コトによる  ≪望美side≫





 景時さんの帰りが早いの、嬉しいな。
 宝物の部屋まで作ってくれて。
 景時さんも色々集めているのを、初めて知った。

「源太くんの足」

 まだ歩けそうにない足は、ふにふにっとやわらかくて。
 でも足なのよ。
 足なんだわ〜〜〜。
 家族の足が並ぶ紙を眺めては溜め息。

 ・・・足もいいけど、手もいいんじゃないかな?

 沙羅ちゃんのぺったん手形は、至るところに残っているし。
 私が景時さんに書いた文の端とか。
 可愛いからそのままにしておいたもの。
 きっと景時さんがとっておいてくれてる!

「手も可愛いと思うのよね。比べやすいし」

 眠っている源太を抱いたまま、沙羅が遊んでいる部屋へ移動。
 白龍と張り切って遊ぶ姿が可愛いの。
 
「あら、。何かあった?」
「何もないよ。源太くんがよぉ〜く寝てるから、何となくフラフラしてるの」
「そう?」
 さりげなく朔が手を伸ばしてくれるから、源太くんをちゃっかり預けて。

「沙羅!今日は何してるの?」
「ま〜〜〜」
 突進してくる沙羅ちゃんを抱っこ!
 二人とも大切。
 だけど、源太はまだちっちゃいから、沙羅にはちょっとだけ我慢してもらって。
 お姉ちゃんだものね?
 
 お姉ちゃんだけど、いっぱいは我慢させたくない。
 ほんのちょこっと。
 だから今日はママと遊ぼう?

「沙羅ちゃ〜ん。お散歩する?」
「うん!」
 振り返れば朔が頷いてくれたから。
 源太くんはしばらくお任せ決定。

「白龍も行こう」
「私はここにいるよ」
「じゃ、源太くんをお願い。少し庭をお散歩してくるね」
 白龍が沙羅を気遣ってくれているのがわかる。
 みんなに大切にされて、すっごくしあわせ家族じゃない?私たちって。

「沙羅ちゃん。大きくなったから長くはお散歩出来ないからね?」
「や!」
「じゃあ・・・歩いてくれる?」
 うふふ。悩んでる、悩んでる。
 歩きたいんだよね。
 でも、私だとまだ追いかけっこはしてもらえないのを知っているから。
 抱っこも好きだしね。抱っここそ長くは無理。

「あるく」
「よかった。簀子をぐるっと歩こうね」
 目の前じゃなくて、少し遠い階まで歩いてから抱っこでお散歩。
 私でも手を繋いで歩くの大変だもの。
 景時さんはもっと大変なんだろうなぁ。
 時折手を離したがるから、簀子の場合は沙羅の言う通りにしてあげて。
 欄干が柵代わりで安心だし、転ぶのは仕方ないし。

「痛いっていうのも覚えなきゃだものね?」
 大怪我は困るけど、どうしたら痛いのか知らなきゃいけないと思う。
 身体の痛みは見た目にもわかるから、いいよね。
 心の痛みは───


「沙羅!そろそろ階だから」
「は〜い」
 小さいなりに決まりを理解しているみたい。
 一度逃げられちゃった時にすっごく叱ったから、覚えたのかな。
 数段でも転げ落ちたら大変だから、まだ階でひとりはダメ。

「抱っこでお庭だよ〜」
「きゃ〜〜〜!!!」
 私の抱っこと景時さんの抱っこじゃ、沙羅の視点が違うんだろうな。
 それに。景時さんは今でも片腕、私は両腕。
 出来るだけ“重い”って言わないで、“大きくなった”って言ってる。
 女の子だもの、気になるよね?



「いいお天気でよかったね〜。今日のおやつは何だろうね?」
「うぅ・・・・・・」
 考えてる、考えてる。
 譲くんにお任せで申し訳ないけど、作る時間があまり無くって。
 なんかもう、源太くん次第で時間を決められないんだよね。

「くっき?」
「クッキーかぁ。クッキー美味しいね」
「きゃ!くっきぃ」
 沙羅に言われると、だんだんそんな気がしてくる。
 これで違ってたら、譲くんが沙羅に責められちゃいそう。
 悪い事言っちゃったかな?

「お日様ぽかぽか」
「ぽかぽか」
 言葉を覚えるのが楽しいのか、何でも真似されちゃう。
 気をつけなきゃ。

 春の庭は花がたくさんで、見ているだけで楽しい。
 でも、チューリップとかはないんだよね。
 定番みたいだけど、あれってオランダからいつ日本に来たのかな?
 どうでもいいことを考えていたら、とっても知ってる人の気配。


「ぱーぱ!!!」
「ただいま、沙羅」
 景時さんが見えたから、沙羅ちゃんが暴れちゃって。
 もう、どうしよ〜〜〜って、必死に抱えていたら!
 すぐに駆けてきて代わってくれた。


「お待たせ〜、沙羅!今日はママと一緒で楽しかったかい?」
「きゃっ!きゃっ!」
 両手で高々と抱えられて、ご機嫌指数が一気に跳ね上がり。
 もう私なんて忘れられてますよ〜だ。

「ただ〜いま!ちゃん。そろそろ中がいい頃?」
「おかえりなさい。え〜っと・・・まだ向こうから歩いてきたばかり
くらいなの」
 下りてきた階の方を指差すと、わかってくれたみたい。
「じゃ、久しぶりに三人でもう少し歩こうか。ね?」
「はい!」
 景時さんの背中を眺めながら歩くの。
 いつも見ていた背中。
 朔にはイロイロとすぐにバレちゃったけど。
 懐かしいなんて変かな?

 つい手を伸ばして、その背中に触れる。

「ん?」

 すぐに振り返って微笑んでくれて。
 背中を見ていた時より、もっと安心で。

「ぎゅ〜ってしたくなりました」
「う・・・ん。え〜っと・・・どうぞ!」
 私が沙羅に蹴られないように、高々と沙羅を抱えあげてくれたから。
 背中からぎゅぎゅぎゅっと抱きついてみた。


「きゃーっ!さーのん!さーの!」


 我が子の声で我に返り。
 すっごく変な状態じゃないですか!?これ。
 しかも、沙羅に焼きもちやかれてる!あれれですよ?
 慌てて景時さんを解放して周囲を見回す。
 よ、よかった〜。誰も見てなかったよね?

「沙羅が一番たか〜いよ!一番だよ〜〜、いいね〜〜〜」
 何事も無かったように沙羅と遊んでるけど。
 耳、赤いですよ?景時さん。


「えへへ。ちょっとだけ・・・恥ずかしかったですね?」
「君からっていうのが久しぶりだったから・・・・・・」
 そっか。そうかも。
 景時さんに抱っこしてだの何だの、お願いしてばかりだったし。
 こういうのは久しぶりかもしれない。

「・・・沙羅ちゃん!ママにも半分!ね?いい?」
 沙羅ちゃんが拗ねちゃわないように、半分だけってお願いしてみる。
 
「・・・あい」
 全身で頷いてくれたから大丈夫!
 景時さんの左腕は沙羅ちゃんを抱っこ。
 右手は───


「私の分はこっち。ね?」
 繋いだ手を沙羅に見せて確認。
 半分と言いつつ、半分じゃないけど・・・今は十分!

「いいね〜、両手に花。庭にも花」
「手といえば、手のぺったんも欲しいな〜って考えてたんですよね」
 手を繋ぐと油断しがちで。
 つい思っていた事をつるつるしゃべっちゃう。

「あ、それね。オレも考えてたんだよ。将臣君と話したんだけど、色紙
とかいう分厚い紙があるんだって?それを作ろうかなって。職人さんに
頼んできた。それが出来てきたら、またみんなでぺったんしようよ」
「ほんとに?すごぉ〜い、景時さん。何でもわかっちゃうんだ」
 小さな沙羅ちゃんの手と握手。
 小さいと思ってたけど、源太くんのおかげでとっても大きくなっていた
のがわかる。

「・・・ぺったんの日は、先に朔に言いましょうね」
「ははっ。確かに。冬じゃなければいいでしょ。風邪ひかせたら、それ
こそ大目玉だから」
 そ、そうね。
 ぺたぺた遊んで逃げ回る沙羅を捕まえるのは大変そう。

「今年の夏は・・・プールもあるし。楽しい事いっぱい」
「そうだなぁ。家の裏手にポッカリ池が出来てたっけね〜〜〜」
 白龍に悪気はなくて。
 あれはあれで、それなりに便利だし。
 ただ、危ないから交代で見張りの人を頼んでる。
 子供たちに危ないって言っても、遊びたいものね〜〜〜。
 あっ───


 景時さんが歌ってる。
 この歌、沙羅が生まれる前からたくさん聞かせてくれた。
 すぐに沙羅がうとうとと居眠りを始めて二度びっくり!


「景時さん?その歌・・・・・・」
「そ。オレの唯一の特技!どうしてだかこの歌を歌うと沙羅が寝ちゃう
んだよね〜。そんなに下手かな?」
「うふふ。違いますよ。景時さんの声がいいからです。夏になったら
また花火を見せて下さいね」
 沙羅にとっては私のお腹の中で聞いていた歌。記憶にあるのかな?
 手品みたいに沙羅を眠らせちゃう技を持っていたなんて。

「御意〜。歌の文句にもあったけど、もう約束してるつもりだよ」
 ここで沙羅との半分の約束を思い出す。
 半分まではいいのよ、半分までは。
 今度は正面から抱きついてみて。
 半分をちょっとオーバーしてるけど、約束した主は寝ているから。


「その歌の歌詞・・・異国の言葉の部分の意味、知ってます?」
 将臣くんたら気が利いていて。
 まるっと歌詞を景時さんに教えてくれていた。
 私に内緒で練習したかったからみたいなんだけれど!
 英語交じりの歌なんだもの。
 大変だったろうな〜、景時さん。

「大雑把に教えてもらった。でも・・・ちゃんとわかったのって、後から
だったかな。オレとしては、実践しているつもり。どうかな?」
「ヒミツです!私も眠くなっちゃったから、沙羅ちゃんとお昼寝してき
ますね」
 そっと沙羅ちゃんを受け取って。
 景時さんをその場において、朔が待ってる階まで揺らさないように大急ぎ。


 答えは毎日言ってますよ?景時さん!


 あの日から、恋してます。
 冬の晴れた日、初めて出会った時の事を覚えていますか?
 貴方も同じ気持ちでいますか?信じていますか?


 英語だと恥ずかしくないのは、普段聞きなれていないからかな?
 それとも、わざわざ確認する習慣がないから照れるのかな?
 “誓う”という言葉は重すぎて、簡単に口に出来ないから。
 遠い国の言葉に真実を隠して伝えくれたのなら。
 それが貴方らしくていいなって思ってます。










Copyright © 2005-2009 〜Heavenly Blue〜 氷輪  All rights reserved.


≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→京で二人の子供が?!

 あとがき:チューリップは江戸末期頃なんでしょうかね?平安時代にはなかったみたいです。     (2009.06.23サイト掲載)




夢小説メニューページへもどる