がお待ちです」
「若旦那?!・・・・・・あ!こんにちは。突然電話しちゃってごめんね〜〜、忙しいのに」
 門前で戸惑っていた景時たちを迎えに、洋二がやって来た。
 景時が手を振ると、軽く手を上げる洋二。
「すぐに来てくれてよかった。ちょうどいい感じに料理が揃いそうなんだ。タクシー、大丈夫だった?」
「うん。名刺だしたらすぐに裏とか言われて・・・・・・」
「そう。それは、よかった。こんにちは、さん。今日はご希望の豆腐、楽しんで行って下さい」
 洋二がへ笑いかけると、も頭を軽く下げる。
 さらに、景時の背中を軽く叩いた。

「景時さん。あの・・・こんな軽装でここに入っていいの?なんか・・・高そうだよ・・・・・・」
 景時も自分の服装を振り返る。
「あ〜っと・・・この格好でいいのかな?その・・・正装とか着物じゃないんだけど・・・・・・」
「気にしないでどうぞ。僕のゲストなんだから。それに、一般の人には会わないから」
 出入り口がひとつでも、客同士を会わせるような事はしない。
 また、景時たちを案内する部屋は普通の客は入らない場所で入れない部屋。
「外は寒いから中へどうぞ。それなりに庭もあるし」
 案内され、廊下を只管歩く。
 庭はきっちり手入れが行き届き、庭なのか庭園なのかといった風情だ。

「景時さん!どっち曲がったっけ?」
 すでに迷ってしまったらしい
「あはは。ちゃん、家の中で迷子は大変だね?」
 景時が手を差し伸べると、手を重ねる
「だ、だって・・・廊下たくさん曲がったよ?どこから入ったのか・・・・・・」

(そうだよな〜。広いのに、もっと広く景色よくという作りにしてあるんだから・・・・・・)
 各部屋から庭を見せる作り、かつ、部屋同士が見えないようの配慮がされている。

「オレの特技あるでしょ」
「そうだ!よかった。安心してご飯食べられそう」

 先頭をあるく洋二が二人との距離を測りつつ、つい話しを聞いてしまう。
(・・・・・・社長が守りたい二人・・・・・・お互いを信頼して補い合うって事か・・・・・・)
 洋二は計算して兄の補佐を務めるべく経営の道を選んだ。
 料理の跡取は二人いても仕方ない。
 自分が出来る事は、家を出るか大勢のお抱え料理人の中のひとりになるかだった。
 ただし、後者の場合は他の料理人が働き難いだろう。
 だからといって、家を出て普通のサラリーマンも気分ではなかった。

(気持ちが入っていないと言われてるみたいだ・・・・・・)
 そつなくこなすのと役に立ちたいのとでは、姿勢からして違う。雅幸が今頃笑っていそうだ。

「さ。こちらの部屋。ここは・・・社長用にいつでも空いてるしね」
「ええっ?!パパ用?パパってば贅沢〜〜〜」
 の住む鎌倉の家は、普通の建売住宅だ。至って普通の家庭、標準そのもの。
「今日は約束があるらしいので、いつでもお二人が来たらこちらへって伝言を受けてますよ」
 昨日からの行動は予測されていたらしい。
「〜〜〜〜〜!パパったら!ムカつくぅ。私が忘れそうなの知ってて言ってくれなかったんだぁ!」
 普通に気が利くというのは、が忘れそうだと思った時点で目当ての豆腐料理店の予約をして
おく事だろう。
 雅幸の場合、忘れる事を想定して別の場所を頼るだろうと用意しておく。
 は頼っていないつもりなので、悔しさ倍増というおまけ付。

「まあ、まあ!ほら、もっと美味しいモノがあるのに〜って、教えてくれたんだよ。ね?」
 悔しくて握り拳になってしまったの手をとって、景時がその甲を軽く叩く。
「ね〜〜?寒いのに並んだりとかさ、時間がかかったら可哀想だなぁ〜って。そういう事だよ」
 唇を尖らせたがようやく顔を上げる。
「・・・・・・パパの場合、私が悔しがるのが楽しいだけだよ、きっと」
「ん〜。そうだとしても、実際に美味しいモノを食べられるのはオレたちだし。ラッキーじゃない?」
 しばし考えを天秤にかける

「うん!美味しいのは嬉しいからラッキー」
 の結論が出たところで、洋二が庭に面した障子を開ける。

「座って見る景色と少し違いますよ。夏なら・・・そこの縁側でのんびりというのも出来ますしね」
 手招きされ、が窓際へ駆け寄った。
「うわわわわ!景時さんのお家の感じと似てるかも?お洗濯したくなっちゃうね」
「・・・・・・洗濯?」
 庭木からすべて手入れさせている庭で、なぜ洗濯なのかと菊池が首を捻る。
 景時も窓辺へと近づいた。
「あ〜っと。もうね、家はないんだけどオレの前の家に似てるかな。洗濯が趣味なんだよね、オレ」
「洗濯って・・・・・・洗濯機が勝手にするだろ」
 あまりに驚いて、言葉遣いがぞんざいになる菊池。
「う〜んと、こう盥でゴシゴシして。ぎゅ〜っと絞って、ぱぱんっと広げて物干しへってのが気持が
よくてさ。ちゃんに見つかっちゃって・・・情け無いトコみせたなって思っていたら、一緒にしよう
なんて言ってくれちゃって。だから・・・・・・」
 うっかり言ってしまったが、景時が上手く話の辻褄を合わせてくれたので、も合わせる。
「だ、だって・・・話しやすいな〜って。それに・・・・・・お洗濯ですよ?いい旦那様になりそうでしょ?
家事を手伝ってくれそうだし・・・・・・」
 菊池が景時の頭を掴んで、顔を眺めた。
「ま、イイ顔だな。悪い顔じゃない。・・・・・・女ウケする顔してるよな〜」
「・・・は?オレなんて、そんな・・・モテた事ないし・・・・・・」
 二人の間にが割り込む。
「ですよねっ!景時さん、格好いいからとっても心配なんです。もっと言ってやって下さい!自覚
してくれなくて、すっごい困ってるんですぅ〜〜〜」
 が洋二の背中を叩いて、急かす。

「・・・だって。オレに言わせると・・・オマエの方が心配だろうけど、頑張れよ。もう少し話をしたいけど、
仕事があるし。ごゆっくり」
 洋二が部屋を出るのを待っていたかのように料理が運ばれ始めた。
「りゃ?景時さん本当に格好イイからね?ちゃんと自覚してね?ちっとも変じゃないから、心配しなく
てもいいんだよ?心配って・・・心配がたくさんで大変なのは私なんだってば〜」
 菊池の心配の意味を勘違いの
 それこそが菊池の言うところの“心配”の意味なのだが───

(・・・・・・ちゃんは美人さんだって話だし。ついでに、洋二は知ってるしなぁ)
 雅幸の娘ともなれば、密かに社長令嬢である。
 逆玉も夢ではないと思う馬鹿も現れるやもしれない。
(もっと資産家の方々からも大人気だし。ほ〜んと!オレの方が心配)
 藤原一族もを狙っている。
(出来る事をするって決めたんだしね!)

「え〜っと。うん。少しだけ自信がついた・・・かな?それより、お料理すごいよ。食べようか」
 料理もプロだが、配膳をする人もプロである。
 この距離で会話が聞えないなどという事はありえないが、空気のように存在感が無い。

 景時に言われて振り返ったが目を見開いた。
「わ・・・・・・・・・・・・」

「お席は並んでお座り下さい。お庭が眺められます」
 向かい合わせでなく、隣で座る距離が照れくさい。

「え〜っと・・・二人なのにお向かいさんじゃないの、珍しいですね」
「だね。でも・・・こんなに大きなテーブルだし、隣の方が話しやすいよ〜〜、座ろう!」
 予め用意してあったとしか思えない早さで準備された料理たち。
 は右から左へと一通り眺めて溜め息を吐く。
「どぉ〜しよぉ〜〜。どれから食べよう」
「そりゃ・・・好きなものから!」
 誰も居なくなった部屋で、景時がの頬へキスをした。

「・・・・・・食べるの意味が違うでしょっ!」
 景時の膝を叩く
「あはは〜!ごめん、ごめん。温かいものからがいいかな。冷めたらもったいない」
 噂の湯豆腐から料理を食べ始めた。





「うぅ〜・・・もう無理ぃ・・・・・・」
 が景時に寄りかかる。
「だ、大丈夫?!」
「うん。もう無いよね?あったら・・・・・・泣きそう、食べたくて。そんなの耐えられないよぅ」
「それは・・・大変だ!ちゃんが泣くなら、オレも泣きそうかも〜〜〜〜」
 寄りかかっていただけのを、素早くちゃっかり、しっかり抱き締める景時。

「うふふ。ここで二人で泣いてたら変ですよ?」
「いいの。オレはいつでもちゃんと同じ気持だから!」
「もぉ!」
 軽く景時を押して体を離すと、が景時の膝に倒れこむ。

「少しだけ休憩〜!よく考えたら、デザートまだだし。食べなきゃ!」
「ええっ?!でも・・・苦しいんだよね?・・・・・・泣いちゃう?」
 が景時を見上げ、にっこりと微笑む。
「デザートは別腹なの」
「そ?じゃあ・・・休んでて」
 の額に触れる。

「えへへ〜。午後はぁ・・・清水行って、六波羅行って、三十三間堂行って・・・・・・」
「頑張っちゃう?また夜に歩くんでしょ?」
 初詣に行くならば、が疲れてしまうのではと思う。
「だって〜!パパがいつ気まぐれに“帰るよ”って言い出すかわかんないし」
 現時点で、帰りはいつかを決めていない。

(・・・藤原家の出方次第って事だろうなぁ。でも、ちゃんが京都を楽しみにしていたから)
 楽しそうに景時の足を叩いてデザートを待つを眺めていると、雅幸の気持がわかる。
(・・・・・・危ないからって言っても、本人に自覚がないし。鎌倉へ帰るって言い難いだろうなぁ)
 とはいえ、雅幸に策が無いとは思えない。
 この店だって、雅幸のテリトリーといえばそうである。

「う〜ん。オレって鎌倉のお正月・・・知らなかったりして」
 景時がいた世界の、いた時代の正月は知っている。
 こちらの世界の正月もそれなりにわかっている。ただし、これは頭での理解。
「あっ!やっ、やだ。私ってば・・・・・・」
 が起きると、部屋の外に人の気配を感じた。

「デザートがきたかな?」
 景時とが元の場所に座り直した頃に障子が開けられた。

「ど〜も!放っておいて申し訳なかったかな?デザートと、この後の予定の手助けが出来れば
と思ってね」
 年末で忙しいだろうに、洋二が顔を出した。
「わわわ!大丈夫だよ、そんな!お気遣いなく〜〜〜」
「だよなぁ〜、邪魔だよね。むしろさ」
 景時との前へ座る洋二。

「・・・・・・いつの間にそんなに仲良しさん?」
 が景時と洋二を代わる代わる眺める。

「え?え〜っと・・・・・・同じ年みたいで。ついオレが・・・かなぁ?」
 景時を見ていた洋二が笑い出す。
「まぁ・・・普通なら社長のお嬢さんとその婿君ですからね。こぉ〜んな楽に話してはいけないん
だろうけれど・・・景時って、そういう取り繕っている部分を取り払ってしまうっていうか。ですよね?」
 に同意を得るべく、洋二が軽くに向かって首を傾げた。
「はい!そぉ〜〜〜なんです。景時さんって、魔法使いみたいなの。その場がね、ぱぱぁ〜って。
やわらかくなっちゃうの。よかった〜〜、景時さんをわかってくれる人が増えて。私も混ぜて下さいね?
私だけ・・・硬い言葉遣いって・・・仲間ハズレさんみたい・・・・・・」
 様子を窺うの仕種が可愛らしい。
 洋二はそのまま景時へ視線を移すと、景時の鼻の下は倍になっていた。

「・・・・・・景時。顔」
「うわぁぁぁ!わっと!」
 自分で自分の頬を挟んで軽く叩く景時。

「じゃ、俺も『ちゃん』って呼んでもいいのかな?」
「ええっ?!ちゃんなの?」
「・・・どうして景時が驚くんだよ」

 景時と洋二の会話が面白くてが笑う。
「二人とも息がピッタリ!よかった、京都でお友達出来て〜〜」
「この場合、問題は呼び方だと思うんですけど?『さん』?」
 名前にさん付けで呼ばれる事はあまりなく、懐かしさすら感じる

(・・・弁慶さんみたい。そっか、似てるかも!)

「い〜ですよ?別に。お嬢様とか私に似合わない呼び方でなければ」
「だってさ。ど〜しますか?婚約者殿。まだ婿君未満なんだよね?」
 景時が一瞬下唇を噛んだ。

「知っててそういう言い方ってひどいなぁ〜。ダメ!ちゃんはオレのお嫁さんなんだから」
「なんだ。しっかり言えるんだ。だったら心配ないね。この後も話しやすい。・・・デザートのシャーベットは
早く食べないと溶けますよ?」
 景時との前にあるゆずのシャーベットを勧める洋二。

「わ!そうだ。いただきますっ。デザートは別腹〜〜〜」
 スプーンで端から丁寧に食べ始める
「な〜んか上手く騙されてるなぁ。いただきます!」
 景時は軽く二口程度で食べてしまった。





「それで?全部ご存知の様だね。だから・・・でしょ?」
「社長の言う通りだな〜。景時って勘イイね。ちなみに・・・・・・兄貴だけ知らないのでよろしく」
 二人の話の流れが見えないは、玄米茶を飲みながら遣り取りを眺めている。

「今日は・・・この後は清水、六波羅、三十三間堂。初詣は八坂さんと平安神宮の予定。有川将臣くんと
譲くんって兄弟も一緒なんだ。くる?」
 景時も湯呑を手に取った。
「一緒はないかな。でも・・・何かあったら家へ来るか、振り向いてみれば?」
「そ?ちゃんの着物姿は、出来るだけ誰にも見せたくないからね」
「だ、そうですよ。さん。さんだって心配ですよね?」
 ここぞとばかりにの首が縦に動く。

「・・・・・・へ?ちゃん?」
「景時さんったらね、きのーの朝ご飯の時・・・・・・あっ!」
 慌てて両手で口元を隠す。見事に洋二の誘導に引っ掛かってしまった。

「昨日はクロワッサン・・・だったよね?」
 景時にはが真っ赤なる理由がわからない。
 ただ、あんなに気に入っていたクロワッサンを今朝は食べに行かなかった。
 それについては一瞬気になった事を思い出す。

「・・・景時。さっきからさんはオマエを心配してるんだ。気づけよ」
「ええっ?!オレ?オレの食べ方変とか?何か違う?だったら先に言ってよ、洋二も。人が悪いなぁ〜」
 大袈裟に驚く景時をみて、洋二とは目を合わせると笑い出した。

さん。あまり気にしなくて大丈夫。これだし?」
 親指で軽く景時を指す洋二。
「でもね、私といてもなんですよ?それって・・・・・・」
「誰といてもそうなりますよ。もっとも・・・・・・悔しいから邪魔したい輩もいるし?そんな事で負けちゃうの?」
 洋二からの応援で、気をよくした
「負けませんっ!私ってば、景時さんのお嫁さんになるために頑張ってるんですもん!」
 握りこぶしで頑張りぶりをアピールする
「ええっ?!ちゃん、頑張る必要ないでしょ?オレ、ちゃんしかいないし」
 景時が必死にの両手を取って嘆願する。

「ほ〜ら。二人して無駄な心配してたんだって。途中まで送ろうか?実は、ここって清水さんには抜け道が
あるからね」
 洋二が申し出ると、が軽く頭を下げた。
「ありがとうございます。何か・・・楽になっちゃいました。お兄ちゃんみたい」
「いいえ〜。こんな可愛い妹なら大歓迎だしね。・・・・・・景時の兄は嫌だなぁ?」
 ニヤニヤと景時の顔を見る洋二。
「・・・・・・オレにも選ぶ権利くらいあるでしょ。隣の山が清水なんだよね?」
「へえ、よくご存知で。ただね、人通りが少ない道だから近くまで車で送るよ」



 洋二に送られ、清水の近くで下ろされる。
「それじゃ。この坂を上ればすくだから」
「ありがと〜」
 洋二を見送ってから、清水の坂に合流する。

「わわ。突然人が増えた・・・・・・」
「はぐれないように手を繋ごう!行くよ〜」





 もう少しだけ京都の風景を楽しもうと二人で歩く。
 年の瀬の不可思議な高揚感の中、道を歩いて確認する。
 足跡が残りますように───






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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→現代へ

 あとがき:湯豆腐のお店がですね、豆腐作ってないって知ってショックでした。←氷輪の話か?!     (2005.12.29サイト掲載)




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