振り返る ≪景時side≫ ちゃんの視線を感じる。 感じるけれど、その視線はオレを通過しているというか。 見つめられているというのとも違う。 すぐに理由はわかったけど。 いつもながら真っ直ぐな言葉で、真っ直ぐにオレに訊いてくれた。 「景時さんって、どんな子供でした?源太くん、似てる?」 あまりの真っ直ぐさに言葉に詰ったけれど。 それすら予想していたのだろう。 「あのね、私、夢で景時さんに会ったの。ちっちゃい景時さん。追いかけっこ してね、追いついて。ぎゅ〜〜っとしたんです。なんかスッキリした」 「あはは。スッキリ?」 「そ〜です。も、スッキリ。逃がさなかった自分のファイトを褒め称えたいくらい」 ・・・スッキリって。 つまりは、逃げた“小さなオレ”を追い掛け回し、とっ捕まえたと。 わかりやすいなぁ。 「そっか。捕まりましたか、小さな景時クンは」 「そ〜です。私が捕まえたんですからね!」 源太を抱き、頬にキスしながら嬉しそうに微笑む君は。 オレの秘密を丸ごと握っているようで。 それは不快なモノではなくて、寧ろ君に包まれている安心感─── 「もう、そんな頃に君に捕まっていたんだ。オレって」 「・・・そういえば、そうですね。もうね、運命だったんですよ?ね〜〜〜」 沙羅と笑い合う君が眩しくて。 「・・・だっこ!」 「はい、はい・・・・・・沙羅がしゃべった!!!」 伸ばされた手を気軽に取ってしまったが、今、しゃべったよね? 「もう!沙羅ちゃんたら。抱っこが一番最初なの〜〜〜?“パパ”か“ママ”だと 思ってたのにぃ」 沙羅が最初に話す言葉を想像していたオレたちとしては、意外な言葉に驚きを隠せず。 「それはそうでしょうね。いつもが言っているもの。休む用意は済みましたからね」 源太のおしめを置きながら、我が妹君は寝所が整ったと言ってさっさと居なくなり。 「私、そんなに景時さんに抱っこってねだってます?」 しまったという表情の君が可愛くて。 「う〜ん。・・・お腹が重いって言っていた辺りからは、そうかもしれないね?」 一人で座るのが大変だという君の、口癖にも似たおねだり。 支えを必要とするのなら、いつだって傍にいたかった。 「きゃ〜〜〜!ち〜ち!!!」 沙羅が誰にでも抱きつくのは、その影響なのかなぁ? 抱き上げてあやしつつ、つい、つい、君と目で確認し合う。 「・・・抱き癖ついちゃったかも。私の所為ですよね?」 「いいんじゃない?自然としなくなるだろうし」 癖といっても、いくら何でもそれなりに成長してからは強請られないだろう。 「・・・私、まだしたいですもん。景時さんに抱っこしてもらうの好きだから」 「そ、そう?う〜ん。家はイイってことにする?」 そう厳しいものではなくて、我が家にはちゃんルールなる規則が存在する。 いわゆる、押し付けない、決め付けない、比べないといったソレ。 九郎なんか理解に苦しんでいるようだけどさ、オレとしては嬉しいことばかり。 パパやママという呼び名もそのひとつ。 実際、子供でも呼びやすいだろうし、確かに言葉の響きが良くて簡単。 「そうします。だって、こんなに可愛いの今だけだもん。大きくなったら、こんなこと させてくれなくなっちゃう」 源太にうにうにと頬ずりしている君が眩しくて。 源太が羨ましくて。 そんなワケで集中していなかったオレは、沙羅に軽く蹴られた。 「あいてっ!沙羅ちゃ〜ん?元気すぎ。もうおねむの時間だぞ〜〜〜」 あれだけ暴れて、まだまだ元気な愛娘。 大変だなぁと思うけど、何だかそれも嬉しくて。 「簀子に九郎たちがいるだろうからさ。少しだけ月見をしたら戻るね」 「はい。先に源太くんと休んでます」 ちゃんに口づけて。 今頃は簀子で月見酒と洒落こんでいるだろう仲間たちのもとへと行ってみる。 「沙羅?!景時。お前・・・・・・」 「だってさ〜、寝たくなさそうだし。九郎たちと少しだけ一緒にいれば、自然と 寝ちゃうと思うからさ。ちょっとだけお邪魔するね〜」 沙羅を抱えて月見に参加。 源太が生まれたお祝いに駆けつけてくれた仲間たち。 みんな忙しいのに夕餉に集まってくれて。 ちゃんを気遣ってか、早めに帰ってしまって。 そんな中、九郎と弁慶だけが我が家に泊まることに決まって。 まあ・・・後で仕事の話があるっていうのがホントの理由だけど。 お休みもらったけど、それなりに知っておかなければならない事もあるし。 その辺は目配せというもので合図をしたんだよね、弁慶と。 「沙羅は元気だなぁ?どうした。まだ遊びたいのか?」 しっかり九郎の膝へと移動して、別に騒ぐでもなく座っており。 「おや、おや。九郎がお気に入りですね?」 弁慶ではなく、真っ直ぐ九郎の膝を目掛けてたもんな。 父としては複雑。 「さんは?」 「うん。源太が良く眠ってるから。この隙に一緒に寝るって。またいつ起こされるか わからないしね」 源太が目覚めるのは一定の時間じゃないだろうから。 沙羅の時にそれは経験済み。 母上と朔が上手く交替で手伝ってくれるから問題ないけどね〜。 「それで。景時はどのように考えているのですか?」 「まあ・・・問題は天気。今年の雪解けの時期と天候を考えると、微妙」 春先は不意の災害が多い。 もっとも、過去の事例を紐解けば、予想できることもあるにはある。 「結論は?」 「物資の輸送は二手に分けた方が安全。ただし、陸を四割。今のうちなら海路の方が イイ。もう少しすると風向きが変わるから、その時は陸を六割。何かあっても全損は 免れるでしょ」 さらさらといつもの手順と今年の天候から考える物資の輸送比率を言ってみる。 「・・・ということらしいですよ。九郎」 「・・・わかった。つまり、俺の手配は間違いという事だな」 耳だけは傾けていたらしい九郎の返事。 どうやら一回で全部送ろうとしたみたいだね〜。 しかも、弁慶ときたら、自分で教えないでオレに言わせるんだから。ふう。 「間違いっていうんでもないんだよね。もしもだよ?これが戦の物資輸送なら、 まるっと敵に盗られちゃうってことにもなりかねないでしょ。一番被害が少なく 確実で簡単な・・・って考えればいいと思うよ〜」 まさに臆病なオレだからこそとしか言いようが無い。 備えあればというより、被害最小限という、どちらかといえば後ろ向き。 「景時にぴったりだな。俺にはどうも向かない仕事だ。慎重かつ的確な判断だ」 沙羅を抱き上げながら、不貞腐れ気味の九郎。 あれ?もしかして、オレ、褒められてる? 「僕の貴重な薬草も含まれているのに、九郎ときたら簡単に手配をしてしまうんですよ。 景時の仕事はしばらく二人でと言った手前、言うに言えなくて」 言えないのにオレには言わせるんですね〜と。 ここで言わなかったオレをオレは褒めたい。 なんだかちゃんの言葉を思い出すなぁ。 「ウルサイ!明日から気をつける。これでいいだろう?景時も、安心して休むんだな。 沙羅も・・・こんなに大人しく眠った事だし」 九郎に抱かれてすやすやと眠る沙羅。 「よかった〜。九郎たちといたくて暴れてたのかな?あはは。あっさり寝ちゃって」 しっかり沙羅を受け取る。 「それじゃ、月見も程ほどにね。お先!」 ちゃんと源太が待っている部屋へ行かないと。 今日から四人だね〜、並んで寝るの。 いつまで四人かなぁ・・・と、そんな事を考えながら。 君の背中に潜り込んだ。 いわゆる、ぬくぬくだった。 |
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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→京で二人の子供が?!
あとがき:慎重派なんですよ、景時くんは。九郎さんは大胆不敵ってタイプ。 (2008.08.17サイト掲載)