焦がれる ≪望美side≫ 「返事がこない・・・・・・はぁ〜〜〜っ」 沙羅を抱きながら階で座り込む。 が文を書いて以来、景時からの文が途絶えている。 「沙羅ちゃん。景時さん、呆れちゃったのかな?」 早く帰って来てと書きすぎたかと反省中の。 「九郎さんの人生の一大事のお供で行ってるのに、確かに考えナシな 内容だったよねぇ・・・・・・」 九郎の伴侶を決める見合いの席へ付き従うのが今回の仕事だ。 季節の報告の任務とは違い、一日で済むとも思えない。 だからこそ文を送ってみたのだが─── 「なんか、もう、全部失敗。お腹まで痛くなってきた。・・・えっ?」 産み月には少々早い。 の計算では、景時と同じ誕生日が狙えるはずなのだ。 「沙羅ちゃん・・・どうしよう・・・・・・お腹痛い・・・・・・」 明後日には沙羅の誕生日。 小さいながらも宴を開き、かつての仲間たちに集まってもらおうと お祝いの準備を毎日少しずつしてきた。 「貧血・・・なのか・・・な・・・・・・」 の意識はそこで途絶えた。 心地よい冷たさを額へ感じ、が目覚める。 「ちゃん。あまり無理しちゃダメだよ?」 「・・・・・・景時さ・・・ん?」 段々と焦点が合い、景時が沙羅を抱えての枕元に座っているのが見える。 心地よいと感じたのは、景時の手のひら。 「・・・あれ?」 「あれじゃなくて。沙羅が大活躍したんだよ?泣きながら朔のところまで 行ったみたい」 景時がに手を伸ばして暴れる沙羅をの隣へ寝かせると、すぐに 大人しくなった。 「ごめんねぇ?沙羅ちゃん。心配かけちゃったね」 頬を撫でると、散々泣いたのだろう。 頬がざらついていた。 「うぅ・・・・・・」 「うん。大丈夫。沙羅ちゃんのお祝いしなきゃって張り切りすぎ・・・・・・」 の声を遮り、勢いよく部屋の戸が引かれる。 「いいえっ!兄上の所為です。兄上の。返事をまったく寄越さないから!!!」 鬼の形相で朔が戸口から景時を睨みつけている。 いつものように軽く返すかと思いきや、景時はすっかりしょげていた。 「オレが・・・自分で帰る方が早いなって浅はかな考えをしたから。ごめんね」 どういうわけか沙羅も景時を不満顔で見ており、その場の空気が沈む。 が起き上がり、沙羅を抱えなおした。 「沙羅ちゃん。お父様は一日も早く帰ってこようとしてくれたんだよ?そういう お顔はめっ!」 うにうにと沙羅の頬を指でつつく。 「朔も。私がぼけっとしていて貧血しちゃったんだし。景時さんの所為じゃないよ? そう、そう。沙羅ちゃん、ありがとうね?朔に知らせてくれて」 頬ずりすると、安心したのか沙羅が常の如くきゃらきゃらと笑い出す。 「景時さん。おかえりなさい」 「う、うん。ただいま・・・・・・その・・・九郎も向こうにいる・・・・・・」 正座で小さくなっている景時は、どこか遠慮がちでとてもこの邸の主には見えない。 「もう!景時さん。こっち」 手招きすると、景時の頬へキスをした。 「沙羅ちゃんも。九郎お兄ちゃんが帰ってきたのに、遊んでもらわなかったの? 早く行かないと・・・遊んでもらえなくなっちゃうぞ?」 の言葉を理解できたのかは不明だが、沙羅が朔に手を伸ばし連れて行けと 強請って見える。 「朔。ごめんね?今朝はご飯食べたくなかったから・・・・・・。色々ありがとう。 沙羅をお願いしてもいい?」 「ええ。譲殿も今朝の事を気にしていて、が少しでも食べられるようにと グラタンとやらを作っていたわ。胃にも負担にならないとか。さ!沙羅ちゃんは 九郎殿に遊んでもらいましょうね」 「く!く〜〜〜」 朔はそのまま静かに戸を閉めると、客間へと戻って行った。 「沙羅ちゃんたら、すっかり九郎さんを友だちか何かと思ってるなぁ」 少なくとも朔に対する態度とは違う。 となれば、沙羅にとって九郎は兄ではなく友だちという位置づけだろう。 どちらかといえば己より格下の扱い。 九郎は気づかないだろうから問題はない。 「・・・ちゃん・・・ごめんね?その・・・文ね、嬉しかった」 の背後に移動し、しっかりとを抱きしめる景時。 「えへへ。沙羅ちゃんの手形でもいいかな〜って思ったんですけど、ご機嫌で筆を 握り締めていたから描かせてみようかなって。何となく景時さんに見えたし」 寄りかかっても景時がいる。 安心して全身の力を抜いて背を預ける。 「実は・・・あの文ね、お見合いの場に届いちゃって。皆に見せちゃったかな〜なんて」 「ええっ?!恥ずかしいなぁ・・・私の字、まだヘタクソなのに。文だって、ただ 帰って来てしか書けなくて。・・・帰りを急がせてごめんなさい」 景時はの肩へ額を乗せた。 「帰って来てって・・・どんなに嬉しいか知ってる?オレを待ってるんだって、 帰らなきゃって。九郎の事なんてそっちのけで帰ってきちゃったよ」 あまりに素直に真情を吐露する景時に、の方が申し訳なく手を回して景時の 頭を撫でた。 「九郎さんのお見合い、上手くいきました?」 「いや。九郎は自分で断わったよ。まだそういう気持ちが理解できないからって」 まだ何か言い足りなさそうな様子の景時に、が自分の腰にある景時の手に 触れながら続きを促がす。 「まだ・・・あるでしょう?」 「うん。その・・・九郎はちゃんが好きなのかなって不安になって・・・・・・ それで・・・あの文を九郎にも見せて・・・・・・」 言葉では伝えられない事を、の文で確認しようとしたのだ。 気まずいながらもに嘘は言いたくないために、すべてを打ち明けた。 「なんだ。九郎さんにとっての私は、初めて守らなくてもいい女の人だったってだけ ですよ?しかも、先生が同じだから、兄弟子気分もあったのかな〜。女の人に対する 認識を変えられたってだけで、好きが違うんじゃないかな〜」 「へ?」 まぬけな声が景時から零れる。 「だから!九郎さんが家に来てくれるのは、私たち家族を見たいからで、私個人が どうこうじゃないという話で。景時さんが心配するようなことは何にもないです」 あまりにあっさり断言され、景時の方が拍子抜けだ。 「えっと・・・あれ?」 「やだ〜。景時さんたら、そんなの九郎さんに聞けばすぐにわかったのに。きっとね、 九郎さんも沙羅に甘えてもらうのが嬉しいんだよ?妹とか、自分の家族っぽくて」 に言われると、そんな気持ちになってくる。 「今頃、沙羅ちゃんの八つ当たり攻撃を受けて大変ですよぅ?私が沙羅ちゃんに心配 かけちゃったのに」 「いや〜、それはオレが文を書かなかったからで・・・・・・お腹大丈夫?!」 倒れたがおさえていたのは腹部だったと聞いている。 「あれ?そういえば、お腹が痛かったのにどうして貧血って思ったんだろう」 が首を傾げていると、部屋の外で物音がする。 戸の辺りを見ていると、隙間から小さな腕が必死に戸を押しやり身を滑らせてきた。 「う!」 沙羅がの元へと突進してくる。 続いて九郎が足音を立てながらやって来た。 「沙羅っ!まだ食事が途中・・・・・・うわぁ!」 九郎が目にしたのは、景時がを抱えていながらも甘えているところだ。 瞬時に顔を赤く染め、入ってきた戸へと向き直る。 「九郎さん・・・そんな変なモノ見たみたいな態度しないで下さい。沙羅ちゃんが変に 思うから。梶原家はこうなんです。別に、いつもお父さんだけ頑張るんじゃないの」 沙羅を抱き上げたが額を合わせると、沙羅はの頬へと手を伸ばす。 何のことはない風景。 ただ、九郎は知らない、知らなかった風景。 「・・・その・・・俺はだな・・・・・・」 「そうですね。沙羅ちゃんのこのベタベタな手が、九郎さんが上手にご飯を食べさせ られなかったって事を物語ってはいますね?」 そういいながら、は沙羅が触れることを厭う様子はない。 「沙羅ちゃんはご飯の途中で逃げてきた悪い子ちゃんなのかな〜?」 の問いかけに、次に沙羅が逃げ込む先は九郎だ。 九郎は頼られたことが嬉しく、すぐに沙羅を抱き上げた。 「だから言っただろう?食事をきちんととらないと叱られると。行くぞ」 さっさと踵を返す九郎。 今度は景時がに泣きついた。 「沙羅ちゃんがぁ・・・オレを無視したぁ・・・・・・」 「拗ねてるだけですよ。大丈夫。私もお腹が空いたな〜。お腹って、空きすぎて痛かった のかな?」 「それは大変!じゃあ、ちゃんはオレが食べさせてあげる〜〜〜」 梶原家の主の威厳は下降線。 けれど、周囲の評判は上々。愛妻家として名が知られるのは別の話。 |
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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→京で二人の子供が?!
あとがき:景時くんが世話役ということで。単にベタベタしたいだけ! (2007.05.02サイト掲載)