始まりは気持ちから





「出来た〜!八代目と松田さんも食べていけるんですよねっ」
 が二人へ声をかける。
「いえ・・・店の方もありますので・・・・・・すいません」
 申し訳なさそうに頭を下げられてしまった。
「うぎゃ〜!そんな忙しいのに、わざわざここへ?ごめんなさい!私の所為で・・・・・・」
 も二人へ頭を下げる。
 なんとも妙な光景になったところで、雅幸がを手招きした。

「そう我侭を言うものではないよ?しかも、これ以上時間を拘束する方が迷惑だろう?」
「・・・・・・パパが悪いんだから。・・・今度はお店の方へ食べに行きますね。今日はたくさん教えてもらえて、ありがとう
ございました!」
 が再び頭を下げた。

「いいんですよ、さん。社長の所為ではないし、七代目の命令ですから。逆に、いい修行をさせていただけました。
ね?八代目、松田さん」
 菊池が雅幸との間に立った。


「ええ。誰かのためにと・・・そう思い出しました」
 素材は同じでも、には景時の好きな焼き加減という想いがあったのだろうと思う。
 先代と同じ品質を保つことも大切ではあるが、相手によって変える必要がある。

「私も・・・いつも味付けとか出来なくて・・・・・・でも、おにぎり美味しかったです。何を作るかで味を変えなければいけな
かったんですよね」
 最初に教えられた味付けから離れられなかった松田。完成させる料理によっては、変えてもいいのだ。
 が作ったおにぎりがそれを証明した。

「きゃ〜〜!!!」
 が景時の背に駆け寄って隠れた。
「・・・そんなに照れなくても。ちゃんを見ていてそう思ったって言ってくれてるんだし・・・・・・」
 笑いながら背中にしがみ付いているの頭を軽く撫でる。
「いえ。お二人にですよ」
「ええっ?!」
 あっさり八代目に言われて、景時も照れた。しかし、隠れる場所は無い。

「後はこちらのホテルの人に給仕をしてもらうようお願いしてありますので。何かあればいつでも・・・・・・そうそう。景時。
これが俺の携帯番号だから。いつでもどうぞ。出来れば景時からかけてくれると登録する手間が省けるんだけど」
 名刺を景時へ渡す菊池。料理人二人を引き連れて、一礼をすると部屋を後にした。



「景時さん、もうお友達になったの?」
「えっと・・・かな?うん。よかった。いつでもって言ってくれる人がいるのは安心だね〜」
 社交辞令ではない“いつでも”を感じ取った景時。
 
 雅幸にしても、こんなに早く二人が近づけるとは思っていなかった。
(菊池の負け・・・かな?)
 菊池は、世渡り上手な男である。
 次男に生まれた時点で自分の役目を悟り、跡を継がないポジションがどういうものかを自覚して歩いてきた節があり、
それを頼もしく感じていた。
(・・・巧く動くのとは違うだろうね)
 他人の中で巧く動く事。望まれるであろう動きをすればいい。
(足りないモノ、見つけたようだねぇ・・・・・・)
 一瞬口元を緩めた雅幸の横顔を見たのは花奈のみ。

「雅幸さんって・・・コドモよねぇ・・・・・・」
 さっそく出来たての料理に舌鼓を打ちつつも、半ば独り言のように呟く花奈。
「そうかい?そうだなぁ・・・・・・ほどじゃないと思うけれどね」
 
 手に入らないものはたくさんある。けれど、ひとつを掴み取れれば、他はいらないというモノがある。
 それだけで、すべてが楽しく見えてしまう大切なモノ───



「さ、二人も食べたらどうだい?せっかくの麩が冷めてしまうよ」
 軽く火で炙られた麩。何かつけてもいいし、そのままでも十分に美味しい。

「そうだ!景時さん。麩だよ、麩。乾いてない麩なんて珍しいもんね〜。しかもね、麩のお刺身まであるし」
 しっかり景時の隣に座って箸を手に取る
「いただきまぁ〜す!やっぱりちょこっとがたくさんだと可愛いぃ。全部食べたかったもん」
 様々な食材を使って、少しずつ盛り付けられた料理を眺めての目が輝きだす。
「そうだね〜。これくらいなら全部食べられそうだし。何より二人で買い物した食材だしね」

 雅幸たちとたちの前に並ぶ料理は違うが、楽しい家族の夕食を和やかに迎えた。





「ごちそう様でしたっ。明日は夕方に来るから着付けしてね!」
 花奈へ明日の予定を告げる
「うふふ。いいわよ。どこへ行くか決めたの?」
「近所をフラフラ!それに、初詣は将臣くんたちも・・・あっ!パパってば。行成おじ様を無視したでしょ〜!!!」
 まるで動じず、用意された抹茶へ手を伸ばす雅幸。
「さて。そんな事をしたかな?」
「電話に出ないって・・・紫子おば様が気にして・・・将臣くんたちが私たちを探してたって会ったんだから!」
 身を乗り出して雅幸を糾弾する

「・・・さて。マナーモードにしていたから気づかなかったのかな?連絡をすれば文句はないんだろう?」
「もぉぉぉ!ママも何か言ってやって!ホントにパパってばコドモなんだから!」
 先程の自分と同じ発言をするが可笑しくて仕方ない花奈。つい笑い出してしまった。
「マ、ママ〜?笑うトコじゃないでしょう?」
 花奈がのんびりしているのはわかっているが、少なくとも笑う場面ではないはずと顔を顰める

。パパもわかっているから大丈夫よ。ママがさっき紫子さんとお話したし。明日はね、一緒にお食事するの」
 テーブルに手をついて項垂れる
「・・・・・・も、いい。私も、つい今まで忘れてたし。景時さんと歩けて楽しすぎて、つい・・・・・・」
「どう楽しかったんだい?」
 雅幸がとぼけて相槌を入れる。
「えっとね、市場のお店の人がね、おばさんだと『奥さん』って私を呼ぶの〜。そうすると景時さんが『新婚なんです
よ〜』って。将来はこうして二人でお買い物なんだぁ〜って思ったら、めちゃめちゃ楽し・・・って!パパのお馬鹿っ!」
 つるりと話してしまい、が照れながら景時の袖を引っ張る。
「部屋へ戻ろう?ここ、落ち着かない」
 落ち着かなくしているのはの方なのだが、笑うと機嫌を損ねると雅幸は笑いを堪えた。
 景時もどういう表情をすればいいのやら、不可思議な笑い顔となっていた。

「デザートはそちらへ運ばせよう。私たちも二人がいいしね?」
「もうパパなんて知らないも〜んだ。ママ、また明日ね!」
 景時はに引きずられながら頭を軽く雅幸と花奈へ下げた。



「やれ、やれ。景時君には苦労をかけそうだ」
「あら。半分はあなたの責任じゃなくて?わかっていて言わない事もあるようですし」
 肩を竦める雅幸。
「・・・こちらにも受けが悪いようだね、私は」
「そんな事はないけど。これからは毎年京都へ里帰りしようかしら?」
「参ったなぁ・・・・・・私だけ仲間ハズレだねぇ・・・・・・」
 まったく参った様子がない雅幸。まさに口だけである。
「いいの。わざわざ表立って優しいフリされるより、居心地がいいですもの」
 カリントウをひとつ摘まむと、雅幸の口元へ出す花奈。雅幸はそのまま口へ頬張る。
「・・・ふむ。景時君を真似るといい事がありそうだ」
 口を動かしながら雅幸が花奈へ微笑みかけた。
「すっごく羨ましそうな顔してましたからね」
 が景時へ味見をさせた時の雅幸の顔を思い出す花奈。
「そうだねぇ・・・・・・でも。にして欲しかったわけでは無いよ?今日は二人で雪見酒でもしようか」
 すっかり機嫌が直っている雅幸に、花奈は小さく笑った。





「お抹茶って、こう・・・・・・飲み物としては無理が・・・・・・」
 景時の思う飲み物は、水のようにガブガブ飲み干せるものだ。
 茶碗を両手で持ったまま、その中身を見つめる景時。
「・・・そうですよね。お菓子がなければ、ちょっとツライ味ですよね〜」
 も同じ姿勢で賛同する。
 しっかりと立てられた抹茶は、量は少なめ、味は苦めである。

「・・・・・・景時さん。ほうじ茶がいい?」
「それはイイね〜。じゃ、これ飲んじゃおう」
 一息で飲むと、急いでお菓子へ手を伸ばす。
「無理しなくていいのにぃ」
 笑いながらほうじ茶を淹れる

「だ、だってさ。美味しいとも思うんだけど、こう、たくさん飲むには無理だよね?」
 景時に湯飲みが差し出される。
「時間を楽しむのにはいいのかもしれないですね。じぃ〜っと、こう、ゆったり。正座でゆったりかどうかは不明です
けど。黙ってお庭を眺める時間と似てるかも」
 景時の隣に座ろうとした。ところが、景時の膝に横座りさせられてしまった。

「なんとなくだけど・・・わかる。オレとしては、この姿勢でゆったりがいいんだけどなぁ〜」
「もぉ!・・・いいですよ。景時さんが重くなければ」
 景時の肩へ頭を預けて寄りかかる。
「ち〜っとも重くないよ。明日は・・・着物のちゃんが見られるのかぁ。嬉しいなぁ・・・・・・」
「私も!景時さん、格好いいから心配。ダメですよ、誰にでもついていっちゃ」
 これには景時も眉間に出来た皺を指で解すしかない。

「あの・・・ちゃんが!だからね。オレにはちゃんしか居ないんだから。他の人についていかないでね?」
「ちょっと言ってみただけです」
 の指が景時の鼻先を突付く。

「煩悩たくさんで、明日祓いきれるかなぁ・・・・・・すっごく心配なのは本当だもん。景時さん格好イイから」
「ぼんのーって?煩悩?それを言ったらオレなんて・・・・・・」
 続きは言えない景時。
「何ですか?」
 頬を少し赤くしながらの様子を窺う景時。
「きょっ・・・きょうのお風呂は・・・・・・」

 景時の問いにが数度目を瞬かせる。
「だ、ダメかな。そうだよね・・・・・・毎日はね・・・オレ、風呂掃除して無いしね・・・・・・ご褒美だもんね・・・・・・」
 諦めきれないらしく、語尾は聞き取れないものの、何事かを言い続ける。
「ここはホテルだから景時さんはお掃除しなくていいんですよ?・・・一緒に入りましょうね」
 から承諾の回答が引き出せ、景時の顔色が明るくなった。
「いっ、いいの?」
「うん。いいの。新婚さんだから」
「新婚!そう、新婚だもんね!!!」
 に頬擦りする景時。
 京都の空気は、雄大にして久遠の流れ。時計の針は半分の速度に感じられた。





 翌朝、が断然和食と朝食の選択肢を宣言する。
(またオネエサンたちが景時さんにラブラブ視線を送ってるの見るの嫌っ!)

 あまりの勢いに景時の体が後に反る。
「そ?オレは何でもいいんだけど・・・どうしたの?」
「何でもないですっ!和食ったら和食ですっ!ニッポンのココロなの!」
 景時の手を引いて、一階の奥の和食のレストランへ向かう

(あれ〜?さくさくクロワッサンが好きなんじゃなかったっけ?)
 せっかくの好きな食べ物がわかったと思っていたのに、昨日と打って変っての態度に困惑する景時。
 一方、にはの考えがある。

(和食なら・・・きゃぴきゃぴなオネエサンたちも居ないよね!)
 この考えは、後に甘かったと思い知らされる事になる。


「あらら。割と混んでるんだね」
 朝だというのに、朝食の為に並ばなくてはならない気配。
 先に順番待ちで座っているいくつかのグループが、景時の方を見ては黄色い声を漏らす。
 無自覚の景時は、の方を向いて首を傾げる。

「どうしようか?」
「景時さん!あっち行こう?」
「えっ?!和食じゃなくていいの?」
「いいんですっ」
 京都にきたら、和食を食べたいと思う。よく考えれば一番可能性が高い。

(もぉぉぉ!あんなにお姉さんたちが居たら、景時さんに目の毒だよ)

 通路を戻って、中華の朝ご飯に変更する
 朝から中華を選ぶ人間は、そう多くは無かった。



「中華って、久しぶりだね」
 景時がメニューをへ渡す。
「・・・・・・京都で中華もいいですよねっ!」
 思いっきり張り付き笑顔の。景時に頬をつつかれる。
「その・・・無理してなぁ〜い?」
 景時の質問の意図が理解できない
「えっ?中華・・・平気ですよ?ホラ、ここに中華粥セットもあるし。三つの中からしか選べなくて、景時さんは平気?」
「あ・・・オレ?オレは何でもいけるんだけど・・・その・・・ちゃんの体調が心配・・・かな?」

 が赤くなる。
「もぉ!大丈夫なのっ。景時さんは決まった?」
「うん。オレはね、こっち」
 二人で周囲の目を気にせず朝ご飯を食べる事が出来た。





「最初は〜、神泉苑行きましょう。でね、京都御苑をお散歩」
「御意〜〜。ココからだと・・・・・・タクシーが早いかな」
 景時がホテルの前で地図を頭の中に描く。地下鉄の駅まで行って降りて歩くよりは効率がいいと判断。
「じゃ、行こうか!」
「うん」
 低い建物が連なる街並み。わずかな時間で目的地へ着いた。

「え〜っと。この辺り・・・・・・ここみたいだね」
「ここ?!ここって・・・・・・池?」
 が池というのも無理が無い程の縮小ぶり。
「・・・あはは!ちょ〜っと小さくなってるかな?」
 景時も庇いようがない。
「白龍だって、こんな池じゃ困るよね?龍のままだとはみ出ちゃう・・・・・・」
 が困り顔で景時を見上げる。
「え〜っと。ホラ!鎌倉の桜の木が繋がってるんだったよね?ココはこれでも白龍は大丈夫なんじゃないかな?」
 ありったけの記憶を辿って結論を導き出す景時。多少強引なのは愛嬌で誤魔化す。
「・・・かなぁ?ここで呼んでも来てくれる?」
「二人で呼んでみようか?」
 への気脈の影響が心配だが、がしたいのならば補佐しようと思う。

「・・・・・・今日は・・・まだイイです。だって・・・まだ向こうから戻ってちょっとしか経ってないし・・・・・・」
 俯くを抱き締める景時。
「いいんだよ?ちゃんがしたいなら」
「えっとね・・・皆が来ても大丈夫に準備してから呼びたいから。京都にもお家欲しい。早く卒業したいなぁ」
 
 の額へキスをする景時。
「任せといて〜。今すぐは無理だけどね!」
 景時が軽く片目を閉じるとが笑う。
「うん!ちゃんとね〜、夫婦になってお披露目したいの」
「夫婦ね、夫婦。イイ響きだなぁ〜」
 さり気なくの手を取って、泉の周辺を歩き出す。
 確かに小さくなってはいるものの、その神聖さは残されている。

(ここは・・・五行の気の乱れが少ない・・・・・・。じゃ、藤原邸では何が歪んでいるんだ?)

 場所によっては気脈が寸断されている。ここは危うさがあるものの清浄が保たれている。

(これだけ水場が減らされていて何故?)

 考えながら歩く景時とは対照的に、は今の風景と過去を比べて歩いていた。
「景時さん!祠がたくさんありますね。なんだろう〜〜〜。何を祀っているのかな?」

(そうか!祠・・・・・・)
 水場を縮小する時に建てられたと考えるべきだ。

「あそこで何か配ってる〜。行ってみよう?」
「へ?」
 確かに人が並んで何かをもらっている。近づくと御札が貰えた。
「これって・・・・・・」
「恵方のお札です。来年の干支のお札です」
 説明を受けて、そのまま社へ足を踏み入れる。
 心なしかが手にしている札が光った。

「ここって陰陽道に縁なんだ・・・そうか・・・・・・」
 祠で方位を調整しているのだろう。すべての謎が解ける。
「わ〜。じゃあ、景時さんは来るべくして来たって感じですね〜」
「いや。ちゃんが・・・ね」
「私?」
 景時が指差す方向の立て看板を見れば舞姫が雨を降らせた話が書かれている。
「ここ・・・?私が舞った場所?」
「そうみたい。それにしても・・・・・・義経と舞姫の出会いの場所って・・・・・・」
 景時が項垂れる。と九郎の事では無いとわかってはいる。わかってはいるが自分は蚊帳の外扱い。
「景時さん!ここと向こうは違うんですから。私があの時に舞ったのはね、九郎さんが困ってるのもあったけどね」
 が景時の耳へ手を添えて続きを小声で囁く。


 『練習の成果を景時さんに見て欲しかったからなんだよ?』


「ええっ?!そうだったの?」
 景時が声を上げると、が頬を染めながら頷く。
「オレ・・・てっきり・・・・・・いや、あの場合はちゃんが断ると、源氏も困った事になるのは確かだったんだけど。
でも・・・・・・」
 景時の背を軽く叩く
「もぉ〜!わざわざ見て下さいって言って舞えるほど自信無かったの!」
「たくさんちゃんと話すとイイ事があるかも〜〜〜」
「え゛?!」
 の顔が上がる。
「オレね、すっごい勘違いしてる事まだまだありそう。ちゃんの気持ちが知りたいなぁ〜〜〜」
 差し伸べられた景時の手に、手を重ねる
「景時さんもだよ?私、いっつもヤキモチ妬いてたんだからね?」
「へ?オレ、何かしたっけ〜〜?」
 手を繋いで通りへと歩みながら景時は過去を振り返る。

「朔にね〜、『お兄ちゃんに任せなさい』ってぽんって。白龍をおぶったりとかぁ・・・・・・旅の途中で女の人に手を貸して
あげたりとかぁ・・・・・・。も、たくさんあった〜〜〜!」
 指折り数えだす
「え〜!そんなの数えるの?だったらオレだってさ、弁慶に傷薬塗ってもらってたのとか〜、白龍を抱っこしてたのとか。
朔と温泉入ってたよね〜。それに、九郎の許婚ってのもだし。そう、そう。敦盛君を看病してたしぃ。ヒノエ君には姫君って
呼ばれてて・・・・・・」
「か、景時さん?!そんなにたくさん?!」
 景時の指は一通り折って、また伸ばされつつある。
「もっとだよ?言ってなかったっけ?いつも・・・見てたんだ・・・・・・ちゃんのコト」
「・・・・・・やっぱり失敗。もっと早く告白すればよかった。もったいない」
 景時も苦笑いをする。
「ごめんね〜?オレが・・・・・・」
「違うの。景時さんが誰かに優しくする度にチクチクしてイライラして八つ当たりしちゃったから。ごめんなさい」
 手では足りないとばかりに、が景時の腕を掴んで寄りかかりながら歩く。
「今一緒だから・・・いいよね。オレね、嬉しいし」
「うん。一緒ですもんね。次は京都御苑に行きましょう!」
 時間短縮の為に、再びタクシーを利用した。



 タクシーを降りて、拾翠亭を左手に見ながら御苑の敷地内を散策する。
「横にひろぉ〜いですねっ!」
 が両手を広げて、振り返る。
「そうだね〜。空が・・・青いね・・・・・・」
 砂利と壁が白いので、空の青がはっきり見える。
「うん!場所が違っちゃってるのは、火事があってこっちにお引越ししたからなんですよね〜」
 ガイドブックで仕入れた知識を披露する
「そっかぁ〜。そうだよね〜。神泉苑の北にないと変だよね〜〜〜っと。捕まえた!」
 前を歩くを捕まえる景時。
「ひゃんっ!捕まえられた〜〜」
 見上げれば景時の顔と青い空がある。

「ず〜っと・・・空はココにあったんですよね・・・・・・」
「・・・うん。ずっと・・・あったんだ・・・・・・」
 どちらからともなく手を繋ぐと、空を見ながら北へ向かって歩き出した。



「あれ〜?この辺りに神社がね・・・・・・」
「ここみたいだよ?ほら」
 小さくて見落としそうだが、間違いなく鳥居がある。
「あった!お水がね、美味しいんだって。でね、お茶が飲めるんだよ〜」
ちゃん・・・神社の云われは?」
「・・・・・・えへ!京都の人もお水を汲みに来るくらい美味しいってトコしか読まなかったかも」
 ガイドブックを広げて、景時へ梨木神社のページを見せる
「あはは!じゃ、御参りしても何にいいのかわからないね?」
 景時がざっとガイドブックを読む。

「ココ願いが叶う神木があるらしいよ?」
「えっ?!じゃ、お願いしなきゃ」
 が辺りを見回しだす。
「井戸の傍らしいよ?行ってみようか」
「うん!行く〜。ず〜っと一緒ってお願いしなきゃ!神様に証人になってもらう〜」
 意気込むに比べると、景時は冷静だ。

(・・・オレが叶えるから。大丈夫だよ?)
 神頼みも悪くは無い。しかし、現段階で邪魔が入るであろう事は確実にわかっている。

(オレもね、偶には本気出さないと。たったひとつでいいって決めたからね!)
 が景時を選んでくれたのだ。
 手に入りかけている幸せを逃すほど愚鈍ではない。

「二人なら二倍だよ〜?景時さんも、お願いしよ〜?」
「もちろん!」
 二人仲良く神木へ願いを告げる。





 来年も、その次の年もずっと一緒にいられますように───
 





Copyright © 2005- 〜Heavenly Blue〜 氷輪  All rights reserved.


≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→現代へ

 あとがき:大晦日の午前中!梨木神社は萩で有名なので。行くなら秋ですね〜。     (2005.12.11サイト掲載)




夢小説メニューページへもどる