狗尾草  ≪望美side≫





「うわ〜、ネコジャラシだ。よく騙されちゃったっけ」

 沙羅ちゃんとお庭の散歩が最近の朝の習慣。
 午後は暑いから、簀子でゴロゴロとか水遊びにしているの。
 お庭が公園みたいに広いから、毎日発見があるんだ。

「沙羅ちゃん。これでね、ママは将臣くんによくイジメられたんだよ〜」
 ネコジャラシの先っぽだけを、“ぽんっ”て投げつけられて。
 毛虫だ〜って騙されてたんだ。
 似てるよね?


「おい!人聞き悪い事を沙羅に吹き込むな」
 にょきっと頭の上から声がした。


「将臣くん?朝からおサボりぃ〜?」
「ますます聞き捨てならんこと言うよな〜。沙羅が俺をどう思うか考えろよ」
 どうって・・・どう?
 まだ言葉もわかってない沙羅ちゃんなのに?


「なんだよ・・・一応、沙羅の婿候補じゃねぇの?俺も」


 ・・・・・・・・・・・・は?
「将臣くんたら〜!冗談やめてよね。いくつ年が離れて・・・・・・」
「お前と景時だって考えてみろよ。十や二十かわんねぇって!」
「・・・変わるわよ」
 冷静に言い返しちゃった。
 二十といえば、私と先生くらい違うのよ?・・・ありえなくもないかも。


「まあな。ヒノエに先を越されるのはシャクだしな。な〜、沙羅!」
 将臣くんに抱き上げられて大喜びの沙羅ちゃん。
 う〜ん。複雑・・・・・・。

「ところで。本当のところ、何の用事?」
「ああ。今日は南に用事があるから・・・通り道?」
「何だ。家に用事じゃないのね」
「冷たい母上だよな〜、沙羅!暑いから冷たいお茶でも用意して待ってるくらい言えっての」
 沙羅にそんな事をいちいち言わなくていいのにぃ。
 だいたい、私が将臣くんのために、どぉ〜して冷たいお茶なんて。

「冗談だ。ま!行ってくるわ。またな、沙羅」
「うん。行ってらっしゃい・・・おやつの時間には帰ってくるんでしょ?」
 沙羅を抱っこしてお見送り。

「・・・わかんねぇ」

 わかんねぇって・・・そんなの、わかんないよ。
 将臣くんって、時々単独行動するから。
「ぶぶぶぅ・・・・・・」
「だよね〜。帰りがわかんないって、一番困るよね〜」
 沙羅と意見があっちゃったな〜なんて。
 それきり将臣くんの事は忘れてた。





「あら?どうしたの、狗尾草など持って・・・・・・」
「えのころ?これ・・・ネコジャラシじゃないの?」
 呼び名は違えど、同じ植物をさしている。
の世界ではそう呼ぶのね?狗の尾に似ているでしょう?だからすこし濁って狗尾なの」
「イヌっ?!言われて見れば・・・・・・昔ね、将臣くんにイジメられたの思い出してたの」

 けさ思い出した毛虫事件を朔につらつらと話して聞かせた。

「見えなくもないけれど・・・そうねぇ・・・私もよく兄上と遊んだわね」
「ええっ?!コレで?どうやって?」
「簡単よ。コレでね?・・・・・・」

 案外、いたずらっ子だったらしい朔の過去もわかってしまった。



 話しこんでいる内に、そろそろ程よく日が傾いてきたな〜って。
 将臣くん、どうしたのかな?
「今日は・・・来ないのかな〜。どう思う?」
 沙羅をあやしながら、簀子の端まで出で庭を窺っていると───


「なっ・・・何?!何をそんなに・・・・・・」
 ゆらゆらと大量のネコジャラシが移動してきた。
 足元を見れば、将臣くんの足だ〜ってわかった。

「あ?これな。沙羅が動くモノ、楽しそうに見てたからな。帰り道で見つけたんだ」
 すごいわ〜、両手いっぱいのネコジャラシ。
「冷たいお茶用意して待ってたんだよ。遅いから心配したんだから!」
 真面目にお説教しようとしてたのにぃ。

「きゃふ!きゃふ!あ〜、あ〜」

 あのフサフサが揺れるのが楽しいらしくて、沙羅が手を伸ばして大変!
「・・・将臣くん。この頃なんでも口に入れたがりで大変なんだから。ちゃんと持っててね」
「おう!沙羅〜、どうだ。これだけあればしばらく楽しめるだろ〜」
 女の子にはお花じゃないの〜?
 将臣くんのセンスって、昔からちょっとズレてるよね。
 でも、沙羅は喜んでるしぃ・・・・・・。

「少し待ってて。お茶とお菓子用意してくるから」

 私の退屈を心配して来てくれたのかな〜なんて思いながら。
 考えてみれば、疲れて帰ってきた景時さんにおしゃべりしすぎてたかも。
 そうだよね・・・家では寛いでもらいたいから。
 そうは思ったんだけど、朔の話とアイテムが揃っていたためにイタズラを実行しちゃった。





「おはよ〜、景時さん!」
 ネコジャラシで鼻の辺りをくすぐってみる。

「ふえっくしょんっ!!!なっ、何?!今の・・・・・・」
「これで〜す!昔、朔にイタズラされちゃったって聞いたから」
 困ったような顔の景時さんが、褥の上に胡坐で座った。

「これね・・・あったねぇ、そんなこと。こんな可愛いもんじゃなかったけど」
 ネコジャラシを手にとって、軽く振って眺めている景時さんの視線が。
 私の知らない光景を思い出しているんだなって。
「・・・そうなんですか?」
「うん。こう五、六本まとめて・・・ね。くしゃみで起きるとは思わなかったよ」
 寝起きにくしゃみはツライのかな?・・・ツライかも。

「・・・ごめんなさい。これ、昨日将臣くんが沙羅のために採ってきてくれたから」
「これを?」
「うん。動くのが楽しいらしくて。すっごく笑ってた」
 景時さんの顔色が、わかりやすいくらい蒼ざめた。

「将臣くんに・・・負けていられないっ!オレも沙羅に何か見つけてこないとっ!!!」
「景時さんは探さなくても・・・抱っこでいいんじゃ・・・・・・」
 私の声は届かず。
 景時さん、駆け出して行っちゃった。


「沙羅・・・パパったら、何を探してくるんだろうね?」
 まだ眠っている沙羅の顔を覗き込む。
 昨日は遊びつかれたのか、よく眠ってくれて助かっちゃった。
 もう少しだけよぉ〜く寝ててね?朝ご飯の支度があるから。





 しばらくして、手ぶらで戻ってきた景時さんを慰めるのは大変でした。
 しかも、景時さんが仕事に行くのに沙羅ちゃんが起きてくれないなんて!
 ・・・ふぅ。パパが拗ねちゃうと大変なんだよぅ。
 夕方には、沙羅ちゃんも協力してね?いっしょに「おかえりなさい」しようね。






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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→京で二人の子供が?!

 あとがき:ネコジャラシ、まさに氷輪がイジメられたエピソードから、ちょろり。毛虫に見えません?アレ。     (2006.09.30サイト掲載)




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