似ているは同じじゃない 本日も早めの移動をする将臣と景時。 始発は6時。朝も早い時間に京都へ着く計算だ。 「景時、行きたい所あるか?」 新幹線に乗り込み、席に座る。 「伏見・・・とか。あるの?」 「ああ。伏見稲荷があるところだよな」 将臣が駅で手に入れたガイドマップを広げて、アクセスを確認する。 「うん・・・ちゃんと新婚旅行したトコなんだよね」 「へえ?そういや行き先は聞かなかったな」 景時とがニセモノとわかった時の九郎の顔を思い出し、将臣が 笑い出す。 「何?伏見稲荷って面白いの?」 将臣が笑っているので、変な事を言ったかと心配になる景時。 「ちっ、ちがっ!あの時の、九郎が・・・・・・口開けたまま固まって」 ついに涙をこぼして笑い出した将臣。 (あ〜〜、九郎には悪い事したよね。リズ先生の稽古も厳しくなったん だろうなぁ・・・・・・) 景時の術が解けた時、一番驚いたのは九郎であろう事は明白。 将臣の取り成しで、景時とは激怒を免れたのだった。 「あはは!あの時は、ごめんね〜」 「気にすんなよ。俺は面白かったからいいし。二時間かかるから寝て いいか?」 「どうぞ〜」 そのまま窓の外へ目を向けると、ゆっくりと線路の上を新幹線が動き 出した。 窓の外の景色を見れば、見覚えのあるものもある。 京と鎌倉を行き来すれば、必ず目に入った富士山。 (あるんだね〜、富士山・・・・・・) 最後に見たのは、鎌倉から京へ帰る時。 (オレ、死ぬ気で告白したんだったよね・・・・・・ちゃんと手を繋いで 歩いた道程、楽しかったな) 新幹線が走る場所からは、どこを歩いていたか特定出来ない。 (あの半月近い行程を二時間ね・・・・・・すごいよ、ここは) 思い出も消し飛んでしまいそうな時間の流れを感じながら、窓の外を 眺めつづけた。 京都に着くと、軽く朝食をとる。 「ホームから東寺、見えただろ?」 「うん・・・似てるよね」 朝のお粥を懐かしく思いながら食べる景時。 「白龍の言葉を信じるなら、違う世界なんだけどな。こっちにも似たような 歴史があったんだ。おかげで俺も飛ばされても、なんとかなったしな」 つまり、景時にとってもここは理解できる歴史がある世界という事だ。 「オレたちって、こっちの歴史にもいたよね・・・・・・」 九郎は頼朝によって鎌倉を払われ、弁慶は九郎と共に奥州へ。 敦盛は源平の合戦で死に、景時に至っては頼朝亡き後やはり鎌倉を払 われた。 「・・・・・・知識はあるんだろうけど、気にすんな。ここの景時とあんたは別 人なんだし。そんな事言ったら、二つどころかいくつも世界があるかもしれ ないんだぜ?運命の分岐点の数だけ世界と歴史があっても不思議じゃな い。違うか?」 将臣に諭され、ひとつの結論を得た景時。 「そうだよね〜。オレ、ちゃんと結婚してもいいんだよね」 「あんたが嫌って言っても、が無理矢理しそうだけどな」 将臣が笑う。 見た目は可愛らしいが、なかなか頑固な幼馴染を思い出して。 「そ、そ、そ、そんな!オレだってしたいから、無理矢理じゃないし!!!」 真っ赤になって景時が慌て始める。 「それじゃ、伏見方面へ行ってみるか」 景時が惚気出す前に、移動をする事にした。 伏見稲荷はある。しかし─── 「ん〜、やっぱりアレだね。何となくって感じだね」 (似てるけど・・・ちゃんと歩いたところじゃない) 似ているのは、同じじゃないと今更ながらに感じる景時。 「だよな〜。単純に計算しても八百二十年後って事になるし。何か欲しかっ たのか?」 「欲しかったのものは・・・将臣君がくれたかな。歴史で消えた景時とオレは 別ってね。驚くことばかりだけどさ、オレはちゃんといたいんだって。再 確認しちゃったかな〜」 大きく伸びをして、一度鳥居を振り返る。 (うん。ちゃんと来て、ここで思い出作ればいい!) 「次はどこ行く〜?」 「んあ?ああ。クリスマスプレゼントでも買いに行くか。新幹線で話すの忘れ たから。プレゼント交換をするんだよ。だから金額はそう高くなくて、全員分を 用意しないとな〜。毎年悩むんだ」 将臣に連れられて、京都の市街地へ戻った。 「簡単なのから探そうぜ。親父たちはハンカチくらいでいいから」 「えっ?!」 ハンカチの値段を見れば、そんなに高いものではないとわかる。 「いいんだ。のだけ気合いれれば。他はおまけみたいなもんだし」 将臣がハンカチの山からいくつかを手にとって四組作った。 「こんな感じで。親父と母さんのと。の親父と母さんの。な?基本は親た ちが子供へプレゼントってもんだから。逆はこんくらいでいいんだ」 「わかった。考えるよ」 景時、しばし考える。景時の場合、その定義は適用出来ない。 たとえ居候の身分であっても。 「で、譲のと俺のも。俺は別に何でもいいから」 「じゃあさ、待ち合わせして買い終わったら集合にしようよ。何だか将臣君のプ レゼントを目の前で買うのも・・・ね?」 景時の提案に将臣が頷く。 「だな!じゃ、一応ここ集合。携帯で連絡でOK?」 携帯をポケットから出して景時の番号を入力する将臣。すぐにかけて返す。 「それが俺の番号だから。じゃあな!」 「ありがと〜」 将臣と別れると、景時はデパートの中をフラフラする。 一通り眺めて、ある結論にたどりつき、とある場所へ向かった。 「やっぱりね〜。オレの場合は将臣君と同じはマズイって」 本を閉じて、再びフロアーへ戻る。景時、初立ち読み完了。 各人に合ったプレゼントを調達し、最後にの分を選ぶ。 (ほんとのほんとの前って意味で・・・いいよね?) 手に取ったものをそのままプレゼント用に頼んだ。 「よ!買い終わったか?」 将臣が景時を見つけて、近づいてきた。 「まぁ・・・終った・・・かな?」 照れくさそうに頬を掻く景時。 「もう少しフラフラしてみるか?清水寺とか、ここから近いぜ?」 将臣の提案に、景時が頷く。 「舞台・・・あるの?」 「ああ。京都駅までよく見えるぜ?」 タクシーをつかまえ、清水寺へ向かう。 舞台から眺める京都は、景時の知っているようで知らない景色。 (ここが清水なら、家はあの辺りにあったって事だよね・・・・・・) 景時が見つめる先は、京邸があったと思しき付近。 「何?」 「ん〜?ここでは何があるんだろうなって。京邸があった辺りに」 将臣も見当をつけて景色を眺める。 「六条ってのは、はっきりしないんだよなぁ〜。寺か、ホテルかってとこ?」 「そんなに気にしなくていいって!だってさ、ここは似ているだけなんだから」 景時の複雑な心中を察して、将臣はそれ以上この話題を持ち出さなかった。 「ところでさ、に京都の土産は買わねえのか?」 将臣の方へ向き直る景時。 「それが・・・無事に帰ってきてくれればいいって。でもさ、何か買いたいんだよ ね〜。あのさ、小物とかあるような所ないかな?」 「それならこっちの坂から高台寺へ抜ける方にいくつかあるぜ」 将臣の案内で、道すがら店を観て廻る。 「あ・・・・・・」 その店は、お香が置いてあった。 「へぇ・・・源氏物語の名前がついてるのか・・・・・・」 しかし、景時が思った巻の名前がついた香は無かった。 (ちゃんが気に入ってたあの香があれば・・・・・・) が使っていた物は、朔が合わせた物。 同じ物は不可能だが、梅香ならば近い。 店の者に尋ね、小さな香炉と合わせて購入した。 「ごめんっ!待たせちゃって」 顔の前で両手を合わせ、将臣に謝る景時。 「いいって!思ったもの、あったのかよ?」 「そりゃもう!これしかないって感じ」 自慢気に手提げ袋を見せた。 「じゃ、ぼちぼち帰るか。弁当買って新幹線で食べようぜ」 いつの間にか昼も過ぎていた。 「ほんとだ〜〜。もうこんな時間なんだね」 またタクシーで移動をした。 (景時さん、京都で寂しくなってないといいけど・・・・・・) ただいま授業中の。しかし、頭の中は景時のことでいっぱい。 変に懐かしくなるような物がある京都へ行った景時が心配で仕方がない。 (夕飯、何作ろうかな〜〜〜。後でママに電話しなきゃ) 足りないものがあったら、買ってから帰った方が効率がいい。 (景時さんが喜ぶ顔みたいもんね!) の教科書は、授業と関係ないページが開かれていた。 「やあ。忙しいのかな?私は、今日は定時で帰らないといけなくてね。その前に 報告をしておこうと思って」 まったくもって仕事をしていない雅幸が、行成へ電話をかけた。 「・・・・・・またこんな時間に。いったい何の報告ですか?」 最近じゃそう大きな仕事もなく、緊急の案件も抱えていない。 消去法で考えるまでもなく、残りはに関する事だ。 「おや。今日は景時君を招待していてね。どうやらも花奈と料理を作るような んだよ。私が先にの手料理を食べるわけだから、報告をね」 顔を見ずとも、電話の向こうでは今にも家に帰らんとしている雅幸の姿が目に浮 ぶ行成。大袈裟に溜息を吐いてみる。 「・・・・・・あまりはしゃがない方がいいのでは?」 「・・・はしゃいでいるかい?」 電話をわざわざ夕方の忙しい時間にしてきている時点で、はしゃいでいる以外の 何ものでもない。 「何事も程々がよろしいかと思いましてね」 「冷たいねぇ・・・・・・。ま、クリスマスパーティーでまた会おう」 「その前に。本家へ行く相談をしたいのですが。お時間は?」 雅幸に逃げられる前に日程を決めなくてはならない。 「・・・少なくとも、今日は無いよ。そういう話は後にしてくれないかな」 突然不機嫌な声を発する雅幸に、これ以上話をする事を諦めた行成。 「そうですね。今日は諦めます。・・・明日お時間頂きますよ」 「・・・そうだね。の都合もあると思うし」 遠回しに行きたくないと言っているようなものだ。 「それでも。ちゃんを連れて行かないと、後々面倒な事になりますよ?」 「・・・君は、言い難いことを実によく言ってくれるよ。わかったよ」 雅幸に物言える人物は限られている。 「楽しい夕食の報告をお待ちしてますよ」 「ふん。楽しかったら、話さないから安心しなさい。またね」 ヒネクレ者は、先に電話を切ってしまった。 「・・・困った人だねぇ」 子供のまま大人になったような雅幸。しかし、憎めない。 行成は、にどう切り出せば雅幸が着いて行くかを考える事にした。 「はぁ〜、買いすぎちゃったね」 「景時がな・・・・・・」 紙袋が音を立てる。 「だってさぁ、あんなに色々あったら・・・・・・」 「はい、はいっと。ほら、玄関だ」 将臣が玄関を開ける。 「ただいま・・・・っと!」 荷物を一度置く将臣。続いて景時が中へ入る。 「ただいま戻りました」 盛子が二人を迎えた。 「お帰りなさいませ。お疲れになったでしょう。お茶をご用意しますね」 出されたスリッパを履くと、将臣が家の様子を窺う。 「・・・誰も帰ってないのか?」 「ええ。奥様も旦那様も。譲坊ちゃまは、後三時間くらいでお帰りかと」 将臣が肩を竦めた。 「親父も母さんも。が来ないとこれだもんな。わかりやすいよ・・・・・・」 八つ橋の箱を盛子へ手渡すと、将臣は部屋へ向かった。 「あの・・・これお土産です」 景時も盛子へ漬物の小袋が沢山入った紙袋を手渡す。 「まあ!こんなに沢山・・・・・・」 「あ・・・重いですよね。運びましょうか?皆さんが休憩の時に何かと思って。いつも お世話になりっぱなしだし」 景時が照れて頭を掻く。 「ありがとうございます。私、こう見えて力持ちですから」 盛子が片手で袋を持った。 「・・・・・・さすが」 後姿を見送ってから、景時も自分の部屋へ一度戻った。 「うん。そうなんだ〜。すごいね。じゃ、何も買わなくていい?うん。・・・わかった」 携帯で花奈に必要な物を確認した。どうやら買い物は何も必要ない様子。 しかも、景時が送ったのは、蟹だけではなかった。 (やっぱりね!景時さんって、気を遣いすぎなんだよね〜〜〜) 鞄に教科書を詰め込むと、家を目指してひた走る。 (明日の話もしたいし。景時さん、いいタイミングだよ!お土産。口実出来たもん) 家の件も、雅幸と話さなければ進まない。 景時が家を訪れるのは必然でもあった。 「ただいまっ!パパはまだ?」 玄関を開けると同時に台所へ直行する。 「お帰りなさい。制服汚れるわよ。パパは、後一時間くらい後よ」 台所のテーブルには、お土産が置かれていた。 「メロンだ〜。ビールも?」 「ええ。冷蔵庫に入りきらなかった分。海の幸もよ〜〜」 冷蔵庫を開けてみれば、海の物が占めていた。 「うひゃ!ぷちいくら丼でも作ろうかな〜。デザートは、メロンだよね〜」 「あら。よく見なさい。にはアイスクリームがあるわよ」 冷凍庫の引き出しを開けると、そこに並ぶのは雪だるま。 「きゃ〜v冬はアイスだよね!着替えてくる。それと、景時さんいつ呼んだらいい?」 花奈の背中を叩く。 「パパが帰ってきたらすぐに食べられるように、今でもいいんじゃない?ただ、ひとり じゃ退屈かしら?」 「大丈夫!テレビがあるよ。電話する〜」 台所を後にし、二階の部屋へ駆け上がるとまずは着替えを済ませる。 バンダナで髪をひとつにまとめて、大きく深呼吸してから携帯電話を手に取った。 「よしっ!電話しちゃお」 ボタンを押すと、コール音がする。二回で景時が出た。 「もしもし?ちゃん?」 「うん。お帰りなさい、景時さん。お土産たくさん届いて驚いたよ」 景時が笑う。 「よかった、ちゃんと届いて。皆で食べてもらおうと思ってさ」 (景時さんらしい───) 「皆には、景時さんも入ってますよ?今から準備するんだけどね、早めに来てくれた ら嬉しいなぁ〜って。でも、私もお料理してるから、景時さん一人になっちゃうんです けど・・・・・・」 (会いたいってだけじゃ、悪いよね) 景時の時間を無駄にしていいものか?の語尾は小さくなった。 「・・・そうだね。お邪魔しようかな。今すぐ行くからね」 「じゃ、玄関で待ってる!」 携帯を持ったまま階段を駆け下りる。そのままドアを開け、外へ。 その音は、景時にも携帯から丸聞こえ。 「そんなに早くは走れないよ〜〜〜。でも、もう角を曲ったら見えるかな?」 「えっ?!」 電話をしながら話す景時の姿が目に入る。 「どうして?」 「えっと・・・ちゃんに早く会いたくて。電話もらった時から、もう歩いてたんだよね」 それだけ言うと、景時が走り出した。 「到着〜〜。はい、これは京都のおみやげ。こっちがお父さんとお母さんに。これは、 ちゃんに。ちゃんのは、後で開けてね」 玄関の前で紙袋を二つ手渡す景時。 「こっちは?」 「食べ物と飲み物かな」 いかにもお土産の袋に入っているのは食べ物らしい。こちらが父と母用。 「こっちは?」 「食べられない物。ただ、壊れ物も入ってるかな」 小さいが、重さはある。 「ありがと〜、景時さん。ね、入って、入って!」 景時を自宅へ招きいれた。 「お母さん!景時さんがね、お土産持って来てくれたよ〜〜」 景時をリビングへ案内し、は台所へ声をかけると花奈が姿を見せた。 「こんばんは。あらあら、こんなに!ごめんなさいね?気を遣わせてしまって・・・・・・」 「こんばんは!あの・・・目にしたら買ってみたくて、つい・・・・・・気にしないで下さい」 背筋を伸ばして挨拶する景時。いかにも緊張している様子。 「もぉ〜。いいんだよ?景時さん。向こうでは、景時さんのお母さんに良くしてもらった んだから。ママはね、景時さんのお母さんだからね。普通でいいんだよ、普通で」 気が早いの言葉に、笑いが止まらない花奈。 「こぉ〜んな大きな息子が出来て!お風呂の電球替えるのとか楽になりそうね」 「ママ!景時さんは便利屋さんじゃないんだから!!!」 が花奈の背中を押すと、花奈は笑いながら台所へ戻って行った。 「景時さん、ごめんね?ママったら、いっつもふざけるんだもん」 頬を膨らませる。 「いや。普通にしてくれたんだよ。オレも気をつけなきゃ・・・ね?」 景時がにウインクをすると、が真っ赤になった。 「こ、これ。部屋に置いてくるね。景時さんは、ここでテレビ観てて?」 「わかった」 ソファーに腰を下ろすと、リモコンを手に取りスイッチを押した。 「ただいま・・・・・・」 玄関に靴を発見し、そのまま固まる雅幸。 「おかえりなさ〜い!よかった、パパが早く帰ってきて。景時さん、ひとりで退屈させ ちゃうから困ってたんだ」 雅幸がスリッパを履くとそのまま背中を押してリビングルームへ連れて行く。 「こんばんは。お邪魔してます」 またも姿勢を正して挨拶をする景時。は面白く無い。 「もぉ!パパも景時さんのお父さんなんだから!そんなに畏まらなくていいのっ」 「こんばんは。・・・着替えてくるよ」 の頭を軽く叩くと、雅幸は着替えに向かった。 「・・・パパ、元気ない?」 返事に窮する景時。 (う〜ん。ちゃん、無意識だよね・・・・・・) 景時が察するに、『景時のお父さん』発言辺りではと思うが言い出せず、笑って誤魔 化す。 「夕飯の支度はいいの?」 「あ!そうだった。後少しだからね」 リビングに誰もいないのをいい事に、は景時の頬にキスをして台所へ向かった。 「あ・・・・・・」 にキスされた頬へ手をあてる景時。 この顔はには見せてはならない。 テレビの画面に視線を移すが、ニュースは何も頭に入ってこなかった。 夕食の支度も整い、いつもの席へ座る雅幸。しかし、いつもと違う者が一名。 「蟹メインのお鍋ですよ〜。京都の生麩もお土産にいただいたの。入れちゃった〜」 花奈が嬉しそうに雅幸に話す。 雅幸、帰宅後からずっと仲間ハズレな気持ち。 「それじゃ、いただきましょう」 花奈の合図で食べ始める。はせっせと景時の世話を焼く。 「景時さん、どうかな?食べられそう?」 「美味しいよ〜。ちゃんはお料理上手だよね」 のスペシャルぷち丼を食べる景時。丼じゃないところがポイントらしい。 「お野菜も食べなきゃ駄目だからね〜」 景時のために鍋の物も取り分ける。 雅幸の分は花奈がしているのだが、雅幸の視線はに集中。 景時も花奈も気づいている。しかし、肝心のが気づいていない。 「景時さん、お酒飲む?ビール?日本酒?景時さんのお土産なんだけどね!」 「いや、そのぅ・・・・・・」 いよいよ困った景時が、返事をしないでいるとがようやく雅幸に声をかけた。 「そうだ!一人じゃ飲みづらいよね〜。パパは今日は何にする?」 が雅幸の方を向いて首を傾げる。 「・・・何でもいいよ」 雅幸、やや拗ね気味。 「何でもっていうのが一番困るんだよ?景時さんがせっかくお土産でくれたのにぃ」 唇を尖らせて抗議するに、雅幸が大きな溜息を吐く。 「・・・もうを嫁にやった気分だよ・・・・・・」 つい本音を零した雅幸に、の辛口な言葉が飛んだ。 「だって実際そうだし。今日は家族の夕飯のつもりだったんだけど・・・・・・」 が花奈の方を見ると、花奈が微笑みながら頷く。 「ほぉ〜んと。パパったら子供なんだから。よかったじゃない、息子が出来て」 「女性陣の様に素直じゃなくて悪かったね。わかってたさ、にふられた日に」 がグラスを雅幸に手渡し、ビールを注ぐ。 「じゃ、問題ないでしょ。お酒くらいは、パパに先に出してあげるよ」 そのままビールを一口飲むと、グラスを置いた。 「・・・娘はつまらないねぇ。景時君、食後に日本酒を付き合ってもらえるかな?」 雅幸が景時のグラスにビールを注いだ。 「は、はい!もちろんです」 そのままグラスのビールを一気に飲んだ。 「か、景時さん?大丈夫?」 「大丈夫〜〜。でも、ビールって初めてかも〜〜」 雅幸の目が見開かれた。 (・・・・・・どうなるかもわからないのに。の為にこちらへ来たんだったね) 「景時君、すまなかったね。何て言えばいいのかな・・・・・・少々捻くれていたようだ よ、私は」 が雅幸の背中に覆い被さる。 「そうだよ、パパ。景時さんの事、大切にしなきゃだよ。だって、私の事を大切にして くれる人だよ?」 「私とした事が、つまら無い事に拘ってしまったようだ。これからは景時君と飲めるし。 楽しみが増えるね」 「駄目」 「は?」 雅幸がを振り返る。 「パパはついでだもん。景時さんの一番は私だからね!」 「ったら。それじゃパパが可哀相よ?」 花奈が笑いながら鍋に食材を足した。 「それに。早く食べないと、お鍋も可哀相!」 「ほんとだ!景時さん、もっと食べて、食べて!」 鍋を囲みながら、楽しく夕食の時間が過ぎていった。 花奈とで片付けをしている間、リビングでは雅幸と景時がのんびり日本酒を 飲んでいた。 「いいねぇ、息子と酒を飲むのも。これは、伏見の酒だね」 「あ、はい。向こうの世界で・・・ちゃんと新婚旅行をしたんです。その時行ったの が伏見だったので。なんとなく行きたくなって・・・・・・」 雅幸が景時の御猪口に酒を注ぐ。 「まあ・・・私も時空を越えた経験はないからね。でも、別の世界だからといって諦める 物でもないと思うよ。同じ物は手に入らなくても、似ていて安心する事もあるだろう?」 「えっ・・・・・・」 景時が雅幸を見つめる。 「同じじゃなくてもいいのさ。この酒とかね。原料が毎年同じように取れるわけじゃない し、気候条件もまったく同じ事はない。でも、この瓶に入って売られているだけで同じと いう安心があるだろう?そういった意味で、まったく同じ物はないと思うんだよ。全てが 似ていて、全てが同じふりをしている・・・とでもいうのかな」 頷く景時。 「とまた行けばいいさ。そこで似ている鳥居があったとして、二人の思い出が嘘に なるわけじゃないだろう?逆に、思い出の切欠になるんじゃないのかな」 景時の悩みが氷解しかけた時に、アイスを手に持ったがリビングへやって来た。 「じゃんっ!もう一個食べちゃお〜〜。アイスすっごい久しぶりだもん。今度はチョコ味」 しっかりと雅幸と景時の間に陣取り、アイスを食べ始める。 「パパ、明日のマンションの鍵は?場所は?どうしたらい?家具もね、欲しいんだ」 いきなり本題に入る。 今までの話は、とても続けられそうな雰囲気ではなくなった。 「は、すこぅし落ち着きが足りないね。マンションの地図はこれ。管理人さんに言え ば、六階と七階を見せてくれるよ。好きな部屋にしなさい。エレベーターは専用だから、 他人が上がってくる心配はないよ。それと、知り合いのインテリアコーディネーターの名 刺はこれ。全部頼んでもいいし、家具を決めてからそれの配置を決めてもらってもいい。 何でも好きにしなさい。・・・・・・景時君、続きはまた今度に」 がスプーンを置いた。 「何?何か話してたの?続きって???」 「ほら。そういうのが落ち着きがないんだよ。。景時君と冬休みに京都へ行っては どうだい?行成もね、藤原の本家に一度顔を出して欲しそうだったよ」 さり気なく話しをそらせながら、夕方の件を思い出し伝える雅幸。 「そうなんだ〜。皆で行くんだよね?」 「そうなるね」 が景時の腕を取る。 「挨拶は皆と一緒でいいけど。後は別行動がいい!二人で行きたい所があるの」 「・・・そうだろうね。そうしなさい。詳しくは、明日の有川家のパーティーの時にでも決め よう。新年を京都で迎えてもいいしね」 その内に花奈も加わり、冬休みの計画を家族で立て始めた。 時計の針も九時を回り、景時が帰るべく立ち上がる。 「今日は、ご馳走様でした」 「こちらがご馳走になったんだけどね?景時君のお土産尽くしだったし」 雅幸が笑うと、が雅幸の肩を叩く。 「パパったら、ほぉ〜んとよくそうヒネクレ言葉を思いつくよね〜〜〜。景時さん、気にし なくていいよ」 「あ・・・その・・・・・・オレ、色々話せて楽しかったし・・・・・・」 景時は早くに父親を亡くしていた為、『父親と酒を飲む』という事をした事がなかった。 「・・・パパ〜?景時さんに意地悪してないでしょうね?」 が雅幸を睨むと、雅幸が肩を竦める。 「信用がないねぇ。これからは、息子が出来たと思って、仕事も楽しくなりそうだと思った のに」 「あら。そういうのを意地悪って言うんじゃないのかしら?」 花奈が雅幸の言葉に反論する。 「もう、いいよ。私が何を言っても信じてもらえないようだし。これからゆっくり証明するから いいさ。景時君は、私の息子だってね。引越ししても、時々は遊びに来てくれると嬉しい かな?偶には抜きで」 「パパっ!私抜きって、酷い。絶対ついて来るんだから。玄関まで送ってくる」 は景時の手を引いて玄関の扉を開けた。 手を引かれる姿勢のままで、景時は雅幸と花奈に会釈をして扉の向こうへ消えた。 「花奈」 「なあに?」 雅幸は花奈の額にキスをした。 「私たちも、そろそろまた二人で楽しく暮らそうか」 「あら?今まで楽しくなかったみたい」 花奈が首を傾げると、雅幸は両手を上にあげた。 「降参!もっと楽しくにするよ。景時くんは・・・の尻にしかれそうだ」 「あなたもそうですものね」 二人はリビングへ戻って行った。 「景時さん、気をつけてね。明日は何時にする?」 「何時でもいいよ」 しばし頭の中で、明日の計画を立てる。 「ちょっと早いけど、八時半でいい?横浜まで家具とか見に出たいの」 「じゃ、それくらいに迎えにくるよ」 が景時のマフラーの端を引っ張り、景時の首を下げさせて頬にキスをする。 「おやすみ、景時さん」 「・・・・・・おやすみ」 少しアルコールが入っている所為か、赤い顔がさらに赤くなる景時。 「あの・・・家に入って?風邪引いちゃうから。オレ・・・走って帰るし」 「うぅ・・・・・・わかった」 今日も仕方無しに家の中へ入る。 (一緒に暮らしたら・・・・・・) そうすれば、景時に『おやすみ』を『バイバイ』のかわりに言わないで済む。 (何もなくても、家具が揃わなくても引越ししちゃうんだから!) 、決意の日。 |
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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→現代へ
あとがき:景時くん、認められた日。そして、積極的な望美ちゃんv望美ちゃんなりに景時くんを守ってるつもり♪ (2005.6.8サイト掲載)