さて?





 太陽の光が部屋に差し込む。
 景時の隣では、がまだ眠っていた。

(大丈夫、オレが守るからね・・・・・・)

 決心だけはしているものの、具体策があるわけではない。
 とりあえず、確認するのが先。
 
 景時が動いた気配で、の瞼が震えた。
「ぅ・・・・・・朝・・・・・・おはよぉ、景時さん」
 寝ぼけているのか、肌寒いのか。
 景時に抱きつく
「お、おはよ〜ちゃん!」
 不安はあるものの、出来るだけ元気に振舞う景時。
「ん・・・ふかふか・・・・・・・・・・・・ふかふか?!」
 物凄い速さでが起き上がった。
「あ!そうだった・・・・・・ベッド・・・帰ってきたんだよね」
 昨日の今日である。
 いつもとは違う寝床にようやく気づいた
「景時さん・・・・・・寝られた?」
 景時にとって、こちらの世界の事はすべてが初めてである。
 先に寝てしまったが心配して景時を覗き込む。
「あはは!よく眠れたよ?平気、平気〜〜〜。それより、痛いとことかない?」
 頷く
「だるいけど・・・痛いところはないですよ?多分・・・なんでもないのかも・・・・・・」
 こちらへ帰ってきてみると、医療技術が確立されているせいか、あちらの世界の時程の
不安はなくなっていた。
「痛くないならよかった。今日は・・・・・・一緒に病院行こうね?」
 
 景時にこれだけの心配をかけてしまった事を申し訳なく思いつつも。
 大切にされて、どこかで嬉しくも思ってしまう
 黙って頷き、ベッドから降りて着替え始めた。



 昨夜のダイニングへ向かうと、行成と紫子、譲が席に着いていた。
「おはようございます」
 それぞれと挨拶を交わし、景時とは並んで座った。
「昨夜は眠れた?」
 紫子が景時の方へ首を傾げながら問いかける。
「あ・・・はい」
 眠れたといえば眠れたので、返事だけをする景時。
「二人の今日の予定は?」
 運ばれて来た飲み物を一口飲むと、行成も景時の方へ首を向け軽く眉を上げた。
「二人で出かけたいところがありまして・・・・・・その・・・買い物とか」
 景時の言葉に軽く頷くと、全員の予定を話し始めた。
「今日は、譲は弓道部の練習日だから、残念だけどあてにはならないかな。将臣はまだ
寝ているようだね。適当に扱き使ってやってくれ。私と紫子は、一日家にいる予定だ。何か
あれば、いつでもどうぞ」
 パンを食べようとした手を止めて、が口を開いた。
「あの・・・・・・景時さんの・・・戸籍とかって・・・あるんですよね?」
「そうだね。少し細工をしたので。本籍も現住所もここになってはいるけどね。苗字は別だ
から安心していいよ。ちゃんと『梶原』さんのままだ。一応、私が後見人という事になって
るまま今日に至っているね。それが?」
 質問されるからには、何かを思いついたのだろうとの言葉を待つ。
「健康保険証とか・・・病気したら景時さん、どうなのかなって・・・・・・」
 景時はの病気を心配してくれた。
 しかし、逆の時は?景時が医者にかかれないのでは困る。
 昨夜から気になっていた事を確認したかった。
「すべて私が預からせてもらっている。景時くんがマンションへ引越しの時には一式渡そ
うと思っていたんだよ。ちゃんにもその時は、一緒に確認してもらいたいな」
「よかった・・・・・・」
 いつの間にかテーブルに並べられていた朝食を、それぞれ食べ始めた。



「それじゃ、俺はお先に。夕方には帰ってくるから。景時さん、すいません」
「あ、気にしないで!」
 譲は頭を下げると、先に席を離れた。
「譲がやる気出してくれてよかったわ〜」
 紫子が、ゆったりと紅茶を飲み始めた。
「私も先に失礼してもいいかな。書斎にいるから・・・・・・」
 珍しくゴルフも何もない休日の行成。
 紫子の本家に連絡を取ったりしなくてはと、あけておいたのだった。

「ね、どこへ行くの?デートよね!」
 誰もいなくなると、紫子がの方を向く。
 景時が話に割り込んだ。
「あの!少しご相談が・・・・・・」
 景時の真剣な表情に、紫子は紅茶のカップを置いた。
「そうね・・・私のお部屋でお話しましょうか」
 紫子を先頭に、三人は場所を移動した。



「何かあったの?」
 部屋の戸を閉めると、紫子から二人に声をかけた。
ちゃんが・・・病気だったらどうしようかなとか・・・・・・ややこ・・・赤ん坊が出来ていた
ら、学校をどうすればいいのかとか。子供・・・オレはすごく欲しいけど、それはオレの我侭
になりますから・・・・・・とりあえずは病院へ・・・どこがいいのかわからなくて・・・・・・」
 景時が手を拳にして俯いた。
「・・・・・・そういう事。だったら・・・横浜に兄の病院があるから、これから行きましょう。もち
ろん、ちゃんのお家には内緒。心配しないで?」
 紫子が、景時のシャツを掴んで俯いているの頭を撫でた。
「・・・ごめんなさ・・・ぃ・・・・・・私が・・・・・・・・・・・・」
 景時がを抱き寄せた。
「謝られると、オレ困っちゃうな〜。結果がどうだろうと。これからもオレと居てくれるんだよ
ね?まずは、きちんと確認して。それからまた考えよう、二人の事なんだから」

(二人の事───景時さん・・・・・・ありがと)

「おば様、色々ごめんなさい・・・・・・」
「あら、いいのよ?すぐに行きましょう。先に電話を入れるから、支度して待っていてね。皆
には一緒にお買い物って事にしましょう。景時君は、その格好だと寒いわね。将臣のコート
着た方がいいわね。ちゃんには・・・・・・」
 紫子が、椅子の上に置いてあった大きな紙袋をに差し出した。
「これ〜〜〜!白くてね、かわいいのよぅ。ちゃんにピッタリよ」
 黙っていたら、まだまだプレゼントを頂いてしまいそうでが慌てた。
「な!だって、こんなに駄目です!変ですよ、こんなの!!!」
 景時の後ろにが隠れた。
「だって〜、女の子産めなかったんですものぉ。一緒にお買い物したりとか夢だったのよ?
大丈夫よ。ちゃんのお母さんにはちゃんと電話するからね?だから、着てみて〜」
 さっさと紙袋から包みを出し、コートを広げてみせる紫子。
「わ・・・・・・」
 真っ白なコートに目を奪われる
「ね〜?可愛いでしょ!ちゃんとね、そのワンピースとコートと。ブーツは玄関に用意してある
から。お店のディスプレイみたら欲しくてそのまま一式買っちゃったの」
 の頭に、昨日の譲の言葉が過ぎった。

 母さんの着せ替え人形───

 買ってしまったものは、紫子の性格からして返品などしないだろう。
 コートは誰にも着られる事なく、捨てられてしまうかもしれない。
(もったいないよぉ、こんなに可愛いコート・・・・・・)

 理解があるが、意外に強引な所もある有川夫婦。しかも、をとくに猫可愛がり。

(滝に落ちた時も・・・将臣くんだけがすっごい怒られてたよね)

 そもそも、ついてくるなと言われたのに着いていったと譲。
 将臣にしてみたら、足手まとい。しかも、かってに滑って落ちたのを助けてくれたのに、将臣
だけが叱られた。

「じゃ・・・今日は。これ着て気合入れて行きますね!新しい物は良い事ありそうですもん。あ
りがとう、おば様」
 が袖を通した。
「いや〜ん!やっぱり似合うわ。ね?景時君」
 突然話をふられ、景時の肩が震えた。
 コートを見た瞬間に景時もによく似合うと考えていたからだ。
「は、はい!・・・・・・ちゃん、お姫様みたいだね」
「えへへ。将臣くんにコート借りに行こっ、景時さん」
 景時の腕を掴んで、が紫子の部屋を後にした。





 運転手付きの車で病院へ着くと、さっさと院長室へ向かう紫子。
 その後を景時とが歩く。
「お兄様、紫子です」
 部屋の中から入室の許可をする声が微かに聞こえる。
「じゃ、入りましょう」
 紫子に続いて二人も院長室へ足を踏み入れた。

「初めまして。貴女が龍神の神子のさんだね?それと、地の白虎の梶原景時さん」
 純忠が手でソファーを指し示すと、紫子は純忠の隣に、景時とは純忠の正面の椅子へ
腰を下ろした。
「この人が私の二番目の兄で、純忠。一応この病院の院長センセイ」
 紫子が兄を紹介した。
「わざわざセンセイと強調しなくても・・・・・・。そんな事より、誰かに案内させよう。すぐに診察
してもらえるからね」
「あら、兄さんじゃないの?」
 紫子が不思議そうに純忠をみた。
「おいおい。若い娘さんに悪いだろう。大丈夫、ちゃんと秘密は守るし。女性の先生だからね」
 純忠がに笑いかけると、も安心したのか肩の力が抜けようだった。
「・・・・・・それくらい私も大切にして欲しいですわね?」
 紫子が純忠を睨む。
「はい、はい。久しぶりだし、文句でも何でも話していけばいいさ。その前に、さんの診察
に付いていてあげなくていいのかい?」
 肩を竦めながら、内線電話で人を呼ぶ純忠。
「オ、オレが!オレがちゃんについてます!」
 景時が力いっぱい言い切った。
「・・・・・・景時君?」
 紫子がどうしたものかと視線をに移す。が真っ赤になって俯いていた。
「その・・・ちゃんは景時くんにいて欲しい?多分診察室の外までだと思うけど・・・・・・」
 の首が微かに縦に振られた。
「ですって。お兄様、よろしくね?私はこちらでお茶でも頂こうかしら」
「病院はカフェじゃないよ」
 純忠は笑いながら立ち上がり、ドアを開けて秘書にお茶を頼んだ。
「お、丁度来たようだ」
 少し年配の看護士が部屋へ招き入れられた。
「こちらは婦人科の婦長さんでね、佐藤さん。彼も付き添うからね。後はまかせるよ」
 事前に話はしてあったらしく、とくに会話も交わされずにと景時は特別診察室とある部屋
へ通された。
「女性の方だけ・・・・・・」
 だけがさらにドアの向こうへ消えた。

ちゃん───)
 景時は、閉められたドアをずっと見つめていた。



 診察も終わり、後は診察結果を聞くだけとなった。
「・・・相手の人も外にいるのよね?一緒に聞く?」
 ひとりで結果を聞かなくてはと思っていた矢先に、女医の方から言い出されが頷く。
「それじゃ、来てもらいましょうね」
 婦長が景時を呼びに部屋を出た。

「失礼します・・・・・・」
 景時の顔を見たの表情が明るくなった。
「景時さん、診察の結果を一緒に・・・・・・」
「うん。もちろん」
 の隣の椅子に腰掛ける景時。
「あら〜、あなたがお相手なの。院長の知り合いって話だったから・・・・・・あなた、こんな若い
女の子相手に何考えてるの?」
 女医の先制攻撃に、一瞬怯んだ景時。しかし、ここで負けるわけにはいかない。
「オレは、ちゃんと結婚します!ただ・・・少しだけ先走って順番間違ったかもしれないけど」
 本当は結婚しているだの、余計な言い訳はしないと決めていた。
「ち、違うんです。私が悪いんです!私が・・・景時さんを誰かに盗られたくなくて・・・・・・」
「いいんだよ、ちゃん!オレが・・・ちゃんと考えてなかったから!」
 
 いつのまにか二人で謝りあっている様子をみて、女医の児島は、景時を見た目ほど軽い男で
はないと判断した。
「な〜んだ。こんな可愛い女子高生誑し込んだ、すっごい軽い男かと思ったら。どうりでねえ」
 あの院長が知り合いだからよろしくと言った理由が納得できた。
 処置に困って頼まれたのではなく、二人を助けたくてだったのだ。
「先に結論言うからね。妊娠してません」
 児島がと景時を交互に見ると、二人ともやや落胆した様子。
「・・・・・・結婚、反対されてるの?それで既成事実を先にとか?」
 子供が出来ていて落胆ならわかるが、出来ていなくて落胆されるとは。
「ち、違うんです。だって、学校以外困らないですもん。景時さんに似た男の子欲しかったなって」
 が落胆の理由を児島に告げる。
「オレも・・・ほんとは欲しかったです・・・・・・現実には無理ってわかってるんですけど・・・・・・」
 二人の凹みぶりに、児島と婦長の方が笑ってしまった。
「まあ・・・少し時期が早すぎたと思って諦めてね?その時が来たら、ぜひ二人の赤ちゃんをこの
病院で産んで欲しいかな」
 景時とは、一瞬で真っ赤になったがお互いに手を繋ぐと大きく頷いた。
「それで・・・っと。ちゃんは、生活面ですごく変った事とかなかったかな?多分過労気味で遅
れていると思うの。もうしばらく様子をみましょうね。一応漢方薬を処方するけど」
 児島が処方箋を机に向かって書き出した。
 その間、は生活で変わった事を考える。
「・・・・・・あ!」
「何っ?!」
 の声に、景時が反応する。
「家事・・・・・・」
「あ゛・・・・・・そうだよね、今思えばものすごく不便・・・・・・」
 が景時の口を塞いだ。
「あのですね、私ってば早く景時さんの奥さんになりたくて。家事全般を頑張りすぎちゃって」
 児島のペンを動かす手が止まった。
「・・・・・・料理、掃除、洗濯?そんなに頑張っちゃったの?」
 流石に料理は火を起こして、井戸の水汲みから。掃除もすべて手作業。
 洗濯に至っては、一枚一枚手洗い。そんな事を言えるわけもなく。
「・・・・・・はい。いつでもお嫁にいけるように、もう張り切りすぎちゃいまして」
「・・・・・・あはははは!あなた達って・・・何だか・・・もう・・・・・・」
 ペンを置いて笑い出す児島。
(応援したくなっちゃうわね、これじゃ)
「ビタミン剤追加してあげるわ。一日で出来るようになるものでもないし。気楽にね?」
 書類を婦長へ渡すと、婦長が部屋を退出した。

「二人はどこで会ったの?」
 何となく興味を持ち、訊ねてみた児島。
「あのですね、それはお洗濯していた景時さんを見て私が!」
「えっ?!違うよ。庭に可愛い子がいるなって、オレが待っててって声をかけたんだよ〜」
 またも二人で同じ事を言っている。
(要は、お互い同じ想いって事なのね)
「一目ぼれか〜。それにしても、お洗濯してたなんて。いい旦那様になりそうね?」
 児島がに微笑むと、が嬉しそうに頷いた。
 婦長が薬を持って戻ってきた。
「すいません、婦長。じゃ、さん。漢方薬は、食事の前に。ビタミン剤は食後。どちらも一日三
回きちんと飲んで下さい」
「はい!ありがとうございました」
 薬を受け取り、と景時が一緒に頭を下げた。
「院長室へご案内します」
 婦長が景時とを連れて診察室を出た。

「まいったなぁ・・・・・・放っておけない感じ」
 が景時を庇うと、景時もを庇う。お互いを想いあっている二人が羨ましく感じられた。



「どうだったの?」
「ご心配おかけしました。残念ですけど・・・・・・」
 景時が紫子に頭を下げた。
「えっ?!もしかして・・・・・・」
 紫子の顔が青ざめる。
「・・・・・・赤ちゃん、まだだったんです。しかも、過労で・・・アレが遅れているって・・・・・・」
 が真っ赤になって景時の背に隠れた。
「・・・・・・あ、そっちね・・・そう・・・・・・それじゃ・・・・・・」
「まずは解決したようだね?」
 純忠も気になっていたが、これで一安心だった。
「「はい」」
 景時とが一緒に返事をした。

 紫子は、大きく息を吐き出した。
「じゃ、今日はこれからどうするの?一緒にお昼でもどうかしら?」
「ごめんなさい、おば様。今日は・・・そのぅ・・・・・・」
 景時の腕を掴んでもじもじし出す
 気づいた純忠が紫子を引き止める。
「こら、紫子。二人は、ようやく落ち着いたところなんだ。デートの邪魔をするものじゃないよ。久しぶ
りに私と食べよう。どうだい?」
「・・・そうよね。お邪魔よね!帰りは・・・大丈夫?帰れる?」
 紫子の問いに、景時はの顔を覗き込む。景時には、わからない。
「はい!景時さんのお洋服とか、靴とか、お買い物してからおば様の家へちゃんと・・・帰れますよ?」
 が『帰る』という表現を使うのは正しくない。の家ではないのだから。
 それでも使ったという事は───
ちゃん、可愛いっv景時君がいるところがお家なのね〜。荷物持ちなら、ぐうたら寝ている将臣を
呼び出せばいいから」
 男兄弟に囲まれて、紫子が寂しかった事はわかっているつもりだった純忠。
(やれ、やれ。紫子は、余程さんがお気に入りなんだねぇ───)
「退屈女王様の紫子の相手は私がするから。二人とも、早めにお昼に行かないと並ぶようだよ?」
 純忠と紫子に送り出されて、景時とは横浜の街へ出ることにした。





「景時さん、中華街行きませんか?あのね、少しずつたくさん食べたら楽しいかな〜って」
 が楽しそうに笑うのに見惚れていて、返事を忘れた景時。
「か・げ・と・き・さん?中華、嫌ですか?それじゃ・・・・・・」
「えっ?いや、中華ね、中華。何でもいいんだ〜、知らないものばかりだし。連れてって〜」
 名前はわかっている。しかし、実体験がないのだ。中華はわかっても、味が不明の景時。
「大丈夫ですよ。たまに譲くんが作ってくれたり・・・私も・・・作りましたよ?」
「そうかぁ〜、ちゃんのが一番おいしいとは思うけど。まずは色々してみないと!」
 手始めに電車へ乗って移動する事にした。

「あ〜、どうしてコレ動くんだろ〜〜〜」
 電車のドアにへばりつき、流れる景色を見つめながら景時が疑問を声に出していた。
「景時さん、子供みた〜い!」
 電車は電気で動くから電車。にとっては、それ以上でも以下でもない。
 が、景時にとっては───
「な〜んか、知りたいなぁ〜〜」
 は、景時の発明好きを思い出した。
「そうだ!景時さん、今日は無理だけどね。図書館とかで、こういうのの仕組みを視聴できるし。コミュ
ニティセンターみたいなところで、子供科学教室とかあるかもだし。小さな道具とかなら、ホームセンタ
ーとかへ行けば、ドライバーとか買えますよ?」
 振り向いた景時の顔は、例えて言うなら少女漫画のヒロイン並に瞳が輝いていた。
「ほんと?ほんとにそんな幸せな所があるの?うわ〜〜、楽しみだなぁ」
 普通のデートスポットとしては、まるでオススメではない。しかし、と景時である。
「今日は駄目ですからね?先に必要な物をそろえないと。コートも将臣くんの借り物だし」
「あ・・・・・・一式借りてるんだよね〜、悪い事しちゃったなぁ」
 全身借り物だらけの自分を眺めて、両手を上げる景時。
「来週で学校終わりで、冬休みだから。毎日お出かけ出来るし。早く一人暮らし出来るように・・・・・・」
 ここに来て、重要な事実に突き当たる。
「景時さん、お料理した事ある人?一人暮らしだと、しなきゃだよ?」
 が景時を見上げた。
「ん〜、ないけど。コンビニ?とかで平気だよ。心配しないで〜〜」
 心配だと言い返そうとしたら、降りる駅に着いてしまった。
「景時さん、ここで降りるから」
 は景時と手を繋ぎ、電車を降りた。



 友人たちと何度が訪れた事のある店に入り、注文を済ませると先程の話に戻す
「景時さん。やっぱりね、一緒に暮らしたいよ」
「それは、もちろんオレもだけど・・・・・・」
 はまだ学生なのだ。一緒にという事は、家事をしようとしているわけで───
「駄目!駄目だよ。ほら、卒業すればさ。一緒に・・・ね?周囲に認めてもらいたいし・・・・・・」
 後一年。長い一年になりそうだが、ここはこちらの世界へ来た時からの考えを告げる景時。
「やだ〜!一緒に暮らすのっ。学校もちゃんと行くよ。・・・・・・怨霊の封印より楽勝だよぅ、ね?」
 命がけの封印と、学業を天秤にかけるのがそもそも違うのだが。の心配は他にもある。
 景時が会社で仕事をするようになれば、当然会社には女性社員が。
 離れて暮らしていては毎日会えない。の心配のウエイトは、こちらの方が高め。
(浮気されたら嫌だよぅ・・・・・・景時さん、格好いいもん。こっちでも違和感ないよ〜)
 景時の見た目が幸いなのか、不幸なのか。
 こちらの世界で二人で歩いていると視線を感じていた
(みんな景時さんの事、見ていたもん)
 背が高くて目立つというのも半分。しかし、はそんな事には思い至らず。
「・・・・・・学校がない日に、オレの事待っててくれたら嬉しいな〜って思うし」
 
 学校がある日は他の人とデート?

 の中で、景時の浮気の心配が確定。
 一方の景時も、学校でのが心配。
(悪い虫がつかないように、将臣君と譲君に守ってもらわないとね!・・・まてよ・・・・・・)
 こっそりテーブルの下で印を組む景時。

 ぽふんっ!───

 テーブルの上には、小鳥。ただし、小鳥がさらに小鳥。景時の式神だ。
「出来たかも!」
「わ〜、景時さん・・・・・・」
 が手の中へ隠す。
「駄目だよ、飲食店ではペット禁止だから。ね?」
 の言葉で慌てて式神を返した景時。
「突然、どうしたの?」
 小鳥がいなくなった両手をテーブルから離した
「あ、その・・・・・・ちゃんに何かあったら大変って思ったんだけど。術が・・・弱くなってる」
「・・・・・・こっちの世界では、五行の気をあまり感じないし。それでかな?」
 こちらへ戻ってきて思ったことは、京にいた頃の体内を流れているあの感覚がない。
 それがどういう意味を持つのか、この時初めてわかった
「そっか・・・・・・大気の力を借りないで術を発動させるのは厳しいね」
 二人が話している内に、頼んだ料理は並べ終えられていた。



 食事も終え、買い物に繰り出す。
「景時さんは、どんな感じの服が欲しいですか?」
 の手にはシャツが握られていた。
「う〜んと。わかってるようで、わかんないんだよね〜。ちゃんにお任せしてもいい?」
「はい!」
 それからの景時は、が決めた服を試着しまくった。
「パジャマも〜」
 パジャマを数点選び、最後にしっかり下着や靴下に靴、ハンカチに至るまで決められた。
「大変!お財布もだよ〜。ポッケにお金はちょっと〜」
 お財布にバッグ、サングラス、マフラーに手袋が追加された。
 この時点でかなりの大荷物。
「・・・・・・どうするの?」
「将臣くん呼んじゃお〜」
 さっさと携帯をかける

「あ、将臣くん?起きられたの?・・・・・・そう、そうなの。荷物が沢山で。だからね・・・え〜!
じゃ、近くにいるんだ。そう・・・・・・そこの地下。うん、待ってるね」
 電話を切ると、店員さんに荷物を一時預ける。

「将臣君、なんだって?」
 景時には、電話の内容は半分しかわからない。
「紫子さんに言われて、近くに来てるんだって。隣のショッピングビルにいるみたい」
 携帯をバッグに入れ、景時と手を繋ぐ
「景時さんの・・・携帯も欲しいね。でね、ストラップおそろいにしよ?」
 またフロアーに戻り、今度はストラップを決めていると、の頭を軽く叩く手。
「よっ!そうしてると、ほんと普通だよな〜、景時」
 将臣が景時を眺めて一言。
「将臣くん、早かったね。あのね、景時さんに携帯駄目かな?」
「あ〜、携帯ね。いいんじゃねえの?今日買っちまえば」
 将臣は興味なさそうに即答した。
「わ〜い!景時さん、これ!これにしよ〜、おそろい」
 シンプルなストラップが二本、の手に握られていた。
「・・・・・・の相手は疲れるだろ、景時」
 の買い物のテンションの高さに退き気味の将臣。
「そんな事ないよ!二人でデートだし・・・・・・嬉しかったり」
 すっかりあてられて、将臣は溜息を吐いた。
「つかさ、母さんが夕飯はみんなで食べたいんだとよ。俺が荷物と先に帰るから」
 
 そして、お店のカウンターで出してもらった荷物を見た将臣は愕然とする。

「こんなに・・・・・・うっわ〜、全部ここで揃えたのかよ。母さんの車で来て正解だな」
 将臣が店員に荷物を運ぶのを手伝ってくれるように頼む。
「将臣くん?」
 が持とうとすると、店の者が持ってくれた。
「いいから。二人で携帯買って、ソレつけるんだろ?・・・・・・ついでに、時計も選んでやれよ」
 将臣がさっさと店から荷物を持って店を出て行った。

「気を使わせちゃったかな・・・・・・」
 手を振りながら景時が呟く。
「うん。そうかもしれないけど・・・将臣くんだから平気!それより、携帯と時計だよ〜」
 に腕を引かれて、ストラップの会計を済ませ店を出た。



 携帯を買い、時計もとりあえず一つ購入。
「お茶してから帰ろ〜?」
「そうだね」

 セルフ形式のカフェで、コーヒーを購入して席につく。
「景時さん!携帯貸して?」
 景時が携帯の入った紙袋をテーブルに置く。
 さっさと携帯を取り出し、ストラップを付けた
「じゃ〜ん!こっちが景時さんのね」
 景時に携帯を手渡す
「あはは!ありがと〜」
 手の平の上の携帯を眺める景時。初めての道具。
(う〜、知りたい。コレはどうなってるんだろ〜)
 さんな景時の心の声が聞こえないは、自分の携帯を取り出しストラップを付けた。
「で〜きた!これでオソロだよ〜。えへへ」
 テーブルの上に二台の携帯。色違いで同じデザインのストラップ。
 嬉しそうにしているを見ているだけで、景時の頬も自然と緩んでいた。
「あのね。来週の金曜日で学校終わりなの。でも、前の日は祝日でお休みで。だから、クリス
マス・イブは一緒にお出かけしたいなぁ〜なんて」
「うん、ちゃんと居られるなら何でもいいんだけど。クリスマスって、キリストの誕生日なん
だよね?イブっていうのが前の日って事で前夜祭。それってさ・・・・・・」
 景時の知識が教科書や一般常識としてのものしかない事に気づき、が景時の発言を止
めるべく、景時の口を塞いだ。
「ぎゃーっ!・・・・・・・・・帰りに雑誌買おう?それで説明するから」
 ここで言葉で説明は、とても厳しい。しかも、プレゼントを強請りたいわけでもない。
「そ?それじゃとりあえずは、有川家へ帰ろうか。あまり遅くなると心配させちゃうしね」
「うん!夕飯何かな〜〜〜、私も一緒でいいんだよね」

ちゃんが居ないと紫子さんには意味がないと思うんだけど───)
 時々出るの天然ぶりが可愛い。
(ほんとうに・・・・・・君は周囲にとても大切にされて育てられたんだなぁ・・・・・・)
 大切にされた分を、違う形で返しているの周囲は常に温かい。

ちゃんがいないと、ご飯食べるのつまらないな〜、オレ」
「えっ?!じゃあ・・・・・・毎日夕飯は景時さんと食べる!」
「あはは!それは楽しそうだね」



 手を繋いで有川家を目指す二人。
 本日の夕食は、景時のために和食で統一されていた。
 景時は、自分も可愛がられるタイプだという事にまだ気づいていなかった。





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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→現代へ

 あとがき:カレンダーは2004年12月辺りで考えてくださいませ♪ご都合主義で、まんまとBaby誕生ならず(笑)
          現代編は、現代事情に合わせた進行を考えております。←?
     (2005.5.14サイト掲載)




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