暮れの秋 ≪望美side≫ 「遠足、楽しかったね〜。沙羅ちゃん!」 ほんの一週間前の出来事なのに、紅葉って早くって。 「紅葉の始まりくらいだったのに、もう真っ赤だよ?ほら〜」 遠くに見える山々が、その色を空に映すほどに。 あの日の九郎さんはちょこっと変で。 あの日を境に、家へ夕ご飯を食べに来てくれるようになった。 「!外は冷えるわ」 「ありがと。ね、朔。九郎さんの好きな食べ物は何だろうね?」 羽織る衣を持って来てくれた朔。 「そうねぇ・・・・・・九郎殿は何が好きなのかしら。食べないと いうのはないわね」 朔も気づいていたみたい。 「そ〜なの。だから・・・好きな食べ物用意してあげたいんだよね」 沙羅ともよく遊んでくれる。 景時さんに聞いたら、あの日、九郎さんに言ったんだって。 「ああ。九郎はね、たぶん・・・家族を知りたいんだよ。それが、 自分が家族を作るんじゃなくて、家族の一員という方。せめて頼朝様と 暮らした記憶があればよかったんだけど、それもないし。だからさ、 前みたいに家へご飯を食べにどうぞって誘ったんだ。ほら、戦が終わった 後からはおやつ以外にはこなくなってたし。ご飯は大勢の方が楽しいと 思うんだよね〜〜〜」 景時さんって、ほんっとよく見てる。 九郎さんが一人でご飯食べてるなんて、考えればわかるのに。 すっかり忘れてた。 弁慶さんは食べに行くところがたくさんあるからいいけど。 九郎さんはひとりぼっちだったんだなって。 「景時さんって優しいよね〜。うふふ。大好き!」 「こほんっ。・・・そういう事は、本人に言った方がいいと思うわ」 「うん。言ってるよ。でね、言うと照れちゃう景時さんも大好きなの」 朔がしゃがんで笑い出した。 いいけど。 そんなに面白い事、言ってないよ。 「きゃふ!きゃふ!ぶぅぅぅぅ!!!」 「なあにぃ〜?沙羅ちゃんまで笑わなくったって・・・・・・」 落ち葉が風に舞うのを見て喜んだのか、私と朔を見て笑ってるのか。 何となく後者っポイ。 「は本当に・・・・・・いいわ。今日は何か九郎殿が好きそうな 食事を考えて、それを夕餉に準備しましょう」 「だったら、茶碗蒸しにするといい」 どこから声がと振り返ると、黒龍と白龍が立っていたの。 「驚いた〜。どうして茶碗蒸しなの?」 黒龍が九郎さんに懐いているのは知ってたけど。 二尊院でも楽しそうにまとわりついてたし。 「温かくて美味しかったと言っていた」 「うん!私はプリンがいいと言ったんだけど、九郎は甘くない方が好き なんだって」 白龍のおかげで聞き出せたのかな? プリンよりは茶碗蒸しってなったみたい。 「朔!今夜はちょードデカ茶碗蒸しってどうかな?何を入れようかな〜」 「そうね。串揚げに使う予定の銀杏もあるし。そういえば、譲殿もこちらへ お見えになると伝言があったわ。ようやく秋の宴から解放なんですって」 「そろそろ寒いもんね、夜は。将臣くんも来るのかな」 将臣くんはこちらでは還内府さんだから。 秋といえば宴なんだよね。 あちこちお出かけしたり、招待したり。 貴族っていう人たちも大変だよね〜。 そのお世話をしている譲くんも大変だけど。 「そうだっ!まとめて皆をご招待しよ?敦盛さんも宴はオシマイだよね? 弁慶さんも、薬草取りだって日が暮れるの早いから帰りは早いだろうし。 先生はすぐに来てくれるもん!」 「・・・。それではこちらで宴みたいよ?」 「あれ?」 仲良く集まるのがそうといえばそうかも。 「恒例にしちゃえばいいんだよね。いつでも来て下さいって言っても、 皆も仕事があるし。これからは先に招待状を書いちゃおう!」 最近は字も上手くなったんだから! 「神子!プリンは?プリンも同じ材料なんだよね?」 「白龍詳しいね〜。そうだよ。プリンは白龍に頑張ってもらおうかな。 私と一緒に作ろうね。後で譲くんも来てくれるだろうから、黒龍は茶碗蒸しと 食事の方を朔とお願いね」 しっかり分担よ。人数が多いのはなかなかに大変なの。 秋の夜長、皆で集まっておしゃべり。 どの季節にも、それぞれの良さがある。 だから。 大切な人たちと過ごしたい。 同じ時間を出来るだけ多く、楽しく。 そのためにこの世界に残ったんだもの。 「沙羅ちゃんは、今日は追いかけっこの相手がたくさんで嬉しいね〜」 「きゃふ〜〜〜!!!」 油断すると、どんどん狭いところに突進しちゃって手強いんだから。 皆を慌てさせちゃおうっと! 「よぉ〜し!秋は茶碗蒸しで冬になったら鍋パーティーだ〜〜!」 空に向かって拳を上げた。 楽しいことは。考えるのも楽しいよ! |
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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→京で二人の子供が?!
あとがき:ついついイトコの娘を思い出すのです。ハイハイがめちゃはやくて、捕獲って感じ(笑) (2006.11.12サイト掲載)