熟達 ≪望美side≫ 二人目だからって、すぐにベテランっていうのもないのよねぇ。 源太くんもあまり手がかからなさそうなんだけど。 隣でぐうぐう、すうすう眠ってるし。 あれよね、電話を待っている時に似てる。 いつ鳴るのかなっていうアレ。 源太くんの場合は、いつ泣き出すのかなって。 まだしわしわ〜の、ふにふに〜の顔を眺めてた。 「ちゃん?」 「・・・源太くん、まだ寝てるの」 小声で返事をしてみた。 すすーっと戸が動いて、景時さんの顔がひょこって。 かくれんぼみたいで可愛い! 「沙羅ね、九郎と朝ご飯食べたんだ」 「ご機嫌でした?」 いつだったかは大変だったのに。 九郎さん、ちゃんと出来たのかな? 「うん。かなりご機嫌。九郎がそろそろ仕事に行くから、それがね〜」 「だったら、お見送りさせてみるのは?私と沙羅ちゃんで景時さんに いってらっしゃいするみたいに」 毎朝私と一緒に景時さんを見送ってたもの。 同じ様にしたら、わかるんじゃないかな〜。お仕事なんだって。 「ああ、そうか。そうすれば泣かせずに済むかな」 「うふふ。それが心配だったんですね?」 景時さんらしくて、つい笑っちゃう。 沙羅が泣いたら可哀想って考えてたんだ。 「それも。源太もちゃんも心配。・・・まだ寝てるね?」 「そうなんです。いつ起きるかドキドキして、それがちょっと楽しくて」 景時さんが源太くんの寝顔を覗き込んでいて。 「な〜んか起こしちゃいそうで触れないな。沙羅も小さかったんだよなぁ」 「ですよね〜。今じゃ暴れん坊ですもん」 逃げるし、投げるし、叫ぶし! 「ははっ。元気で嬉しいよ。ちょっと九郎と弁慶をお見送りしてくる」 「はい。よろしく伝えて下さい」 まだ寝起きのまんまだし、源太くんもいるし。 とてもじゃないけど二人の前にはいけないもん。 「もちろん!・・・すぐに戻ってくるから」 うわ〜、王子だよ、王子。 手の甲にちゅってされた! 耳まで熱いよぅ〜〜〜。 いつまでもベタベタのイチャイチャって将臣くんには言われるけど、 景時さんの所為な気がする。 ずっと、ずっと変わらないから─── 「どうしたんだろうね?パパさんは」 照れ隠しに源太くんに話しかけてみたり。 「・・・ふぁ」 「あ。私がご飯食べてから起きて欲しいかも」 くるりと戸の方をみれば、朔がお膳を持って立っていて。 「おはよう、」 「おはよ。お腹空いた〜」 顔なんて後でいいから、ご飯食べなきゃ。 「慌てないの」 「うん。でも、いただきます」 源太くんを窺いつつ、口を動かして。 「本当に男の子で驚いたわ」 「えへへ〜、可愛いでしょ。両方だから、楽しみも倍!着るものでも何でも」 若いお母さんって、ちょっとだけ憧れてた。 ・・・こっちじゃ普通だけど。 でね、源太くんに甘えてもらうの。 景時さんの面影を重ねてしまう。 重ねてる自覚あるからヨシ。 代わりじゃなくて、こんな風っていうのが見たいの。 沙羅は朔をお手本に。 小さな朔はきっととっても可愛かったと思う。 「そうねぇ。でも、の場合は変わらないと思うわ」 「どうして?」 変わるよ? 女の子には可愛い着物着せたいし。 男の子はビシッと格好イイ着物にしたいし。 「だって、沙羅ちゃんに剣術させるつもりでしょう?」 「うん。もちろん!別に、九郎さんに勝てとはいわないけど、護身程度には」 「源太君にだって、お洗濯させたいと思っているでしょう?」 「好きかどうかは、してから決めればいいと思ってるから」 あ、そうか。 そういう意味なら変わらないかも。 「ちゃん!沙羅がね〜、沙羅がぁぁぁぁぁ」 景時さんが涙目で駆け込んでくるから、何となく話が中断。 朔がジロリと景時さんを睨むもんだから、慌てて景時さんに返事しちゃった。 「沙羅が何か悪戯しちゃったんですか?!」 「九郎の頬にチュウした〜〜〜!お見送りって言っただけなのに!」 泣きながら膝をつく景時さんを尻目に、沙羅は源太の寝顔を覗いて笑ってるし。 朔は右手を拳にして震えてるし。 怒るの我慢してくれてるのね。 だよね〜、源太くんが起きちゃうから。 「・・・兄上」 「・・・なに」 そんな返事したら、朔がキレちゃうよ? 「にいつもしてもらってるでしょう?沙羅ちゃんが真似をするのは、 当たり前とは思いませんの?」 朔の冷た〜〜い視線が怖い。 怖いんだけど、私も今ソレを言おうと思っていたので。 このまま黙って見てよ〜っと。 「・・・夫婦とは違うでしょ?九郎だって満更じゃなさそうな顔して」 「・・・沙羅ちゃんは弁慶殿にもしたでしょう?」 「それはそうなんだけど。九郎は真っ赤になってシドロモドロでさぁ」 わかりやすいなぁ、景時さんは。 九郎さんが意識しまくりだから深読みしたと。 別に、九郎さんなら源太くんがしても真っ赤だよ? 「それは、兄上が見ていたからです。見ていない時はそれほど慌てておりません」 「い、い、い・・・いつ?!オレが知らない時もしたってこと?それ、何の話?」 ここまで動揺してると面白過ぎで、慰めの言葉も出ないわ。 沙羅ちゃんは抱っこ好きだし。 遊んでくれる人には、割と気軽にほっぺにチュウしてるよ? 少なくとも、八葉の仲間には。 白龍は勝手にしちゃう方だからノーカウントって事で。 「兄上がイチイチ九郎殿にその様に仰るから、九郎殿も意識してしまうという事です! 遊びに来てくださる皆様には、挨拶代わりにしております」 あまりに冷静に朔が言うもんだから、景時さんは顎が外れたかと思うほど 口が開きっぱなしで。 何だかその顔がすっごく可笑しくて、慰めるより笑っちゃった。 「景時さん。沙羅はまだ小さいから、親愛のチュウですよ?仲良しのシルシの。 それこそ、夫婦や恋人同士のとは違うんです。遊んでくれて、ありがとうのなの。 お口、閉じなくなっちゃうから」 手招きして、近づいてきた景時さんの顎を持って、よいしょっと持ち上げて。 大人にこれって変だけど、ヨシヨシと撫でてあげて。 「今日は大盤振る舞いで、景時さんには・・・・・・」 膝枕をしてあげようかなって思ったんだけど。 あっさり背中から抱きかかえられちゃった。 「こっちがイイ。身体・・・冷やしたらダメだよ?」 「うっ。はっ、はい・・・・・・」 さっきのふざけた顔ぶっとびで、真剣なんだもん。 ちょっとだけ困るなぁ。 「朔。羽織ちょ〜だい。そこの・・・取って」 「どうぞ。兄上は・・・・・・もう、いいです。言っても無駄ですわね。源太君が 起きる前にの支度を」 景時さんに羽織をかけてもらって、なんだかしっかり支えられてて。 朔に言われて、まだ顔も洗ってないのを思い出し赤面。 今更景時さんに離れてって言いにくい。 ついと視線を逸らすと、源太くんの隣で沙羅ちゃんが眠っていた。 「あ・・・・・・沙羅ちゃんが」 「まあねぇ。こう・・・ぬくぬくっとしてると、眠くなるよね」 景時さんがいるのに、朔はお構い無しで私の顔を拭いたり、髪を梳いたり。 旦那様の目の前で身だしなみを整えるのって、ちょっと抵抗アリ。 「オレも、ちゃんを抱っこしてるの幸せ〜で、ぬくぬく〜で好きだから。 やめられなくなったので、勝手にする事にしたからね。今日はこのまま」 「・・・着替えくらいはさせて下さい」 いくら何でも、いわゆる夜着のままなんですが。 「どうぞ、どうぞ。何ならオレが・・・・・・」 トスッ─── 出た。 音は軽かったけど、朔の肘が景時さんの頭に入った音。 源氏の軍奉行が妹の一撃で褥に転がってるなんて! 頭を押さえて仰向けになってるし。 「これで静かになったわね。さ、今のうちに着替えましょう」 「う、うん」 景時さんの足の間から脱出して、ささっと着替えて。 源太くんと沙羅ちゃんの様子を見て、そぉ〜っと景時さんの頬を叩いた。 「あ・・・・・・いい角度で入ったなぁ。頭、じぃ〜んとしてる」 「大丈夫?」 頬をなでなでしてると、 「。狸寝入りだから、そんなに心配しなくていいわ。また後で来るわね」 朔は言うだけ言っていなくなっちゃった。 「何だ、バレてたか。・・・でも、それなりに痛かったのになぁ。ははっ」 「変なの。それなりって」 私の気持ちがわかっちゃったのかな。 支度をしているの見られるのって恥ずかしかったの。 だから─── 「角ばったものは痛いよ?うん。・・・今日は何しようか。何か読む?」 「家族でごろごろ。しばらくは源太くん次第の日々ですもん」 源太くんが起きたら起きて。 眠ったら寝て。 泣いたらお世話して。 そんな日々の始まり。 「沙羅の時と同じだね〜」 「うふふ。二度目ですから。私たち、ちょっとだけ慌てなくなりましたよね」 源太くんが泣いても、笑っても平気。 もちろん、沙羅ちゃんでも同じ。 「こうして見ると、沙羅が大きくなったのわかるね」 「景時さんも、パパ熟練度アップしてますよ。子守が上手になってます」 沙羅ちゃんはパパ大好きなんだよね〜、優しいから。 沙羅の気持ち、しっかりわかってくれてるし。 「う〜ん。パパもいいけど・・・旦那様はどう?」 そろりと振り向くと、景時さんのドアップ。 ま、まさかね。 今更な質問してくるなんて─── 「ね〜、ね〜、ね〜。旦那様としてはどう?」 やっぱり! 「ずぅ〜っと同じで変わらないです。いつだって優しくて、格好良くて、 最高の旦那様って自慢してるのに」 こういうのって、本人には言わないよ? 惚気って、他の人に話せるのが嬉しくて、照れくさくて、それが幸せで。 「よかったぁ〜。ほら、昔はよく言ってくれたのに、最近パパとしての お褒めに預かるばかりで・・・さ。うん」 照れ照れの顔でギュギュって。 妻の熟練度は、まだまだ足りなさそう。 旦那様を不安にさせちゃうなんて。 でも、これって・・・普通は逆なんじゃないかと思ったのはヒミツ。 |
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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→京で二人の子供が?!
あとがき:いわゆる、「言葉が欲しい」といった・・・でれでれダーリンです。 (2008.11.21サイト掲載)