声なき声





 出発までの数日、景時とは部屋を片付けつつ過ごす。
 二人で暮らせる準備としては、後は季節を一度過ごしてみないと無理だ。
 朝の家事を一通り終えたがソファー座ると、隣に景時が座るのが最近の
過ごし方だった。

ちゃんはさ〜、京都でも勉強するの?」
 毎日午後の数時間はが自分の部屋に篭っていたからだ。
「うん・・・出来ればしないと。成績落ちたらパパに嫌味言われそうだし」
「そっか」
 景時に寄りかかるの頭を撫でる。
「だってね、パパってそういうの厳しいんだ。私もしなきゃと思うし・・・でもね!」
 景時の膝に転がって景時を見上げる
「日本史ぃ〜とか、古文とか好きになったっポイの。意味とかわからない時は、
景時さんに聞いちゃおうかな〜って」
 楽しそうに笑うをみていると、景時も嬉しくなる。
「オレに出来る事なら、何でもするからね〜」
 景時が普段使っていた言葉や文字が“古いモノ”に分類されてしまうのだ。
 変な気もするが、の役に立つならばといった所だろう。
「そうだ!これからは景時さんも一緒に勉強しようよ〜〜。休み明けにはテストも
あるから、宿題だけの問題じゃないんだよね」
「ええっ?!」
 今度は床に座って景時の膝に寄りかかる
「でもぉ〜、景時さんの方が出来ちゃったらショックかも」
 まるで景時が出来ることを知っているかのような口ぶりで楽しそうに話す
「そ、そ、そ、そんな事ないと思うけどなぁ〜」
 実際、こちらの世界の勉強などした事がないのだ。出来るとも思えない。
「出来ちゃうよ〜、発明は色々なコト知らないと作れないでしょ〜。どっちかって言う
と、私とじゃなくて譲くんと一緒に勉強すると楽しいかもだよ。譲くんの部屋はね、
望遠鏡とか顕微鏡とか、理科室っポイんだ。変わってなければだけど」
 小さい頃は譲の部屋にも上がったが、最近では入っていない。
「ふ〜ん。ところで・・・行成さんたちは、いつ向こうへ?」
「もう行ってると思う。ほら、ウチはパパが王様だから。わざと会わないようにしてる
みたいだしぃ・・・・・・」
 二人は顔を見合わせて笑った。出発はもう明日になっていた。





 翌朝、早朝に雅幸と花奈が景時とを迎えに来た。
 タクシーで駅まで移動して、早朝の新幹線に乗るためだ。
「おはよう、。戸締りはきちんとするのよ〜〜〜」
「うん。わかってるよ・・・・・・今、下へ行くから待ってて」
 まだ動きが鈍いは携帯を切ると、再度窓やらガス栓やらを確認した。
「うぅ・・・景時さん、下にパパたち来てるから行こ〜〜〜」
「大丈夫?」
「・・・うん」
 景時の腕にもたれて、半眠りの
「移動中寝られるしね」
「うん・・・・・・」
 玄関の戸締りを確認すると、一階のエントランスへ向かう。
 下では、雅幸と花奈が二人を待っていた。

「おはよう、景時君と寝坊すけさん」
「おはようございます」
「・・・おはよ、パパ」
 うにうにと景時にもたれたまま、目蓋が閉じそうな
「やれ、やれ。大きな子供がいるね?それでは行こうか」
「ここから・・・ですか?」
「ああ。家には子供がいるからね?そんな事だろうと思って」
 タクシー二台へ分乗しての移動となった。



 新幹線はグリーンの個室で一緒の四人。
 タクシーの中に引き続き、ここでもは確実に眠っていた。
「・・・・・・すまないね、お守をさせてしまって」
 雅幸が景時に寄りかかって眠る愛娘を見る眼は優しかった。
「勉強も頑張ってるんですよ。オレを気遣って、古文を一緒にしようとか・・・・・・」
「あら。それは気遣ってじゃなくて、自分で楽だからよ」
 さらりと花奈が、が寝ているのをいい事に言い切る。
「まあ・・・成績を落とすようなら・・・ね。結婚など無理だし。自覚しているならいいさ」
 雅幸が笑った。
「あの・・・何から何まで・・・すいません」
「いいのよ、景時さん。私たちは楽しいですもの〜。ね?」
 花奈が隣の雅幸を見上げる。
「そうだね。は文句があるらしいけどね。向こうへ着いたら自由行動にしよう。夕
飯は一緒でもいいのかな?我侭姫に聞かないと、怒られそうなんだが・・・・・・」
 全員の視線がに集まる。が、起きる気配はまったくない。
ちゃんは・・・・・・お父さんとお母さんにのんびりして欲しいみたいです。それと、
オレと伏見稲荷へと・・・そう思っているようで」
「分かりやすい娘だねえ・・・・・・。それは、それとして。大狸の長老と渡り合わないと
いけないからね。少しだけ話をしておこうかな」
 が眠っている隙に、藤原本家の話を景時に聞かせた。



 二時間かからずに京都へ到着。時間にしてまだ九時になっていない。
「ね、お部屋は別だよね?」
「もちろん別よ。がいると、五月蝿そうだもの」

 母娘がじゃれ合う姿を眺めながら、こちらでは雅幸と景時が話しをしている。
「混み合うのは嫌いだからと早く来たものの。チェックインまでは時間がまだまだある
しね。私は・・・花奈の実家へ行こうと思っているんだよ」
「じゃ、ちゃんも一緒に・・・・・・」
 雅幸が溜め息を吐いて首を横に振った。
「それはいいよ。花奈も頑固者だからね・・・どう騙して連れて行くか・・・・・・」
ちゃんとオレがいれば大丈夫ですよ」
 景時が請け負うと、雅幸が笑いを零す。
が怒るだろう、それじゃ。せっかく景時君と出かける計画を立てているのにと」
「親子が分かり合えないのは駄目ですよ。それに、ちゃんは太陽さんですから」
 景時が雅幸の目を見た。
「騙すのではなく、朝ご飯を食べながら決めませんか?そろそろちゃんがお腹が
空いたと言い出しそうなんです。起きてから何も食べていないですし。新幹線で何か
食べるって言っていたのに寝てましたから」
 以外は軽くお茶を飲んだりしたが、は着く寸前まで眠っていたのだ。
「・・・・・・朝粥を予約しようか。電話をしてみるよ」
 携帯を片手に、雅幸がその場を離れた。

「ね、景時さん。どこへ行こうか〜?でもね、私お腹空いちゃったから、どこか近くの
カフェでご飯してからでいい?」
 が景時の所へ小走りに近づき、景時の片手を取って大きく振る。
「あ〜っと。今ね、お父さんが朝粥のお店を予約してくれているところなんだよね・・・・・・」
「えっ?!パパたちと一緒?」
 の手が止まった。
「お腹空いたでしょ?」
「それはそうだけど・・・・・・一緒なの?」
 が振り返って遅れて歩いて来た花奈を見る。
「いいのよ、二人で行って来て。パパには私から言うから」
「んっと・・・・・・」
 首を戻して景時を見上げると、景時が首を軽く傾けた。
「お粥美味しいよ?きっと」
 景時と手を繋いだまましばしが考え込む。
「うぅ・・・・・・一緒?」
「どうしたの?何か駄目・・・・・・?」
 は景時の目を見つめると、花奈へ、
「ママ!ちょっとここでパパを待ってて!景時さんは、こっち」
 ぐいぐいと景時を引っ張り、花奈から距離を置いた。



「景時さん、何か隠してる!」
 開口一番、に指摘され苦笑いの景時。
「・・・わかっちゃった?お父さんがね、この後お母さんの実家に行くつもりらしいんだ」
「え・・・・・・」
 有川家で初めて聞いた話を思い出す。
(ママ、勘当されちゃったって言ってた・・・・・・)
「オレじゃ頼りにならないかもしれないけど。でもさ、何かしたいと思っていてもきっかけが
必要な事もあると思うんだ。ほら、オレにはちゃんが居てくれたからっていうか、あの
時、嘘がバレちゃったって言うか・・・その・・・・・・うわぁ!!!」
 話の途中でに飛びつかれ、景時大慌て。
「なっ、どっ、どうしたの!?」
「景時さん、格好いい!そうだよね、そうしよ。朝ご飯行こう?パパが連れて行ってくれる
とこならね、美味しいから」
 に抱きつかれ、上目遣いで見上げられている景時。
「あ、あの・・・・・・」
「景時さん、小さくなって!」
 景時が前屈みになると、頬にからのキス。
ちゃん・・・・・・」
 の唇が触れだ箇所を手で触れてみる。
「えへへ。パパが来ちゃう。行こ!」
 ぼんやりしている景時の手をが引いて、花奈の待つ場所へ戻った。



「・・・・・・、何してるんだい?」
 戻ってきていた雅幸に尋ねられ、が景時を振り返る。
「えっと・・・・・・秘密だよね、景時さん!」
 頬に手を添えたまま立っている景時。雅幸が景時の腕を掴み、頬から離させて元に戻す。
「・・・なるほど。忙しかったようだね」
「えっ?!」
 が雅幸と同じく、景時の腕を取ると、そこにあるものは───
「や、やだ。色つきリップだった!」
 景時の頬を指で擦るの唇から移ったと思われる痕は無くなった。
「それで?朝ご飯はお粥でいいのかな?」
 雅幸がの額を指でつついた。
「パパの意地悪っ!普通見ないフリするものだよ。たくさん食べてやるっ」
 雅幸へ向かって舌を出すと、しっかり景時と手を繋ぐ
「花奈。はたくさん食べるそうだよ?あんなによく眠っていたのにねぇ」
 行き先を告げて先にタクシーへ乗り込む雅幸。
「パパったら。でも、見ないフリすると景時さんはず〜っとそのまま歩くようだったわよね?」
「いいのっ!景時さんは私のって見張っておかないと心配なのっ」
 、ひとり大慌ての中、一同は朝食を食べるべく移動した。





「嫌よ。だって、結婚の時も、が生まれるって時も玄関で閉め出しだったじゃない」
 個室を用意してもらったお粥の朝食も終わろうという時に、雅幸が話しを切り出した事への
花奈の返答は否だった。
「もう、いいじゃないの。今回は、雅幸さんのお父様とお母様の所へ行くんでしょう?」
 雅幸も怯む程の花奈の怒りぶりに、景時とは顔を見合わせた。
「あの・・・・・・差し出がましいとは思うんですけど・・・・・・オレ・・・たくさんの人にちゃんとの
事をきちんと認めてもらいたいなぁ〜って考えていたんです」
「そうだよ、ママ。二回くらいで諦めてたら、なぁ〜んにも変わらないよ?私なんてね、景時さん
に何回拒否られたか、数えきれないよ!」
 景時の顔が泣きそうなものに変わった。
「だ、だって・・・あれはちゃんを巻き込みたくないなぁ〜っていうか。その・・・綺麗なモノを
汚いモノに染めたくなかったっていうか・・・・・・オレなんか・・・・・・」
 がぺしりと景時の額を軽く叩いた。
「景時さん?私は景時さんといても穢れたりしないし。今はもうそんな事思ってないよね?」
 膝立ちのに睨まれ、真っ赤になって景時が俯いた。
「う、うん。その・・・ちゃんとず〜っと居たいからこっちの世界に来たわけで・・・・・・その、
オレも変わろうかな〜って思ってて。で、ですね!」
 突然、景時が顔を上げて花奈を見た。
「人の気持ちって、時間とともに変われるんですよ。それは、変わって欲しくない場合もあるけど、
良い方へ変わろうっていうのはいい事じゃないかなって!オレって、こんなに前向きな人間じゃ
なかったんですけど。ちゃんといたいから、変わろうって!」
 が景時の手に手を添えて、その肩へ寄りかかった。
「ね〜?ママとパパにまだ全部話してないけどね。酷かったんだよ〜。オレは相応しくないだの
逃げ回るから。もうね、毎日追い掛け回したの。格好イイ自覚ないから大変だったよ〜。それに、
私も意地になっててね、景時さんから『好き』って言ってもらえるまで追い掛け回そうって」
 雅幸が堪えきれなくなって笑い出す。
「・・・すまなかったね、景時君。娘が大分ご迷惑をおかけしたようで・・・・・・本当に王子様を引き
ずって来るとはねぇ・・・・・・」
「いえ・・・オレがはっきり言えなかったのが悪くてですね・・・・・・」
 景時がまた俯いた。
「ね〜?ママなんてさ、まだ数回でしょ?私なんて、朝から晩まで毎日粘ったんだよ?」
 の態度に、いよいよ花奈も笑い出した。
「誰に似たのかしら?ほんと、あきらめが悪い子ねぇ?」
「悪くないもん!やって駄目だったら、すっぱりちゃんとあきらめいいもん!」
 雅幸と花奈が顔を見合わせて溜め息を吐いた。
「・・・・・・雅幸さん・・・は、こっそり諦め悪いわよね。顔では平静ぶって」
「それをいうなら、花奈もだと思うけどね」
 二人はを見ると、再び溜め息を吐いた。
「・・・ちょっと、その態度!可愛い一人娘に対する態度なのかなぁ〜」
 不満げに唇を尖らせる
「まあ・・・気持ちの上ではもう嫁に出しているから。娘と言われてもねぇ?」
「いいよ、もう。パパなんて知らない!景時さんがいるからいいも〜〜んだ!」
 
 雅幸との遣り取りを見ていた花奈。
(・・・もう一度だけ、頑張ろうかしら)
 花奈が景時の方へ視線を移すと、黙って景時に頷かれた。
(ありがとう、景時さん。を大切にしてくれて、私たちまで・・・・・・)

「こんなにお転婆で、我侭で、どうして向こうで皆様のお役に立てたんだか・・・・・・」
「べ〜だ!最初はこっちへ帰りたくてだけど。途中からは景時さんと居たくて頑張ってたんだもん。
いいでしょぉ〜だ」
「まったく困った娘だねぇ、すまないね。景時君にもご家族にもご迷惑ばかり・・・・・・」
「いいのっ!景時さんのお母様には、真っ先にお転婆見られちゃったし。皆知ってるもん」
 どこから話が脱線したのか、雅幸との言い合いになっていた。
 雅幸は面白がっているだけなので、喧嘩には至らない。

ちゃん!」
 景時が手を広げて待ち受ける。
「えっと・・・・・・うん」
 が景時に抱きついた。
「ふわ〜〜、落ち着いた。あれれ?何の話してたんだっけ?」
 雅幸との言い合いは、花奈が考える時間をとるのにいいと放っておいたのだ。
 決心がついた様子を見ていた景時が止めに入った。

「ごめんなさいね〜、景時さん。私、行ってみるわ」
「花奈・・・・・・」
 雅幸が花奈の手を取る。
「そうよね、このままじゃ・・・・・・今回駄目なら、次は孫を連れてでも頑張るし」
 花奈がにウインクした。
「ママ〜、よかった!・・・って、孫?!」
「そ〜よ。あなた達二人の子供は、私たちの孫ですものね」
 真っ赤になったが景時にしがみついて顔を隠した。

「あ〜っと、その・・・オレたちに子供が出来たら、お二人の孫っていうのは事実だし・・・・・・」
 の背を撫でる景時。
「今回はまだだったけど。残念だわ〜、学生結婚も有りだったかもねぇ?」
 花奈の言葉で、途端にが振り返る。
「パパもママも嫌い!たくさん生んで、育児手伝ってもらうんだから。覚悟してっ」
 景時は銅像のように動かなくなっていた。
「それじゃあ、景時くんに頑張ってもらうとして・・・・・・神社は年末から忙しいからね。早めにここを
出ようか」
 雅幸はさっさと出る用意をして、どこかへ電話をかけていた。

 言ってから、またも発言に反省する
「その・・・景時さん?あれはね、言葉の綾っていうか・・・別に深い意味は無いっていうか・・・・・・」
「う、うん。大丈夫。オレ、毎日頑張れるし・・・・・・たくさん・・・だもんね、うん」
「そ、そうじゃなくてね・・・・・・」

 あまりにも可愛らしい景時との遣り取りに、花奈も少しだけ気を利かせて先に行く。

「ん?花奈はまだ部屋にいればよかったのに。レンタカーをこちらへ回してもらってるんだよ」
 部屋の外では、会計を済ませた雅幸がレンタカーの到着待ちをしていた。
「あなたが変な事を言うから・・・・・・景時さんが頑張る話になっちゃって。が慌ててるわ」
「おや、おや。早く孫の顔を見たいと言っていたのは花奈だよ?」
 車の到着を知らせる仲居に軽く手を上げて了承を合図する。
「うふふ。あの二人を見ていると、まだまだ楽しい事が起きそう」
「そうだね。ただし、少々のドタバタは覚悟しないといけなさそうだ」
「少しで済むかしら?」
 雅幸が二人がいるであろう方向へ視線を移す。
「・・・まあ、少しじゃなくても。楽しければいいだろう。・・・花奈が決心してくれて嬉しいよ」
「だって、景時さんが・・・・・・それに、娘に教えられちゃって」

「パパ〜、何で行くの?」
 遅れて部屋から出てきたと景時を雅幸が振り返る。
「レンタカーだよ。ドライブしながら行こうか」
「は〜い!それなら楽だね」
 が景時に耳打ちする。

(ね〜?パパたちも二人なら手、繋いでたよ?だから、後は別行動しようね)

 景時も気づいていた。雅幸と花奈は何かを決心したのだ。

(これからは、普段オレたちは二人なんだから。別を意識しなくてもいいんじゃないかな?)

 景時もへ耳打ち。が景時を見上げた。
「・・・・・・いいの?」
「いいよ、もちろん」
「景時さんって・・・・・・、不思議だなぁ」
 心底感心したは、景時の優しさに甘えることにした。
 両親を二人にしたいのもあるが、が両親と旅行出来る機会は今後減るだろう。
 生活を別にするとは、そういう事なのだと頭ではわかっているつもりだった。
「ん〜?」
「何でもない!夕飯は一緒でもいっかなって」
 車に乗ったので、この会話はここで途絶えた。





「パパぁ〜、まだ〜?」
 いよいよ見える景色は畑と木々ばかりになってしまった。
 正直、夜は来たくないと思わせるくらいの山奥。
「もう少しなんだけどね」
 花奈が案内せずとも、道を覚えているらしい雅幸。
ちゃん・・・この辺りって、リズ先生の庵があった辺りに似てるね」
 景時の言葉で、が車窓にへばりついた。
「・・・・・・そうだ、結界があったトコだ。雪が残ってるよ?外は寒そうだね」
 花奈だけが会話に参加しないまま、目的地である神社へたどり着いた。



 四人が車から降りると、初めて花奈が口を開いた。
「・・・着いちゃった・・・わね?この前来たのはいつだったかしら」
が生まれてからだったし、十年になるかな」
 鳥居の前に立ちすくむ両親を、少し距離を置いて景時とが見つめる。

「・・・この山、やっぱりそうみたいだね」
「うん。やっぱり関係ありそう〜〜〜。それに、おじいちゃん、おばあちゃんと初対面!」
 も少し緊張しているらしく、景時の手を離さない。
「ここでなら・・・陰陽術使えそうかも〜〜〜」
 木々は薄っすら雪化粧。山の霊気が満ちる、音の無い世界。
「んっ!気合入ったかも」
「あはは。足元滑るから気をつけようね」
 が握りこぶしを作る姿を頼もしく思うが、雪道は力を入れて歩くと滑る。
 雅幸と花奈を追いかけるように、景時とも鳥居を潜った。



 社務所のような場所で挨拶をする花奈。巫女装束の人物は、働いている人のようだ。
 そのまま遣り取りを眺める景時と
 境内からみえる山が、なんとも懐かしい気持ちを景時に思い起こさせる。
(大船にとか言っちゃったんだよね〜、あの時は・・・さ)
 も同じ事を考えていたのか、くすくすと楽しそうに笑っていた。

「花奈・・・・・・」
「お母さん・・・・・・」
 奥から出てきた人物が、どうやら花奈の母のようだった。
「お父さんは・・・ご挨拶に出かけているよ。この辺りじゃ、近所の人しか来ないから・・・・・・」
 花奈の手を取って、涙を流す雪子。
「・・・お母さん、今日はも居るの。だから・・・・・・」
 雪子は首を横に振る。
「お父さんがね・・・居ないときに上げたら益々怒るだろうよ。ごめんなさいねぇ、雅幸さんも
来てくれたのに・・・・・・」
 花奈の手を離すと、雅幸へ向かって頭を下げる雪子。
「いえ・・・その・・・責任は私に・・・・・・」
 ひとり娘を嫁にもらってしまったのだ。
 神社の後継者の事を考えれば、婿に入るべきだっただろうとの自責の念が無いわけでは
なかった。

「ね、何だかおじいちゃんが居なくて無理っポイね。だったら、お参りしてこ?」
 中へ入れない事を悟ると、が提案する。
「・・・そうだな。お母さん、の婚約者の梶原さんです」
 言葉も無く雪子はを抱き締めた。
「えっと・・・初めまして。おばあちゃん」
 を離さない雪子に花奈が声をかけた。
「お母さん。お参りして、少し待ってもお父さんが戻らなかったら、また日を改めて来るから。
色々悪かったとは思ってるけど・・・・・・でも。後悔してないの」
 雪子はの手を数度撫でてから離すと、
「ゆっくりお参りしておいで。ご挨拶だけで帰ってくるはずだから・・・・・・」
「は〜い!じゃ、行ってくるね」
 手を振るたちをそのまま見送った。
 


 四人はさらに石段を上る。
「本殿はこの上なの。は滑らないようにね」
「むぅ。ママまで〜。大丈夫だよ、景時さんと居るんだし」
 雪に一番慣れていないのは
 雅幸も花奈も京都の雪は幼い頃から経験している。
 景時に至っては、もっと何もない時代の雪を知っていた。

「思ったより・・・高い・・・ココ・・・・・・」
 ひとり息を切らせたがようやく顔を上げて景色を見回すと、展望できる柵ギリギリに立つ。
「わ・・・・・・」
 山の神気がたちを受け入れた。雪が止み、視界が開ける。
「もしかして・・・ここだけ降ってない・・・とか?」
「・・・みたいだね」
 景時にも気の流れが見えている。
(これは・・・来るべくして来た感じだな・・・・・・ね?リズ先生)
 ここには存在しない八葉のひとりを思い浮かべた。

 景時の予想通り、神社の由来は龍神と鬼に起因していた。

 『村の危機を救いし龍神と龍神の神子。その八葉のひとりが近くに住み着き村を支え続けた。
 彼の者、姿は鬼なり───』

「これって・・・リズ先生?」
「かな〜。リズ先生の子孫か、先代かはわからないけど。リズ先生はさ、元々能力者だったから
迫害を受けたんだし。力を正しい事に使ったなら・・・・・・村人たちとも仲良く暮らせたんじゃないか
な。龍神の神子のおかげで」
「すっごい味方だね!」
 が由来の掲示板から、展望場所へ戻り両手を広げて立つ。

(戻ってきたよ───だから───)

 木々が、風が、大気がの呼びかけに応えた。
 雪が舞い上がり、本殿を包むと山へと消えて行く。

「きっかけって・・・こういう事なのかも」
 が隣に立つ景時を見上げる。
「お参りしたら、下へ戻ろう。たぶん・・・・・・帰ってきていらっしゃるよ」
「うん!リズ先生にお参りぃ。リズ先生を祀ってるんだもんね〜〜〜」



 お参りを済ませると、山に今一度挨拶をしてから石段を降りる。



 世界は繋がっている───
 





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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→現代へ

 あとがき:全部まとめちゃう目論見アリ(笑)     (2005.8.21サイト掲載)




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