跡取り ≪景時side≫ ちゃんの出産も二度目となれば、オレも慣れたもの・・・とはならないっ! なんだかわからないけれど、この緊張はただ事ではない。 自分が痛いのとか苦しいのとかはある程度までは我慢が出来る。 が、しかし。 ちゃんがというのは、そんなものと比較にならない。 何も出来ないのがもどかしくて。 ただ、今回はオレにも出来る事があって。 それは、彼女を見守ることと─── 「ぱ〜〜〜」 「うん。今ね、ちゃんは頑張ってるトコだからね。沙羅はちょっとだけ我慢だよ」 ちゃんの姿を見られないのが不安なのだろう。 それでも、几帳の向こうからはオレたちを気遣ってか、時々声をかけてくれる。 君の方が何倍も苦しいだろうに。 「沙羅ちゃん。ご飯、パパと食べるんだよ?」 声を聞けば安心なのか、沙羅が大人しく頷いている。 オレは沙羅が眠ると手を伸ばしてちゃんの手に触れて・・・を繰り返す。 そんな時間が過ぎ、待望の産声が部屋に響いた。 「・・・本当に男子だわ」 母上の呟きが聞える。 本当も何も、知ってるものは知っている。 カタツムリのお告げなんだから。 「ちゃん?」 「えへへ。生まれましたね・・・・・・」 オレの手を握り返す力はないらしい。 何だか申し訳なくて、泣きたくなった。 「・・・ありがとう、ちゃん」 「変なの。私たちの・・・赤ちゃんなのに。景時さん、沙羅ちゃんをお願いしますね? ちょっと動けなくて・・・それに・・・眠い・・・です・・・・・・」 呼吸音が変わる瞬間がわかる程、君に集中していた。 実際は源太の泣き声がすごいんだけど。 そんなのどこ吹く風で眠っている沙羅も大物だよな〜。 「おやすみ・・・ちゃん。ありがとう・・・・・・」 几帳の向こうの手を放す。 こちら側では沙羅も眠っている。 今日はいつもと違うというのがわかったのか、遊びは強請られなかった。 ただ、少しもオレから離れなかったけどね。 眠っている沙羅を抱き上げると、いつも沙羅が遊ぶ部屋へと移動する。 敷物があり暖かいし、何より沙羅が目覚めた時に源太まで起きてしまうとやっかいだ。 子供って、釣られ泣きするからね。 「沙羅。今日から姉上なんだぞ?」 すやすやと眠る沙羅の頬を撫でてみる。 わかってないだろうな〜。 でも、兄弟なんてものは、後から自覚するもんだし。 朔が生まれた時は嬉しかったっけ。 父上は男児を期待していたんだろうな。 オレが頼りないから。 オレもそうだったらいいなと思ったもんだよ。 跡を継がなくて済むならばと。 ただ、生まれたての生命に接した途端、そんな小さな願いは吹き飛んだ。 そんなの関係ナシに大切だと、そう感じた。いい経験だ。 「源太も元気いっぱいな子になるといいな」 沙羅を抱き締めながら、つい口から零れていた。 「兄上。代わりましょうか?昨日からに付きっ切りで・・・・・・」 振り返れば朔が笑っていて。 「ん〜?オレは大丈夫。徹夜なんてよくあるし。沙羅は温かいし。おとく?」 ちゃんの真似をしてみせると、朔が呆れ顔だ。 「また強がりを仰って。が起きた時に兄上が元気じゃないと困るんですの」 オレの腕から沙羅をそろりと受け取って。 「そっか。じゃ・・・少し休ませてもらおうかな。皆に文を書いて使いを頼んでからね」 膝に手をあて立ち上がると、来客の気配を感じる。 訪問者の気配なんだけれど、どこか馴染んでいる気配とでもいうか。 「これは・・・将臣君かな?」 入り口を振り返れば、肩をすくめた将臣君と目が合った。 「アタリ。源太、生まれた?」 「うん。ついさっき。今からみんなに文を書こうかなって」 「あ〜〜〜、だったら書かなくていい。俺が知らせにまわるし。景時も少し寝ろ。 が落ち着いた頃に皆で来るから」 ひらひらと手を振ってすぐに帰ってしまうのが彼らしくて。 「ありがと〜!そうさせてもらう」 沙羅が起きちゃわないよう小声でお礼を言ったけど、きっと聞えただろう。 彼は本当に兄って感じだよな〜。 オレより若いのに。 「さ、兄上。はいつ起きるかわかりませんから。沙羅の食事は任せて」 「うん。ちゃんの隣に行きたいなぁ・・・・・・」 別に一人だって寝られるんだけどさ。 「・・・母上が兄上ならそう言うだろうと。源太君の隣に用意していましたわよ」 「そ?じゃ、清めてからにしよう。源太とも初対面だ」 大きく伸びをひとつして。 今頃は綺麗さっぱり、産湯後の源太は眠っているんだろうと想像し。 「ちゃんに会いたいなぁ・・・・・・」 「バカばかり言わないで、さっさとの温石になって下さいな!」 「あはは。オレってそんな理由で隣の許可が出たのね」 いつもながらこの家でオレの立場は弱いもので。 それがいつも通りで安心で。 源太はオレの味方になってくれるかなぁとか、少しばかり成長した姿を想像し。 無事に初対面を済ませて隣に潜り込む。 「源太景季。それが君の名前だよ。・・・・・・君の母上はとても素敵な人なんだ」 跡を継がなくてもいいと言い切れる人。 大切な何かを見失わない、強い心の持ち主。 何も心配しなくていいよ。 家族が・・・仲間がいるからね。 |
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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→京で二人の子供が?!
あとがき:こっそり命名式。父は味方が欲しかった・・・かもしれない。うん。 (2007.12.24サイト掲載)