新しい場所、新しい秘密





「・・・っとに。あの人たち、が生きがいだよな」
 将臣がテーブルに突っ伏した。
「景時さん、すいません。両親・・・あれが普通で・・・その・・・・・・」
 続きが言い出せない譲。
「いや、ありがたいよ。オレ、ここじゃわからない事ばっかりでさ・・・・・・」
 将臣が肘をついて顎を手に乗せる。
「そういやさ。景時、どこに落ちたんだ?」
「え?オレ?オレは白龍に連れられて、最初にいた部屋に。で、紫子さんが居たんだ。
すぐに行成さんも帰ってきて・・・・・・俺が来るのは知っていたから、待ってたって」
 将臣が譲を見る。
「・・・まだ何か隠してそうだよな、あの人たち」
「ですね。景時さん、うちの両親は先輩のオマケとでも思って諦めて下さい」
 譲が景時のコーヒーが減っていないのを見ると、盛子を呼んだ。
「景時さん、コーヒー苦手でしょ?何がいいですか?ほうじ茶とかもありますよ?」
「あ・・・わかっちゃった?これ初めてだから・・・何だろうって思ってたんだよね」
 照れくさそうに頬をかく景時。
「それでは、色々ご用意してきましょうか」
「お願いします。すいません・・・白龍にも何かお願いします」
 譲が頭を下げると、盛子が台所へと消えた。

「そういえばさ、やたら親父も母さんもパーティーとか行ってたよな。小さい頃は、藤原の本
家にもよく行ったじゃん」
 将臣が小さい時の記憶を頼りに、何かヒントがないかと考える。
「あちらの家は大きかったし。庭も広くて・・・そうそう、兄さんのおかげで迷子になったっけ」
「また俺の所為かよ・・・・・・」
 二人の遣り取りが面白くて、景時が笑う。
「いいなぁ・・・兄弟仲良くて。うん、うん」
 景時が退屈そうな白龍を抱きかかえると、二人が声をそろえて否を唱える。
「「はぁ〜?!」」
「・・・ほ〜んと。息もピッタリだよね」
 声が揃ってしまったことが不本意なのか、将臣と譲は顔を背けた。
「・・・ところで。盛子さんだけいて、他の使用人が帰されたのって何でだ?」
「それは、私はもともと菫様にお仕えしていたからですよ」
 お盆に色々な飲み物をのせた盛子が現れた。
「へ?盛子さんって、いつから生きてんの?」
 将臣が盛子の拳をくらった。
「覚えてませんか?私、菫様を追いかけて、見様見真似で術を試したんですの。そうしたら
こちらのお庭で菫様と遊ぶ将臣坊ちゃまと、譲坊ちゃまの目の前にどっかりと・・・・・・」
 これまた上手く時空を飛び越えたものだと感心しつつ、その光景を譲は覚えていた。
「庭にある、桜の木の前でしたよね」
「そうそう。はじめ、菫様とわからなくて・・・・・・だからですわ。事情だけは存じています」
 景時と白龍の前に、様々な容器に入れられた飲み物が並んだ。
「あ、あの・・・これは・・・・・・」
 景時がどれから手をつけるか悩んでいる横で、白龍は真っ先にオレンジジュースを手に取
り、飲み始めていた。
「はい。右から抹茶、玉露、煎茶、ほうじ茶、ウーロン茶。グラスに入った物が冷たいもので、
ミネラルウォーター・・・・・・」
「どれでも飲んでみて、好きな物がわかったら名前を自分で覚えろよ」
 将臣が説明を中断させた。
「うん。そうさせていただきます・・・・・・」
 素直に右から順番に飲み始めた。



「皆見て、見て〜!可愛いでしょ〜」
 ワンピースを着たの背中を押しながら、紫子が登場した。
 景時の動きが止まる。
 譲は、ぐったりとした様子のを見て、母親を嗜めた。
「・・・母さん、それ何着目だよ・・・・・・先輩くたびれているじゃないか」
「え〜っ。だってぇ〜、将臣も譲もちっとも可愛くないんですもん。つまらないじゃないの〜」
 反省の色がない紫子に、将臣も小言をあびせる。
「だいたい、男が可愛かったら不気味だろうが!それに、せっかく景時がここにいるのに邪魔
すんなよ」
「あら。将臣ったら、そんなにわかった風な事言っちゃって。そうね〜、景時君とちゃんは
二階の客間へどうぞ。そういえば、お父さんの着替え手伝ってあげなかったわ〜」
 紫子は、行成の部屋へ歩いていった。
「親父よりが先かよ・・・すまなかったな、
「い、いいんだよ!私も可愛い服嬉しいし・・・その・・・どうかな?」
 将臣と譲が景時を見る。そこには、口を開いて放心するまぬけ顔の男が一名。
「景時は、お前に感想が言えないらしい・・・客間わかるよな?」
「景時さん!立って下さい」
 譲に立たされ、我に返る景時。
「あ・・・オレ・・・・・・」
「景時さん、あの・・・お部屋へ行こう?」
 差し出されたの手に手を重ねて、景時ともダイニングから姿を消した。

「よく考えたらさ・・・あいつ等、夫婦なんだよな?だけど、こっちじゃは高校生だしなぁ」
 腕組みをする将臣。
「・・・景時さんも、あの年齢で新入社員も厳しいし。そもそも、戸籍がなきゃ結婚出来ないよ」
 譲がつらつらと思いついた事を述べると、将臣が手を叩く。
「それだ!さっき親父から景時名義の通帳とカード預かったんだ。明日、必要な物を買ってこい
って。あれもさ、勝手には作れないよな?」
 唸りながら考え込む二人。不意に譲が立ち上がる。
「どうした?」
「俺も着替えてくるよ。制服が皺になるし。宿題もしないと」
 譲も部屋に戻って行く。
「宿題ねぇ・・・・・・あいつ、宿題の存在を一年以上覚えてたって事か?ありえねーっ」
 将臣も立ち上がり、白龍の手を引くと部屋へ戻ることにした。



「景時さんが無事でよかった〜」
 ソファに腰掛ける景時と。正しくは、は景時の膝の上。
「オレも・・・早く会いたかったよ〜〜」
 一言話しては、キスを繰り返す二人。会話が進まない。
「その服、どうしたの?似合うけど・・・景時さんぽくないよぉ」
 がシャツを引っ張る。
「そ?将臣くんの借りたんだよね。今までの服じゃちょっとって。明日買い物へ行きなさいって、
行成さんに言われちゃった」
 が景時の膝から降りる。
「私も行きたーい!お買い物!」
 立っているを足の間に抱き寄せる景時。
「うん。よろしくね。オレ、何にもわかんないし・・・・・・ちゃん、ふわふわで可愛いね」
「ほんと?景時さん、何にも言ってくれないから・・・・・・」
 の身体を撫でながら、手の甲に口づける景時。
「だってさ・・・そういう布も・・・服も見たことないし・・・あんまり可愛いからどうしよって・・・・・・」
 顔を上げて、目を閉じる景時。が軽く口づけた。
「えへへ。おば様がね、色々用意してくれてたの。そろそろ、おじ様のお部屋に行こう?」
 今後の自分たちに関係する事を早く知りたくて、二人は客間を後にした。



 また同じ顔ぶれが書斎に集まった。
「おや、ちゃんはお姫様みたいだね。似合うよ」
 将臣と譲は、弁慶とヒノエを思い出していた。
(そうか〜、あまり気にならないと思ったら。身近にいたんだタラシが)
(・・・・・・どこかで血族だったりとか?)
 思わぬところで意見が合い、将臣と譲が頷きあった。
「さて、どこまで話をしたかな・・・・・・」
「私の・・・父と母の家系の話まで・・・・・・」
 の言葉で、行成は手を叩いた。
「そうそう、そうだったね。それじゃ、ちゃんの家の話から我が家に戻すとしよう。今の藤原
一族の実権は、紫子の兄上が取りまとめているんだ。それこそ、藤原という名が無くとも、あり
とあらゆる事業や官公庁に一族の者がいる。昔から龍神の神子を助けてきた一族だからね。
それなりに力を蓄えているんだよ」
 一方で、行成の家系のように、占術に長けているものの表に出さない一族も、龍神の神子の
手助けをするべく、伝承を伝えている。
「母はね、とくに未来視に長けていて。景時君がこちらへ来ることを予見していて、これへ記して
くれていたんだ。そうだなぁ・・・これを預けられたのは、母が亡くなる前だった。その頃から我々
は、受け入れの準備をしていたんだ」
 壮大な話である。テーブルの上に置かれた書付を元に、景時が来る前に準備がなされていた。
 そして、景時が来る日付までわかっていたということだ。
「それじゃ、景時さんはこの世界に居てもいいの?」
 の問いに、大きく頷く行成と紫子。
「よかったぁ〜〜」
 が景時に寄りかかった。
「戸籍もあるし。職は、ゆくゆくは会社を任せてもいいと思っているよ?ただ、今のままでは無理
だからね。私の会社で働いてもらう。将来は、そうだなぁ・・・将臣や譲と仲良く仕事をしてもらえ
ると嬉しいね」
 会話の内容は、わからない所もあるが、職は用意してもらえるらしい事を理解した景時。
 密かに胸を撫で下ろす。
「ただね?ちゃんは高校生だから。あちらの世界では、二人はもう夫婦として認められてい
るんでしょうけど・・・・・・ちゃんが大学を卒業するまでは、結婚を待って欲しいの」
 紫子が、言い難そうに景時とに現実を告げる。
「それって・・・・・・」
 の目に涙が浮ぶ。
「違うのよ!別れろっていう意味じゃないの。景時君には、マンションも用意してあるし。週末を
そこで二人で過ごすのは構わないと思ってるの。私たちも協力するし。ね?将臣、譲」
 突然名前を呼ばれ、首を縦に振るしかない将臣と譲。
「あと五年だけ、こちらの世界で夫婦となるのに時間をくれないだろうか?景時君・・・・・・」
 突然決断を迫られる景時。しかし、こちらの世界の常識を知らないので、即決出来ないでいる
と、将臣が口を開いた。
「頭固いな〜、親父も。が高校卒業の時に籍だけ入れちまえばいいじゃん。どうせ大学だっ
て、一族で経営してるところがあんだろ?受験の時に『』だって、入学時に『梶原』に変える
事くらい、戸籍操作にくらべりゃ、楽なもんだろ?」
 行成と紫子が顔を見合わせる。
「そうですよ。俺と兄さんで、景時さんにはこちらでの生活の仕方についてビシビシ指導するし。
すぐに先輩の両親に紹介しても大丈夫になりますって!」
 譲も将臣の意見を押す。
「まあ、今日明日は無理だけどよ。も一年くらいは我慢しろよ。景時だって、こっちで暮らす
知識を詰め込まなきゃならないんだから」
 そこで初めて白龍が意見を述べた。
「知識なら・・・欲しければ記憶も作るよ?」
 全員の視線が白龍に注がれる。
「記憶って、お前・・・前のが無くなっちまうんじゃ意味ないんだぞ?」
 将臣が白龍に確認する。
「前の?向こうでの記憶?・・・・・・こっちの世界の記憶は作り物だから。前のものは消えないよ」
 白龍の言葉に、譲が息を飲む。
「全部そのままで、こっちの世界の・・・そのご飯食べたり。電車に乗ったりとか。そういう知識だ
け欲しいって意味だぞ?」
 将臣に捲し立てられ、白龍がしばし考え込む。
「・・・えっと。暮らしていないけど、暮らした気がする感じにするって意味だよ?」
 白龍の場合、念には念を入れて、こちらから上手く確認しないと『景時が居ない』の二の舞にな
りかねない。慎重に言葉を選びながら、将臣と譲で確認作業を続ける。
 それを見守る行成と紫子の顔は笑っていた。

「一応大丈夫っポイけどなぁ・・・どうする?景時」
 将臣が景時との方を向く。
「どうって・・・早くちゃんと一緒になれるなら、オレ平気!」
 景時の返事に、がしがみ付く。
「だ、だって!身体に負担とかあったら・・・それに・・・嫌だよ、思い出が無くなっちゃったら!」
 景時がを抱きしめた。
「大丈夫。君がオレを覚えていてくれるから・・・オレはきっと何回でも君が好きになる。忘れても、
きっと何回も好きになるんだ・・・・・・」
 二人の遣り取りをお構いなしに、白龍が割り込む。
「じゃ、景時いくよ?いいの?」
「うん、頼むよ」
 白龍の手のひらに、光る球体が見える。
 段々と大きくなったそれを、景時の額へ埋め込む。光が消えたとき、景時はソファーに沈んだ。
「景時さん?!嫌だよ、どうして?」
 が景時の身体を揺する。心臓は動いているが、目覚めない。
「おい、白龍!景時、どうなっちまったんだ!」
 将臣が白龍に詰め寄る。
「じき、目覚める・・・・・・」
 白龍の言葉通り、景時の瞼がゆっくりと開かれる。
「景時さん?気分はどう?私の事・・・わかる?」
 景時の顔を心配そうに覗き込む
 ゆっくりと景時の手がに伸ばされ、その頬に触れた。
「ん・・・オレの・・・奥さんで・・・・・・ちゃん・・・・・・大丈夫、全部覚えてる。もらった手紙も・・・
新婚旅行も・・・全部・・・・・・」
 起き上がると、軽く頭をふりを抱きしめる景時。
「あ〜頭がいっぱいだぁ〜。アレだ!勉強しすぎって感じだよ・・・・・・」
 息を詰めて見守っていた有川兄弟が、大きく息を吐き出し胸を撫で下ろした。
「・・・ったく。で?どんな感じだよ」
 将臣がその効果を確認したくて質問をする。
「ん〜・・・したことはなくても、本を読んで知っているような変な気分。例えばさ、これが『スリッパ』
だってこととか。さっきまでと違って名前やどういうものか、全部頭に浮かんでるし・・・・・・」
 将臣が指を鳴らした。
「やったな!じゃあ・・・ジーンズの穿き方とか、今ならわかってるって事だよな?」
「うん。そういうのはわかってるみたい・・・・・・その時になればきっと『知ってる』って状態なのかな」
「じゃあ、これ渡しとく」
 景時名義の通帳とカードを手渡す将臣。
「う、うん。何となく・・・わかる・・・うん・・・・・・」
 景時も、自信がないのか曖昧である。
「でも、基本的な事がわかっているなら、後は色々な所へ出かけたり、色々してみれば確実になる
んじゃないかな?」
 譲が建設的な意見を述べる。
「そうね。週末は、ちゃんとデートしたり、将臣か譲が買い物とか、お出かけにつき合えばいい
んじゃないかしら!学校とかも行ってみたければ、見学くらいなら・・・ねえ?」
「そうだなあ・・・まずはしばらく様子を見るとしよう。将臣、お前来週は学校休め」
 行成が、将臣の方を向く。
「・・・・・・なんで俺が休むんだよ。つか、サボりをすすめるなっつーの!」
「いいんだよ。お前が平日五日間、景時くんと色々な所へ行きなさい。それこそ、飛行機の乗り方も
一緒に実践すればいいじゃないか。札幌くらいなら、日帰りでも行けるし。譲はクラブがあるから休む
わけには行かない。弓道の大会も近いことだし・・・・・・」
「そうよね〜。弓道の大会は、兄さんの息子には負けないでねっ!」
 紫子が、握り拳で譲を応援した。
「・・・・・・母さん、伯父さんとまた何か賭けましたね?」
 譲が白い目で母親を見つめる。
「い、嫌ねぇ〜、この子は。・・・・・・だって、母さん新しい別荘欲しいんだものぉ〜〜〜京都に」
「それくらい、父さんだって買え・・・・・・京都?!」
 将臣と譲が顔を見合わせた。
「そうv京都に。あるでしょ、いい物件が。母さん、あれ欲しいのよね〜〜〜」
 紫子が言っている物件には、将臣も譲も心当たりがあった。
 大文字焼きの季節に訪れたことがある。
「まさか・・・あの東山の別荘を?!」
「そv母さん、欲しいのぉ〜。ちゃんと景時君にプレゼントしたいのよ〜〜〜」
 別荘一軒を賭けする母も母だが、それを子供でなくにあげたいらしい紫子。
 口を開けたまま放心する将臣。譲は椅子からすべり落ちていた。
 話の方向からいって、父である行成もにあげたいのだろう、あの別荘を。
「・・・・・・別に他の場所買えばいいだろうが。どうして譲の勝敗なんだよ」
「だぁってぇ〜、マンションじゃ景時君に悪いじゃない。やっぱりお家がいいじゃないのぉ〜。清水も
六波羅も近いし・・・ね?譲、頑張ってね!」
 紫子が、譲に手を合わせた。
「・・・・・・向こうは何て言ってるんです?」
 椅子へ座りなおしながら譲が母親に確認する。
「賭けは兄さんが勝つから、それくらいお安いよって・・・・・・兄さんの鼻もあかしたいのよね」
 母の負けず嫌いは今に始まった事ではない。普段なら無視したであろう。
 ただし、今回はの喜ぶ顔が見たいとも思う。
「わかりました。俺が勝てばもらえるんでしょう?くれるというものはもらいましょうか」
 譲が眼鏡をかけ直し、母に微笑みかけた。
「お、おば様!譲くんも、何馬鹿な事言って・・・・・・」
 今までの洋服やバッグとは桁違いの話に、ようやく口を挟めたが思い留まらせようと必死に説
得を試みるが、すべて空振りに終った。

・・・諦めろ。親父と母さんに譲が加わった時点でもう決定事項だ」
 将臣が立ち上がっているを座るよう、手でソファーを示した。
「だ、だって。別荘って・・・家一軒だよ?!そんなの困るよ〜」
「さあ?いいんじゃないの?あの三人、かなり盛り上がってるし。俺だって止められないぜ?もらっとけ」
 すっかり三人は、あのいつも冷静な紫子の兄を慌てさせる作戦で話が弾んでいた。
 譲にしてみれば、長年のライバルとの決着を賭けでの勝利で飾れるチャンスなのだ。
 気合も入る。それに、譲はあの那須与一に弓を習った。

「おっと。話の続きをしなくては。すまなかったね、ちゃん、景時君」
 ようやく話が脱線している事に気がついた行成が、自ら話の軌道修正をした。
「将臣と出かけて色々覚えた具合で、仕事やマンションへの引越しについて考えよう。それまでは、ここ
で暮らしてもらってもいいかな?」
「はい。よろしくお願いします」
 ソファから立ち上がり、深々と頭を下げた。
「後、龍神様からも話があるそうだよ?」
 白龍が、の膝から離れて宙に浮いた。
「神子・・・・・・たくさんは無理だけど・・・・・・時々は向こうの世界へ戻れるよ?そう、八葉も一緒にね」
「えっ?白龍、それって・・・・・・」
 白龍がの手をとる。
「神子が・・・私の・・・応龍の力を取り戻してくれたから・・・一年に一度くらいなら、黒龍の成長にも影響
はないよ。神子だけじゃなくて、景時も、将臣も、譲も。時々は向こうの様子を見に行くことが出来るよ」
 の目から涙が零れた。
「皆に・・・会いにいけるの?・・・・・・ちゃんと暮らしてるよって・・・・・・」
「うん。だけど、何度もは出来ないから・・・私を呼びたければ、庭の桜から呼べるよ」
 行成が白龍に問いかける。
「何故・・・我が家の庭の桜なのですか?」
「あの桜は・・・繋がっている・・・だから・・・・・・桜・・・神子・・・・・・」
 白龍の身体が光り出す。
「白龍?!どうしたの?」
「神子・・・もう戻らないと・・・・・・久遠の時、この地にあった桜・・・時を見守りしもの・・・・・・」
 空間が歪み、道が開く。
「白龍!」
「またね・・・神子・・・・・・私の神子を・・・守って・・・・・・」
 光に包まれて、白龍の姿は無くなった。
「消えちゃった・・・・・」
 白龍の消えた辺りを見つめ続ける
「うん・・・・・・きっとさ、黒龍と一緒におやつ食べたかったのかもよ?」
 景時がの頭を撫でた。
「やだ・・・それじゃ白龍が食い意地張ってるみたい」
 ようやくに笑顔が戻った。

「龍神様は、お忙しいようだね。お泊りいただけなかったか・・・・・・さて。ちゃんと景時君の件だが」
 行成がソファに腰掛けた。
「二人は・・・どうしたい?ちゃんが高校を卒業したら籍を入れるかい?」
 行成の問いかけに、が大きく頷く。
「だって・・・景時さん盗られちゃうもん!」
 『誰に?』と、その場に居た以外は思った。しかし、声には出さないでおいた。
「そうか、ではそう出来るよう皆で協力し合おう」
 行成がまとめに入ろうとするのを、将臣が邪魔をする。
「ちょっと待った!・・・・・・親父。親父は未来視出来るのかよ」
「痛い事を聞くねえ。父上には多少力があったよ。もちろん母上はご存知の通り。しかし、私にはその徴
候は表れなかった。そう言うからには、お前には何かあったのかい?」
 将臣に視線が集まる。
「俺は、その・・・夢でとコンタクト取れたくらいで・・・未来ってもんじゃなかったけど・・・・・・」
 俯く将臣。が手を叩く。
「そうだった!何だかどこに居るかな〜って思うと、将臣くんが夢に出てきて。それが、本当に現実での
約束になったりしたんだよね!」
 楽しそうに話すの隣にる景時の顔色が変る。
「ほう・・・譲はどうだい?」
 今度は、譲の方へ視線を向ける行成。
「・・・俺は・・・自分の未来を・・・夢で見ましたよ。・・・先輩が変えてくれたけど。死ぬはずだったんだ」
「そんな事ないよ!助かる運命だったんだってば。おまじないが利いたんだよ」
 菫直伝のあのまじないが、譲の命を繋ぎ止めた。
「そうか・・・どうも譲に引き継がれたようだね、未来視の力は。将臣のは、ちゃんの力の方が働きか
けたものだろう。少しは才能があるようだが・・・・・・次の神子誕生の予言者になるのかな?譲が」
「・・・・・・無理だと思うけど。まあ、何か夢で見たら父さんに知らせるよ」
 譲が肩を竦めた。
「さて、他に確認したい事は?」
 行成が一同をゆっくりと見る。
「・・・なければ。思い出した時にいつでもどうぞ。そうそう、書付はもう過去の事になったから。これは譲に
引き継いだ方がいいかな。近々藤原の本家へ皆で挨拶に行かないとね」
 は立ち上がり、行成と紫子へ頭を下げる。
「おじ様、おば様。色々ありがとうございました。・・・これからも、よろしくお願いします」
 景時もに倣う。
「いいんだよ。さ、後は二人で話しがあるんじゃないのかい?」
 行成の言葉に素直に従う
「はい!・・・景時さん、お部屋へ行こう」
 大まかなことがわかり、ある程度納得したと景時は部屋へ引き上げた。



ちゃん、明日病院へ行こう」
 部屋へ入った途端、景時がの肩を掴んだ。
「えっ?景時さん、どこか具合が悪いの?痛い?」
 景時のシャツを掴む
「ち、違う!オレは全然平気。そうじゃなくて・・・その・・・産婦人科っていうところ・・・・・」
 の両目が見開かれた。
「その・・・病気も妊娠もなら・・・そうなんだよね?オレも行くから・・・・・・で、子供が出来ていたら・・・・・・」
 が手を伸ばして、景時の唇に指をあてた。
「あの、検査薬とかもあるし・・・病院じゃなくても・・・その・・・子供が出来ていたらね、産みたいの」
 寂しげに景時がへ微笑みかけた。
「そう言ってくれるのは嬉しいけど。駄目だよ。ちゃんに負担かけちゃうけど、今回は諦めてくれないかな。
学校は・・・高校は卒業しなきゃ。オレが考えなしだったのが悪いんだけどさ・・・ごめんね」
「景時さんが謝る事じゃないよ!私が・・・私がこっちへ帰りたいって我侭・・・・・・向こうの世界なら、お母さん
になっても普通の事だったんだよ?」
 泣きそうなを抱きしめる景時。
「オレが・・・こっちの世界へ来るという意味をちゃんと理解してなかったんだよね。・・・心配だから・・・病院は
行こう?明日、紫子さんにいい病院きいて出かけよう?」
 の瞳から涙が零れた。
「泣かないで?オレは・・・こっちの世界は楽しそうだと思ってるし。そりゃ・・・まだ仕事もしてないけど・・・・・・
でも、やっていけると思ってる。だから・・・またちゃんと・・・その・・・仲良く暮らしたいわけで・・・・・・」
 が景時にしがみついた。
「ね?オレさ、がんばっちゃうから。だから・・・その結婚もね、焦らなくてもいいかな〜って」
 の泣声が止まった。

「景時さんは・・・私と結婚したくないの?」
「違うよ。ちゃんは『梶原』だって大声で言いたいんだけどさ。その・・・ちゃんがよく言ってたさ、
普通の恋人同士がするデート?とかさ・・・前は無理だったけど・・・今なら出来ちゃうかな〜って」
 の手が景時の腰に回った。
「景時さん、大好き・・・・・・何だかとっても前向き・・・私がしっかりしなきゃなのにね」
「えっ?!そ、そ、そ、そんな!オレね、ちゃんいないと何も出来ないし・・・・・・よろしくね?」
 の額に口づけた。

「えっと・・・今日は寝よ?景時さん、先にお風呂・・・・・・使い方わかる?」
 に笑顔が戻り、胸を撫で下ろしていた景時は、無いものに気がつく。
「あ・・・・・・オレさ・・・ちょっと・・・その・・・コンビニ行って来ようかな〜〜〜」
「コンビニ?!どうして?シャンプーとかも多分あるよ?」
 非常に言い難いが、である。自分の妻である・・・ここの世界では違っても。
 景時は、の助けを借りる決心をした。
「その・・・下着がなかったりするんだよね。コンビニであるよね?ついでに、コレ使ってみたいし」
 景時がに見せたものは銀行のカード。
 は顔を真っ赤にしながらも、景時の心情を察し、頬を軽く叩いて気合を入れた。
「うん!近いから手を繋いで行きましょう。初デートだね・・・でも、カードの暗証番号知ってるの?」
「・・・心当たりはある。多分ちゃんの誕生日」
「へ?」
 の鼻先に素早くキスすると、天井を見る景時。
「だって・・・それ以外ないと思うんだよね・・・・・・」
 今までの行成との遣り取りを考えると、一番妥当な推理。
「おじ様ったら・・・・・・」
 行成の景時を試すような悪戯。
「明日、おじ様を叱っておくからね!大丈夫、もしもの時は私もお財布あるから。行こ〜〜〜」
 から景時と手を繋ぎ、玄関へ向かう。
 盛子が慌てて奥から出てきた。
さん、どちらへ?何か足りないものでも?」
 不手際があったかと、盛子はに問いかけた。
「えっと・・・大通りのコンビニまで。デートして来ますね?」
 に微笑みながら言われては、それ以上追求は出来ない。
「いってらっしゃいませ。お気をつけて」
「はい。いってきま〜す!」
 手を繋いで出て行く二人を見送る盛子。
 
 景時とが居なくなってから、行成と紫子が姿を現す。
「コンビニねぇ・・・・・・明日、ちゃんに叱られるかな」
「何かなさったの?」
 紫子が行成を見上げる。
「ん?カードの暗唱番号を言うのを“うっかり”忘れたねぇ・・・・・・」
 とぼけた表情の行成の横顔に、紫子が大きな溜息をつく。
「あなた。そんな意地悪して・・・・・・」
 行成の左腕を抓る紫子。
「そうは言っても・・・私はちゃんに叱られるのが好きでねぇ・・・・・・」
「困った人だ事。でも、今回ばかりはやりすぎると嫌われましてよ?」
 紫子は、軽く行成の背中を叩くと、玄関を後にした。
「・・・・・・それは困るね。仕方ない、明日は誉められる事をしないといかんかね」
 口元に笑みを浮かべながら、行成もその場を後にした。



 手を繋いでコンビニを目指す景時と
「景時さん、靴も買わなきゃだね!今は冬だからそれでもいいけど」
「靴〜?あ、そうかぁ。何だかものすごい荷物になりそうだ」
 自分の足元を見る景時。身体も大きければ、足のサイズも大きめ。
「そこだよ!コンビニ久しぶり〜v」
 この世界は、夜でもとても明るかった。それだけでも驚きなのに、深夜に店が開いている。
 頭でわかっていても、つい店の構えを眺めてしまう景時。
「景時さん?入ろ?」
 景時の手をが引いて店内へ入った。
 
 無事にATMも使えて、カゴを持って店内を見て回る。
 目的の物を見つけるが、実際使用したことがない景時。
ちゃん・・・これって違いは?どっちがいいかなぁ?」
 こればかりは、も父親の洗濯物でしか見た事がない。
「あ、あの。こっちのが“ぴたっ”とした感じで・・・こっちのが“だるん”てした感じで・・・これが
最近流行ってる感じので・・・・・・あの・・・多分だけど、景時さんの今のに近いのだと、この
辺りかなって思うよ?」
「ふ〜ん。“だるん”ねぇ〜。なんか興味あるなぁ・・・“だるん”と“ぴたっ”でいってみようかな!」
 そのような商品名ではないが、の説明のままに下着をカゴへ放り込む。
「景時さん!あっち見たい〜〜〜」
 景時と手を繋いだまま、はお菓子の棚へ向かう。
「これね、全部お菓子なんですよ!色々あるでしょ〜〜〜。あ・・・コレ食べたい」
 が景時を見上げる。
「じゃ、買おう。オレも興味ある」
 がカゴにチョコレートを入れた。

 会計も済ませ、有川家に到着。部屋で本日の買い物したものを並べる。
 さっそく下着をベッドの上へ広げて眺める景時。
「うん。ちゃんの言う、“だるん”と“ぴたっ”て・・・アレの事なのね」
 納得といった風に、ひとり腕組みをして頷く景時。
「いやーーーーーっ!だって、どう説明していいかわからなかったんだもん」
 チョコレートを食べようとしていたが、真っ赤になって顔を隠した。
「あはは!そんなに嫌がらないでよ。でもさ、寝るときは“だるん”がよさそうかも〜」
 今晩の下着を決めた景時は、が座っているソファの隣に腰を下ろした。
「でもさ、オレのはいいとして・・・・・・ちゃんはあるの?」
 真っ赤になりながらも、しっかり訊ねる景時。
「あ、あのね・・・その・・・おば様が・・・・・・景時さんと仲良くねって・・・後で見せるね」
「う、うん・・・・・・」
 会話が変な事に気がつかない二人。下着の用途は、見せるものではない。



 明日は病院とお買い物の予定───





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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→現代へ

 あとがき:景時くんに受難の日々を(笑)     (2005.5.9サイト掲載)




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