青天の霹靂  ≪望美side≫





 火傷しちゃった日の夕方。
 景時さんの帰りは、いつもより少し遅かった。
 いつもならいる時間だけど、忙しかったんだと思う。
 それなのに、息を切らせて帰ってきてくれた。

 手に巻かれた布を見られたら、何て言われるかと。
 そればかり心配していたのに。

 ───ごめんね

 そっと私の手をとって、優しく撫でてくれた。
 思えば景時さんの様子は、その時から変だった。



 夕ご飯をいつもの様に皆で食べて。
 今日は火傷してるからって、お片づけは朔がさせてくれないから。
 そのまま部屋に行くと、景時さんが何やら箱を開けたりしていた。

 探し物かなと思って、手伝おうとしたらいいよって。
 邪魔をしないように部屋の隅に座ろうかなって。
 そうしたら箱を除けて、話があるって・・・・・・

 私、何か悪い事しちゃったのかな?

 向かい合わせに座ると、景時さんがポツリ、ポツリと話し出した。
 不安な気持ち、知られてたんだ───
 景時さんは優しいから、私の世界へ行こうと言ってくれた。

 でも。
 景時さんのこの世界で過ごした時間は?
 ・・・・・・それより長く過ごせば逆転するよね。
 景時さんの家族は?友達は?仲間は?大切な人たちは?
 ・・・・・・母上なんて、最初からあてにしてないってさ。
 ・・・・・・ちゃんより大切にしたいものは、オレにはないんだよね。
 景時さんの夢は?したい事は?
 ・・・・・・ちゃんがずっと笑っていてくれるのが夢。
 ・・・・・・したい事なんて、ちゃんと居たいだけしか思いつかないよ?

 すべて要らないと言ってくれる優しい貴方に。
 どう答えていいのかわからなかった。
 それなのに・・・・・・



「住所不定・無職の梶原景時28歳になっちゃうけど。・・・・・・いいかな?」
 
 将臣くんか譲くんだよね、そんな変な言葉教えたの。
 そっか・・・二人も知ってるんだ。
 景時さんの決意を。

 この漠然とした思いをどうしていいかわからないまま先送りしていた。
 毎日楽しいけど、時々私を襲う不可思議な感情。
 貴方だけが気づいてくれた───

 いきなりこの世界に放り出されて。
 毎日『龍神の神子』の名に縛られて。
 その時も、貴方だけは私の負担にならないように。
 熊野でも疲れたフリ。いつでも楽しい振る舞い。
 私が「辛い」とか「嫌」という言葉を紡がなくて済むように。



 ところで。さっきまで何してたんですかって聞いたら。
 私の世界へ行くのに、何か必要なものがあるか探してみたんだって。
 そっか、大切な思い出の品を持って行くんだ〜って。
 景時さんに悪いなって気持ちになったのに・・・・・・

「金目の物を持っていけば、しばらく生活出来るかなって。何が売れると思う?」

 景時さんって、ほんと可愛いなぁ。
 何が売れるって・・・・・・何でも売れるよ。
 この時代の物っていうだけで骨董的価値あるんじゃないかな?
 でも、違う世界って白龍が言ってたよね。それって、どうなんだろう?
 
 貴方がいるだけで、温かい気持ちになる。
 自然と笑みが零れちゃう。
 それなのに、自分の世界に帰りたいなんて。我侭だよね。
 そんな我侭まで、景時さんには受け止めてくれた。

 貴方の住所は、私の所。
 職業は、私の旦那様。
 年齢は・・・・・・これから28年以上向こうで一緒に暮らせば。
 貴方がここで過ごした年月を。
 想いを越えられるかな?

 28+28=56才?!オジサンだね♪
 私もオバサンになってる♪
 もっともっと一緒に過ごして。
 格好いいおじいさんと可愛いおばあさんって言われたいな。






Copyright © 2005- 〜Heavenly Blue〜 氷輪  All rights reserved.


≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→現代へ

 あとがき:さて、現代へ行く前フリ完了?(笑)     (2005.5.3サイト掲載)




夢小説メニューページへもどる