幸せですか? しばしの間、景時とは新居で抱き合っていた。 こういう時に、現実的なのは女の方なのかもしれない。 「大変!時間がなくなっちゃうよ。あのね、大体のモノはあるんだけど。それよりも。荷物取りに行こう? それからだよ」 に急かされ、部屋を後にした。 「早く、早く!」 とても二人で手を繋いでのんびりといった雰囲気ではなく道を歩く。その時、後ろから声がした。 「お〜い!もう少しですれ違いになるところだったぜ」 将臣が運転手つきの車の窓から手を振っていた。 「将臣くん!どうしたの〜?」 「あ?ああ、母さんの言いつけで迎えに来た。今日から向こうで住みたいんだろ?荷物運び要員だ」 がくりくりの瞳で景時を見上げた。 「えへへ。じゃ、お言葉に甘えちゃお?」 「あはは。そうしよっか!」 二人はさっさと車に乗り込んだ。 「じゃあ、をの家で落として。景時の荷物のせたらまた来ればいいな」 将臣が助手席から二人に確認する。 「うん!ありがと。すぐに必要なものはね、もうまとめてあるから」 家の前で一度止まると、だけが車から降りた。 「じゃ、また後でね」 手を振りながらは家の中へ入っていった。 「さて、俺たちもさっさと家に行って来るか。景時の荷物なんて、そんなにないしな〜」 「あはは。まあ・・・少ないともいえない量だけどね」 それなりに買い物しまくったのだ。こちらの世界へ来て、僅か数日の人間にしては多い持ち物だろう。 「ん〜、まだまだ増えるぜ?服なんて特にさ。季節で分けるし」 実際、着物とは訳が違う。スーツでも季節毎に生地からして違うのだ。 「あらら。ま〜、慣れるまでが・・・ね」 「そ〜そ〜。でもさ、あんな面倒な着物を毎度着るより楽な事は確かだな」 話をしているうちに、有川家へ到着。 まとめてあった荷物を積み込むだけなので、そう時間はかからなかった。 家の前でとの荷物をのせて新居へ向かう。 「へ〜、いい部屋だな」 荷物持ちの将臣が、来客一号といえばそうなる。 「でしょ?でね、下の階の部屋も改装してもらってて。皆が来た時に、泊まってもらおうかなって」 「あ〜〜、そうだな。そうなると・・・いいな」 将臣らしいに対する返事だった。 「それで?買い物はどこへ行くんだ?」 荷物をリビングヘ運び終えて、将臣がに尋ねた。 「あのね、あの・・・前行った横浜のショッピングセンターだと、欲しいものも食材も揃うの」 「んじゃ、混む前に行くぞ。渋滞は嫌だろ?」 運び込んだ荷物も解かないままで、慌しく買い物へ向かった。 「ね、ね。景時さんは何が食べたい?」 「う〜ん。お任せしてもいいかな?頭で解っていてもさ、味とか解ってないんだよね〜」 「あっ、そうだった。じゃあね、簡単なもので我慢してね」 がくるくると探し回る後ろを、景時がカートで着いてゆく。 雑貨も含めて、すごい量の買出しとなった。 「で?こんなに買い込んだと」 車で待っていた将臣は呆れ顔だ。 「だって〜。見てたら欲しくなっちゃったんだもん。大丈夫!コレで買ったから」 手に光るソレは、家族会員のプラチナカード。 「パパがね、使いなさいってくれたの。いいのかな〜って思ったんだけど、甘えちゃうんだ」 将臣には分かった。この顔をされたら、雅幸がに逆らえるハズが無い事を。 「ったく。お前らさっさと落として帰るわ」 肩を竦めて将臣が助手席に乗り込む。 「いいもぉ〜んだ。将臣くんなんて、予定がなくてサビシイんだよね〜?」 鋭いところをつかれ、将臣が景時の方を向く。 「・・・・・・景時。の相手しろ!俺にとばっちりがくる」 「え〜っと?オレ〜?オレは・・・もう・・・ちゃんといられて嬉しいなぁ〜って」 隣にいるを見る景時。繋いでいる手に力が込められた。 「か、景時さんたら。えっと・・・早く帰って荷物も整理しなきゃね」 車は渋滞が始まる前に横浜から鎌倉へと走ることが出来た。 「ありがと、将臣くん。おば様とおじ様によろしく伝えてね」 「ああ。じゃあ・・・何かあったら電話しろよ」 将臣だけが帰っていった。 「さあ〜て!食材を冷蔵庫に入れて〜〜。景時さんは、自分の荷物を片付けして下さいね!」 わさわさと食材を運ぶ。 「あ・・・でも・・・・・・」 「いいんです!早くっ。まだ夕方ですから、夕飯はぁ・・・・・・七時くらいに予定しててね」 パタパタと動き出す。 「・・・・・・はい」 おとなしく自分の部屋へと景時は移動した。 「あ〜っと。もう・・・ないかな」 衣類がほとんどなので、タンスに収めればすることがない。 の様子を見るべく、リビングへ移動すれば、の姿はなかった。 「・・・ちゃん?」 ふらふらと家を歩く景時。の姿を脱衣所で発見する。 「え〜っと、ちゃん?」 「わわ!景時さん、どうしたんですか?」 タオルが棚にしまわれ、色違いで買った歯ブラシが並べられと、確実に生活が出来るように整え られつつあった。 「う〜んと。ちゃんばかり大変だなぁ〜って」 ここでの片づけが済んだらしいが景時に抱きついた。 「平気ですよ〜?並べてるだけだし。景時さんは、お部屋の片付け終わったの?」 「うん。そんなにないし・・・・・・何かオレでも出来ることない?ゴミだしとか・・・・・・」 仕入れた知識の中でも使えそうなものを口にしてみる。 「あ!じゃあ、ゴミの分別お願いしてもい?全部リビングに置いてあるだけなの」 「任せといて〜!燃えるゴミと燃えないゴミとか分ければいいんだよね」 仕事が出来て嬉しい景時は、早速ゴミを仕分けし始める。 続いてはキッチンへ。夕食は簡単になってしまうが、景時のために和食を作りたかったのだ。 クリスマスとは離れてしまうが、慣れた物が食べたいのではないかとの判断。 「よぉ〜し!ご飯は勝手に炊けるからね。そろそろいいかな〜?」 あちこち片付けながら、夕食の準備を続ける。 その姿を景時はリビングから黙って眺めていた。 「景時さん?お茶どうぞ」 に出されたそれは、緑茶だった。 「あ、ありがと・・・・・・」 「いいえ〜。ゴミ、ありがとうございました。終わっちゃったの?」 分けられたゴミを眺めて、が振り返る。 「うん・・・・・・オレさ、役にたたな・・・・・・」 に両耳を引っ張られた。 「もぉ!そういう言葉は言っちゃ駄目なんですっ。・・・そうだ!あのね、向こうの部屋に景時さんの プレゼントがあるんだって。パパにお手紙と鍵も預かったんだった」 が自分のバッグを引き寄せ、景時に手紙と鍵を手渡した。 「はい!あのね、よく読んでだって。夜になったらって言ってたけど、もういいよね?」 冬の日暮れは早く、外はもう暗くなっていた。 「ん〜、暗いといえば暗いし・・・ね」 見せられてしまったら開けたいのは誰でも同じ。景時は、封筒を開けて手紙を読み始めた。 眉間に皺が寄ってくる景時。 「な、どうしたの?そんなに変なもの?!」 景時の様子を見ていたは、慌てて景時の腕を引っ張る。 「あ〜〜〜、ヘンといえばヘンかなぁ・・・・・・。あとね、隣の部屋のはちゃんが開けなきゃ意味が ないみたい」 「え?景時さんへのプレゼントなんだよね?」 が大きく首を傾げる。 「うっ、うん。そう・・・なん・・・だけ・・・・・・ど・・・・・・」 景時が赤くなるのを見て、が隣の部屋へ走る。 まもなく、の叫び声が上がった。 「あ〜〜〜、やっぱりね」 景時が腰を上げて隣の部屋へ向かう。 予想通り、箱を開けた状態でが固まっていた。 (まあ・・・いくらなんでもねぇ?) 手紙の内容はいたってシンプルなものだった。 『本来、プレゼントは綺麗にラッピングされていると開ける時が楽しみだろう?でもね、家の娘は 生モノだから。本人にラッピングさせるから、受け取りをよろしく。返却不可! 雅幸』 箱には宛のメッセージが入っていたらしい。 『ちゃんと自分で自分をプレゼントしなさいね? 心優しい母より』 はカードを手にしたまま、微動だにしない。 「は〜い、ちゃん。深呼吸しようね〜〜〜」 背中からを立たせると、ようやくが息を吐き出し景時の方を振り向いた。 「こ、これね・・・その・・・あの・・・えっと・・・・・・」 「うん。わかってるって。無理しなくていいんだよ?」 真っ赤になっているを自分の方へ向かせ、抱き締める景時。 「まあ・・・ちょっとした悪戯に近いのかな?」 「で、でも・・・・・・」 納得出来ないのか、が景時を見上げた。 「いいの、いいの。こうしていられるのが一番のプレゼントだし。オレね、車までもらっちゃった」 「・・・・・・ええっ?!」 あの鍵は車の鍵だったのかと、がまたも驚きで動かなくなった。 「そ〜〜〜。こっそり数回教習所へ行けばいいだろうってさ。確かに動かせればいいんだしね?」 「・・・・・・も、頭いたぁ〜い」 が景時に抱きついた。 「う〜ん。ま!細かいことは後で考えようか」 「そ〜だ!夕飯作り途中だよ〜〜〜」 がキッチンヘと走っていった。 ひとり残された景時は、箱の中身へ視線を移す。 (う〜ん。すごいね、これは) ひらひらのそれは、可愛らしいといえば可愛いベビードール他、どう見ても用の服らしきモノたち。 (着てる意味あるのかな?) 生地の素材的に保温は望めなさそうだ。だが、が着用するとなれば話は別。 (あれだね、可愛さ十割増しって感じ?オレとしては、もちろんちゃんが・・・・・・) 膨らむ妄想を中断し、箱に蓋をして部屋を後にした。 キッチンではすでに出来たものから並べ始められていた。 まったくクリスマスとは無縁のおかずが並べられていたが、真ん中にちょこんと置いてある小さなツリーが クリスマスだと主張していた。 「・・・クリスマスってこういうのだっけ?」 雑誌で仕入れた知識と、食卓の違いに景時が何とはなしに言葉を漏らす。 が手を休めて景時の隣に立ち、景時の椅子を示す。 「どぉ〜ぞ。座って待って下さい!あと少しだから。あのね、クリスマスっぽくないけど、景時さんが知ってる ご飯にしたかったの。嫌だった?」 椅子に座った景時と、立ったままのの高さは、が景時の首に手を回せる調度よい位置だった。 「あ・・・その・・・うん。オレね、ちゃんの作ったご飯、食べたかった・・・・・・」 目に鮮やかな食事も悪くない。ただ、毎日では疲れるのだ。 食事まで緊張を強いられていたんだと、ようやく景時が肩の力を抜いた。 「ご飯が心配なんだけど・・・・・・ガスで炊くのも大変だし。ズルして炊飯ジャーなの。少し味が違うかも〜」 かまどで薪を使って炊いたご飯と同等のものが出来るとは思えなかった。炊き加減ばかりは機械任せ。 「ちゃんが作ってくれるご飯が一番安心する・・・オレさ、今まで食事に緊張してたみたい」 「もぉ!味の心配してるのにぃ。それじゃ何でもいいみたいだよ〜?」 言葉では非難しつつも、笑顔では再びキッチンへ戻った。 視線をテーブルの上に移せば、反対の席にも箸が置かれている。向かいがの席。 ほうれん草の胡麻和えの器の前のツリーをつつく景時。 (来年は・・・将臣君の家で食べたみたいな・・・あんな食事の所に二人で食べに行かないとね?) ツリーの天辺の星に、心の中で誓いを立てた。 「ツリーがどうかしました?」 がご飯と味噌汁を並べる。 「ん〜?何でもないよ〜〜〜。星がついてるんだなって」 「星、覚えてたんですか?」 星型に文を折って、景時に渡した事があったのだ。 「もちろん。だいたい全部覚えてるよ〜、ちゃんとの想い出はオレの支えだから」 景時が軽く右手を握り親指で自分の心臓辺りを叩いた。 「・・・・・・忘れて欲しい事だってあるんだよ〜?」 の口が尖った。 「あ〜、“いや〜〜〜っ!”って、あの時とか?」 景時の口が緩んでいた。今だから笑えるが、気絶していたが目覚めた第一声は拒否の言葉だった。 「だっ、だめぇ〜!忘れてっ。違うの、あの・・・心の準備が出来てないのに景時さんの顔があったから・・・・・・」 「うん。知ってる。嬉しかったから・・・だから忘れるの無理」 景時の告白を受け入れてもらえた日。忘れられるはずがない。 「知ってるって・・・何を知っちゃって・・・・・・」 向かいの席に座るの顔色が変わる。 「あ・・・・・・ごめん。聞いちゃったんだよね。その・・・ちゃんが頑張った話」 最後の戦いの時のの大告白の一件を、後で景時は聞いていたのだ。 「・・・・・・将臣くんですか?」 「いや、白龍」 思わぬ伏兵の登場に、は貧血寸前。口が軽いのは将臣と相場が決まっていたのに、よもや白龍とは。 (白龍の裏切り者ぉ〜!そういう乙女の事情は言っちゃだめなんだよぅ) 今度白龍と会った時は、言い含めようと硬く決心したのだった。 「さ!ご飯冷めちゃうから食べましょ。いただきまぁ〜す!」 「いただきマス・・・・・・」 お互い軽く頭を下げると目が合った。それがまたなんとも嬉しい。 「きんぴら・・・だね?」 「あれれ?きんぴら好きじゃなかった?景時さんって好き嫌いがわかり難いんだもん」 景時が食事を残すことはない。何を出してもよく食べるので、逆に好き嫌いが判別不可能。 戦で食事は選べないというのが理由らしいのだが、なりに好きなものだけは解っているつもりだった。 「まあ、食事は食べられるだけでも有難い物だったし。でも、きんぴら好きなのバレてたんだ〜」 気づいて欲しいけど気づかれたくない。だけど、は気づいてくれていた。 「なんとなくですよ?食事もね、早食いしなくていいんだし。のんびり美味しく食べましょうね」 誰に合わせるでなく、食べたいように食事を済ませた。 食べ終わった食器を二人でシンクへ運びつつ、クリスマスの準備もする。 シャンパンとお手製のミニチーズケーキ。紅茶の用意も忘れずにする。 「景時さん、シャンパン開けてね?気をつけないと栓が飛ぶよ〜」 は未成年のため、アルコールなしのものだが気分で購入したのだった。 景時がグラスにシャンパンを注ぐ。 「早く大人になりたいなぁ〜。そうしたら、景時さんとお酒飲めるんだよね」 「ん〜?でもさ、将臣くんは飲んでたよね?」 の眉間に皺が寄る。 「将臣くんはぁ・・・ここでは二十歳まで飲んじゃ駄目なんだけど、向こうではそんなのなかったから。譲くんは 飲めなかったでしょ?あれが普通なんだよ」 「あはは!将臣君らしいなぁ。オレより飲んでたもんね〜〜〜」 照明を落として、テーブルの上のキャンドルに火を入れる。 「これくらいの明るさの方が、懐かしいよね」 「・・・・・・そうだね」 梶原家で油をケチる事はなかった。だが、溢れるほどの光は物理的に無理だ。 ほのかに明るい中で、の顔が見える。 (あ〜〜〜、安心っていうか・・・・・・落ち着くっていうか・・・・・・) グラスを傾けて乾杯をする。 「ここが二人の家ですからね。ごろごろしてもいいし、ぼぉ〜っとしてもいいし。発明したっていいんですよ?」 明りの向こうの景時の顔が歪む。 「景時・・・さん?」 が立ち上がり、座っている景時を抱き締めた。 「あの・・・ごめんね?私が帰りたいって言ったから・・・だから・・・京へ帰りたい?」 景時の腕がの腰に回された。 「・・・違うんだ。オレね、ちゃんしかいらない。よくわかったよ・・・嬉しくても胸がいっぱいになるんだね」 「ありがと・・・・・・」 どちらからともなくキスをする。静かにキャンドルの明りが揺れ続けていた。 「景時さん、お風呂入ってきてね〜?」 がキッチンから景時に声をかける。 「わかった〜〜。・・・・・・一緒に入る?」 が泡のついたスポンジを握り締めたまま、景時を嗜める。 「もぉ〜!そんなのダメっ。ひとりで入れるでしょっ」 「う〜ん。じゃ、アレを着たちゃんで手を打つか〜〜」 景時が風呂場へ向かうのを眺めて、しばし考える。 「・・・アレって・・・あれぇ〜〜?!・・・・・・・・・・・・着るけど」 とて、景時に褒められれば嬉しい。 (アレ可愛いもん。三割り増しで可愛く見えるよね?) 手早く台所を片付け、明日の朝食も考え下拵えをする。 「私もお風呂の準備しよ〜っと」 プレゼントの箱を片付けがてら、今夜着るモノを選ぶべく台所を後にした。 一方の景時。たっぷりのお湯が使えるお風呂に戸惑い気味。 「どうもね〜、蛇口を捻れば出るってわかってるんだけど・・・・・・」 かなり貧乏性である。水も貴重なら、人手を使って薪で湯を沸かせるのもそうそう出来はしない。 「この後、ちゃんも入るんだろうし・・・・・・」 迂闊にもの入浴を想像していたところにの声。 「景時さ〜ん、呼びました?背中流しましょうか〜?」 「うわぁぁぁ!!!」 激しい水音とともに、景時は湯船に沈んだ。 「景時さんっ、大丈夫っ?!」 が風呂場の戸を開けると、前髪を顔に張り付かせた景時が湯船から顔を出した。 「ん・・・ちょっと・・・驚いちゃって。すべった・・・・・・」 楽な部屋着に着替えたが、景時の傍に歩み寄り前髪を後ろへ掻き分ける。 「危ないから気をつけて下さいね?つるんって頭打ったら大変!」 「う、うん。その・・・背中って・・・・・・」 何をするかはわかっているが、つい確認したくなってしまう。 は下働きの者でもないし、まさかそんな事を言われようとは思わなかったからだ。 「え〜?背中ゴシゴシだよ。これ、これ!」 手にしたシルクのスポンジを景時に見せる。 「これがね、泡あわ〜で気持ちいいんですよ?はい、後ろ向いてるから出て座って〜」 促されるまま湯船から上がり、椅子に座るとが背中を洗い始めた。 「今日はね、特別。いつもは無理だけど、今日から一緒の記念日だもんね」 「そっか。記念日ね・・・記念日・・・・・・このままちゃんも入る?!」 調子に乗った景時が、またも提案する。 「・・・きょ、今日はダメ・・・・・・そのうち・・・ね?」 今日だけは磨きを掛けたいとしては、一緒に入っては緊張してしまう。 ましてや、お肌つるつるエステをしようとしているのだ。 アレを着用する為にも、全身すべすべを目標に掲げていた。 「そ、そのうち・・・いいのっ?!」 まさか、そのうちと言えど許可が下りるとは思わなかった景時。 濡れてしんなりしているはずの髪が立ちそうな勢いの喜び様。 「だ、だって。CMのあれ・・・・・・すっごくいい感じだったんだもん」 某エステのCMを見たは、あれぞ理想といわんばかりに想像を膨らませていた。 すっかり景時と自分でCM一本分の物語を頭の中で完成済み。 「そ、そうなの。CMね、CM・・・・・・」 残念ながら景時にはそのCMが思い当たらなかった。そんなにテレビを見ていないのだから当然である。 が、それのおかげでからの許可が出たのなれば感謝こそすれ貶す筈もなく。 「いいね、CM。うん。いい事だ〜」 「景時さんたら!はい、おしまい。ちゃんと温まってから出て下さいね」 の言いつけを守り、湯船に浸かって温まってから風呂から上がった。 「出たよ〜〜〜、お待たせっ」 「景時さん、パジャマの上は?」 パジャマの下だけを穿いて、首からタオルの景時。 「え〜、部屋も暑いし。これで十分だよ〜〜〜」 京の冬に比べれば天国。部屋自体の密閉性も高いので、隙間風などおよそ感じられない。 「髪、ちゃんと乾かしてね?何か飲みますか?」 リビングでテレビをつけソファーに座る景時の目的はもちろんがいうCMのチェック。 「あ〜、大丈夫」 「そう言って、何も水分摂らないんですよね。はい、お水でいいですか?」 冷たい水が入ったグラスを手渡される。 「ありがと〜〜。だってさ、あんまりちゃんばかり動いたら・・・・・・」 景時の首のタオルを取り、が景時の髪を拭き始めた。 「私がしたいんだからいいんです。したくなければしないよ?最初だけかもだし」 「えっ?!」 振り返ってを見れば、悪戯な目でタオルを景時に差し出した。 「ドライヤー使ってくださいね。私もお風呂入ってこよ〜っと」 耳が赤くなっているが風呂場へ消えた。 テレビは特番ばかりで、どれが面白いというものもなかった。 ただ、がいうものがどんなものか知りたい。それだけのために画面を眺める景時。 「う〜ん。どうもどれも違うみたいだな〜」 思ったよりも渇いていた喉を潤すべく、台所へ向かい冷蔵庫を開ける。 「水が売ってるんだもんな〜」 水道の水でもいいのだが、冷蔵庫の水のほうが断然冷たくておいしい。 ペットボトルから、今まで使っていたグラスへ水を注ぐと飲みながらリビングへ戻る。 目に飛び込んできた映像こそが、どうやらのいうモノに近い。 慌てて駆け寄り、真剣にCMの残りを見た。 「あ〜、こういうことかぁ・・・・・・」 男と女の視点は違う。やたら綺麗な男女が、じゃれ合うCM。それだけの認識。ただし─── 「お風呂でちゃんに触りまくりがアリって事だよね〜〜〜」 まっとうな成人男子の考え、行き着くところはそこだけだった。 「これ、効くのかな〜」 湯船に浸かりながら、入浴剤の袋の文字を読む。“コエンザイムQ10でお肌つるつる”とあるソレ。 「つるつるじゃなくて、しっとりの方がよかったかな〜」 どちらを使っても、“やっぱり、向こうが”と思うものである。大して変わることはないのだが。 「脚の浮腫みとりマッサージもしたしぃ。ヘアパックもしてるしぃ。も、完璧?」 知識が増えるほどに何でも試したくなり、どれも毎日全部続けられるものでもない。 程々での諦めが肝心。しばらくしても風呂から上がった。 「いいねえ、クリスマスは・・・・・・」 テレビに映し出されるクリスマスの光景。来年こそはを誘うべく、真剣に観る。 海沿いのテーマパークのイルミネーションなど、どれもこれも煌びやか。 画面に引き込まれそうな勢いで観ている景時の首にの腕が回った。 「景時さんたら、ドライヤー使ってないですね〜?髪がもしゃもしゃ〜〜」 「えっと・・・その・・・テレビが・・・・・・」 振り返ろうとすると、の手に押し止められる。 「ダメ〜!乾かすから前向いたままだよ」 半分乾きかけの髪に、勢いよく風があてられる。がブラシで梳きながら丁寧に整えていた。 「あの・・・も・・・いいから・・・・・・」 髪よりも、に触れたかった。 「風邪引きますよ?それにね、マイナスイオンでサラサラになるから」 まさにサラサラにされたところでようやく風が止む。 待ってましたとばかりに景時が立ち上がり振り返ると、シースルー素材のベビードールを着たが立っていた。 「ちゃんっ!!!」 ソファーを飛び越えて景時がを抱き締める。 「きゃっ!」 「ちゃん、ちゃん・・・・・・」 景時にしては珍しく、気持ちのコントロールが出来ていなかった。只管に名前を呼び、を抱き締める。 そんな景時の背をやさしく撫で続ける。 「大丈夫、ここにいるよ。ずっと一緒だから・・・・・・」 落ち着いた景時が腕を緩めた。 「ごめん・・・・・・なんかもうダメダメだ、オレ・・・・・・」 項垂れる景時に必死に腕を回す。 「ダメじゃないです。・・・・・・えっとね、今から私は景時さんへの・・・プレゼントなんだよ?」 真っ赤になりながらたどたどしくプレゼント宣言をする。 を必要としすぎる自分が怖い景時。 (でも・・・・・・ちゃんは受け止めてくれる!) 「最高!もう、他はいらないよ〜。クリスマスっていいね〜」 を抱き上げ、寝室へ向かう。 聖なる夜に、二人は暮らし始める─── Merry Christmas! May the happiness be in all ・・・・・・ |
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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→現代へ
あとがき:こんな感じでイヴは終わるとv (2005.7.12サイト掲載)