| 霜降月 ≪景時side≫ 「どうりで寒いと思った」 一人じゃないのは温かくて。 朝起きることは、そう苦痛ではないけれど離れがたい。 沙羅も四足で逃げるのが早くなったし。 小さいから追いかけるのが大変だよな〜とか。 そんな事を考えながら簀子に出ると、庭が一面真っ白だ。 「・・・・・・よかった。起こしちゃわないでさ」 霜が降りるほどに寒くて。 ちゃんと沙羅が風病になったら大変だ。 オレはさっさと顔を洗って部屋へ戻った。 「景時さん!おはよ〜〜〜」 すっかり着替えも済んだちゃんが正座をしていた。 「・・・おはよう。起こしちゃった?」 起こしていないつもりだったのにと、悲しくなった。 「違うんですよ!だって、景時さん、昨夜帰ってこないんだもん」 「あ〜〜〜。ごめんね〜?盗賊騒ぎがあったりしてさ」 最近、盗賊が出没する。 東国の武士が京にいるのは、警備も兼ねているからね。 何かというと扱き使われ・・・いや、いや。 仕事が多くて大変だ。 この寒空だし、誰もが幸せに暮らせているもんでもない。 仕方がないよなと半分は思うが、だからといって人を傷つけていいと いう事ではない。 「背中があったかぁ〜いって思ったから、帰って来たのはわかってたん ですけど。眠くてお帰りなさいが言えなくて、ごめんなさいでした」 「うわあ!いっ・・・いいんだよ。もうほとんど朝だったし。その、 背中に潜りこんじゃってゴメンね?冷たかったでしょ、オレ」 つい、つい。 外から帰って、風呂上りには報告書なんぞを書いてからちゃんが 沙羅を抱いて眠っている背後にお邪魔した。 温かさに安心して、いつ眠ったのか記憶がないくらいだよ。 「大丈夫でしたよ?それより、昨日はお話したいことあったのにぃ〜」 手を合わせてオレの方へにじり寄ってきたぞ?何? 「沙羅ちゃんがね、伝い歩きして。南のお部屋の扉を自分で開けたの! それがめちゃめちゃ可愛くて〜〜〜。リズ先生が来たから知らせてくれ ようとしてたみたいなんですけど」 「ええっ?!」 オレは言葉を失った。 それって、沙羅はオレより先にリズ先生のお出迎えをしたって事? 「景時さん?」 「あっ。・・・うん。そうなんだ。それは・・・沙羅が大きくなった証拠だね〜」 沙羅に押しつぶされているオレの人形が、なんとなくオレの立場を 象徴しているようで─── 「最初は景時さんの事を待っていたんですよ?だって、ず〜っと景時さんの 人形を持ったままでしたもん。足を持ってぶんぶん振り回して」 「そうなの?そっか・・・・・・」 まだ褥で眠っている沙羅の寝顔を眺めると、口が動いている。 何の夢を見ているのかな? 「オレの事・・・お出迎え・・・・・・」 歩きそうだったってことだよね?沙羅が! 「そうなんです。でね、景時さんが帰ってこなくて。たまたまリズ先生が 山で取れた木の実で作ったおもちゃを沙羅のためにって持って来てくれたの。 沙羅が待っていたのは景時さんだと思いますよ?」 どうしようか〜。もう顔が大変な事になっているだろうな〜。 「沙羅ちゃん、結構遅くまで頑張ってたから、今朝は起きないかな」 ちゃんがまだ褥で眠っている沙羅の額を撫でた。 「・・・あうっ!あ〜!!!」 目覚めた沙羅がオレに突進してきたぞ? 「なっ、何?外?外は・・・今日は寒いよ〜?」 手を貸してやると、ぐいぐい引かれる。 「すごい力だな〜、沙羅ちゃん」 オレに抱き上げられたいわけではないらしい。 ただ手を貸せというように引かれる。 「あ・・・・・・あぅ・・・・・・うっ!」 妻戸を勢いつけて開けたよ!沙羅が!!! 真っ白な世界に驚いているみたい。 そうか・・・霜は初めてか・・・・・・。 「沙羅。おいで?」 手を広げると、素直にオレに抱きついてきた。 「パパがお庭を見せてあげるよ〜。沙羅ちゃんは寒いから降りちゃダメ」 沙羅を抱えて階から庭へと降りる。 ちゃんが沙羅に衣をかけて、オレには羽織を肩へとかけてくれた。 「ま〜っしろ!綺麗だね〜。朝陽にあたるとなくなるんだよ」 魅せられたように大人しい沙羅を抱えて、しばし庭を鑑賞する。 冬将軍が我が家にも訪れようとしている。 ちゃんがしたいと言っていた、親子で雪合戦も夢じゃないかもね! |
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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→京で二人の子供が?!
あとがき:歩くとシャリシャリって、楽しいですよね! (2006.12.31サイト掲載)