クリスマスには(前編)





 朝の気配で覚醒する景時。腕に重みと温かさを感じている。
(う〜ん。こうじゃないとねv)
 ここ数日、が隣にいなかったため眠りが中途半端だった。
 恐らくまだ眠っているだろうを起こさないよう、そろりと目を開く。
 時計を見たいところだが、動けばが起きてしまう。
 そのまま眠っているを観察し続けていた。



 の手が景時の肩を押した。そろそろ目覚めるらしい。
 朝に弱いが起きるまでの様子を眺めるのは、景時の楽しみの一つ。
 手を動かしながら、必死に目を開けようとする様は見ていて飽きない。
「ぅぅぅ・・・・・・も、朝だぁ・・・・・・」
 両腕を突っ張り、必死に上体を起こそうとしている
 ようやく掴んだ時計を見て、一気に脱力していた。
「あ〜、寝坊しちゃった。・・・・・・景時さん、おはよぉ。寝坊しちゃった。ごめんね?」
 仰向けになった景時の上に乗る
「おはよ。別に寝坊じゃないよね?ちゃん、今日から冬休みでしょ?」
「ダメだよ。休みの間だけでも奥さんらしく、ちゃんとしたかったのにぃ・・・・・・」
 パタパタと足を動かしながら、景時の胸元で顔を伏せている
 景時が丁寧に手で髪を梳くと、ようやくの顔が拝めた。
「でもさ、オレも久しぶりにゆっくり寝られたし。寝坊じゃな〜いよ?」
 の頬がピクリとなり、足の動きが止まった。

 しばらくの間の後、が景時の身体の脇に手を突っ張り上体を起こす。
 景時の顔を覗き込みながら、静かに言葉を発した。
「・・・・・・久しぶりって?」
 景時がしまったと思った時には、もう遅かった。
 に自らよく眠れていなかった事をばらしてしまったのだ。
「い、いやぁ〜。あはは!その・・・一人だとね、つい。わかってるんだよ?でも、こう腕が軽いと目が覚め
ちゃって。で、またちゃんが居ないんだと思って寝るっていうか、寝られないっていうか・・・・・・」
 景時の目の辺りをの手が覆った。
「もぉ!もう少しだけ景時さんは寝てて下さい。朝ご飯出来たら起こしに来るから」
 景時の目が閉じられたのを確認しての手が離される。
 途端に景時の目が開き、の身体は景時の腕に拘束された。
「・・・一人じゃ眠れないって言ったつもりなんだけど」
「・・・あ・・・・・・・・・・・・」
 ようやく景時の言いたいことを理解したの顔が赤くなる。
「だ、だって。ご飯作らなきゃだし、今日も片付けして。冬休みに出かける計画もちゃんと決めなきゃ・・・・・・」
「後少しならいいよね?そうだな・・・お昼前くらいまでならいいかな〜?」
 現在、八時半。は素早く本日のスケジュールを計算する。
「じゃ、十時までね?」
 景時から逃れてが仰向けになった。
「はい、抱っこしてあげるから寝て下さい」
 両手を広げて景時を呼ぶ
「え〜っと・・・オレ重いしさ・・・・・・」
 待たれても、を潰してしまいそうでその胸に身体を預けられないでいた。
「いいのっ!早くっ。じゃないと・・・二人で起きてお片づけだよ?」
 それでは折角の機会がふいになると、そろりとの胸に顔を乗せる。
「・・・重い?」
「へ〜きですよ。だから寝て?」
 に頭を撫でられながら目を閉じた。



 が眠ったのを見計らい、景時が起きあがる。
「ようやく寝てくれた・・・・・・」
 景時を撫でていた腕が止まるのを待っていたのだ。
「・・・目が覚めたら、怒るかな?」
 いつも通りに景時がを抱き締めて眠る体勢になる。
「うん。これが一番イイ。もう少しだけ・・・離れていた分いいよね・・・・・・」
 数日離れて眠った分を取り戻すべく、景時も休む。
 眠りはしないが、隣に存在を感じながらの休息を楽しんだ。



 そろそろ十時になろうかという頃。起こさなければが怒るのは目に見えている。
「もったいないなぁ〜。せっかくのちゃんの寝顔なのに・・・・・・」
 起こすつもりではなくの髪を梳いたのだが、そろそろ起き時だったのかが目覚めてしまった。
「あれ〜?私、寝ちゃってましたね。景時さん、寝られた?!」
「うん。ちゃんと居られなかった分、よぉ〜く休んだよ」
 の手が景時の頬に伸びる。
「よかったぁ。でも・・・これじゃいつもと同じになってるぅ」
 眠る前と自分の姿勢が違うことにが口を尖らせた。
「ご、ごめ〜んね?オレ、この姿勢が一番好きっていうか・・・・・・」
「・・・私って、景時さんの抱き枕みたいですね?」
「へ?」
 “抱き枕”とは?と思い、またも景時から疑問の言葉が出た。
「うふふ。いいのっ。景時さん専用だから」
 ベッドに正座したを眺める景時。
 やはりこの服は意味があるのだろうかと思うが、視覚に訴えるモノがあるのは確かだ。
「う〜ん。いい眺め」
 手を伸ばしての胸に触れる。
「・・・朝から何してるんですかっ!」
 ぺちりと手を叩き落とされた。
「じゃ、じゃあさ。お風呂!お風呂一緒に入ろ〜〜〜。すっきりしゃっきり一日を・・・・・・」
「景時さん、キャラ変わったぁ」
 が景時の手首を掴んで引っ張り、景時の上体を起こさせた。
「だっ、だってさ・・・・・・」
 “キャラ”の意味を深く理解していなくとも、景時の態度が変わったという事だというのは解る。
「嬉しいって意味ですよ?景時さんが思ったことをそのまんま言ってくれたから・・・・・・」
「じゃ、いいのっ?」
 景時の目が輝きだす。
(もぉ〜、ワンコみたいだよ。ダメだぁ〜〜〜)
 恥かしくないわけではないが、景時にここまで期待に満ちた目をされては拒否できない
「・・・・・・お風呂の用意してきますね」
「オレがするっ」
 飛び起きた景時が寝室から走り去った。
「・・・ほんとにワンコちゃんだよ。泡のお風呂にしてもらおっと」
 もベッドから起き上がった。



 朝から充実のバスタイムを過ごした景時の機嫌は振り切れんばかりの良さ。
 ご飯も勢いよく食べていた。
「景時さん、誰もとらないからもう少しゆっくりよく噛んで食べて?」
「んっ?うん!でもさ、美味しいからね・・・・・・ん」
 今日は注意を諦めた
 昨晩の事もあるし、食事にあまり神経を尖らせるのもと思ったからだ。
 美味しいといって食べてくれているのに、文句があるわけもなく、も嬉しい気持ちのまま食事を続けた。



 片付けもあらかた済ませ、二人でソファーに座り旅行の計画を立てる。
「えっとね、パパたちとはお泊り別がいいの。でも、挨拶?だけは行かなきゃいけないみたいだから」
 行き先は京都。できることなら、景時とて別行動がいい。
「でもさ、今から泊まる所とか予約出来るの?」
「・・・・・・パパに何とかしてもらう」
 素直に“使える物は何でも使う”作戦らしい。
 これには景時も苦笑い。何から何までというのは心苦しくもある。
「そう言わないでさ、ご両親と一緒でも・・・・・・」
「ダメっ。そうしたら、パパとママが二人になれないもん。きっとね、二人がいいんだよ、むこうも」
 さり気ないの気遣いでもあった。
 もともと両親は仲が良かったし、が居なければ二人で旅行宣言までされている。
 お互い、ここで親離れ、子離れというのもアリだと思うからだ。
「それならいいけど・・・・・・行きたい所とかあるの?」
 が持ってきた京都市内の地図を広げる。
 見覚えのある地形が描かれたそれは、また知らないものも記されている地図。
 将臣が持っていたのと同じであった。
「あのね、二人で行ったとこ。向こうとこっちじゃ違うけど、面影くらいあるし。たくさんデートしよ?」
 ソファーから滑り降りて、景時の膝の間に座り直したがお茶を一口飲んだ。
 ソファーに対してテーブルの高さが低いので、ラグ敷きの床に座った方が具合がいい。
 隣から自分の眼前へ移動したの髪に触れる景時。今はひとつに結ばれている。
「デートかぁ・・・・・・冬だからね。どこがいいのかな〜〜〜」
 雪景色の中、静かにいられる程冬の京都は暖かくない。
「えっとね、年末年始を向こうで過ごしたいの。だから、除夜の鐘きいて。初詣も!」
「・・・そんなに楽しみ?」
 を自分の膝の上に引き上げる景時。
「だ、だって。景時さんも着物で初詣しようよ」
 景時のシャツを掴んで力説するが可愛らしく、景時の顔も綻ぶ。
(そういうことね・・・別にオレの着物なんてどうでもいいのに・・・・・・)
「そうだね〜、ちゃんが着飾るのは嬉しいかな?オレなんてどうでもいいけど・・・・・・」
 の意図はわかっているが、とぼけて鼻先へキスをする景時。
「そんなんじゃなくて!もぉ〜〜〜。いいもん、そういう事をいう人には、お仕置。ぎゅ〜ってして!」
 どこが仕置きなのか?景時にすれば歓迎すべき事である。
 言われた通りにを抱き締めた。
「も、おしまい。今日はもうスキンシップはナシ〜〜〜」
 ひらりとが景時から離れて、飲みかけののマグカップだけを手に取る。
「えっ・・・えええっ?!」
 折角の二人きりのこの時間を、一方的に中断宣言されてしまった景時。
「景時さんがお風呂掃除当番だからね?泡したらね、ちゃんと掃除しないとカビになっちゃうんだから」
 景時に仕事の分担を告げると、がリビングを後にした。

「あ〜あ。だってさ、オレなんて何着てもいっしょだよ・・・・・・」
 そこで景時が自分の言葉に気づく。
「・・・また言っちゃった。直さなきゃね」
 が嫌がるもの。それは景時の“オレなんて”という言葉。
「そう、そう。直したら、もっと好きになってくれるよね」
 スキップしそうな勢いで風呂場へ向かう。
「綺麗にしたら、すっごい褒められて!今晩も一緒に入ってくれるかも〜」
 発想が幼稚園児並であるが、掃除すら楽しく出来るのならそれもアリだろう。
 何もかもが中心の景時だった。

 その頃の。しっかりと部屋で花奈と電話中。
「そうなの。お願いしてもい?うん!きっとね〜、すっごい格好いいよ。・・・・・・着付けは出来ないもん」
 電話で密談は続く。女同士、何を考えているのかは京都で判明する事になる。
 とにもかくにも、出発は二十九日。列車の手配から宿の手配まで、すべて取り決められた。
「クリスマスにはサンタさんがプレゼントくれるって本当だよね。景時さんと暮らせてね、嬉しいんだ」
 電話の向こうの母に、素直に気持ちを告げる
「そっか〜。うん、そうだよね。気をつける!後は〜?・・・いいや、この後行くし」
 出かける前の注意事項を言い渡されたらしい
「うん、ありがと。後ね、パパにもありがと〜って伝えてね?えっ?替わるの?」
 花奈と雅幸が電話を替わる。
「パパ?うん、ありがと。ちゃんとご飯も作ったんだよ。美味しいって食べてくれたの」
 恐らく、向こうでは雅幸の顔は崩れているだろう。可愛い娘にお礼を言われたのだから。
「・・・・・・全部じゃなければいいよ?そ、別行動しようよ。パパだって、ママと二人でデート出来るよ」
 家族と過ごす時間と、景時と過ごす時間と、きちんと取り決める
「うん。ありがと〜、パパ大好き!・・・パパ、仕事は〜?あ、そうか。土曜日だね」
 雅幸とも話しをして電話を切る。
「うふふ〜。景時さんに着物用意してもらえそう。そうだ、大きいバッグがないよ」
 景時の旅行用バッグが無い事に気づいた。

 が景時を探す。
「景時さ〜ん?お買い物行かなきゃなんだよ〜?」
 脱衣所を開ければ、全身びしょ濡れの景時。
「景時さんっ?!どうしちゃったの?」
 景時がシャツを脱ぎながらの方を振り返る。
「あはは〜。お風呂掃除張り切り過ぎちゃった。ピカピカだよ〜〜〜」
 に褒めて欲しいが、に触れるとが濡れてしまう。
 広げた両手が所在なさげな景時。
 が棚から新しいバスタオルを取り、景時の身体を拭き始める。
「もぉ。風邪引いちゃいますよ?早く着替えて!」
 景時の服を脱がせにかかる
「やっ、ちょっ、それは・・・・・・」
 すっかり脱がされてしまった景時は、バスタオル一枚の姿になってしまった。
「はい、これはお洗濯しちゃいますからね。早く着替えて〜?お買い物行きましょ」
「は、はい・・・・・・」
 褒めてもらえると思ったのに、当てが外れてションボリの景時。
 その上、バスタオル一枚の情けない姿である。
 項垂れたまま脱衣所を出ようとすると、背中からに抱きつかれた。
「景時さん、ありがと」
 現金なもので、とたんに頭に花が咲くほどの表情の変わり様。
「そ、そ、そんな事ないよ。家事は分担しないとね、うん。だから、今日もね・・・・・・」
 続きはに中断された。
「景時さ〜ん?毎日はダメですからねっ。今日は朝一緒にお風呂入ったでしょ〜?」
「・・・・・・だって。一緒にいたいもん」
 朔がいたならば、間違いなくツッコミ所であろう。
「“もん”じゃないでしょ。そうそう、京都へ行くのに買い物してこなきゃなんだよ?早く着替えて」
 に背中を押されながら脱衣所を出る景時。
「買い物〜?何かあったっけ?」
「あるんですっ!荷物を先に送っちゃお?年末の混んでる新幹線で、デカデカバッグもってなんて嫌だよ」
 急かされながらも、の張り切りようが可愛らしい。
「ん〜と・・・ご褒美ちょ〜だい」
 ここは駆け引きの為所と思いつく景時。
 景時の肩に両手をかけて背伸びする。景時も少し屈むと、のキスが頬へと贈られた。
「ね?早く買い物して、荷物詰めて。むこうの家に行ってまとめて送ってもらおうよ。私も着替えなきゃ」
 手を引かれて急かされる。
 どうやら、買い物と旅行の荷物の準備。さらに、の実家へ行くことになりそうだった。



 手を繋いで駅前へショッピングに出かける。
「どれがいいですか〜?こっちとか便利そう。ほら、出張とかでも使うかもだよ?」
 が楽しそうにバッグを手にとっては、また別のモノと品定め中。
「えっと、何でもいいんだけど。ちゃんのはいいの?」
「私のはあるもん。もったいないからいいの、あるもので」
 新居にかけた費用は物凄い金額であろう。その割りに、変なところで細かい
「そ?じゃ、こういうのとかは〜?」
 さり気なく先ほどから気になっていたバッグをに見せる。
 ふわふわの小さなそれは、に似合いそうだった。
「あ〜〜!そんな可愛いの見つけちゃダメですよ、欲しくなるから」
「じゃ、買おうよ?」
 目を瞑り、必死に我慢している様子のが面白い。そのまま待つことにした。
「・・・・・・やっぱりダメ!おば様にいただいたのあるし。贅沢禁止!」
 景時の手からバッグを奪い、棚へ戻す。置いてから、名残惜しそうに撫でた。
「しっかりさんだなぁ、ちゃんは」
「えへへ。家計を預かるんですからね!締めるところは締めないと。そうだ〜、家計簿つけなきゃかな」
 が景時を見上げる。景時にも、なんとなく意味はわかる。
「・・・・・・オレが働いてからにしない?今ってなんか、もう、全部頼りきりだし」
「そっか!そうですよね。景時さんに養ってもらうんだ〜、私。で、卒業したら共稼ぎ」
「ええっ?!ちゃん、働くの?」
 頭の中では“男女雇用機会均等法”なる文字が点滅している景時。
 女性も働くということはわかっているのだが。
「働くよ?しっかり社会に貢献しないと」
 家で景時を待ってくれると、勝手に決めていた。だが、にはの人生があるのだ。
(いつも一緒に居たいって。無理なのはわかってるのにね)
 京に居た時でも景時が働いており、と一日中一緒に居られたわけではない。
 ただ、毎日必ずが朝は送り出してくれ、帰りは出迎えてくれた。
(誰も居ない家に帰ることもあるってことか・・・・・・) 
 家族が居なくとも、誰かしか人が家に居た。誰も居ない場所へ帰った経験はなかった。
 考え込んでいる景時を、が見上げた。
「・・・景時・・・さん?」
「んっ?ああ、何でもない。ちゃんお勧めのそのバッグにしようかな」
 思考を中断して、会計へ向かった。
「どうしたのかな・・・・・・」
 ぽつりと呟く。景時の背中を見つめていた。



 急いで帰宅すると、景時の部屋で荷物を詰め始める。
「タオルとかはなくても平気で〜、着替えだけでOKですよっ」
 せっせとが荷物を詰め込む。景時は、なんとなく衣類をタンスから出すだけ。
「景時さ〜ん?着るものの組み合わせ考えて出してます?」
 の手が止まる。景時の顔が強張った。
「あ・・・その・・・・・・考えてませんでした」
 着物ではあまり考えられない事だったので、景時、大混乱。いかにも何か仕出かしそうな手つき。
 素早く景時の手から残りの洋服を奪う
「・・・そっか!じゃ、私考えちゃおっと」
 が服を並べ始める。上と下を並べては考えている様子。

(・・・・・・服って、あんまり楽じゃないかも)
 将臣曰く、慣れれば楽といっていたが、着ることは楽でも組み合わせは大変だ。
(あれだね、朔がよく帯どうしよ〜とか言ってたの、今ならわかるよ、うん)
 ようやく妹の苦労に気づいた景時。組み合わせとは、中々に難しい。
 にかまってもらえず、ふと視線を移せば、パジャマが目に入る。
ちゃん、これも〜?」
 が振り返る。
「あ、それは平気。向こうにあるんですよ?浴衣か、パジャマ。言えばパジャマ用意してくれますよ」
 また作業を続けそうになったの腕を、景時が掴む。
「・・・ちゃんのは?あれ持っていかないの?」
 の首が傾いた。
「あれって?」
 景時の顔が真っ赤になった。
「その・・・ひらひら可愛いの・・・・・・あれ・・・・・・」
 景時に負けないくらいの顔も赤くなった。
「やっ、その・・・景時さん?あれは・・・家でだけで・・・・・・お外では・・・・・・」
 視線はお互い、床しか見ていない。
「ででで、でも・・・あれがいいなぁ〜なんて・・・・・・あはは!」
 顔を上げた景時の顔は、茹蛸よりも赤かった。
「もぉ!じゃ・・・・・・持っていきますね?」
 が言ったと同時に、景時はの腕を掴んでの部屋へ向かう。

「ね、選んでもいい?たくさん箱に入ってたよね?」
「か、か、か、景時さんっ?!」
 今度はが慌てる番だった。
「だってさ〜、どれでも可愛いと思うけど。でも早く見たいのもあるかな〜とか」
 まだ部屋に置いたままの箱は目に付く。
 目聡く景時に見つけられ、期待に満ちた視線での方を振り返られた。
「・・・はぁ〜〜〜。いいですよ、開けても」
 餌を食べる許可を得た犬のように、景時は箱に飛びついた。

「これとか、これとか。あ〜、こっちも可愛い〜ね〜〜〜」
 景時、選べず床に色取り取りのベビードールが並ぶ。
 考えたくはないが、花奈と紫子も選べなかったとみえる。相当の枚数が詰め込まれていた。
(ママ、おば様・・・・・・まだこんなに入ってたのね)
 箱の大きさに対して、中身は小さいものばかり。二週間分は入っており、は頭を抱えた。
「うわぁ!」
 景時の手から宙へ舞う下着。
「どうしたの?景時さん」
「こ、これ・・・・・・」
 指差す先に、“いつ着るんだ?”と言いたい程のセクシーな下着がふわりと床に着地した。
(・・・・・・こういう事するのは)
 の頭の中で、雅幸の顔が浮かんだ。
(パパ〜!ママに変なこと言ったでしょ〜〜!)
 その機能を果たすのか疑問な程の布の量。最早、紐としか思えないモノだった。
「・・・・・・これは、しまいま・・・・・・」
 拾い上げて箱へしまおうとしたの腕を景時が掴む。
「・・・ね、これってどうなってるの?」
「どうにもなってませんっ!」
 箱の奥へ押し込める。
「ちぇ〜、残念。でもさ、オレね、これとこれとこれが可愛いなぁ〜と思うんだよね」
 景時が選んだ三枚は、色にしてピンクと白のものばかり。
(景時さんの私のイメージって、こうなんだぁ・・・・・・)
 景時の部屋で服を選んでいた自分と、景時の今の行動が重なり、が笑った。
「な、ちゃん?どうしたの〜?」
「ううん。同じだなって思ったんです」
 景時に着物を着せたかった、似合う服を選びまくった自分と。
「・・・同じぃ?」
「うん。私もね、景時さんにこれが似合うかな〜とか想像して服を選んだんだもん。同じだよ」
 景時の背中に飛びつく
「そ、そう?じゃあさ・・・・・・」
「この三枚だね。ちゃんとバッグに入れるからね」
 そう言われてのバッグをみても、殆どモノが入っている様子はなかった。
「・・・軽そうだね?」
「うん。あっちで入れるから。そうしたら、旅行から帰ってきたとき、家に服が来るもん」
 景時が笑い出す。
「そっか〜。楽して荷物がこっちに来るのか」
「そ〜。そのうち残り取りに行かなきゃって思ってたから。ラッキーって感じぃ」
 が景時の頬にキスして離れた。
「早く用意して、向こうへ置いてきちゃお?そしたら手ぶらで行けるんだよ、京都」
「待てよ〜、ってことは。この三枚は入れちゃダメ!早くみたいの選んだから。次のだな〜」
 景時の手が、しっかりとベビードールを仕分けし直す。
「・・・・・・もぉ。景時さんのえっち」
「えっち?かな???嫌〜?」
 心配そうにを見つめる景時。
「い、嫌じゃないけど・・・・・・その・・・恥かしいよ」
「ぜぇ〜んぜん恥かしくないし。そぉ〜だ。アレもオレの荷物に入れなきゃだね〜っと」
 景時がの部屋を出て行った。

「・・・アレって・・・・・・アレだよね。もぉ、景時さんたら」
 またも真っ赤になる
 景時が居なくなったので、再び箱から隠した下着を取り出してみる。
「こんなの一番奥に入れておくなんてぇ〜!すっごいスタイル良くないと無理だよぅ、こんなの」
 背中は紐しかない。表は辛うじて布が部分的にある。もうギリギリ隠してますとしか言いようが無い。
 素材を考えれば、まったく隠していないとも言える。
(リオのカーニバルじゃあるまいし・・・・・・)
 そうは言うものの、Tバックのソレを眺める。
(景時さん、喜ぶかな・・・・・・) 
 その下着は、の旅行バッグへとしまわれた。



 雅幸が二人を車で迎えに来た。
「ふ〜ん。いい感じの部屋になったね」
「でしょ〜!ありがとね、パパ。下の部屋はね、年明けになっちゃうみたいなんだ〜」
 年末、クリスマス前にたちの部屋が終わった方が奇跡である。
「じゃ、花奈が待ってるから、行こうか」
「うん」
 景時がと景時の荷物を持つその腕に、の手が添えられる。
「・・・・・・、パパはひとりかい?」
「えっ?じゃ、ママがいないから助手席に乗ってあげる」
 今まで雅幸と繋がれていたの手は、最早景時のものになっていた。
(まあ・・・仕方ないかな。景時君ならね)
 今となっては、景時の事も息子のように思っている雅幸。
 少々寂しい気はするが、それはそれで娘の成長の証。
 最後の贈り物を後で渡そうと心に決めて、花奈の待つ家へ向かった。
 


「あら、早かったのね」
「そっかな?ね、あった?でね、荷物持ってきたんだよ。それとね・・・・・・」
 家に着く早々、が花奈を質問攻め。二人は二階へと上がっていった。
「やれ、やれ。景時君は、もうお客様扱いはしてもらえなさそうだね?リビングヘ行こうか」
 肩を竦める雅幸に、景時が笑う。
「いえ。その・・・こういう方が気が楽っていうか・・・家族っぽくて」
 ワザとらしく、あれこれ世話を焼かれるよりも居心地のいい空気。
「そうかい?少し・・・話をしようか」
 雅幸がソファに腰掛けるのを見てから景時も座り、先に礼を述べる。
「その・・・お礼が遅くなってすいません。車まで・・・色々本当にありがとうございましたっ」
 景時が頭を下げるのを雅幸が顔を上げさせた。
「頭を下げられると、困ってしまうな。の我侭に比べたら、なんでも無いことなんだよ?」
「でも・・・・・・」
「そうだなぁ、のどこが気に入ったの?」
 いきなりの話の転換に、景時の口が開きっぱなしになる。
「おや、おや。すごい顔だね?だって、がいいなぁ〜と思ってくれたから今があるんだよね?」


 景時は、庭での出会いを思い出していた。
 まっすぐに人を見て話す
 花断ちを覚えるまではと、庭で素振りをし、毎日神泉苑へ通っていたの姿を。
 

ちゃんは・・・強くて、優しくて、格好良くて・・・・・・オレなんかといてくれるなんて考えられなかったです」
「“なんか”は良くない言葉だねぇ?」
「あっ・・・・・・」
 雅幸に言われ、景時も思い出す。もこの言葉を言うと、機嫌が悪くなる事を。
 今朝も“スキンシップ禁止令”を言い渡されたばかり。

「少し、私の話をした方が良さそうだね」
 雅幸の言葉に、景時は黙って頷いた。
 
 





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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→現代へ

 あとがき:夢変換しなくて。(←文字数多すぎで)前後編になってしまいました。     (2005.7.27サイト掲載)




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