天邪鬼  ≪望美side≫





「じゃあ・・・いってきますね?沙羅ちゃんをお願いします。沙羅もいい子にしててね?」
「気をつけて!将臣君と譲君も着いて行ってくれるなら安心だしね〜」
「ぶ〜〜〜!」

 久しぶりに朔とお買い物という話になって。
 景時さんがいてもいいんだけど、景時さんも一緒だと沙羅もなの。
 沙羅が悪いんじゃなくて、沙羅がいると落ち着いてお買い物が出来なくて。
 いつも買い忘れしちゃったり。私が悪いんだけど。
 だから、その日は景時さんに沙羅を預けて。
 朔と二人でお買い物。
 一応は将臣くんと譲くんも一緒だけど、基本は二人で歩きたいってお願いしたの。



「この着物可愛い〜!沙羅に似合うかな〜」
「うふふ。は沙羅ちゃんか兄上のものばかりみているのね?」
 久しぶりに女の子同士のお話をしながら買い物って盛り上がっていたのに。
 私ったら、景時さんや沙羅の事ばかり朔に話してた。

「ごめんね〜?何だが自然に目が探しちゃうっていうか。今頃、沙羅ちゃんご機嫌だろうな〜」
「どうかしらね。何かあれば黒龍と白龍が知らせにきてくれる事にはなっているけれど」
 そうなの。
 お母様もいるから、おしめもご飯も心配ない。
 何かなんてないだろうって、その時はそう思っていた。





「沙羅〜〜〜。そろそろ家に入ろうよ〜〜〜」
「ぷはぁ〜〜〜。れ!」
「う〜ん?あれって・・・アレは雀さん」
 がいない梶原邸では、沙羅は大好きな父上を貸切ではしゃぎまくっていた。
 あまりにテンションが上がりすぎて、額には薄っすらと汗。
 沙羅は動くものに興味を示し、中々家へ入ろうとしない。

「困っちゃったな〜。沙羅ちゃ〜ん。お父様は沙羅ちゃんが日焼けしちゃうとママに叱られるんだよ?」
「あ!あ〜〜〜!」
 景時の言葉を無視して、飛び立つ雀へ手を伸ばす沙羅。
 抱き上げられているので移動ができない。
 移動したければ───

「ぶぶっ。ち〜!」
「え〜〜〜。今度はあっち〜?仕方ないねぇ」
 移動するならば木陰に限る。
 庭木が立ち並ぶ方向へと景時は歩を進めた。





「今頃、景時さんと沙羅ちゃんはどうしてるかな〜?」
「さあ、どうかしら。一度沙羅ちゃんを床へ下ろしたら最後ね」
「言えてる〜!追いかけっこするしかないよね〜」
 景時と沙羅が遊ぶのを見ているのは楽しい。
 そこに白龍も加わるのだ。
 何故か黒龍の方が大人で保護者に見えるのだから不思議といえば不思議。
 沙羅は案外いう事を聞かなければならない人物とそうではない人物を見分けている。
 ちなみに、いう事を聞くべきは朔と黒龍だと認識している模様。

「景時さん、また髪や耳を引っ張られて遊ばれてそうだよね〜」
「・・・兄上は前髪を切ればよろしいのよ。あんなに長い意味なんてな・・・・・・」
「だめっ!格好いいんだから、絶対にダメなのっ!朝だけおりてるのが見られるのがドキドキなの!」
 の剣幕に朔が怯む。
 景時が格好良く素敵に映らない朔の瞳。
 にはどう見えているのか常々不思議に思っている。
「どうしてあんなに優しくてカッコイイんだろうね〜?景時さんって」
 あまりに呆れ過ぎた朔は返事が出来なくなっていた。





「沙羅〜。お散歩オシマイ。そろそろおやつの時間だからね」
 離乳食の時期、少しずつ大人に近い食べ物に移行中だ。
 本日のおやつはうどん。ただし短くしてあるのでうどんだったモノである。
「景時。ひとりで食べたがるから、その時はそのようにね」
「はい。母上は?」
 戸を開け放ち、庭を眺められる位置で沙羅を膝へ抱えて座る景時。
 手には匙を持ち、沙羅へ食事を上げる準備万端だ。
「私は台所で仕事がありますから。沙羅ちゃんはいつもいい子で食べるから任せてもいいわね?」
「はあ。まあ・・・オレもいつも見てますしね」
 が沙羅に食べさせるのを見ながら隣で食事をしたりしているのだ。
 まったく知らない事をするわけではないというところで、景時も景時の母も油断してしまっていた。





「・・・朔!帰らなきゃ。沙羅が泣いてる」
「えっ?!」
 首を傾げている朔を置いてけぼりで、できるだけ早足で家へ向かった。
 だって、沙羅ちゃんが泣いてるもの。
 景時さんも困っちゃってる。わかるんだから!
?!おい!!!」
 将臣くんと譲くんも無視して、早歩き、早歩き。
 駆け足一歩手前で精一杯急ぎ足。
 こんなにお家から遠くまで来ちゃったんだって後悔した。



「沙羅ちゃん!景時さん!」
「ま!」
 私に両手を広げている沙羅を見たら、沙羅を置いてお出かけして悪かったなって。
 ものすごく悲しくなって、沙羅を抱きしめた。
「ごめんね?ご飯、嫌々しちゃったの?食べないとダメなんだよ?」
「・・・んま」
 抱き上げると涙目のままだったけど、おとなしく口を開いてご飯を待つ沙羅が可愛くて。
 辺りを見回すと景時さんとお母様が格闘した後がありありで。
「・・・ごめんなさい。お母様。景時さん。私がお出かけしちゃったから」
「いいのよ、さん。沙羅ちゃんは母上が大好きなのに、普段は天邪鬼さんだったのね?ご飯の時に
さんがいないってわかったらしくて、泣いてしまったのよ」
 泣いたなんて可愛いものじゃないよね、これって。
 もう大泣きで暴れましたって惨状よ、このお部屋。
「いや〜、最初だけだよ沙羅が食べたの。後は匙を投げるわ、逃げるわ。ちゃん人形も効き目なし」
 景時さんが苦笑いしてるぅ。
 ごめんなさい、ごめんなさい。
 ものすごく困ってたんだなってわかる。


っ。そんなに走ったら・・・・・・」
「あ。朔、ごめんね?沙羅ちゃん、やっぱり泣いてたって」
 もうすっかり泣き止んでご飯を食べてるけど。
「いいのよ。・・・・・・ふぅ・・・ったら、突然走り出してしまうんだもの」
「そうだったの?!ダメだよ、ちゃん」
 今度は景時さんが涙目で。
 私の背中に張り付く景時さん。
 腕には沙羅。
 ものすごく重くって大変だけど、私の家族。


「二人とも、泣き虫さんなんだから〜〜〜」
 本当は必要とされているのが嬉しかったんだけど、そこは秘密。
「だってさ〜〜〜。何かあったら・・・・・・」
「何もないんです。母の勘が働くんだから。沙羅ちゃんも心配しなくてもママはいなくならないよ?」
 あぐあぐとうどんを食べてる沙羅が、私から目を離さないでいるから。
 伝わるかは解らないけどそう言ってみた。



 そうこうするうちに空腹が満たされた沙羅が眠ってしまって。
 目蓋がはれてて可哀想な事をしたな〜と思いながら、簀子で景時さんと並んで座ったの。
「沙羅がさ。こう・・・楽しそうにしてるのって。ちゃんが視界に入っているのがあっての事なんだね」
 私に抱っこで眠っている沙羅を見ながら景時さんがポツリ。
「普段は逃げ回って、お着替えも大変なのにぃ。沙羅ったら」
「あはは。それはさ、構って欲しいんだと思うよ。オレも・・・構って欲しいから解る」
 う〜ん。それは困りましたね?
「私も景時さんに構って欲しいから、早い者勝ちですね」
「・・・それって大変な競争率だね。早くもオレが脱落してそう」
 優しい景時さんは順番を譲っちゃうんだろうな。
 脱落じゃなくて、待つ方を自然に選ぶ人。

「景時さん。私も眠いかもです」
「ん。いいよ」
 自然に景時さんの腕が私の肩へ回されて。
 寄りかからせてもらって目を閉じる。
 今日も日差しが暖かくて。
 まだ冬なのに暖かくて嬉しいなって。
 ズルして順番割り込みで景時さんに甘えてみる。
 先に景時さんが構ってって言ってたのに。


「沙羅が起きたら・・・今日は大変そうだね」
「そ・・・ですね。でも・・・それがいつも」
 梶原家の日常。
 一番パパの心が大きいから、皆が安心です。






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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→京で二人の子供が?!

 あとがき:景時くんってさり気ない人だな〜と思ったので。勝手な想像ともいいますが(笑)     (2007.03.04サイト掲載)




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