暖をとる ≪景時side≫ 我が家の姫君も・・・ちゃんの世界での数え方で一才。 よくよく考えれば、成長したな〜と思う。 産まれた時なんて、人になるのか心配だったよ。 ・・・あまりに小さくてって意味で。 だからかな〜。 どこかでいつもわくわくする。 今日は何を覚えたのだろうかと。 何を初めて知ったのだろうかと・・・ね。 「ぱ〜〜〜。あち〜〜〜」 実に寒い季節である。 それなのに簀子にいる理由はいたって簡単。 本日、オレは仕事がお休み。 そして、沙羅を胡坐の膝上に乗せている。 沙羅たっての希望で庭に一番近い場所にいるわけで。 「ぱ〜〜。ち!!!」 沙羅が必死に庭を指差しているんですがねぇ・・・・・・。 「沙羅〜〜〜。寒いから庭には降りないって母上と約束したでしょ〜」 ご理解いただけないとは思うが、一応叱られる立場のオレとしては、沙羅に お願いなんぞしてみる。 いや、ちゃんはオレを叱らないけどね? 大抵こういうのは朔に見つかって叱られるわけで。 諦めきれないらしい沙羅は、オレを無視して庭ばかり。 「そうなんだよねぇ。雀が楽しそうだよな〜〜〜」 日向で暖をとりながら虫でも探しているのだろう。 ちょこちょこと動く動きが確かに面白い。 「何が楽しそうなんですか?」 背中に温もりを感じて振り返ると、君がオレに飛びついたトコ。 「ん〜〜〜。雀。飛ばないんだよねぇ。ほら」 庭先を指差せば、羽があるのに飛ばないでいる雀たち。 「そんなに飛んでばかりいたら疲れちゃうし。それに、高いところは風が強いから。 寒いんですよ、きっと。沙羅ちゃん、いい子にしてたかな〜?」 オレに負ぶさったままで沙羅の頭を撫でている白い手が視界に入る。 「ま〜!あち〜〜〜。あ!」 「うん。雀さんたち楽しそうだね〜。沙羅ちゃんはお部屋で遊ぼうよ。お部屋をね、 温かくして敷物しいたから。たくさんハイハイしていいよ?」 まだまだ歩くよりは四足が楽な沙羅。 ただの板敷き床では寒いだろうと、ちゃんが考えたそれ。 「よぉ〜し!沙羅。鬼ごっこしようね〜」 「きゃ!」 「あはは!景時さん、力持ち〜〜」 ちゃんを背負い、沙羅を抱いたままで立ち上がる。 「だってねぇ・・・オレこうみえて父親だし。家族四人くらい軽々じゃないと、 家にはこわ〜い朔お姉ちゃんがいるからね〜〜〜」 「きゃふふ〜!」 「やだぁ。景時さんたら」 ふざけて言っているのが沙羅には面白いらしく笑っている。 ちゃんも笑ってくれて。 「よいしょっと。私ひとりで二人分ですもんね」 「大丈夫?」 背中の温もりが離れてしまったが不安はない。 だってね。 「来月くらいだと思うんですよね〜〜〜。景時さんのお誕生日と同じになるといいなぁ」 今度は左側に温もり。 沙羅を抱いているから手は繋げないけれど、君からオレに寄り添ってくれるから。 これはこれで嬉しい。 「オレと一緒だと朔がガッカリしそうだな〜。オレに似たらどうしよ〜ってさ」 「誕生日が同じだからって似るとは限らないですけどぉ。似ている方が嬉しいなぁ。 景時さんの小さい頃みたいで」 部屋の戸をちゃんが開けると、そこには朔と白龍と黒龍がいた。 敷物を敷く手伝いをしてくれたんだろう。 「・・・。いくら似ていても半分はに似ると思うからいいんだけれど。 やはり兄上に似るのはあまりねぇ?」 正座で待ち受けていた我が妹君は、深い、深い溜息を吐かれた。 確かに!頼りなさでは文句なく一番だなっ!ははっ。 やや自虐的気持ちになったんだけど。 「朔はさ、景時さんの小さい頃知ってるからだよ。そんなに余裕でさ〜〜〜。 私はね、小さい頃の景時さんがどんな風だったのか知りたいんだ。こっちには写真とか ないんだし。絵でも残っていればいいんだけど、そおゆうのないでしょう?」 四足で朔に近づき向かい合わせで座る君。 朔にとって経験のない事だけに、朔が蒼ざめる気持ちもわからなくはない。 実際、オレにも経験がないので、ちゃんがしたいようにする邪魔はしない。 それくらいしか出来ないしさ。 「・・・その・・・そんな四足とかはやめて?お腹に良くないわ。それに、 興奮して話すほどの事は何もないのよ。兄上は今のままだったし。本当にそのまま 大きくなって邪魔になったとしかいいようがないのだから」 「このまんまミニ?髪もぴよ〜んでミニミニ?」 あまりの迫力に朔が慌てているね〜。 まあ・・・そういうところがあるんだよな、彼女には。 オレなんて、いつだって迫力負けしてたっけ。 「ぱ〜〜〜?」 「ごめん、ごめん。沙羅は・・・ちゃんの小さい時に似てるのかなってね」 追いかける者がいなくては追いかけっこにはならない。 退屈した沙羅がオレの鼻先を小さな手で叩く。 「沙羅。こっちだよ」 「きゃ〜〜〜!!!」 今度は白龍を追いかけだした。 実に白龍はオレを助けてくれる。 それにさ─── 「沙羅。敷物の上だけだと言っただろう?」 うん、うん。 沙羅が遊びに夢中で敷物の範囲から出そうになると、黒龍が捕まえて敷物の上に戻らせてくれて。 「あのね、沙羅は私に似てないの。見た目は似てないみたい。将臣くんも見た目は何も言ってないし。 でもね、行動とか性格が似てるみたいなんですよね〜」 定位置とばかりに君がオレの膝に割って入る。 座るのがつらいらしくて。 支えるオレとしては、申し訳ないんだけれど嬉しい方が大きくて。 手が届かない人と思っていた君と、家族に囲まれて暮らしてるんだからさ〜。 「将臣君はあのまんま?」 「うん。昔からあのまんまでしたよ。髪が短かったくらい」 ちゃんが足を伸ばしている上を沙羅が横断していく。 う〜ん。障害物が楽しいらしい。しかも─── 「沙羅ちゃ〜ん?窒息しちゃうから」 ちゃんが膝にかけていた衣に包まり転がり・・・・・・。 衣を引かれるのが楽しくて、益々隠れて楽しんで。 「沙羅は元気いっぱいだもんな〜。ちゃんに似てるのかぁ」 ひとり君の幼い姿を想像してみる。 「ニヤケ顔の軍奉行見つけ〜。沙羅に見せらんねぇ顔」 「いらっしゃい、将臣君。だってさ、ちゃんの小さい頃知りたかったなってね」 君がオレの過去を知りたいように、オレだって知りたい。 将臣君は知ってるんだよなぁ。ウラヤマシイ。 「こいつ?こいつは昔っから負けず嫌いで、隠れて悔し泣きするタイプ」 転寝しているちゃんはすっかり背中をオレに預けていて。 将臣君はオレの隣に座った。 「そう・・・かな。うん。負けず嫌いっていうか・・・頑張りすぎなんだよね」 「そういうと聞えはいいけどな。自分の事忘れちまうのが大問題だぜ?」 う〜ん。それについては否定出来ない。 八葉を助けようと無茶する神子様だったしなぁ。 どっちが助けてるんだかなんて場面もしばし。 「お〜っと。沙羅はいい遊び場出来たな〜〜〜」 寒くないように敷いたものの他にも、ちゃんお手製のクッションなるものがあり。 あれがなかなかにイイ。 沙羅が突進してぶつかりそうになるけれど、そこはクッションだから安心、安心。 「でしょ?公園っていうの?そういうのがあったんだって?それの代わりみたい」 「ああ。それでか。こんなにゴロゴロクッションばらまいて。こっちはコンクリートじゃ ないから転ぶのは心配ないけど、気温がな。ちと寒すぎ。外は無理」 そうそう。 オレにしても、鎌倉と比べると寒い。 ましてや、将臣君たちの世界にはエアコンなる便利な機械があるんだから。 「確かに寒いよね。うん」 「いや。お前見てるとそう見えない」 「うお?!そう?あれは夏だけだって」 冬は寒いのに、夏も鎌倉より暑いんだよ、京は。 オレの夏用の服についてだよね〜。 将臣君と他愛もないことを話していたら、こくり、こくりと転寝をしていた君が目覚めた。 「あれれ?いつ来たの?」 「さぁ〜。わかんねぇ。外にいないと思ったら、面白い事考えたな」 「うん。雪とかなかなか溶けなくなってきたし、外は寒いし。私も風邪引くわけにはいかないし。 お部屋で遊べる方法考えたの〜」 将臣君と話すのならと抱き直してあげると、オレの膝を叩いて何か言いたそう。 「景時さん。動いたよ」 「ええっ?!今?」 君が大切に守ってくれている命があるあたりに、手のひらをそろりと当ててみる。 「おぉ〜〜〜。元気だ〜〜」 「でしょ?」 振動が伝わるっていうのかな。 帯越しでもわかる、ちゃんと別の命の響き。 「・・・で?マジ源太?」 「ええっ?!いい名前でしょ〜。源太」 将臣君が、なんとも複雑な表情。 「まあ・・・源太だけじゃないんだっけ?」 「うん。景季。梶原源太景季」 「へえ?」 今度はなんとも意味深な顔。 色々と深い意味があるにはあるけどね。 季節のままに。季節と共に。 「素敵な名前でしょ〜?でもね、普段は源太くんでいいの、呼びやすいから」 「ぽ〜ん。ぽん」 「そ。ぽ〜ん、ぽん」 沙羅がちゃんに抱きついて、お腹を確認している。 「・・・お前、よっぽどソレしてるんだな。沙羅が真似するんだから」 「いっ、いや〜?そうか・・・な〜?たはは〜〜〜」 ちゃんの温もりが心地よくて。 オレの手で遊んでいる沙羅の温もりが嬉しくて。 「家って温かいよね〜」 「まあな〜」 きっと、オレが本当に言いたいことをわかって返事してくれている将臣君。 出来るだけ心配かけないようにしないとね。 ほんと、将臣君はみんなの兄貴だ。 将臣君は・・・いい人いないのかなぁとぼんやり考えた。 |
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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→京で二人の子供が?!
あとがき:春は待ち遠しく。冬の楽しみも忘れがたく。 (2007.10.22サイト掲載)