クリスマスには(後編) 「日本では、自分を謙遜するのが美徳という文化があるんだけどね」 雅幸の話は、何故かその様な切り出しだった。 「私はね、何にでも“可能性”があると思っているんだよ。こういうとご都合主義の様にとられても 仕方ないんだが。やってみないと結論は出せないと思っている。もちろん、努力しただけで、世界 記録を残せるほど、誰もが足が速くなるとは思っていない。しかし、少なくとも、今の自分よりは前に 進めていると、そう思うんだ」 景時の脳裏を、の言葉が掠めた。 毎日剣の練習をし、手のひらから血が出ているを見かねて声をかけたのだ。 「そんなに頑張らなくても・・・もしも君が花断ちを出来なくても、誰も悪くは言わないよ?」 しかし、はケロリとした表情で景時に言い返したのだ。 「まだちょこっとしか修行してないですよ?自分で納得してないし。まだわからないじゃないですか」 続いて、こうも言った。 「待っててください!時間はかかるかもだけど、出来ちゃったら九郎さんもビックリですから」 「には、そういう気持ちが大切だと教えたつもりだよ。まあ、どちらかといえば花奈に似て、物事の本質を見て いるようなところがあるけれどね。ただ、出来た事は堂々と出来たと言っていいと思うし。自分を正しく評価できる 目が一番大切だと、そう思うよ」 景時が大きく頷く。 「そう・・・ですね。ちゃんは、まっすくで眩しいです」 「そうかい?そう思ってくれているなら嬉しいな。じゃ、はどうして景時君がよかったんだろうね?」 今度は、目を見開いたまま景時が固まった。 (全部とは言われたけど・・・・・・どうしてとは考えなかった・・・・・・) 答えを探すべく、ひたすら自問自答を繰り返す。 「景時君は、もう少し自分を高く評価した方がいいと思うよ?はね、君の透明さに惹かれたんだと思うけどね」 「は?透明って・・・・・・」 思わぬ自分に対する評価に、景時の口からはそのままの言葉が繰り返された。 「透明はね、何色をも拒絶しているんだよ。白はね、染まるだろう?黒が多ければより黒に近く。白が多ければ灰色 かな。透明は染まれないんだ。どこにもないだろう?透明に染めるものは。ただ、時には光を通し、時には弾き返す。 水なんかが解りやすいかな。虹が・・・・・・水に光を当てると虹が見えるだろう?は、君といると虹が見られる事を 知ったんだ。そう思うんだけどね?ただ、透明は染まれない分、抱えるものが多すぎる。疲れたら、光にあたっても いいんだよ?あの子は、それを虹に変えられる。景時君だって、眩しいと言ってくれたじゃないか」 景時は、雅幸の第一印象を思い出した。雲のような人─── それは、光を調整できる事に、導ける事に他ならない。 花奈も、空気のようにやわらかだと、そう感じた。太陽の熱を調整する、大気。 (ちゃんが太陽だったのか・・・・・・) 「ちゃんが・・・彼女がオレのすべてで、大切なものです」 きっぱりと雅幸に告げる景時。満足そうに雅幸が頷いた。 「今までは、行成が羨ましくてね。ほら、息子が二人もいるだろう?家は頑張ってもだけだったんだ。花奈が、 予言を信じるなら息子が出来るんだからいいじゃないって言うから、私も信じてみようと思ったんだ」 景時は、試されていた事と、認められた事を悟った。 「オ、オレ・・・・・・」 「ああ、すまなかったね。試すような真似ばかりして。が選んだんだから間違いはないとは思うけど、他の八葉は ・・・先代の地白虎たちだが。食わせ者ばかりだったからねぇ」 景時の眉が寄せられる。 「性格がね、少々困った方々でね。何でも出来るのに、自分からは何もしない・・・といった感じかな?それでいて、奥方 を守ることにかけては天下一品だ」 「オレも。オレもちゃんを守ります!」 「・・・・・・参ったね。また困った人が増えたのかな?」 言葉と違って、雅幸は嬉しそうだった。 「だぁ〜れが困った人なのぉ?パパったら、景時さんイジメたらダメだってば!」 ソファー越しに景時の背中に抱きく。 「ごめんね、景時さん。何か飲む?何がいい?」 が景時を覗き込む。 「・・・・・・パパには聞いてくれないのかい?」 「いいの。パパなんて何でも。景時さんには・・・・・・玄米茶かな。美味しいよ?淹れてくるね」 が台所へ向かうと、入れ替わりに花奈がリビングへ入ってきた。 「あら。何もお出ししないで、ごめんなさいね。・・・・・・景時君って呼ぶの変かしら?」 今頃景時の呼び方について疑問を持った様子の花奈。 「あっ・・・と。その・・・何でもいいです」 花奈の首を傾げる様子をみて、慌てて景時が返事をする。 「私は景時君って呼びたいんだがなぁ?呼び捨ては少し抵抗があるよ」 「行成さんは呼び捨てなのに?景時君はダメなの?」 花奈が更に疑問を持ったようだ。 雅幸と花奈が、景時の呼び方について議論していると、お茶をお盆に乗せたが戻ってきた。 「・・・・・・二人とも、何してるの?景時さんをほったらかしで」 一番最初に景時へお茶を出す。そのまま自分のお茶をとって、さっさと景時の隣に座った。 残されたお茶を花奈が雅幸へ出すと、もうひとつをテーブルへ乗せてお盆を除けた。 「それがね、“景時君”って呼ぶのは失礼かしらって急に思っちゃって。パパもね、呼び捨ては抵抗があるっていうし」 「最悪にダメ。そんなの」 何故か景時ではなく、が返事をしている不思議な光景。 「そうはいってもなぁ?どうしたいんだい?」 「なんとなくしっくりこないのよね。“君”って。どうしてかしら?」 花奈にも理由がわからないらしい。しかし、呼び方に抵抗感はあるようだった。 「ママも“景時さん”にすれば?それならいいよ。いくらなんでも呼び捨ては私が嫌」 「あら。どうしてが嫌なの?だって、は呼び捨てして欲しいんでしょ?」 が真っ赤になって、両手を慌しく動かし始めた。 「だっ、その、それは・・・その・・・いいのっ!そのうちなんだから。ママ、秘密だよって言ったのにぃ〜」 そのまま景時の背中に顔を隠した。 「変な子ね〜?いいじゃないの」 「・・・二階で何を話していたんだい?」 雅幸がに問いかけた。 「な、何にも話してないもん。そ、それより。パパと景時さんはここで何話してたの?」 にしては上出来な切り替えし。ただ、雅幸が真実を話すわけも無く。 「そうだなぁ・・・景時君は透明な印象だねとか?」 「えっ?!パパもっ?パパもそう思う?!そうなの、透明なんだけど青色なの〜〜〜」 ソファーから滑り降りて、景時の膝に頭をのせる。 「えへへ〜。すごいなぁ、パパにはわかっちゃうんだね。景時さんって、空で海なんだよ」 の大絶賛に、景時の顔はこれ以上無理というくらい赤くなっていた。 「当たりのようだよ?景時君」 雅幸がにんまりと景時の方を見る。景時、顔を上げているのは不可能で、視線はの頭部へ。 「そうねぇ〜、景時さんは受け止めてくれそうよね、の我侭とか、我侭とか、我侭を」 花奈は、しっかりと確信をついた。 「・・・・・・今日はママまで意地悪だぁ」 が景時の膝に額をつけた。 「おい、おい。ママまでって事は、パパもみたいじゃないか?」 「そ〜だよ。パパは結構私に意地悪だよね」 雅幸が肩を竦めた。 「だ、そうだよ。景時君。我侭娘を返品しないでくれよ?」 「いえ、そんな。そのぅ・・・返品なんてありえないです・・・・・・」 照れる景時は、の頭を撫でる。が景時の膝を軽く叩いて返した。 「返品は困るけど、夕飯の支度は手伝って欲しいわね?こっちで食べてく?」 「人を我侭大魔神扱いして。酷いよ、もう!・・・・・・景時さん、家に帰ってがいいよね?」 が立ち上がって、景時の手を取った。 「オレは・・・何でもいいよ?」 「無理しなくていいんですよ〜?意地悪さんだもん、パパもママも」 が雅幸と花奈に向かって舌を出した。 「あはは!そんな事ないよ。じゃ、こちらで一緒にがいいな。オレはもう少しお父さんとお話したいしね」 「えっ?!ほんとに?無理してない?」 景時がに笑いかけた。 「どうみえる?ちゃんに嘘はつかないよ」 しばし見詰め合う二人。どうやら無理しているようではなさそうだった。 「・・・・・・わかった。じゃ、ママ手伝うね!景時さんの好きそうなモノたくさん作ろ〜よ」 「メニューはが決めなさい。そうねぇ・・・ひとつくらいパパの好きなものもいいわよね?」 「パパはご飯が好きだからそれでいいんですぅ〜だ」 がさっさと台所へ向かう。 「ですって。パパはご飯山盛りだけみたいよ?」 花奈も笑いながら台所へ続いた。 「・・・・・・ご飯だけって事は無いだろうね?」 雅幸が景時の方を見た。 「あ〜、怒るとそういうのもアリです。オレ、よく叱られて・・・・・・ちゃんのお仕置きは効きますよ?」 「・・・・・・あまり有難くない情報だね、それは」 二人は楽しそうに笑いあい、またもなにやら話し込んでいた。 「じゃ〜ん!ママ直伝なの。今度家でも作るからね」 並べられたのは、小さな料理のオンパレード。中華なら点心とでもいうのだろうか。 「景時さんの味覚調査なんですって。の我侭に付き合ってあげてね?」 景時が何でも食べることは分かっている。しかし、好きなものを探し出すのは密かなる楽しみ。 の悪戯心満載の小出し料理だった。 「・・・どうにもバラバラなおかずだねぇ?和食だけど中華でフレンチでイタリアンのような・・・・・・」 「創作料理って言うんだよ。ベースはママに習ってるんだから、味は大丈夫だよ・・・・・・たぶん」 雅幸に言い返すも、最後の方は語尾が小さくなっていた。 しかし、ひとつの皿に綺麗に並べられた料理は、目にも楽しかった。 「う〜ん。崩しちゃったらもったいないくらいの色あわせだね?」 「食べなきゃもったいないんだよ。ね!ママ」 と花奈も食卓に着いた。 各々箸を動かし始める。だけは、視線を景時から離さない。 「あの・・・そう見つめられると・・・・・・」 「うん。でも、それが美味しそうって思うから最初なんだよね?」 「え〜っと、何かな〜と思って・・・かな?」 の首が項垂れた。 「いいや。減り具合で考えるもん。たくさん食べてね?」 大人しくも食事を始める。雅幸と花奈は、景時とのやり取りをみて微笑んでいた。 食後にのんびりリビングで寛ぐ。時計はもう二十時を過ぎていた。 「そろそろ送ろうか。今日は寒いから・・・・・・」 「パパって、車嫌いなのかと思ってた」 が立ち上がってカーテンの隙間から外を覗く。 「いや?乗る機会がないだけで、嫌いではないよ」 が振り返る。 「雪かも・・・・・・」 「おや。それじゃ早くしないといけないかな」 雅幸が立ち上がると、花奈が雅幸の手を引いた。 「ドライブしましょうよ?たちをさっさと置いてきて!」 「・・・・・・ママ。なんかヒドイよ、ソレ」 いかにも邪魔扱いされ、拗ね気味の。 「まあ、景時君とにはとっておきのプレゼントをあげるから、それで許して欲しいな」 雅幸が隣の部屋へと歩き出すと、花奈も立ち上がる。 「ママもコートとってこなきゃ。久しぶりにパパとデートだわ〜」 景時と自分のコートを取り、ソファーに戻る。 「ヒドイよね、私のコト、邪魔者扱いだよ?」 景時の肩に寄りかかると、景時が笑った。 「でも・・・ほら。オレも二人で雪見たいな〜、なんて。ベランダとかでさ。どうかな?」 「うん!それいい。寒くなったら家に入ればいいもんね」 すっかり機嫌が直った。そこへ雅幸が戻ってきた。 「これが秘密の扉の鍵。種明かしは、こうだ」 エレベーターの脇に扉がある。そこの鍵らしい。雅幸が書いたらしいメモによればだが。 「・・・パパ、何これ」 「ん?開ければわかるよ。最後のとっておきのプレゼントだ。丁度雪だしね」 が景時をみれば、景時も分からないらしい。黙って首が横に振られた。 「ん、ありがと。じゃ、さっさと送って落として下さい」 が立ち上がって、雅幸に一礼した。 「あはは。そうだね、さっさとお邪魔虫さん達を落としていくとしようか」 軽くの頭を叩く雅幸。も嬉しそうにその手に触れて笑った。 うっすらと雪化粧の街並みを抜け、マンションの地下駐車場へと車が着く。 「そうそう。景時君の車はあれだよ。小さくて、すまないね。そのうちも乗るかもしれないと思った ものだから」 駐車場の片隅に銀色の小さなワーゲン。雅幸と行成からの贈り物だ。 「えっと・・・大きさなんて問題ないです。十分練習してからしか、ちゃんを乗せないようにしますし」 が教習所へ行く前に、を乗せる可能性の方が高い。 腕前が上がってからしか、を同乗させるつもりが無いことを告げる景時。 「そう言わずに。隣にいれば・・・あまり役立ちそうじゃないな、は。ま、退屈はしないだろうね」 が雅幸の背中を叩いた。 「パパ〜?もう、さっさと帰って」 ぐいぐいと運転席へ雅幸を押し込め、車のドア閉める。 「おやすみっ!今日はありがと」 「ああ。おやすみ」 雅幸の車が出て行くのを、景時とで見送る。 「ね、この鍵早く使ってみよ?」 が待ちきれないといった様子でエレベーターのボタンを押す。 「上がってすぐ・・・だよね?」 「あ、そっか。このまま行ったらだめかなぁ。いいよね?」 足踏みしそうな勢いの。ようやく七階へ着くと、玄関とは逆の方向を向く。 「早く、早く。行こ?」 二人でエレベーターの脇に立つと、進行方向とは逆だったため、今まで扉に気づかなかった事に気づく。 言われてみれば、非常口の扉とは別にもうひとつ扉がある。壁と同化してしまっている謎の扉。 「景時さん、開けて〜」 「うん」 少し重いその扉を開けると、階段が上へと続いていた。 「・・・・・・結局、非常口って事じゃ・・・違うよね?」 「上か・・・・・・ちゃん、屋上だ」 「あ!」 そう多くは無い階段を、景時が先に上ると、また扉。最後の扉も同じ鍵だった。 扉の向こうは、屋上庭園になっていた。 「わ・・・・・・」 よく手入れされている木々に、うっすらと雪化粧。温室兼の小さな建物は、ガラス張りだった。 「公園・・・みたいだよ?そっか、ここで雪見しなさいってことなんだ〜」 が両手を空へ伸ばす。 「参ったなぁ・・・そうか。ちゃんのためのって・・・・・・」 単にが暮らすための場所があるという意味だと思っていたが、今後が生活するのに困らない ためのマンションという意味だったのかと気づく。 恐らく、名義であろうマンションは、支払う経費があろうとも階下の住人からの賃貸料収入がある。 そして、階下の住人たちの身元はしっかりしているのだろう。あの雅幸が入居を許可したのだ。 (あ〜〜〜、オレ、大見栄きってくるんじゃなかった・・・・・・) を守ると宣言してものの、またも雅幸の手のひらの上。 雅幸に言わせれば、先代の八葉達は食わせ者との事だが、とても景時が並べるとは思えない。 (・・・・・・ヤバ・・・落ち込んできた・・・・・・) 項垂れる景時の傍に、が駆け寄ってきた。 「ね、あっち。あの中入ってみよ?」 「う、うん・・・・・・」 に手を引かれるままに、温室の中へ入ればそこは別世界。 気温はコートを脱ぐほどではない程度のもので、クリスマスローズが並んでいる。 テーブルの上に、小さなポインセチアの鉢があり、その赤だけがとても印象的な空間だった。 「わわわっ!なんだかオシャレだぁ。これってパパのセンスじゃないと思うんだけどなぁ〜」 両手でポインセチアの鉢を持ち上げ、が首を傾げる。 「たぶん・・・田中さんだね。それに、彼女は下の階に住んでそうだ・・・・・・」 部屋の間取りを知っていた事も、雅幸に信頼されているところから考えれば納得である。 「ええっ?!そうなの?こんなのまで出来ちゃう人なんだ〜」 「いや、彼女がしたわけじゃなくて。管理・・・とか?そういうことだと思うけど・・・ね」 「そっかぁ〜。うん、それなら納得。パパには無理!」 がまた元通りに鉢植えを置いた。 「景時さぁ〜ん。どうしました?」 考え事で口を開かないというより、ただぼんやりしている様子の景時の手を引いてベンチに座る。 「えっ?あ〜〜〜」 「ちゃんと話そうって、決めましたよね?」 座ったままで景時の左手と手を繋いだ。そのまま景時に寄りかかった。 「え〜っと・・・オレね、お父さんにちゃんを守りますって宣言しちゃって、お父さんに比べたら・・・・・・」 「ほんとに?嬉しいなぁ〜。すっごく大切にします宣言だよね!」 続きを聞かずに、景時を見上げる。 「・・・いや。なんか、何も出来ていないのに、何言っちゃったんだろうね〜とか・・・・・・」 「嬉しかったのにぃ。いいんだよ、パパなんておじさんなんだから。パパの年までに景時さんも家族を守れる ようになればいいんだよ?えっと・・・パパいくつだっけ。よんじゅう・・・四十八だ!あと二十年もあるよ?十分 勝てちゃうし。それに・・・私がドキドキするのは景時さんだけなんだから。それじゃダメ〜?」 景時が大きな溜め息を吐いた後、顔を上げて突然笑い出した。 (そうだね、勝負はまだついてない!) 「へ?景時さん?」 景時の手を引いて、が注意をひきつける。 「・・・あ、ごめっ。その・・・家族計画まであるんだね、ちゃんは」 「うん?あるよ。格好いいパパと可愛いママになる予定なんだけど。男の子と女の子両方欲しいよねっ」 またも笑い出す景時。 「そうかぁ、頑張らないといけないね!それはそれとして、今日はピンクのあれにして〜?」 「あれ〜?・・・・・・景時さんっ!もぉ〜、すぐそっちに話がいくぅ」 景時の話の方向に文句をつける。 「だってさ、ほら。向こうでは小袖だったけど。小袖もそりゃあそれなりに・・・でも別に見えないし・・・じゃなくて! とにかく、ちゃんが可愛くてどうしよ〜って、こう・・・手がね?そう、あれだ。ドキドキなんだよね〜」 いつになく饒舌に言い訳が並べ立てられた。 「・・・景時さん」 が冷たい視線を景時に向ける。 「だ、だってさ。その、ふわふわ〜って、柔らか〜っていうか。その・・・見えそうで見えなくてこう・・・なんだっけ?」 ひたすらにしゃべり続ける景時。要約すれば、“チラリズム”の話。 「・・・景時さん」 抑揚の無い声で景時の名前が呼ばれる。 「ん〜!あれを着たちゃんは、とっても可愛いのでぎゅっさせて下さいっ!」 あれを着ていなくても、そのままは景時に抱き締められた。 「もぉ〜、苦しいよ。白いコートじゃ可愛くないんでしょっ」 わざと景時に拗ねてみせる。 「違う、違う!ちゃんなら、なんでも可愛いのっ。と、いうわけで、家に帰ろう?ここ、寒いよ」 を両手で拘束したまま景時が立ち上がる。の両足は地面についていなかった。 「・・・ちゃんと褒めて?」 を下ろすと、景時が真面目な顔になる。 「ちゃんは可愛いです。それと・・・ちゃんが大好きです」 が景時に抱きついた。 「えへへ。景時さん、大好きだよ。お家に帰ろうね。先に暖房つけてからここへ来ればよかったね」 「大丈夫。部屋が暖かくなるまで、ちゃんをぎゅってしてるから。どう?」 「んっ、そうしよ」 二人は手を繋いで、階段を下りる。秘密の屋上は、秘密のまま。春には花が咲き乱れる事だろう。 「晴れたら屋上ピクニックとかいいよね?皆で日向ぼっこするの〜。白龍とか、お昼寝しそう」 「九郎とリズ先生が屋上で稽古しだしたら危ないよね〜。オレ、巻き添え嫌だな・・・・・・」 が笑う。九郎とリズヴァーンは、確かに稽古しそうだ。 「弁慶さんが必要そうなハーブとか育てられたらいいね。あ、朔も庭に何か植えてた?!」 「傷薬になる薬草をね。どの家でも、自分で傷薬や火傷の薬くらいは作ってるんだ」 仲間が屋上に揃う光景を、二人は想像した。 「楽しそうだね・・・・・・」 を抱き締めてソファーに座る景時。 「うん。楽しいよ、きっと。向こうのお家の庭程はないけど、お庭があるなんて!そうだ、ココア入れてくる」 またもに逃げられる景時。 「あ〜・・・・・・。ま!じっとしていないのがちゃんらしいか」 部屋も段々と暖まってしまうだろう。景時は諦めてコートを脱いだ。 クリスマスには、驚きがいっぱい─── |
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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→現代へ
あとがき:冬になったら書き直ししそう(笑)今なんて、暑くて手を繋ぎたくないし(笑) (2005.7.27サイト掲載)