視線 ≪景時side≫ 今日は沙羅ちゃんの誕生日。 ちゃんが一生懸命準備していたみたいで。 いわゆる普通の慣習の行事とは別に。 そりゃあ沙羅の“たんじょうび”なんだから、仲間に集まってもらうのも 夜ではなくて昼なわけで─── 「まだまだ寒いのに頑張るよねぇ?」 庭で仲間たちと追いかけっこに勤しむ愛娘を見つめつつ。 今の姿勢としては、身重のちゃんを抱っこして、その肩へ顎を置かせて もらっている状態だったり。 冷えたら大変だし、追いかけっこには参加されては困るし。 何より鎌倉から帰ってきたばかりで、オレがくっつきたいという事情がある。 「お庭は広いですからね。張り切っちゃって。それにぃ・・・全員きてくれて 私も嬉しいですよ?」 お昼は豪華に皆で食べた。 沙羅には特別な料理を譲君が作ってくれたし。 ちゃん手作りのケーキには小さなロウソクがひとつ。 何でも年の数だけ立てるらしいんだけど、年齢の数え方もちゃんたちの 世界は違うんだよね。 だから沙羅は一才のお誕生日という事になるわけで。 「きらきらも喜んでくれたみたいで安心したよ〜〜〜」 「うふふ。花弁もですもんね。この季節にキラキラお星様と花弁なんて嬉しいです」 花火にしようかと思ったけれど、夜には沙羅は寝てしまうし。 昼間で見られるよう改良しようと考えていたらさ。 『きらきらした感じにできたら、沙羅も喜ぶかもですよ?』 珍しいのがいいのだというご意見に、せっせと改良をして。 我が家の狭い庭だけできらきらが空から降っている。 ついでに花弁も。これは紙吹雪というやつの代わり。 こっちもちゃんの意見だから、オレから沙羅への贈り物って、実質ない ような気がしないでもナイ。 まあ・・・いいんだけど。 オレが出来る事なんて小さいコトしかないし〜。 「沙羅ちゃんたら・・・景時さんに遊んで欲しいみたいですよ?ほら」 「ん〜〜〜・・・・・・どうかな?違うっポイけど」 「えっ!?違うって・・・だって、こっち見て・・・・・・」 追いかけっこしたり、おぶってもらって高いところに喜んだりと忙しい沙羅。 が。 時々こちらの様子を窺っている。 まさに視線を感じるとはこのことなんだよね。 ただ、その視線の意味は君が考えているようなものではないと思う。 「たぶん・・・なんだけど。ちゃんを見てるんだと思うよ〜〜〜」 「私を?え〜?沙羅ちゃんはお父さん大好きなのに?わかった!私が景時さんと 二人でいるから焼きもちなんですね!」 「いや、いや、いや。寧ろ逆」 君がわからないといった顔でオレを振り返るけど。 一昨日、オレの所為で君が倒れたからだと思うよ〜〜〜。 どうにもあの一件以来、沙羅の視線を感じる。 「ちゃんの事が心配なんだと思うよ?」 「へ?あ〜〜〜・・・・・・はい。沙羅ちゃんの前で倒れちゃったのは失敗でした よね。こっそりみつからないよう倒れればよか・・・・・・」 「ダメだよ、そんなの。絶対見つけるから!」 誰にも見つからないようになんて、そんなの嫌だ。 そんな事を言わせてしまったオレの事が、オレはもっと嫌になった。 「景時さん・・・苦しいよ?」 「えっ?あっ!ごっ、ごめん」 つい抱きしめる腕の力が増していたらしく。 こんなにも君が必要なんだと、君がいないとダメな奴なんだと自覚する。 「そう、そう。景時さんがこう・・・お腹を触るでしょ?沙羅がね、真似するの」 「オレの?」 「そ〜ですよ。だって、まだお姉ちゃんになるって自覚があって私のお腹を 触るわけないじゃないですか〜。何だろうって真似してるだけですよ、たぶん。 ただね、真似だから何かが違うのが可愛くって」 思い出し笑いをしているらしい。 君の肩が揺れて、その振動が伝わるから。 ・・・・・・まただ。 沙羅がこっち見てるぞ〜? うわ!こっち来る!!! 「その・・・何だ。沙羅がこちらにきたそうだったもので・・・な」 九郎が沙羅を抱いたままで、オレとちゃんが座っている階までやって来たけど。 なんか、もう、沙羅の移動担当だよな〜。 沙羅も上手く九郎を使って移動してたりして笑える。 しかも九郎の顔が赤い。誰の何に? 「ありがと。沙羅、おいで〜」 オレが手を伸ばしても、沙羅はこようとしない。 おかしい・・・何でだ? 「沙羅ちゃん!お腹ぽんする?」 ちゃんの言葉には素直に反応して頷いてるし。 う〜む。前回の事で嫌われたね、こりゃ。 「ここには沙羅の弟がいるんだよ〜。そぉ〜っとね?」 耳をあてた姿勢でちゃんのお腹に触れていて。 いつもの暴れん坊ぶりはみられない。 「うふふ。沙羅はお姉ちゃんになるんだもんね?」 いよいよ限界まで真っ赤になった九郎が顔に手を当てて見ないようにしてるし。 確かにこの沙羅は可愛すぎなんだけどね? いや・・・九郎が真っ赤になっているのは沙羅になの〜?ってのが驚き。 「ぱぁ・・・も!」 「オレ〜?え〜っと・・・・・・」 ちゃんの背後から場所を移動して。 沙羅の反対側からいつものように新しい生命に触れてみる。 「・・・二人して〜!私は聞えないんですからね!!!」 ちゃんに頭を撫でられて。 沙羅と目を合わせてにんまり。 そっか。これは確かに嬉しいね? ちゃんの右手はオレ。左手は沙羅の。 とりあえず今はそう。今後は争奪戦。 「兄上!!!の負担になるでしょう?」 「はっ、はいぃぃぃ!!!」 そうだった。 座るの大変っていってたのに。 「大丈夫だよ、朔。それにしても、二人で同じ格好でおかしくって!」 ちゃんが笑うと沙羅も笑う。 つられてオレも嬉しくて笑っちゃうね〜。 「沙羅。あのさ、オレね、頑張るから。その・・・だから・・・・・・」 「ぱ〜〜〜」 ようやくお許しが出たのか、オレに向かって抱っこを強請ってくれた。 「沙羅ちゃんは甘えるの上手ね〜。そう、そう。パパの前髪は可愛いよね」 沙羅の手がオレの額を叩いており。 何気に風に揺れる前髪を眺めていて。 「兄上の前髪なんて・・・ぴよ〜んなんでしょう?」 「うん。ぴよ〜んが可愛いの!」 朔とちゃんの会話も何だか楽しそうで。 「沙羅。お誕生日おめでとう。そして、ありがとう」 「うきゃ〜〜〜!」 「いててててっ!沙羅!前髪そんなにひっぱったら痛いって!!!」 今は感動するとこだったと思うんだけどなぁ? 家の庭は相変わらず笑いが絶えなくって。 オレも相変わらず朔に叱られて。 ちゃんも皆もそんなオレを見て笑っていて。 これが一番の幸せなんだな〜って、そんな一日がたんじようび。 うん。めでたい。 |
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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→京で二人の子供が?!
あとがき:誕生日は楽しいくわいわいがイイ! (2007.06.17サイト掲載)