発信源  ≪景時side≫





 ちゃんのお父さんは、すべてを見通している・・・たぶん。
 教えてくれないけどね。うん。自分で掴まないとだよな〜〜〜。




「景時君、ここにあるモノはすべて君のものだ。君がこれらから私と違う感じ方を
するかもしれないし、同じ考えを持つかもしれない。これらは、私が大学生になって
から思っていた事を試したモノなんだよ」

 お父さんの普段の部屋には、およそモノらしいモノがなかった。
 それは物質的という意味で。
 寝る場所と、学ぶスペースのみ。
 ちゃんは必死に探し物をしているけれど、恐らく無いと思った。



「景時君は、情報をどういうものだととらえている?」
「・・・は?」

 情報といえば、戦を有利に導くもの。敵に勝つためのもの。
 仕える主に有利に事が運ぶように、先に知っていればすべてが上手く働くものだ。

「漠然としすぎだったね。では、逆に相手に伝える時に君はどう選ぶ?」
「相手に・・・ですか」

 そうだ。オレは鎌倉で掴んでいた情報を九郎に伝えなかった。
 何より、オレの主は頼朝様だったから。
 そして、頼朝様の九郎に対する兄弟の情を信じたかったから。
 そこで話はちゃんによって中断された。



「ないよ〜、アルバム。そういうのはどこ?」
 小さな本棚と机しか引き出しらしい引き出しは無い。
 目当てのモノが見つけられなかったちゃんが、つまらなさそうな顔になる。
 君はどんな顔でも可愛いなと思う。

 お父さんの『ない』という言葉に、明らかにガッカリしている様子がまた可愛い。
 何を見たかったんだろう?



 皆で写真───



 そうか。君が欲しかったのは思い出に繋がるモノ。
 全員に共通の思い出の引き出しが欲しかったんだね?

 部屋を見るって、そういう意味があるのか。
 その人の思い出に触れるからその人がわかる。
 単なる好奇心というか、興味かと思えば。
 ちゃんの行動は、人の真理に繋がっている事が多いな。

 あれ?向こうでいつもオレの部屋を掃除してもらっていたような・・・・・・。
 バレバレ?!



 町中で買い物をすべく、皆でフラフラと散歩する。
 どうかな〜、家族に見えるかな?
 ちゃんはもう“デジタルカメラ”なるモノを買うのに必死。
 店員さんを捉まえて、あれもこれもと尋ねている。


「景時君、話が途中だったね。続きを話そうか」
 ちゃんとお母さんをその場に残して、少し距離をとる。



「私は“情報”は、発信者に左右されると考えている。それは、相手を混乱させる為に
発信する場合もあるし、伝える者の感情が入れば正しく伝わらない。私はね、星の
一族の言う事をすべて信用した訳ではないんだよ。だからこそ、あの部屋があるんだ」

 オレが考えた結論と同じ。
 頼朝様がわざと“和議”を持ち出したあの時の様に。
 また、オレが仲間に頼朝様の真意を伝えなかった時の様に。
 情報はその姿を変化させるモノだ。

「オレは・・・情報を重んじました。そして・・・仲間に伝えない事もあったんです」
 
 自然に手を拳にしていた。オレの後悔。そして───

「ま、それは過ぎた事だろうし。には通じなかっただろう?」

 もう笑うしかない。その通りです、お父さん。
 ちゃんには、そういうものがまったく通用しません。

「私が最初にした事は、書物は真実か?という事なんだ。書いてあることが正しいかどうか
わからないだろう?教科書に書いてある事すら疑って、自分でしてみないと納得出来な
くてね。それであの部屋のモノがあるというわけさ。理科室の様なモノも置いてあっただろう?」

 返事に困る。つまり、お父さんは何一つ信じていないって事だよな?

「情報は整理しないと役に立たないんだよ。だから、本は誰かが書いてる時点で、その
書いた人物の感情が入ってしまっている。間違った事を真実と思わされるのは適わないしね」

 笑っているけれど、ものすごい発言だ。オレは、割と文献や書き記されたモノだけは信じていた
ところがある。

「つまり、星の一族の予見の書だって、予見した人物の感情があるはずだからね」
 
 あっ!予見者が見た未来は、予見者しか知りえない。
 つまり・・・一族にすらすべてを伝えているとは限らないんだ。
 また、伝承の記録だって都合のいい事だけ伝えているとも───

「すべてが違うとは言わないけれど。だからこそ、には真実を掴みなさいと言ってきた。
が無事にこちらへ戻って来てくれた時は、ようやく長年の胸の支えがとれたよ」

 確かに。お父さんの考え方ならば、神子が戻ると言われても、自分の目で確認するまでは
信じられなかっただろうな。

「普通のお嬢さんより制約が多い娘で申し訳ないが、私がようやく手に入れた大切な家族
なんだ。景時君には負担かもしれないが・・・・・・」
「いえ!オレが彼女に相応しくありたいと、いつも思っています。だから!」
 
 勢い余って話し途中なのに割り込んでしまった。あ、あはは〜。

「ありがとう、景時君。をよろしく頼むよ」
「オレがちゃんに守られちゃってますから。早くオレが守れるようになりたいです」

 なんとなく目が合って、お父さんと笑ってしまった。



 残念だけれど現在の藤原の当主様は、ちゃんのお父さんに勝てないね。
 予言の書一枚を頑なに信じているだけの人だ。
 もっと源流を知らなければならないのにね。
 オレにもまだまだ勝機はある。問題は、あの会長さんの方だな〜。
 それでも、負けない。勝てなくても負けないからね!

 鳥羽のお家のあれをくれるっていうのが、また嬉しい。
 それに、お祖父様の研究内容。
 これはかなり強力な味方になりそうだ。






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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→現代へ

 あとがき:景時くんも望美パパに近づきつつアリ。「真実とは・・・?」答えはどこにあるのかな。     (2005.11.8サイト掲載)




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