不変の法則  ≪景時side≫





「おっはよーーーーっ!あのさ、我が家の跡取りが生まれたんだ〜。名前は・・・・・・」
 ちょ〜っと遅刻してるけど。
 一応は上司である九郎に一番に報告すべきだと思って。
 守護邸についてからは同僚や部下への挨拶もそこそこに口を閉ざしてここまできたワケ。
 


「源太景季」
「そう、そう。源太って可愛い響きでしょ〜〜〜・・・・・・アレ?感動薄くない?」
 何てことだ!
 我が家の跡取りの話だよ?家の可愛い源太のことだよ?
 そんな文を読みながら言うことじゃな〜いし!



「感動も何も、将臣から聞いている」
「あ、そうか〜〜〜。さっすが将臣君!仕事が早いねっ」
 できるよな〜、彼は。
 ちゃんと同じ世界から来たのに、すっかり馴染んでる。
 それどころか、もうしかっり武将って感じ。
 オレの方が頼りないよなぁ。



「そうではない。名前についてはお前が毎日、毎日言っていたからだ。源太が生まれたのは
将臣に聞いたという話だ」
「ああ、そうなんだ。そんなに言ってたかな〜〜〜」
 あんまり記憶にないけど、言ってたかな?
 う〜〜〜ん。言っていたかもしれない。
 だって、いつ生まれるだろうと毎日冷や冷やしていたし。
 生まれる時に傍にいなかったら父親失格だろうから。
 絶対にちゃんの傍にいるって決めてたし!



「で?何しにきた」
「へ?・・・報告と仕事?」
 建前上、仕事・・・である。
 これからお伺いを立てて休もうという算段なんだから。
 それなのに、九郎と弁慶ときたら、互いに顔を見合わせて黙っちゃって。
 やだなぁ。
 言い出しにくい・・・言うけど。




「冗談を言う暇があるなら、帰って沙羅の相手をしてやれ」
「いや、いや、いや。冗談・・・・・・今、何て?!」
 帰って・・・とか言わなかったか?

「冗談も何も、昨日休むという連絡があり。今朝方は将臣君から生まれたとの報告があり。
景時が仕事に来るとは思っていませんでしたからねぇ?」
 弁慶の言葉で、オレが九郎の執務室へ入った時の微妙な空気の意味が理解できた。



「じゃ、休んでいいの?!」
「休め。ここにいても仕事に身が入りそうもなくて迷惑だ」
「あらら。何だかヒドイ言われようだけど。身が入らないのは事実っポイような?」
 まさにその通り。
 今頃源太は起きたかな〜とか。沙羅はご飯を食べたかな〜とか。
 何より、ちゃんはどうしているかな〜〜〜と。
 そんな事ばかり考えているわけで。



「とにかく。俺たちはが落ち着いた頃に行く。それまでは休め。緊急の時には使いを出す。
それ以外の仕事はしなくていい。邪魔だ」
「邪魔って・・・オレってどこからも邪魔扱いだよなぁ・・・・・・」
 母上にも朔にも邪魔とか煩いとか言われてさ。
 九郎や弁慶にまで立て続けに言われると、気分も下降線。

「景時。貴方の事は頼りにしていますが、誰よりも貴方を頼りにしているさんが家で待って
いるのでしょう?僕たちがしている仕事は、誰か他の人が、この場合は九郎が頑張ると言ったので、
それならばいいでしょうという事です。仕事は景時でなくても何とかなるものは出来るんです。
ただ、さんの場合は景時でなくては意味がない。さんが待っているのは景時であって、
軍奉行でも優秀な指揮官でもないんですよ。沙羅にしても、源太にしても、父親は貴方なんですから。
九郎からのさんへのお祝いですよ。さ、早く家へ帰らないと」
 こういう時に弁慶って侮れないと思う。
 九郎なんて、バラされると思ってなかったのか真っ赤だし。
 九郎って男気っていうか、純粋っていうか。くすぐったいなぁ、心遣いが嬉しくて。



「ありがと!!!正直、帰りたくてどうお願いしようか考えていたんだよね〜。じゃ!!!」
 このお祝いは素直に受けるとしよう。
 すぐに二人へ背を向けて、来た道を大急ぎで我が家へと戻る。
 ご飯を食べて、眠っている頃だろうか?
 あ〜〜どうしよう。何だかわくわくする。
 こういう気持ちは、最近では沙羅に教わっていたっけね。
 沙羅が初めて立った日とか。

「よぉ〜し!すぐに帰るからね〜〜〜」
 門のところで決意も新たに帰路についた。







 〜その後の守護邸〜

「さ、九郎。こちらもお願いしますね?」
「・・・・・・弁慶。どうにも文の分け方に合点がいかんのだが・・・・・・」
 景時の仕事を分けるということで今朝方話がついた。
 なんといってもあの景時だ。
 沙羅が生まれた時など一年の休暇を申し出られたり、その行動と言動は想像がつかぬ事ばかり。
 特別な場合は帰れるよう配慮することで解決したが、景時の事務処理能力と判断力は侮れない。
 はっきりいって、どこに視点を置いてあれだけの手配が出来るのか知りたいぐらいだ。
 九郎は武術や戦術では優秀だが、こういった事務的雑事に分類されることについては不得手。
 文を読み、その文ごとに処理をするのは効率が大変悪いというのにすら気づいていない。
 一見弁慶の意地悪のように九郎の方へ文が高く積み上げられているが、それらは関連するものばかり。
 事前に分類されて分けられているのにも気づかないのだろう。

「九郎が言い出したことですからね?沙羅が退屈しないよう、景時を休ませるというのは」
 どこで聞きつけたかはしらないが、第二子誕生は第一子にとって母親との時間が減り敏感になると
知ったらしい。
 景時が居れば子供の数と親の数が合うと単純に考えたようだ。

(梶原邸に限って言えば・・・手は足りていると思いますが)
 弁慶は拳にした手を口元へあて、忍び笑いを漏らす。

「・・・いつも景時はホイホイ気軽に処理をしているように見えたが・・・・・・」
 九郎が投げる文を受け取っては的確に処理をしていた。
 時には九郎に意見をしたり、相談をしたりと、何事にも無駄がない配置と手配だった。

「ええ。いつも鼻歌交じりでしたね?何でも、さんが好きな歌を覚えなくてはならないらしく」
 歌詞自体は将臣に書き付けてもらっているからいいのだという。
 言葉を覚えるのは苦にならないらしい。
 何が難しいといって節をつける方が大変で、時には敦盛に笛で再現してもらって曲を覚えていた。

「考えようによっては、アイツは仕事をしながら歌まで覚えていたという事になるな・・・・・・」
 腕組みをしながら、文机へ広げた文を睨みつけている九郎。
 これで歌までとは無茶な話だ。

「そうですね。実に優秀な軍奉行殿ですから。ぜひとも大切にしないと、宮廷へ引き抜かれても
困るでしょう?新重盛邸も完成して、いよいよあちらも動き出すようですし」
「・・・まったく。よくよく考えれば、どうして向こうもこっちも我々の仲間が中心なんだ?」
 朝廷側の仕切りは、実質将臣と経正が行っている。
 その補佐として敦盛、時には譲といった面々。
 譲は弓の稽古のために毎日守護邸を訪れてはいるが、朝廷と守護邸の使いも兼ねている。
「それだけ優秀な者が八葉だったと考えては?それに、案外仲間同士の方が言いやすいでしょう?」
 互いに目指すものが見えているのだ。
 無駄は削ぎ落とすに限るといわんばかりに、余分な事は省きまくっている。
 政権もほぼ鎌倉へ移行でき、国の中心は京にあれど、軍事力に関しては東へと均衡を保ちつつある。
 今では内国よりも国外との攻防に関して東国とは協力している状態で、誰もが今の平和を満喫していた。

「・・・そうだな。早く源太の顔を見に行けるよう仕事を片付けないといかんな」
 九郎の顔が綻ぶ。
 口では景時に色々言うが、頼っている自覚はある。
 少しの休みくらい、できることならいつだって都合をつけてやりたいのだ。
 それが出来ないのは、景時が不在だと仕事が滞ってしまうから。
 
「そうでしょう?僕だって源太を見たいですからね。もちろん沙羅にも会いたいですし」
「お前っ!!!」
 九郎の腰が浮く。


「ま〜ったく、ここは変わらないね?いや、俺様は一足お先って感じだけどね」
 ヒノエが開け放たれた格子から顔を出した。


「おや、ヒノエ。丁度よいところに。一足お先なんてあるわけがないでしょう?」
 にっこり微笑む弁慶に扱き使われ、結局ヒノエも九郎と同じく景時の仕事をさせられる運命を辿る。
 まさにいつもの守護邸の風景であった。










Copyright © 2005-2008 〜Heavenly Blue〜 氷輪  All rights reserved.


≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→京で二人の子供が?!

 あとがき:いつも通りの幕開けでございます。     (2008.01.01サイト掲載)




夢小説メニューページへもどる