新しい時間、新しい関係





 その日、空は澄み渡り一片の雲も無く。
 神泉苑に集まる面々。
 
「もぉ〜、お見送りはいいって言ったのにぃ・・・・・・」
 泣き顔を見られたくないは、昨日京都守護邸で別れを済ませたつもりでいた。
「まあ、まあ、さん。お別れではなく、門出の見送りと思っていただければ。ね?」
 諭すように弁慶がに微笑みかける。
「行く場所も、日にちもわかっていて、知らないフリできるか!馬鹿っ!」
 言っていて恥かしいのか、九郎が赤くなった。
「九郎もさぁ〜、最後まで言ってくれるよな。居なくなっちゃうと、サビシィ〜くらい言うも
んだろうが〜〜」
 将臣が青龍の片割をからかう。
「なっ、ばっ、馬鹿言うな!俺は別に寂しくなんか・・・・・・」
「はい、はい。九郎は素直じゃないですからね。泣いてもいいんですよ」
 弁慶までもが九郎をからかう。涙もろい九郎が泣かないように。

「九郎・・・・・・なんか中途半端でごめんね。西国の補佐って言われてたのに・・・・・・」
 景時がすまなさそうに九郎に微笑みかける。
「お前なんか、頼ってないから大丈夫だ!気にしないで行け!」
 それきり、腕組をして九郎は誰とも視線を合わせないようにしていた。

「姫君は、来るのも帰るのも突然だよなぁ〜。何も用意する時間がなかったよ」
 ヒノエが握手を求めると、が手を重ねた。
「えへへ。私らしいでしょ?お土産は、一番大切な人連れて行くから無くて充分」
 の言い様に、ヒノエが景時をつつく。
「だって!景時がの戦利品かぁ〜〜。これまた・・・・・・」
「・・・・・・何?」
 景時が続きを待つ。
「・・・・・・安くついたな!」
「ヒノエくん、失礼だよぉ!!!」
 の拳がヒノエを叩く。
「・・・随分と場所をとる戦利品ですね」
 普段あまりしゃべる事のない敦盛からの言葉に、景時が項垂れる。
「そ、そうね。場所は・・・とるよねオレ・・・・・・」
 密かに住所不定を気にしていた景時に、敦盛の言葉が矢の如く突き刺さった。
「もぉ〜!皆で景時さんをからかわないで!」
 が景時の腕にしがみ付いた。
「でもね、。兄上が大きくて場所を取るのは事実だわ。昼寝とかされてると、本当に
邪魔なのよね〜〜」
 朔は、掃除をしようとして邪魔だった事を思い出す。
「朔まで!景時さんが小さかったら・・・・・あ・・・・・・」
 何かを思いついたらしいが言葉を切り、景時を見上げる。
「か、可愛いかも・・・手のひらに乗るくらいなんてどうかな?いつも一緒とか・・・・・・」
 真っ赤になって俯くに、将臣が手団扇でツッコミをする。
「ソコ、熱いから止めろ。最後まで惚気てるんじゃねえ。嫌だねぇ〜〜〜あつっ!」
 笑いが収まり、いよいよ白龍と黒龍が池の淵へ進み出る。
「じゃ、神子行くよ?」
「うん!皆ありがと。バイバイ!」
 大きな光の球体に包まれ、たちが消えた。



「行ってしまいましたね・・・・・・」
 弁慶が九郎をつつく。
「そうだな・・・・・・」
 池の波紋を見つめる一同。
「あれ?白龍は?」
 ヒノエが朔に問いただすと、黒龍が答えた。
「白龍の神子だ。白龍が神子を向こうの世界まで送り届けたら・・・白龍は帰ってくる」
「そういうこと!じゃあ・・・無事に着いたかわかるよな」
 ヒノエが青い空を見上げた。
「ええ。兄上が迷惑かけないといいんだけど・・・・・・」
「大丈夫ですよ。神子がいるから・・・・・・」
 敦盛も空を見上げた。
「帰るか」
 歩き始める一同。朔の後ろには常にリズブァーンが控えていた。





 学校の渡り廊下。
 季節はクリスマス前の冬に逆戻りしていた。
「わ〜、制服着てる!」
 が自分の姿を見てから、周囲を見回すと、将臣と譲も制服姿だった。
「・・・兄さん、その頭・・・・・・・・・・・・」
 向こうで過ごした時間分、肉体は年齢を重ねたままだった。
「切れば・・・元通りかな?将臣くんはちょっとだけ成長しすぎだけど・・・・・・」
「神子が望むなら、身体も元に戻せるよ?ただ、過ごした時間も戻ってしまう・・・・・・」
 庭で浮遊している白龍。
「白龍!どうしてここに?」
 の傍へ移動し、姿が大きくなる白龍。
「私の神子・・・・・・もちろん見届けるため。大丈夫、神子の願い通り、すぐにあちらへ
戻り、京を守り、朔と黒龍と共に暮らすよ・・・・・・」
 譲が前へ進み出た。
「白龍、さっきの『時間が戻る』というのは、記憶が無くなるって事なのか?」
 白龍が頷く。
「有るべきものが無くなる、無に還る・・・・・・そこには何もない・・・・・・」
 将臣が制服のボタンをひとつ外す。
「まあ・・・肩幅とかな。多少の問題はあるけど、記憶の方が大切だ。俺はこのままで
いいぜ?」
「俺もこのままでいいけど・・・・・・」
 だけが周囲を忙しく探し回っていた。
「白龍、景時さんは?景時さんがいないよ?」
 の言葉で、将臣と譲が顔を見合わせた。
「神子、景時はここにあるべき者ではないから・・・・・・無い者は存在出来ないよ?」
 さも当然といった風に白龍が説明する。
「それって!じゃあ・・・・・・」
「景時は、この時間、この場所には存在出来ない・・・・・・そろそろ私は行くね。神子、
何かあったらいつでも呼んで・・・・・・」
 光の球体が現れ、白龍を包むとそのまま消えてゆく。
 残されたものは夕闇と雨の音。
 


 その場には膝をつく。
「そんな・・・景時さんが・・・居ない・・・・・・・・・・・・」
 かける言葉が見つからないが、いつまでもこのままではいられない。
・・・そこじゃ濡れる」
 将臣がの腕を掴み立たせると、庭から渡り廊下の下へ移動させる。
「・・・・・・私が我侭言ったから・・・景時さん・・・いなくなっちゃった・・・・・・・・・」
「お前だけ向こうへ帰ってもいいんだぞ?それ使えば出来るんだろ?」
 将臣がの首にかかる逆鱗を指した。
「・・・・・・景時さん、向こうにいるの?将臣くんも帰りたい?」
「俺たちは別に・・・なあ?」
 譲もの傍へしゃがみ込んだ。
「先輩がしたい事の手伝いをするだけですよ。俺たちはこっちの世界で先輩の幸せを祈
るだけになっちゃいますけどね」
 逆鱗を握りしめる
「・・・考え・・・させて・・・・・・・・・・・・」

「さ〜て。確かこの時は買い物の約束をしていたんだよな。行かなくていいよな。帰るか」
 を立たせ、手を引く将臣。
「譲も鞄とってこいよ。を家まで送るぞ」
「兄さん、まだ授業が・・・・・・確か次は・・・・・・・・・」
 譲が記憶の糸を手繰り寄せる。譲のクラスは次が古文だったはずだ。
「ば〜か!一日サボったくらいで困らねえだろ?だったらお前は授業出て来い」
 の手を引いたまま、さっさと二年の教室へ向かって歩き出していた。
「鞄取りに行ってサボる方が図々しいって・・・・・・兄さんは、兄さんのままだ・・・・・・」
 溜息を吐きながら、譲も鞄を取りに教室へ向かった。



 いつもの帰り道のはずなのに、ひどく懐かしい。
 ここでの時間軸でいえば、昨日の続きだが、と譲にとっては一年半ぶり。
 将臣に至っては四年半ぶりとなる。
「あ〜、。ちょうど金曜日だし。ゆっくり寝ろ。な?」
 将臣がの頭を撫でる。
 無言のままは玄関の戸を開け、中へ入っていった。
 扉が閉まるのを見届けると、将臣と譲は歩き出す。有川家はの家から近い。
「・・・兄さん・・・・・・・・・・・・」
「ああ、わかってる。逆鱗使ったら、今度はだけが行方不明だろうな。時間が止ま
る事はない・・・・・・」
 最初に異世界へ飛ばされた時は三人だった。だからこそ三人で同じ時間へ戻れた。
 一人が時空を越えれば、が存在しないまま時間は流れ出すだろう。
 何年か後に今回のように戻っても、身体は成長してしまっている。
 周囲の人々に違和感を与えては、居場所がなくなる。もしくは、記憶と引き替え。
は・・・記憶を捨てる事は選べない・・・・・・」
「・・・・・・でしょうね」
 重い足取りで歩き続ける二人。ようやく自宅の門が見えた。

 将臣と譲の家は、普通の家よりは少し大きめである。
 父は社長業、母も旧家の出である。
 自宅に弓道場がある家は、狭いとはいえないだろう。
 いつもはどうやって帰っていたか?と考えながら、将臣は玄関を開ける。
「・・・・・・ただいま」
「・・・ただいま帰りました」
 使用人が二人を迎える。
「お帰りなさいませ。旦那様と奥様が書斎でお待ちです・・・お客様もお見えですよ」
 スリッパを出しながら二人に告げる使用人は、二人が幼い頃からいる者だ。
「きゃくぅ〜?それなら俺は関係ないだろうが・・・・・・」
 無視して自分の部屋へ行こうとする将臣。
「あ、すいません盛子さん。それにしても・・・父さんがこの時間に?」
 スリッパを履きながら礼を述べる譲。
 対照的な二人だが、盛子にかかればどちらも同じ。
「将臣坊ちゃま!ちゃんと書斎へ行ってくださいね!・・・・・・ええ、つい先程お帰りに」
「・・・珍しいですね。鞄を置いたら行きます」
 譲も自分の部屋へ向かった。

 鞄を机に置くと、そのまま将臣の部屋の戸をノックする譲。
「兄さん、入るよ」
 鞄を床に置いたまま、ソファに転がる将臣。
「兄さん・・・この時間に父さんと母さんが居るのは珍しいだろ?何か大切な話だと思う
よ。行こう?」
 面倒そうに身体を起こす将臣。
「・・・ったく。どうしてそう冷静なんだ。俺は考えたいことが色々あるんだよ!」
「だから!その為にも、父さんと母さんに話を聞けるチャンスだろ?『星の一族』につい
てとか。俺たちの出来る事をしようよ!」
 譲の言葉で、将臣が起き上がった。
「そうだな。すまなかった、譲。・・・・・・親父に聞いてみるか!」
 
 二人は父親の書斎の戸の前に立ち、軽く深呼吸をするとノックする。
「親父、入るぜ」
 将臣が戸を開くと、応接セットに座っていたのは───
「景時?!」
「や!お邪魔してるよ〜」
 軽く手を上げて、景時が笑っていた。
「あ、あんた!がどれだけ心配していると・・・・・・!」
 それだけ言うのがやっとの将臣。一方の譲は、言葉すら発せられないで立っていた。
「えっ?ちゃん、オレがここにいるの知らないの?」
 景時の視線の先を追えば、隣には白龍が座っていた。
 しかも、のん気にケーキを食べている。
 ソファーの背もたれで隠れていて、戸口の将臣と譲の位置からは見えなかったのだ。
「は、白龍!お前、騙したな〜!!!」
 大股で近づくと、小さな白龍の肩を掴み揺する将臣。
「将臣!止めなさい」
 父親に静止され、将臣の手が止まった。
「まったくお前たちは・・・・・・譲もそろそろ何か言ったらどうだ?」
 立ち尽くす譲に父親である行成が声をかける。
「うふふ。二人とも、まだまだ子供ねぇ?将臣は少し髪が伸びたかしら」
 将臣を手招きし、髪に触れるのは母親である紫子。
「まあ、いい。私もそうそう何度も話すのは大変だ。譲!景時くんがここにいる事は秘密
にして、ちゃんを呼んでおいで。そうだな・・・後で紫子に電話もさせるから。夕食に
招待という事にしよう。それと、将臣!お前は何か楽な服を景時くんに貸してあげなさい。
明日買い物に行くのにも、この服では少々都合が悪い。必要なものはこれで。使い方も
もちろん将臣が教えてあげるんだよ?」
 テーブルに置かれたのは、銀行の通帳とカード。名義は『梶原景時』になっていた。
「親父!これ・・・・・・」
 手で将臣を制する行成。
「それも後だ。全員そろってから。使用人も本日は盛子さん以外には帰ってもらう。夕食は
何がいいかな・・・・・・」
「あなた!ホテルのデリバリーにしません?さんがいらっしゃるなら、デザートが美味
しいところがいいですわ」
 紫子が立ち上がり、電話を手に取る。
「任せるよ。それじゃ、譲は早く行ってきなさい。景時くん、頼りない息子ですが、日常生活
でわからない事は将臣か譲に。困ったことは私でも、家内でも。誰でもいいですよ」
「すいません。・・・将臣くん、譲くん、よろしく〜」
 それぞれ聞きたいことは山ほどあるが、行成は全員揃わないと話す気はないらしい。
 将臣は諦めて、景時を案内する事にした。
「景時、こっちだ」
 それを見て、譲も書斎を後にした。

「あなた!ちゃんのお婿さん、素敵ね〜」
ちゃんはいい子だからね。出来れば我が家に嫁に来て欲しかったが・・・馬鹿息子
どもにはもったいない。さて、龍神様。いつまで滞在いただけますか?」
 しばし考える様子の白龍。
「神子に全部告げたら帰るよ!」
「そうですか。それでは、部屋の用意をしなくては・・・・・・」
 景時と白龍の部屋の準備を盛子に言いつけると、行成は書斎の奥の書棚を開ける。
「ようやくこれを伝える時が来たな・・・・・・」
 本に似せてあった箱の中から、書付を手に取った。



 将臣は、部屋の洋服ダンスを開けていた。
「あんたデカイし、意外と筋肉質なんだよな〜」
 ここにある服はすべて高校二年生時点の将臣の服。
 少々スリムなデザインとサイズのものばかり。今の将臣にも、ややきつめだろう。
 とりあえず、ジーンズを景時に放り投げる。
「それなら穿けるだろ」
 景時は、両手で持ち上げ考えている。
「あのさ、将臣くん。これ・・・・・・」
 引き出しを漁る将臣の手が止まり振り返る。
「何だ?きついか?」
「いや。どうすればいいのかな〜なんて」
 将臣は額に手をあてた。景時がジーンズを知っている訳も無く・・・・・・。
「わりぃ。それはな、ここをこうすると開いて、足はここに通して。ここをあげて・・・とめる」
 将臣のレクチャーにより、ジーンズを穿けた景時。
「・・・・・・これ硬い布だね。しかも重い?」
 足を折ったり伸ばしたりしている景時。
「・・・あんた、足長かったんだな。少し短くても今日は我慢しろ。下着も明日買いに行こうな」
 下着ばかりは景時に貸すのは心理的に無理。
 しかも、微妙に景時の方が足が長いことが判明し、やや機嫌が悪くなる将臣。
(う〜ん。身長差に対して、足の差がこれだと・・・俺、足が短いのか?)
 気を取り直して、今度は上に着るものを探し始める。
「女ウケする格好させないとな〜。に文句言われたら面倒だ・・・・・・」
 タンスを漁る将臣の横で、脱いだ袴や陣羽織をたたむ景時。
 ついでに手袋も、腕飾りも外す。
「これだな!上はこっちに着替えてくれ」
 グレーの半袖Tシャツと、白いデニムシャツを投げる。
 自分用には黒いスウェットの上下を出し、将臣も着替えた。
「あ〜、シャツのボタンはこうするんだ。で、全部はとめなくていいから」
 ひと通り景時の全身を見て、頷く。
「よし!これでいいだろ。じゃ、親父のとこ行くか」
「ありがとね〜、将臣くん」
 景時が礼を述べると、将臣が手を左右に動かす。
「これからまだまだ覚える事あるだろうし。いちいち礼は言わなくていいから」
 そんな遣り取りをしていた。



 ピンポーン───
 家の玄関前に立つ譲。の母親が玄関を開けた。
「あら、譲くん久しぶり。に用事?」
「はい。あの・・・父と母がぜひ今夜の夕食に先輩を招待したいと・・・・・・後で母から電話が
あると思いますが・・・・・・母が食べたいデザートがあるらしくて・・・・・・」
 有川家には女の子がいない。紫子は、が大のお気に入りでよく招待していた。
「どうぞ、上がって待ってて。を呼んでくるから」
 譲を招き入れると、玄関の扉を閉める。
「いえ、おかまいなく。その・・・俺が呼びに行きます!」
「そう?じゃあ、お願いするわ。なんだか部屋に上がったきり、下りてこないのよ」
「任せて下さい!」
 
 かつて知ったる家の階段を上り、の部屋の戸をノックする。
「先輩?今日は・・・家で夕飯をいかがですかって、父さんと母さんが・・・・・・」
 中で人が動く気配がしたかと思うと、の声が微かに聞こえた。
「・・・・・・行きたくない。今日は放っておいて」
「でも・・・とても大切な話があるみたいで・・・・・・その・・・星の一族の事じゃないかと思うん
です・・・・・・」
 譲の言葉で、の部屋の戸が少しだけ開けられた。
「・・・どういう事?」
「詳しいことは何も・・・ただ、全員揃ったら話すって父さんが・・・・・・夕食はついでです」
 小声で話す譲。
「このままでもいいのかな?」
 制服を着替えないままで泣いていたのだろう。の目は真っ赤だった。
「大丈夫ですよ。ただ・・・・・・母さんの着せ替え人形になる恐れはありますけど」
 紫子は、余程女の子が欲しかったようで、を着飾るのが大好きだった。
「もう、おば様ったら。また何か?」
「いえ。俺より先に帰っていたんでなんとも言えないですけど。ただ、デザートについて気合
入っちゃってます」
 部屋で小さなバッグにハンカチなどを詰め替えて、手に持つと階下へ下りる。
「お母さん!お呼ばれしたから行ってくる〜」
 台所にいるだろう母親の承諾の返事が聞こえた。
「いこ、譲くん」
 有川家目指して二人は歩き始めた。





 書斎の扉を開けて、を先に通す譲。
 が見たものは───
「景時さんっ!」
 駆け寄って飛びつくと、しっかりと景時に抱きとめられる。
ちゃんっ!」
 有川ファミリーの前で、映画のようにキスする二人。
「あ゛・・・・・・」
 将臣と譲は頭を抱えた。
(しまった・・・忘れてたよ、この二人のいちゃつきぶりを!!!)
 よもや両親の前でこのような事になるとは予想できず、そろりと顔色を伺う。
 冷静を装う行成。その実、娘を嫁に出した父親気分であろう事は、口元の歪みで推察。
 紫子に至っては、自分に置き換えて夢見心地なのだろう。
 両手を胸の前で合わせ、視線ははるか彼方。

「その・・・なんだ。そろそろいいか?景時、
 仕方が無いので、将臣がその場を仕切ってみる。
「きゃっ!やだ、ごめんなさい。その・・・・・・」
 景時にしがみ付いて、離れない
「す、座ろうか」
 景時とは並んでソファーに腰を下ろすと、手を繋いだ。
「いいんだよ。君たちの事は、わかっているから。知っている理由も今から説明させてもら
おうと思って、ちゃんを招待したんだから」
 軽く片目を閉じてに優しく微笑む行成。
「えっ・・・・・・あ、白龍!」
 ここでようやく将臣の膝に座る白龍に気がつく
「ひどいよ、白龍!景時さん、居ないって言ったじゃない!」
 景時に会えたため、口では文句を言いつつもの顔は笑っていた。
「神子・・・あの場所に景時は居ないって・・・ちゃんと言ったよ?」
 白龍は、間違っていない。あの場所、あの時間には確かに景時はいなかった。
「もぉ〜!そういう時は、どこにいるかを言うもんなの」
 が両手を広げると、白龍はの膝の上へ空中を移動して来た。
「うん。ごめんなさい神子・・・・・・」
「もういいんだよ、白龍。ありがと」
 白龍の頭を撫でる

「さて。どこから話せばいいかな・・・・・・ちゃんは私の両親を覚えているかな?」
 行成が、まずは自分の家系から話し出した。
 行成の父親である義孝は、将臣も譲も記憶がないだろう幼少時に亡くなっていた。
「父は遡れば、龍神の神子に縁の人でね。そして母は、景時君の世界では『星の一族』と呼
ばれる龍神の神子に仕える一族の者だった。二人は、出会うべくしてこちらの世界で結ばれ
たんだよ」
 菫は龍神の神子の誕生を予感して、こちらの世界へ舞い降りた。
 しかし、それは神子誕生よりもかなり前の時間だったため、彷徨っている所を義孝に助けら
れた。
「長い歴史を考えれば、三十年は誤差というくらいなのかも知れないが。二人が結婚して生ま
れたのが私だ。母はね、ちゃんに会えるまでに三十年かかったんだ」
 こんなに近くで龍神の神子であるを見守り続けていた。
ちゃんが将臣たちとあちらの世界へ行くことは知っていたんだ。・・・・・・ここに母の遺言
になるのかな。まあ手紙のような書付があってね。ただ、先に知ることで歴史が歪んではいけ
ない。今日、この時まで話さずにいようと、紫子と・・・一族で決めていたんだ」
 将臣が口を挟んだ。
「何で母さんが知ってるんだよ・・・・・・」
 行成が大きな溜息を吐く。
「将臣は考えが浅いなぁ。母さんの旧姓を知っているな?」
「藤原・・・・・・」
「紫子の家系についても話そうか」
 行成が紫子を見ると、紫子が頷く。
「私から話した方がよさそうね。こちらの世界にも『星の一族』の家系が続いていてね。かなり
昔から藤原家の庇護を受けていたのよ。そう、時には嫁入りという形をとりながら」
 脈々と受け継がれていた一族の血。
「昔から女の子が生まれたときは、『藤』とか『紫』がつく名前をって決まりらしくて。また、中々
生まれないのよね、女が」
 言われてみれば、母方は男ばかり。将臣の顔色が変る。
「・・・て、ことは。両方の世界の『星の一族』の血縁者って、俺と譲か?!」
「や〜ん!将臣ったら。そうなのよ」
 将臣の肩を楽しそうに叩く紫子。
 項垂れる将臣。一方の譲は、またも放心していた。
「・・・譲はもう少し平常心を学んだ方がよさそうだな」
 行成が譲の肩を揺する。
「で、でも!おじ様、それじゃ、私って何?どこから私に繋がるんですか?」
ちゃんはしっかりしてるねえ。それに引き替え、将臣も譲もだらしがない」
 二人の息子は放っておいて、話を続ける行成。
「龍神の神子はね、この世界の他の世界からも降臨していたらしい。けれど、何代目かの神子
は、この世界から誕生されていてね。こちらでいうところの平安時代くらいにあたる景時くんの
いた世界へ降臨した龍神の神子の縁者なんだよ、ちゃんのお父さんが」
「えっ?どうしてお父さんが・・・お母さんじゃないの?」
「面白いねぇ、ちゃんは」
 行成は、一度紅茶を口へ運んだ。
「母がね、ちゃんにしたら菫おばあちゃんが、とても気にしていたので、調べさせてもらった
んだよ。実に興味深い話がわかってねぇ・・・・・・」
 行成の視線が景時へ移った。
「その時の神子様もね、連れて帰ってきちゃったらしいんだよ。八葉の一人を旦那様にして・・・。
ね?地の白虎の景時君。どうも地の白虎の八葉は、割り切りがいいらしいねぇ?自分の世界を
あっさり捨ててしまうなんて」
 景時の顔から汗が吹き出た。
「あ、その・・・何ていいますか・・・・・・」
「あら。素敵な事だと思いますわよ?ちゃんと、とってもお似合いだわ」
 紫子が行成のカップに紅茶を足した。
「その神子様の曾祖母には、兄弟がいてね。その弟君の末裔がちゃんのお父さん」
「そんな事、パパ・・・お父さん、何も言ってなかった・・・・・・」
 の目が行成と紫子を交互に見る。
「そうだね。でも、今の時代で家系を辿れる家も珍しいと思わないかい?君のお父さんの家系が
遡れたのは、紫子の家で代々龍神の神子の子孫を見守って記録していたからなんだ。向こうの
世界からこちらへ降臨された記録もある。つまり、遡ると両方の世界の龍神の神子に縁がある家
系から神子は誕生するわけだ。ちなみに、ちゃんのお母さんは、それから百年後の神子の
家系なんだ。こちらもねぇ?」
 の顔が真っ赤になった。
「・・・連れてきちゃったんですね?」
 小声で訊ねる
「あはははは!察しがいいねぇ、ちゃんは。その通りだよ」
 行成が楽しそうに大笑いをした。その時、書斎の戸が叩かれた。

「旦那様、夕食の用意が出来ました」
 紫子が時計を見る。
「あら、もうこんな時間!ちゃん、今日はね。とぉ〜っても美味しいデザートを作るパティシエ
がいるホテルのお料理なの〜」
 ようやく将臣が復活した。
「・・・・・・食事が先だろうが」
 紫子が将臣の頬を摘む。
「嫌ね〜、この子は。だから女の子にモテないのよ?ダイニングへ行きましょう、ちゃん」
 紫子がと白龍の手を取り、ダイニングへ案内する。
「まったく。紫子はちゃんが大好きで・・・すまないねぇ、景時君」
 行成が景時をダイニングへ案内した。取り残された将臣と譲。
「・・・おい・・・譲。・・・生きてるか?」
「・・・・・・一応・・・・・・それにしたって、こんな大事なこと黙ってるなんて・・・・・・」
 ようやく立ち上がる将臣。
「いかにも・・・親父だよ・・・・・・大好き人間って、親父もじゃねえか・・・・・・」
 譲も立ち上がる。
「それを言うなら・・・俺たちより、父さんも母さんも先輩が大好きだろ?」
 長く大きな溜息を吐くと、二人もダイニングへ向かった。



 食事もあらかた終わり、デザートが運ばれる。
 喜ぶのは紫子とだけ。
 他は黙ってコーヒーで流し込んだりしていた。
「続きは、また明日にしようか。ちゃんも泊まっていきなさい」
「そうよ、そうしましょう!私、お家に電話してあげるわね」
 紫子は、さっさと電話をかけに行ってしまった。
「あ、あの???」
「すまないが、まだちゃんの家族に景時君を会わせるわけにはいかないんだ。ただし、この
家ではかまわない。そういう事だよ」
 コーヒーのカップを静かに行成が置く。
「何でだよ。別にいいじゃんか」
 将臣がの代わりと言わんばかりに口答えをする。
「景時君には、ここで色々な事を覚えてもらわないと。少しでもちゃんのご両親に不審がられ
ては困るんだよ」
 将臣が黙る。ジーンズすら一人では穿けないのだ。
 頼りにならないという烙印を押されたら、との結婚は危うい。
「・・・・・・まあ、が家にくればいいことだし」
「それも困る。景時君には、しっかり働いて自立してもらわないと」
「はぁ?矛盾してるよ、親父・・・・・・」
 将臣が溜息を吐くと、譲が口を開いた。
「だったら・・・明日と言わず続きを話せばいいじゃないですか。それで一通りは現状がわかるん
ですよね?それからにすれば・・・・・・」
「えらいわ、譲!あなた中々いい経験してきたみたいね、あちらの世界で」
 いきなり母親に抱きつかれ、譲の首は絞められていた。
「こら、紫子。譲が白目になってる。・・・・・・続きが先に知りたいかい?」
 が頷く。
「そうか。じゃあ続きはまた書斎で。食後にすぐというのもなんだから、一時間後くらいを目安に集
まろうか。ちゃんの部屋は、景時君と一緒でいいかな?」
 小さくが頷いた。
ちゃん、可愛いお洋服買ってきたの〜!お着替えしましょ」
「あ、あの・・・・・・」
 紫子の手によって、は連れ去られた。 



 まだまだ話は続きそうな気配───





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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→現代へ

 あとがき:長い〜、氷輪説明下手〜(泣)世界観がうまく書けません・・・ううっ。     (2005.5.8サイト掲載)




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