空間 ≪望美side≫ 「景時さんがいないとつまんない。ね〜?」 「あ〜!あ〜!」 沙羅が両手を伸ばしてくる。 アレして欲しいってことよねぇ。 沙羅ちゃんってば重くなったから大変なのよね。 「はい、はい。ぴょんぴょんしよ〜〜〜」 向かい合わせで手を繋げば、沙羅が楽しくジャンプを始める。 ひとりで跳ぶよりも、高く、長く跳べるのがいいみたい。 それなりに浮遊感があるんだと思う。 ちょっとだけ腕が抜けないか心配なんだけど、そんなのお構い無しで 沙羅はジャンプしてる。 「きゃっ!きゃ〜〜〜!」 「うぅ・・・そろそろ終わりにしない?」 腕を下ろしても止めてくれない。 でも、自分が疲れると膝を曲げるだけにして、少ししてから また跳ねだすんだから! ちゃっかりさんだな〜、もう。 「神子、沙羅。庭から失礼する」 「敦盛さん!どうしたんですか?久しぶりですねっ」 ますます調子に乗って飛び跳ねる沙羅の相手をしながら、 久しぶりに会った敦盛さんは、どこか大人っぽくなっていて。 ・・・なんだか皆がどんどん大人になっている気がする。 「景時殿が留守だと伺ったのでこちらへお邪魔したのだ。将臣殿が 仕事を休む言い訳にされるから・・・・・・」 「そうだったんですか〜。いつも将臣くんのお守り役で大変ですね」 将臣くんって、面倒見はいいんだけれど、どこか自由っていうか。 周囲を気にしないっていうか。 必ず近くに迷惑をかけられる人が必要なタイプっていうか。 ・・・譲くんに迷惑をかけるだけでは足りなくなってるなんて。 「サボろうとも二人分程度は仕事をされているのだが・・・それでも人手が 足りないのだ。指示を出す役目の将臣殿に抜け出されては困るから仕方ない。 申し訳ないが私が様子を見て参るということで話をつけてきた」 敦盛さんらしい真面目な返事に笑っちゃった。 「じゃあ!敦盛さんも将臣くんに悪いって思えないくらい大変な仕事を お任せしますね。沙羅ちゃんの相手をお願いします!最近重くなったから、 正直、この遊びに付き合うの腰が痛いんですよぅ」 敦盛さんが来ても止めないくらいお気に入りのジャンプを続けている 沙羅を見て、納得してくれたみたい。 「・・・神子は休まれた方がいい。私が代わろう」 敦盛さんが簀子に上がってきてくれて。 沙羅に敦盛さんと手を繋ぐように合図すると、すぐさまもっと高く 跳べそうな相手に乗り換えられた。 沙羅のちゃっかり者〜! 「きゃふふ〜!」 「・・・沙羅。そのように暴れては・・・・・・」 私の時とは比べ物にならないくらい無茶なジャンプをする沙羅。 もしかして、手加減していてくれたのかな? 敦盛さんには悪いけど、あれだけ全身運動してくれるとお昼寝も 愚図らずに寝てくれそうで助かる〜〜。 「ごめんなさい、敦盛さん。沙羅ちゃん、最近はその遊びがお気に入りで。 自分から手を離さない限り止らないの」 敦盛さんが振り向いてくれた。 「それは問題ない。私の様な者にも変わらず接してくれるのだ。それに、 この姿は可愛らしくて、将臣殿に申し訳ない。きっと、将臣殿も沙羅と 遊びたくて抜け出してこられるのだろう」 「・・・そ、そうかな?」 可愛いといえば可愛いんだけれど、体がまだ二本足では安定しないから お尻がちょっと突き出ちゃってるっていうか。 本人はかなり自分で立っているつもりなんだろうけれど、ちっとも 立てていないその姿勢は、可愛いより面白いの方が・・・・・・。 そんな事を考えながら二人の様子をしばらく眺めていた。 いつの間にか転寝してしまったみたい。 私が起きた時には、沙羅と敦盛さんは毬転がしをしていた。 これもまた単純な遊びで、相手と自分の間で毬を転がしては返すだけ。 ただ、沙羅は相手が慌てるのが楽しいらしくて真っ直ぐに返しては くれないんだよね〜。 「あ〜〜〜〜〜」 「沙羅。毬が庭に落ちたら汚れてしまうだろう?」 せっせと沙羅の相手をしてくれている敦盛さん。 「。こんなところで寝たら風邪をひいてしまうわよ?敦盛殿が私を 呼んで下さったからいいけれど」 確かに私は衣を被っている。 「えへへ。ごめんね〜?うっかり・・・・・・だって・・・・・・」 青空を見上げる。 鎌倉に向かっているだろう景時さんも同じ空を見ているかなって。 「兄上なら・・・・・・まだこちらを出立して三日ですもの。まだまだ 鎌倉には遠い場所にいると思うわ。それなのに・・・・・・」 朔から手渡されたのは文箱。 「・・・景時さんから?」 嬉しくて朔の返事も聞かずに文箱の紐を解く。 そこには景時さんの書いた文字。 私でも読めるように、簡単な文字を崩さずに書いてくれていて。 「こんなに大切にしてもらっているのに、浮気の心配してたなんて言えない よねぇ?だってね、九郎さんのお見合いの相手が美人さんかな〜って心配 なんだもの。うっかり景時さんがドキドキしちゃうかもでしょ?」 最後に書かれているハートマークを指でなぞる。 好きのシルシを教えたのは私。 「あら。そうだったの?大丈夫よ。兄上は言い寄られたこともないし、自ら 言い寄ったこともないのだから。・・・以外にはね」 朔が笑って言うけれど。 一度ある事は二度あるって言うじゃない。 「うん。でもさ・・・・・・一度出来たことは、二度目は簡単みたいな 言い伝えがあるんだよね。三度目はもっと簡単に出来るみたいな」 「そうねぇ・・・お料理や武術の様に体や頭を使うことならそういう気も するけれど。そもそも、その二度目はやはりになんじゃない?何度でも に対してという意味ではないの?」 朔の意外な解釈に、思わず思考停止。 あれってそういう意味だったの!? 「・・・かなぁ?隣に景時さんがいないのがすっごく変なんだよね。隙間を 感じるっていうのかな・・・こう・・・空いている場所を見るたびに思う」 「兄上は・・・とても邪魔なくらい大きいものね?」 わざとふざけてくれている朔に、景時さんと同じ空気を感じる。 やっぱり兄弟なんだな〜って思う。 ふんわり優しい。 「うふふ。いいの!大きいのは安心なんだから。寄りかかっても、沙羅ちゃんと 私が飛びついても平気なんだよ」 「それくらい当然よ。や沙羅ちゃんに怪我させたら許さないんだから」 う〜ん。それはどうなんだろう? 飛びつく方が悪いよね? ようやく遊びつかれて眠りそうな沙羅。 素早く床に転がる前に受け止める。 今日のようにたくさん遊んだ時は電池切れみたいにカクリと寝ちゃうのよね。 「神子・・・・・・」 「うん。敦盛さん、長い時間ありがとう。今日はすっきりお目覚めになりそう。 こういう風に寝た時は、起きた時も機嫌がいいの。雨だとお外に行けなかったり するから、動き足りなくて寝付かないでしょ?起きてからも機嫌が悪いんだよ」 抱き上げて背中を軽く撫でてあげると、全身を預けてきて。 安心して寝ているのがわかるのが嬉しい。 「そう・・・なのか。私でも役に立てたならよかった」 「でもとかじゃないんです!沙羅ちゃんと遊ぶと私の方がバテちゃって。とっても 助かりました。沙羅ちゃんは嫌いな人とは遊ばないんですよ?もうね、露骨に プイッて顔を背けちゃうの。大抵が悪い人だったとか後でわかるんですけど」 そうなのよね〜。 京の街中を散歩に行った時に、沙羅がどうしても抱っこを拒否した人がいて。 抱っこが大好きな沙羅らしくないと思ったんだけど。 私もちょっとだけその人には嫌な気配を感じていて。 後で知ったんだよね。盗賊さんだったって。 先生が顛末を教えに来てくれたんだっけ。 しかも、沙羅が拒否したのがきっかけで弁慶さんがその家族を調べさせたって。 『沙羅が同姓の女性を嫌がるというのは余程の事でしょう?』 そんな風に考える弁慶さんの方がすごい。 結局は家族のフリをして京で情報を集めている盗賊の一味だったんだけど。 「その話は聞いているが・・・私は・・・・・・」 「だからです」 敦盛さんは自分が怨霊だからと言いたいんだろうけれど。 確かに熊野では社の結界に阻まれたたりしたけれど。 形式だけの問題じゃない、あんなの。 「いい人か、悪い人か基準なんです、家は」 堂々と言い切って見せた。 「神子・・・それじゃ私は?私は龍だよ?」 「白龍・・・人って言ったのはそういう意味じゃなくてね?」 タイミング悪いよぅ、白龍。 しかも、そこで質問してくるかな〜。 「神子でも白龍には敵わないのだな」 敦盛さんが笑ってくれた。 通じたかな、私が言いたかったこと。 「あのね?相手を大切に思っているかだよ。悪い事、例えば怪我をさせようとか、 そんな風に思っているかで違うでしょ?」 「私は怪我をさせようとは思わないよ?」 うう〜ん。そうきたか。 白龍は手強いわ。 「白龍。神子が言いたいのは、相手を真に大切に思っている人とそうでない者は 違うということだ。白龍は神子が一番大切なのだろう?」 「うん!そうだよ。私は神子が好きで大切」 て、照れる。 照れるけど、敦盛さんが白龍の扱いに慣れているのに感心しちゃった。 いつもながら鮮やかに話の方向を戻しつつ、流してしまう。 敦盛さんって、さすがに宮廷に出仕しているだけあるなと思う。 話を要約して相手を説き伏せるというか、そういうのが本当に上手。 「そろそろお暇させていただく。将臣殿の機嫌が悪くなりそうだ」 「そうでもねぇぜ?譲を置いてきたから」 あっさり抜け出してきた将臣くんが庭先に立っていた。 「将臣殿・・・・・・」 あぅぅぅ。敦盛さんの眉間に苦悩が見える! 「将臣くんっ!そうやって・・・・・・」 「しぃ〜〜〜っ。沙羅が起きちまう。お前はいい加減自覚しろ」 口元に指をあてながら、私が五月蝿いと言われた〜。 誰の所為なのよ、まったく! 「へ〜、へ〜。そう睨むなって。・・・よく・・・寝てるな」 将臣くんに頭を撫でられて、ちょっとだけ沙羅が動く。 「何しにきたの?」 「ちぇっ。何しにってのはご挨拶だな。まあ・・・たまには運動しねぇとな。 頭の酸素がなくなると仕事にならなくなるしな」 散歩が運動なのかな?ん〜? 「・・・サボりついでにおやつしていけば?今から皆でおやつにしようと思って いたんだよ。今日はね、朔の手作りお饅頭。美味しいんだよ〜。小さいからたくさん 食べられちゃう」 小さな一口サイズのお饅頭は、皮がさらりとしていてとっても美味しいの。 私もお気に入りのおやつ。 「ふうん?サボリついでねぇ・・・敦盛。俺も参加してもいいか?」 「ええ。それこそ、たまには息抜きをされた方が将臣殿には効率よく仕事をして いただけそうですから」 将臣くんが苦笑い。 敦盛さんのツッコミは、朔のツッコミとは違う種類だけれどいい味だわ〜。 「早く、早く。私も食べたいんだからっ」 手招きして、楽しいおやつの時間の始まり。 優しい人たちに囲まれて、隣に景時さんがいないのが寂しいけれど、少しの間だけ 隙間が埋まる。 『鎌倉に着いたらすぐに帰るからね!オレの用事は無いんだから。待ってて ![]() 景時さんの文の一文を思い出す。 待ってますよ?もちろん。 だって、隣の場所は景時さんって決まってるんだから。 |
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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→京で二人の子供が?!
あとがき:なんとなく空いてる場所が気になる感じが伝わればいいな〜。 (2007.04.17サイト掲載)