いわしは天高く ≪景時side≫ 空が高くなる─── 誰が最初に言ったのかな。 夏が終わったんだな〜と、ぼんやり空を見上げていた。 「景時」 守護邸の庭でぼんりしていたオレを呼ぶのは九郎。 「はいよ〜。何?何かあった?」 今日は午前中の見回りと、西国の物資手配も済ませた。 後は午後の見回りだけだったと思うんだけど。 「いや・・・最近、突然帰らないようなのでな。は元気か?」 「ああ。そういう事。大丈夫。ほら、二人目もわかったし」 「・・・・・・そう・・・だな。今年は出かけない・・・か」 オレの隣に座った九郎が空を見上げる。 なんとなくだけど・・・九郎はオレたちに“家族”を見つけようと しているんだろうなと思う。 それは、それでもいいんだけれど─── 「九郎はさ・・・好きな女の子いないの?」 いつものように照れて慌てるのを予想していただけに、黙られたのが 意外で。それでいて、その間は変なものではなく。 「・・・怖い・・・のだろうな」 「そうだねぇ・・・でも。そんなの飛び越えちゃうくらいに好きなのが わかる時があるんだ。手を伸ばしたいのに伸ばせなくて・・・・・・」 あの時がそうだった。決戦の前の日。 「伸ばせない・・・だったら・・・・・・」 「うん。あっさり伸ばしちゃった。本人を目の前にすると、もうダメ。 決意なんて意味なくて、こう・・・抱きついてた」 あきれちゃったかな?九郎がまた空を見上げてる。 「・・・景時は・・・見つけられたのだな。ただ、俺は・・・・・・」 「行こうか?紅葉を見にさ。・・・沙羅がいるから近所にね」 「ああ。行きたいなと・・・考えていた・・・・・・行くぞ」 突然九郎が立ち上がる。は?その素直な反応が変だよ?九郎。 「ほら。早く来い。今日はいい天気だ。これからニ尊院までなら行ける だろう。・・・龍神の庭と呼ばれているのだろう?」 「知らなかった〜!それ、誰がって弁慶か・・・・・・」 そういう未知なるネタの出所はだいたい決まっているしね。 「よしっ!ちゃんと沙羅を迎えに行こ〜っと」 九郎と並んで急いで我が家を目指した。 「あれ〜?お帰りなさい?それとも、寄り道?」 簀子で首を傾げるちゃんがいる! 君のその仕種がとても好きなんだ。 九郎の前だから、ぎゅぎゅっvは控えるけどね。 「え〜っとね、九郎が許可してくれたからデートの誘い。紅葉を見に行こう?」 「ほんとに?!いいんですか〜〜〜?九郎さん」 ちゃんがオレを疑ってる!思わず後ろにいる九郎を振り返った。 「ああ。俺が行きたいと言ったんだ。その・・・沙羅と」 「・・・はい〜〜〜?そんなの聞いてないよ!!!」 突然、どこからそんな話がと、声が裏返ってしまった。 「そっか。もうそんな季節でしたね〜。去年、楽しかったですもんね。おやつを 持って、皆でお出かけしましょうか。え〜っと、沙羅ちゃん、みてて下さいね」 「わかった」 オレではなく、九郎に沙羅を預けたぞ〜! ひぃ〜〜〜っ!!! 九郎の沙羅を抱くぎこちない手つきに、鼓動がオレの限界を示していた。 「九郎・・・その・・・かわろうか?」 「いい。赤子はいいな。の言うとおりだと思うぞ」 突然、何を言い出すのやら。 九郎が沙羅を見て微笑んでるし。まさかっ! 「九郎?もしかして・・・・・・」 「お待たせしました!朔と白龍と黒龍も!これで去年と同じメンバーですね! 今年はね、先生も」 九郎が顔を上げた庭先には、足音すら立てないで登場してた九郎の師匠がいた。 「先生・・・・・・」 「九郎。あるべき姿は・・・己が決めるものだ」 リズ先生って、侮れないよな〜。 九郎が何かに迷っている事に気づいているんだ。 「・・・はい・・・先生」 「じゃ、行きましょ〜!行き先はどこですか?沙羅をありがとう、九郎さん」 あっさりちゃんは九郎から沙羅を受け取った。 「景時さん!今年は沙羅ちゃんも」 「あはは〜。うん。しっかりつかまっててね。九郎、二尊院だね?」 九郎が決めた行き先へ向かう。 朔は九郎と、白龍と黒龍、リズ先生はひとりで馬に乗っていた。 黒龍も、少しは大きくなったんだけどね。 まだ・・・小さいんだよなぁ・・・・・・人の齢ならば、十二歳くらいかな? 少しは成長しているんだけど、九郎と並ぶとまだまだ小さい。 まして、リズ先生とだと、まさにコドモ。 「どうしたの?」 「ん〜?黒龍が・・・ね」 まだまだ小さいと思ったとは言えなくて。 「でしょ!髪も伸びたし、背もね、大きくなってるんですよ!嬉しくって」 あ〜〜〜、そうだよね。オレ、焦りすぎだ。 いなくなった黒龍が、小さくなってしまっても朔のところへ帰って来てくれたんだ。 これ以上、何を望むというんだろう。 「そう・・・だよね。うん」 「小さいのにとってもしっかりさんだし。この前もね・・・・・・」 楽しそうに黒龍の話をするんだね。 そう、何でも・・・とてもよく見ているんだ、君は。 「・・・景時さん?」 「ん?こう・・・来年は・・・どうしようね?オレが沙羅を負ぶってかなって」 途端に真っ赤になっているのが可愛い。 「沙羅ちゃんはお姉さんだから、九郎さんにお願いしちゃうとか?」 「ダメ〜!大切な我が家のお姫様なんだ。男はダメ」 何もこんなに小さいのにと思われるだろうケド。 こう・・・心配なんだよね、沙羅が誰かに心を預けちゃうかもしれないのが。 ほら〜〜〜、物語でよくあるじゃない。 筒井筒のってやつ。 「景時さんって、本当に沙羅ちゃん大好きですね〜」 すやすや眠っている沙羅には聞えていないんだろうなぁ。 オレの焼きもち。 「もしも・・・ですよ?沙羅ちゃんに好きな人が出来たらどうするの?邪魔します?」 「うっ・・・それはぁ・・・・・・」 まさにソレ。沙羅が好きな場合なんだよなぁ。 向こうがっていうなら邪魔したいトコだし、実際しそうだ。 ただ・・・沙羅が好きな場合は・・・どうしたらいいんだろう? 「景時さんっ!いわし!いわし雲」 「いわし・・・・・・魚のうろこっポイかな」 そう。何も慌てなくていい。 いつか、自然に答えが出るのだろうから。 「ぶぅ。あ〜!あ〜!」 「起きちゃった。沙羅ちゃん、今日はお出かけだよ〜〜〜」 沙羅はよく笑うよなぁ。楽しい証拠だね! 「景時さん。秋の遠足・・・毎年しましょうね?」 「うん。毎年・・・しよう」 返事をしてしまったけど、“えんそく”って何? こうして出かける事でいいんだよな? ・・・後で確認しておこう。うん。 |
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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→京で二人の子供が?!
あとがき:紅葉の季節って、散歩にいいですよね〜。 (2006.11.01サイト掲載)