これからも





 有川家に到着したと景時。
 すでに準備はできているらしく、とりあえず全員が揃うまではと行成の書斎での
おしゃべりの時間となった。
「どうだったの?新居は」
 興味津々の紫子が、しっかりの隣に座って聞き出そうと質問をする。
「すっごい広いんです。それで・・・インテリアコーディネーターの方が明日までに全
部揃えてくれるって。だから、後は小さなものだけでいいかなって」
 照れながらも、嬉しそうに話す
「今年で最後になるかな。こうして全員で集まるクリスマスは」
 行成の言葉に、誰も返事が出来ないでいた。

「でも・・・集まりたい時に集まれば・・・クリスマスだって、いつも祝日にしちゃって
いたし・・・・・・」
 が前向きな意見を述べると、紫子が嬉しそうにの手を握り締めた。
「ほんとに?景時君と来てくれる?」
「はい。多分景時さんも、そうしようって言ってくれ・・・・・・」
 その時、扉をノックして部屋へコートを置いてきた景時が書斎へ入ってきた。
 景時に視線が集まる。
「・・・・・・あの?」
 ドアの前で景時の動きが止まった。
「景時さん!これからも皆で集まりたいねって話をしてたの」
 が景時の傍へ駆け寄ると、景時が頷く。
「ここでは、初めての事ばかりで何もわからないし・・・その方が相談出来たり有り
難いって言うか・・・・・・でも、お世話になってばかりじゃ駄目って言うか・・・・・・」
 戸惑いながらも、しっかりと自分の意見を話す景時。
「いつでも来て欲しいな。何もイベントばかりが集まる機会ではないしね!」
 の言葉を上手に取りまとめて行成が景時を部屋へ招き入れた。
「でさ、それはいいんだけど。おじさんとおばさんどうしたんだよ?」
 将臣が伸びをしながらを見る。
「置いてきちゃった。だって・・・四人で歩いたら・・・・・・」
 が俯く。
「歩いたら、何なんだよ?」
 将臣が眉を顰める。
「・・・・・・景時さんと兄弟にしか見えなくなっちゃうもん。仲のいい家族っぽく」
「・・・バカだな。バカ決定!」
  将臣の眉が寄せられる。
「なっ!ひど〜い!何よぅ、バカって」
「お前と恋人同士に見えて冷やかされるのは景時だろ?女子高生と歩くんだぜ?いい
じゃん、別に家族に見えたって。真実は夫婦なんだから。それだって家族だろ?」
 行成が将臣の頭を軽く叩いた。
「どうしてそう口が悪いんだろうな、将臣は」
「だってよ、女子高生と実は夫婦でしたなんて景時の方が変な目で見られるよな〜」
 人の悪い笑みを浮かべる将臣。
「・・・将臣くんの、お馬鹿っ!」
 が将臣の背中を叩きまくる。景時がゆっくりとの腕を掴んだ。
ちゃん。オレは別に気にならないし。自慢して歩きたいくらいなんだから・・・さ」
「だって、将臣くんたら!景時さんを変態扱いした〜」
「そこまで言ってないし!」
 まだ叩きそうな勢いのから逃げ、さり気なく避難する将臣。
「将臣君の言葉の真似っポイけどさ。別に他の人にどう見えてもいいんだ。ちゃん
とオレと。ちゃんの家族と有川さん一家の人がわかってくれてればね」
 が景時に抱きついた。

「おやおや。丁度いいところへ来たかな?」
 書斎のドアには雅幸と花奈が立っていた。
「まあ・・・そうですかな。いらっしゃいませ。お待ちしていました」
「こんばんは。はもう少し落ち着いてもらわないと、景時君が困るだろう?」
 紫子がフォローにまわる。
「すいません。将臣の口が悪くて・・・・・・」
「あら。がもう少ししっかりすればわかる事ですもの。将臣君は悪くないですよ」
 しっかり花奈に釘をさされた
「パパもママも意地悪・・・・・・」
 が景時の背に隠れた。
「そろそろ食事にしましょうか」
 行成の合図でダイニングへと移動した。



 メインのいかにもクリスマスの洋風ディナーが終りつつある時に、お待ち兼ね
のケーキが運ばれた。
「わぁ・・・・・・」
 が食べたいと言っていたブッシュ・ド・ノエル。
「俺がにプレゼントしようとしたらさ〜、シェフが張り切って作ってくれちまって」
 将臣が事の顛末を素直に述べた。
「すごい、すごい、すごぉぉい!そう、こういうのなの。小人さんもいる〜」
 砂糖で作られた小人が楽しそうに寝転がったりバンザイしたりしている。
「・・・・・・練習しよう」
 譲の呟きは将臣にしか聞こえなかった。

「食べちゃうのもったいないなぁ〜。でも、切り株っぽく・・・・・・うぅ」
 迷っているの前で、シェフがケーキへナイフを入れた。
「わっ・・・・・・・・・・・・・・・美味しそう〜」
 切り株状にカットされたケーキに、雪に見立てたクリームがかけられ小人がひとり
のせられた。心なしかに似ている。
「これはおまけです」
 のケーキにだけチョコレートで出来たツリー付。さらに、小人がもうひとり。
「・・・・・・あっ!これ、景時さん?!」
 つんつんとした髪型の帽子を被っていない小人。
 がシェフを見上げると、にっこりと微笑んで返された。
「やられたね、これは」
 行成がシェフを見れば、シェフはそ知らぬ顔で他の人々にもケーキを切り分ける。
 ただし、他の人には特典のツリーはない。小人は各人に似ていた。
「私のだけ豪華だぁ〜。ありがとうございます」
 にお礼を言われ、満更でもないシェフは頭を下げて台所へと戻って行った。
「えへへ。小人さんは食べられないよぅ、可愛くて」
 ケーキを眺めている
「食べなきゃもっともったいないことになると思うけど」
 花奈に言われ、も気づいた。
「そっか!これ食べ物なんだもんね。景時さんを食べちゃえ〜」
 小人景時は、頭からに食べられた。



 食事も終わり、シャンパン片手に談笑中。
 プレゼントの交換となる。
 将臣、譲がそれぞれがそれなりの品物を渡し終えると、に注目が集まる。
 全員がからのプレゼントを心待ちにしていたからだ。
「えっと・・・今年は時間がなくて・・・・・・おじ様にはこれ」
 の手作りビーズの携帯ストラップと写真たて。
 有川家では、毎年家族の写真を撮るからだ。
「うれしいねぇ、これは」
 行成が手作りの一品に顔を緩めた。
「おば様には、これ」
 手作りビーズの携帯ストラップと指輪だった。
「可愛いわ〜、ありがとうね」
 早速右手の指に嵌め、行成に“勝った”という表情を送る。
「将臣くんと譲くんにはこれだよ」
 今度は手作りだが、皮紐の携帯ストラップを色違いで。Tシャツも色違い。
「ありがとな」
「ありがとうございます」
 実のところ、ちょっとだけ差が開いたと紫子を見る二人。
 紫子には手作りの品が二つ。の気持ちを推し量る面々。
「パパとママも携帯のストラップだよ。それと、これ」
 アジアンノットの色違い携帯ストラップ。もちろんの手作り。
 さらに雅幸にはタイピン、花奈には手作りビーズのネックレス。
「ありがとう、。花奈、またおそろいだね」
「うふふ。ありがとう
 この夫婦、毎年おそろいでもらえるストラップを楽しみにしていた。
 一見をめぐる勝負はついたかに見えたが、今年は大本命が残っていた。
「あの・・・景時さんには私と同じ携帯のストラップ作ったの」
「あ、ありがとう。ちゃん」
 翡翠で作られたそれは、他の者たちのストラップとは明らかに違っていた。
「えっとね、翡翠はお守りなんだよ?だから・・・・・・」
「うん・・・・・・」
 すっかり二人の世界に入ってしまいそうになった二人を邪魔する者が二人。

「で?景時は何にしたんだよ?そろそろ見せろよな」
「そうですよ。兄さんにも内緒で買ったって聞きましたよ?」
 将臣と譲が景時の両脇から冷やかす。
「あ、その・・・・・・行成さんにはネクタイと。紫子さんにはブレスレットを」
 景時に手渡され、礼を述べながら受け取るとその場で開ける行成と紫子。
「ほう、これは・・・・・・」
 シンプルだが、行成の好みに合っていた。
「あら、素敵ね」
 重ねづけに便利そうなシンプルなブレスレットに、紫子も素直に声を上げた。
「それと、あの・・・お父さんとお母さんにはこれを」
 が生まれた年のワインだった。
「随分と粋な事をしてくれるね?の生まれ年だね」
「あら、ほんとうだわ」
 雅幸と花奈が笑う。
「その・・・お嬢さんを・・・ちゃんとオレを認めて下さって、ありがとうござい
ます!何がいいか迷ったんですけど、記念といえばこの年が。ちゃんが生
まれてきてくれた事が一番の記念かなって・・・・・・」
 が潤んだ瞳で景時を見つめる。
はいい旦那様を捕まえたねぇ。これは花奈と二人でいただくよ」
 そっと元のケースにワインを戻した。
「将臣君にはさ、コレがいいかなって」
 開けて驚きのサバイバルナイフ。
「景時・・・・・・俺にもう一度サバイバルしろって?」
「い、いや!いつ、何があるかわからないしさ」
「勘弁してくれよ〜。ま!確かに便利だよな。サンキュ」
 将臣がポケットにしまう。
「譲君にはコレ」
「時計・・・ですか?」
 落としても壊れない、防水もバッチリの腕時計。
「壊れちゃったって言ってたから・・・・・・」
 向こうの世界へ飛ばされた時、譲の時計は壊れてしまっていた。
「ありがとうございます」
 流行のその時計は、早速譲の腕に収まった。 

「それじゃ、子供たちへのプレゼントね。将臣にはこれ」
 スーツから靴まで一式揃えられていた。
「・・・何だよ、これ」
 将臣が顔を顰めると、大人達が笑い出す。
「そろそろ将臣には、本格的に会社経営を学んでもらわないといかんからな。皆
でこれに決めたんだよ」
 行成が事の顛末を説明する。
「ちぇっ。今年はとんだ一年だったな〜」
 将臣とて、今更こうじゃなくてはというモノがあるわけではない。
 しかし、いきなりの大人扱いに少々戸惑いもあった。
「すまないね。将臣君に、これからも色々お世話になってしまって」
 雅幸が将臣に頭を下げる。
「・・・そんなんじゃないんで。ただ、もう少し子供の時間が欲しかったかな?」
 実際年齢は二十歳を越えているのだ。
 雅幸に認められたのならと、諦めがついた。
「続いて譲にはこれよ」
 手渡されたのは、一枚の紙切れ。
「・・・・・・土地の権利書?!」
 譲が行成を見つめる。
「そう、ここは譲のものだよ。将臣には悪いが、どうやら星の一族の力を継ぐ者は、
譲のようなのでね」
「それと、私たちからはこれを」
 雅幸から出されたカードに書いてあったのモノは、新しい弓の道具一式と守り刀。
「弓の道具はこちらの弓道場へ。刀はそこの神棚にあるから」
「あ、ありがとうございます」
 突然の自分の置かれた境遇に、気を引き締める譲。
「景時君にはね、何がいいかわからなくて」
 大人達が顔を見合わせている。
「いえ!ほんとにもう!こんなによくしていただいて、何も頂く訳には!!!」
 景時が恐縮して後退る。
「あはは!予想通りの反応で嬉しいよ。景時君への贈り物はに渡すから。後
で受け取ってくれ」
 雅幸が笑うのを花奈が背中を叩いて窘める。
 行成も紫子も微笑んでいる。
「・・・・・・景時さんのプレゼントを私にって変だよ」
 の頬が膨れる。
「いいんだよ。からが一番嬉しいハズなんだから」
 雅幸に断言されては、もこれ以上怒るわけにはいかない。
「ごめんね、景時さん。なんか皆で企んでるよ・・・・・・」
「い、いや。そのぅ・・・うん。大丈夫」
 真っ赤になって景時が俯いた。
「それじゃ毎年恒例のをはじめようかな」

 毎年恒例とは、に順番にプレゼントを渡す事。
 譲から手渡されたモノは、包丁。
「これ・・・使いやすそうだったんで・・・・・・」
「ありがとう、譲くん!そうだよね、こういうのは買ってなかったよ〜」
 喜ぶをみて一安心の譲。小さく右手は握り拳。
「俺からはこれな。開けるのは後にしろ」
「?わかった。後にする・・・ありがと」
 、わからないまま袋に入れる。
 将臣の視線は景時を見てからへ戻された。
「それでは、私と紫子からはこれを」
 行成に手渡されたカードを開く
「わわ!お料理本のセット。すごぉ〜い。ありがとうございます」
「新居が整い次第届けさせるわね」
 紫子が言葉を付け足した。
にはマンションをあげたから。あれを好きに使いなさい」
「ほんとに?六階も欲しかったの〜。もしも皆がこられたら、泊る場所が必要かなって」
 雅幸が笑う。
「だろうと思ったよ。インテリアとかは明日、田中さんに頼むといいよ」
「ありがと!パパ、ママ」
 が雅幸に飛び付いた。
「こら、こら。後は景時くんだね?」
 さり気なく話を元に戻す雅幸。全員の視線が景時に集中した。

「その、まだちゃんと何も出来てなくて、何の役にも立っていなくて。それでも!
ちゃんに対する気持ちは本当なんです。だから・・・・・・」
 に小さな箱が手渡された。リボンを解き、箱を開ける。
「これ・・・・・・」
 小さなダイヤモンドが付いたネックレスだった。
ちゃんが高校を卒業するまでには、しっかり働いて。自分の力でちゃんと・・・
指輪を贈るから。待ってて欲しいんだ」
 泣きそうな景時を見て、が景時を抱きしめた。
「いいんだよ・・・・・・景時さんが居てくれるだけで。無理させちゃってるのは私だもん。
何もなくたって。ちゃんと夫婦になれるよ?」
 雅幸が息を吐いた。
「景時君。君はどうも抱え込み過ぎるな。あまり色々知識だけが先にあるのも考え物
だね。君のこちらの世界へ来ると決めた決心と勇気にまさる贈り物はないと思うけど?」
「そ、そうだよ!パパの言う通りだよ」
 が必死に景時にしがみつく。
「ね、これつけて!」
 ネックレスを景時に手渡すと、くるりと景時に背中を向ける
「う、うん」
 そっとネックレスをの首に回すと、留め具をとめた。
「えへへ。すっごい幸せ」
 本日、一番のの笑顔は景時へ。誰もが納得の瞬間だった。



 パーティーはプレゼント交換と共に終わりをつげる。
 には、明日学校があった。将臣と譲にもだが。
「それでは、お邪魔しました」
 花奈とが、有川夫妻へ頭を下げる。
「今年もありがとうございました」
 礼をする有川夫妻。行成に雅幸が小声で尋ねる。
「来年は・・・何人いるんだろうね?」
「・・・・・・さて。人数まではわかりませんな」
「そう・・・・・・の願いは叶いそうだね。また明日オフィスでね」
 軽くてを上げて雅幸も有川邸を後にした。

 預言書の内容を雅幸とて全て知らされている訳ではない。
 ただ、漠然と気配で感じているだけ。
 向こうの世界の住人が、こちらへ来る日があるだろう事を。
 ただし運命に絶対はない。
(まだ・・・には言えないけどねぇ。マンションは無駄にはならないようだよ?)
 雅幸の先を歩く母娘の姿を見つめる。
にたくさんの幸福があるように。もう少し頑張らなくてはね)
 少し歩調を速めて二人に追いつくと、三人で手を繋ぎ家を目指して歩いた。



「あなた。景時君って、ほんとイイ人だわね〜」
 手首に景時の贈り物のブレスレットをしてみている紫子。
「よく見ているね、周囲を。雅幸さんに認められる辺り、大したものだよ」
 行成のスーツ姿は数度しか見ていない筈の景時が、なんともいい色のネクタイを選んだ。
「どのスーツにでも合いそうだ」
「そうね。私もどれにでも合わせられそう」
 ブレスレットをした手を天井へ向けて伸ばすと、鎖の触れ合う音がした。
「我が家を実家とでも思ってくれるといいんだが・・・・・・どうも遠慮があるようだね」
「仕方ないわね。それが景時君ですもの。いいじゃない、いつでもここに居れば」
 紫子は立ち上がると、肩を竦めた。
「それに。案外将臣も、頑張ってくれそうよ?」
 行成が深い溜息を吐く。
「まだまだだよ。顔に出やすいのは困ったものだ」
「顔に出やすくても、それが武器になるかもしれないでしょう?」
 将臣は、自分が前に出て周囲を引き寄せるタイプだ。
「・・・それが藤原の会長に通じればいいんだがね」
「お父様にはまだ無理そうだけど。景時君なら勝てそうよ?ちゃんがついてるもの」
 行成が目を閉じる。
「景時君が自分の力に気づいたら、誰も敵わないな・・・・・・」

 景時の良さは、策略でもカリスマ性でもない。
 とにかくバランスがいいのだ。使いようによっては鉄壁の防御。
 攻めには向かずとも、負けることも無い。

「雅幸さんは、頼もしい跡取が出来て羨ましいね。・・・今日は冷えるね」
 窓の外を見れば、冬の夜空は真っ暗だった。
「いいじゃない?明日の午後なら雪になっても。二人のマンションに景時君へのプレゼント
はもう届いてる事だし」
「それもそうだ」
 行成と紫子は、その時の景時を想像して二人で笑いあった。



 明日はクリスマス・イヴ。雪は降るのだろうか?───






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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→現代へ

 あとがき:雪はどうしましょうかね〜。書いてる季節とあってないもので(笑)     (2005.6.19サイト掲載)




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