郷愁  ≪景時side≫





 京都という街は、オレの知ってる風景に似ていて。
 それでいて、何もかも違う街だった。
 オレの存在が不安定なせいもあるのかな。
 居てもいいよっていう証明が、やたら欲しい気持ちになる時がある。

 家にしてもね。名残くらいは・・・とか。
 名残も何も、ちがう世界ってわかってるのに。
 探している自分がいた。

 ちゃんと行ったあの場所なら───

 微かな期待を胸に、伏見まで足を伸ばした。
 それは、逆に似ているのは同じじゃないと。
 ハッキリと突きつけられる結果だったけど。
 ある種のあきらめがついた。
 そう自分では思っていた。



 ちゃんのお父さんは面白い人だ。
 オレの不安定な気持ちがわかったんだと思う。
 “同じじゃないけど安心”が似ているにはあるって。
 大きな人だなぁと思う。
 
 オレが持っている父上の記憶は。
 オレの事を叱るか。
 オレをみて溜息を吐くか。
 とくにこれといった会話は無かったように思う。
 だから、父が急逝して。
 修行していた時に呼び戻されても、何も感情がないかといえばそうではなく。

 オレに剣術を教えてくれた事とか。
 出来なくて叱られたけど。
 オレに武術を教えてくれた事とか。
 才能無いと溜息吐かれたけど。
 一緒に過ごした時間だけはしっかりと思い出されて。

 そして。
 オレの記憶の父上は、永遠に年をとることなくそのままで。
 いつか父親の年齢を追い越すんだろうなと、漠然と考えていた。

 

 この今の気持ちはそのままでいいと。
 ちゃんのお父さんに言われた気がする。
 何となくだけど。
 しかも、ちゃんとしっかり息子扱いしてくれた。
 偽り無く。
 ちゃんは疑ってるけど、そんな事ない。



 おすすめ通り、ちゃんと伏見へ行こうと思う。
 似ていることに安心して。
 違うことを楽しんで。
 新しい思い出を、この世界で増やせばいいんだよね。

 この世界でまだ日も浅いのに。
 ものすごく長くいるような気がしてる。
 これが慣れなのかな。





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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→現代へ

 あとがき:なくして駄目なモノばかりじゃございません。     (2005.6.8サイト掲載)




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