平凡な一日 ≪望美side≫ お誕生日、したかったな。 そんなの押し付けだってわかってる。 何も用意できなかった事が、すごく情けなくて。 「源太くん、眠ったみたいだから」 源太くんの目蓋がうとうとしだしたから、せっかくのお祝いなのに抜け出して。 まだ少し寒いけれど、簀子で庭を眺めていた。 景時さんの誕生日を祝いたいと相談したら、皆が用意してくれた。 私の体を気遣ってくれて。 私が出来たのは手伝い程度。 買い物に行くにも、ひとりじゃまだだるくて不安。 そうこうしている内に当日になってしまって─── 沙羅の事も考えて、いつもならおやつの時間が、今日だけは違う。 誰が主役かわからなくなってしまった誕生日。 景時さんは気にしてないのか、沙羅が大切にされているのを笑って見つめて いるの。 「ふう。・・・景時さんのお誕生日なのに、いつもと変わらなくて。私がちゃんと 準備できなかった所為だよね・・・・・・」 源太くんになら意味がわからないだろうからって。 ついうっかり本音が口からポロリと零れて。 もうひとつ大きな溜息を吐いてみたりしていたら。 「それが最高の贈り物なんだけどな。それで・・・か」 ふわりと私と源太くんを包む腕。 「景時さん?!聞いて・・・・・・」 「う〜ん。聞えちゃったんだよね。・・・わざとじゃないよ?」 景時さん、大きいから。 背中からすっぽり包まれていて。 やっぱりここは少し寒かったんだなとか、どうでもいいことばかりぐるぐる 考えちゃって。 「沙羅はね、隠れ鬼してるから。ちなみに、リズ先生のマントの中なので、バレ バレなんだ。鬼役の九郎が気づかないフリをしている方が面白いかな」 「そ・・・ですか」 九郎さん、本当に嘘が吐けなくて。 演技なんて“ど”がつく下手っぷりだもの。 それに引き替え、弁慶さんやヒノエくんは、上手すぎて要注意っていうか。 「オレの誕生日の事だったら・・・・・・これこそが最高って言ったでしょ。 頼朝様に鎌倉でつまらない小さな願いだと言われたけど、オレが本当に欲しくて 持っていなかったものなんだ。家族で楽しく平和に暮らせる時間。だから、君が いて、子供たちがいて。仲間たちも集まってくれて。これが一番の贈り物だから。 今日、特別に別な事って無理だと思うよ。あ!毎日嬉しい分、今日はナシとかって いうのは嫌だからね」 おどけた口調の貴方の気遣いが嬉しくて。 「ごめんなさい・・・何かって、私の我侭なの。でも、特別な何かを。記念になる 何かを残したかった・・・・・・」 「そう?じゃあ・・・源太は母上に預けてこよう。久しぶりに二人きりのデートが したいかな。陽が落ちる前にさ」 目の前の腕が上手に源太くんを抱き上げて。 動きにつられて首をぐいぐいっと後ろに反らすと、景時さんの笑顔。 「・・・着替えておいでよ。春色の着物、あれがいいな」 「はい」 さっきまでのもやもやな気持ちが消えて、素直に返事が出来た。 急がなきゃ。 沙羅も源太も大切なの。 大切なんだけど、私の大切な人は─── 「それが一番似合ってる。行こうか」 「でも・・・あの・・・・・・」 私の我侭で子供たちをおいて出かけていいのかなって。 ここまできて迷ってる。私のお馬鹿! 「朔も知ってるから。お日様が沈むまで・・・二人にしてって頼んだんだ」 薄絹を頭から被せられて。 手を差し出されたら、逆らえない。 「半時くらいはいけそうかな。どこか行きたいところある?」 そんなの、景時さんが行きたいとこに決まってる。 泣きそうで首を振るしかできないよ。 引かれてる右手だけが熱を持つ。 「じゃあ・・・馬で賀茂大社へ行こう。まだ婚儀をしていない時にデートしたよね」 軽々と馬に乗せられて。 景時さんも覚えていてくれたんだって、嬉しくて黙ってしがみ付いた。 「到着〜!・・・疲れた?」 「大丈夫・・・です」 馬に乗っていただけだもの。 それに、こんなに景時さんと二人だけって久しぶりで。 「よかった。少し歩いて、お茶屋さんに寄ってから帰ろう。オレね〜、今日こそ重大な 秘密を打ち明けたいなと思ってるんだよね。誕生日だから・・・許してくれる?」 思わぬ告白に、驚きで両目パチクリ。 最大の大きさになってるんじゃない? 「ははっ・・・そんな目で見られると、迷うなぁ」 言葉と違って、ちっとも悪いって思っている風でもなくて。 むしろ・・・照れてる感じ? よくわからないけど、悪い事ではなさそう。 手は繋いだままでついて行くと、いつか膝枕でおしゃべりした木陰が見えて。 「ここ、覚えてる?オレが君に口づけをした・・・・・・」 もちろん覚えてる。 だって、婚約中のデートで初めて唇に─── 「ごめんっ。ほんとうに、ごめんっ!将臣くんに“ファーストキス”の意味を教えて もらってね?いや、これは話せば長くなっちゃうんだけど」 突然の景時さんの平謝りに、どうしていいのわからなくて。 ただ景時さんと向かい合って立っていた。 そもそもは私と朔のおしゃべりみたい。 私のファーストキスは景時さん。これは間違いないの。 問題は、どれがってコト。 私は賀茂大社のデートの時って思っていたから、朔にもそんな惚気話をしたみたいで。 ところが! 朔はそれが違うのを知っていたらしいの。 問題は“ファーストキス”という単語。 キスが何たるかはわかるけど、“ファースト”がわからなかった朔。 それをよりにもよって将臣くんに尋ねたもんだから、将臣くんが景時さんに! 朔の機転で私には秘密ってことになっていたらしいんだけど・・・・・・。 「景時さん?」 「う〜ん。実は・・・魔弾で気絶してた時。鎌倉で頼朝様と戦うって決心してたから、 そのお守りに・・・ついというか、君が好きで、誰にも先を越されたくなくてというか。 朔に見つかるとも思ってなくて、すっごく扇で叩かれちゃって。ははっ。今更だけど、 ほんと、ごめん。気絶している君に無体な事をしたと思ってる」 本日のお誕生日の主役の人物が、しゅんとして小さくなっていて。 「ちゃん、お願い!プレゼントにキスちょ〜だい!!!」 何だか必至で可愛くなっちゃう。 また私が苦しくならないようにしてくれたんだ。 「たくさん、たくさんプレゼントします。だから、抱っこして下さい」 「任せて!」 景時さんに抱き上げてもらわないと、届かないもの。 同じ目の高さに抱き上げてもらって。 たくさん、たくさんキスをした。 「景時さんの誕生日なのに、私が嬉しいの変ですよね?」 「ええっ?!オレの方が嬉しいよ。それに、秘密もなくなってスッキリ。これだけ間が あいちゃうと、もう言い出しにくいやら、許してもらえなさそうだわで。ほら、もう隠し事 しないって約束した後に判明したもんだから。どうしたものかと内心焦ってたんだよね」 今日だけは、貴方の嘘に騙されてあげます。 だって、こんなのいつ言っても結果は変わらないもの。 よしっ! 「景時さん、大好きです!」 思いっきり飛びついて言ってみた。 何だか久しぶり、こういうの。 「オレも・・・君が・・・ちゃんの事が大好きです」 ふわりと苦しくないように回された腕が優しくて。 でも、ちょっと物足りない。 ずっと源太くんがお腹にいたからよね。 「景時さん。ぎゅぎゅぅ〜がいい。もう大丈夫だから」 「あ、そっか。源太・・・無事に生まれたんだもんね。・・・苦しかったら言ってね?」 大分陽も傾いて、前より寒いはずなのに、ちっとも寒くない。 景時さんのドキドキが聞える。 「・・・やっぱり私が嬉しくて、変ですよぅ?」 ふざけながら見上げれば。 「ちっとも変じゃないよ。オレ、すっごく、すっごく嬉しいから」 ちょんっと額にキスしてくれた。 「寒くない?」 「へ〜きです」 「じゃあさ、あのお茶屋さんでお菓子とお茶しよう!」 「うふふ。あの時と同じぃ」 他愛も無いおしゃべりをたくさんして。 のんびり、のんびり。 影が長くなるのを眺めながら、お家に帰る。 「今日はありがとう、ちゃん」 「えっ・・・・・・だって、私何もしてないです」 「そんな事ないよ。オレの大切な妻。・・・だけど、家に着いたら子供たちのママかな。 子供たちのパパとしては、一応譲っている訳なんです。・・・パパだから」 そっかぁ。私と景時さんに足りなかったの、夫婦の時間だ。 パパとママの時間ばかり増えていたから、見失ってた。 「何を・・・譲ってるんですか?」 「え?そりゃあ、ちゃんの隣とか。沙羅が真ん中がいいっていうと、両端でしょ? 後はね〜、ちゃんとキスしたいんだけど、沙羅も混ざりたがるから、唇は我慢してた のとか?後はね・・・・・・」 「そんなにあるの?」 思わず叫んじゃった。 私、いっつも抱っこしてとか、膝枕とか、景時さんにしてもらっていたもの。 そんなにたくさん景時さんが我慢していたなんて、知らなかった! 「い、いや〜。ほんのちょっとの事なんだけど、君の一番をとられたような感じ? さっきみたいなぎゅ〜っていうのも久しぶりで。ドキドキしたけど、やっぱりイイなぁ」 うわわ。ふにゃんな顔してるぅ。 「じゃあ!時々二人で脱走デートしましょう?新婚旅行の時みたいに、皆に内緒で!」 「う〜ん。いい考えだけど、朔と弁慶にだけは言おうね。オレは前回で学んだ」 「もちろんです!誰かに協力してもらわなきゃ実行できないですもんね」 何かすると、私じゃなくて景時さんが叱られちゃうから。 ちゃんとお願いしてデートしよう。 こっそりじゃなくて、堂々と。 それが一番! 「朔にお願いして、お家から堂々とお出かけしましょうね」 「あははっ。それなら安心だ」 仲良し家族を時々お休みしましょ。 夫婦円満のために。ね? |
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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→京で二人の子供が?!
あとがき:30のお題で初の景時くん誕生日ものです。こういうのもあり。 (2009.03.05サイト掲載)