鳴神月  ≪景時side≫





 そうだよなぁ、一年・・・経ったんだ。
 去年のちゃんは身重でさ。
 そりゃあ心配で、心配で。
 転んでないかとか、泣いていないかとか。
 帰ったら・・・庭で水遊びしてたっけね。
 あれは、まあ・・・過ぎたコトだな。うん。

 ともあれ、夏といえば日照り。
 雨は嬉しいんだよ。
 なんだけど・・・鳴神様っていうのは、どうなのさ?
 ちゃんは嫌いなんだよね・・・雷が。
 音が心臓に悪いって言ってたっけ・・・・・・。
 黒い雲が流れる空を眺めながら、九郎のご機嫌伺いをしてみた。



「・・・お前は次から次へと・・・・・・」
 あらら。
 今日は九郎の機嫌が悪いなぁ。帰れないかな〜。

「景時。今日だけは・・・警備の事もありますしね?」
 で〜すね。
 今頃宮廷じゃ、夏越しの祓で神楽の準備してるだろうね。
 雨が降るっていうのにさぁ〜。
 はぁ〜、つまんない。

「・・・雨でも神楽するの?」

 うわ!睨まないでよ。
 この空見れば、わかりそうなもんでしょ。


「・・・神をまつるために奏するのですから。帝は御簾内ですしね」
 
 あっそ。舞手だけが舞台で濡れちゃうのは関係ないって?
 へ〜〜〜、ほぉ〜〜〜、ふぅ〜〜〜ん。


「・・・家でもしようかなぁ?ほら。家には舞手が二人もいるし」
 ちゃんと朔がいるわけで。
 景気よくお祓いをすれば、夏も乗り切れそうじゃないかな?

「景時」
「な〜に〜?」
「・・・お前、に何も言われていないのか?」

 はい?何もって、今朝もいつも通り“ちゅっ”てしてきたよ?
 これを言うと、また九郎が真っ赤になって大変だからいわないケド。
 
 何、何、何!
 九郎と弁慶だけ通じてる感じのその妙な視線での遣り取りは!


「景時。僕たち、さんからこのような招待状をいただいているのですが」

 は?招待状って・・・招待って家に?
 弁慶の手から文を奪うと、ガサガサ開いてザカザカ目を通す。



「・・・今晩家で〜?聞いてないよ!!!」
 今晩、我が家で夏越しの祓の食事会って何?
 
「・・・九郎」
「まさか・・・景時を驚かせようと秘密だったのか?だとしたら・・・・・・」
 いえね?そこで九郎が蒼くなるのもどうなんでしょう?
 秘密も何も・・・・・・。

「オレ、知っちゃったし。・・・どんな顔して帰ればいいわけ?」
 今日の警備の事なんてぶっとんで。
 すっかり帰る時の事しか頭になかった。







「ただいま〜。それと、お客様だよ〜って・・・九郎と弁慶だけど」
 秘密も何も、家に来る九郎たちと別に帰るというのもなんなので。

「お帰りなさいっ!それと・・・いらっしゃい!九郎さんたちが最後だよ?将臣くんなん
てね、今日は忙しいから遅くなるなんて返事だったのに、さっき敦盛さんと来てくれたの」
 お客様には手拭を。
 オレにはいつもの様にちゃんが汗を拭ってくれ、いつもの様に頬にキスしてもらった。

「かっ・・・!の・・・顔っ・・・・・・」
 九郎に指差されちゃった。
 いつもなのにねぇ?
「はい、はい、九郎には目の毒です。・・・景時、勝手に上がらせてもらいますよ」
 弁慶に背中を押されて連れて行かれる九郎が笑える〜!
 いいでしょ〜、可愛い奥さんからの労いつきのお出迎え。

 そうそう。オレ、ちゃんに訊きたい事が───



ちゃん。あのさ、今日・・・・・・」
「今日は遅くならなくてよかった〜。あのね、夏バテ防止にお食事会したいね〜って。
そうしたら、朔が今日は夏越しの祓とかだって言うし。丁度一年の半分ですもんね!」
 ニコニコと楽しそうに話を続けるちゃんは、めちゃくちゃ可愛い。
 が!オレは食事会のコトは、ひと言も言われていなかったぞ〜。

「その・・・食事会の事なんだけど・・・・・・」
「え?景時さんの好きなモノたくさん作りましたよ?」
「そうじゃなくって・・・オレ、食事会をするコト知らなくて・・・さ」
 他に言いようがないので、そのまま正直に訊いたみた。


「・・・・・・やだぁ〜!景時さんに今朝言うの忘れちゃった!よかった〜、早く帰って
きてくれて!・・・そのぅ・・・仲間ハズレにしたとかじゃないですからね?」
 オレの顔色を窺う君がこれまた可愛い。
「うん。チラリと考えちゃった。弁慶がちゃんからの文を見せてくれて知った時には・・・さ」
 知らなかったのは事実だし。
 どうして知ったかも正直に言おうと思っただけなんだ。
 隠し事は、出来るだけしたくない。

「ごめんなさい・・・悲しく・・・なっちゃいましたよね?皆でご飯って、ひとりで浮かれてて。
景時さんに言ったつもりになっちゃってて・・・えっと・・・どうしよぅ・・・・・・」

 あんまり正直に言うのも、ちゃんを困らせちゃったな〜とか思うんだけど。
 思ってます。
 思ってますがぁ。

「う〜ん。ちょっぴりココが痛かった・・・か・な〜。・・・なんちゃって!」
 軽く胸を叩いてみせてから、ちゃんを抱きしめた。
「景時さん!?」
「うん。悲しくなっちゃったから・・・少しだけ独占してもイイ?」
 いい大人が、オレもかまってとは言いにくい。

「ずるぅ〜い。そんなの、私だってそ〜ですもん。最近、景時さんお休みないし・・・・・・」
「そうなんだよねぇ。オレも家にいたいけど。梅雨の時には休み多かったからなぁ・・・・・・」
 奥さんでお母さんのちゃんは忙しいんだよね。
 オレも忙しいと、どうにも、こうにも、夫婦の時間が少なすぎだと思う。


 久しぶりにちゃんの唇に触れていると、背中に気配が───


「・・・客人を待たせ過ぎだ。朔が大変だ。早く来い」


 何かツッコミしてくれた方が楽なんですが。
 相変わらず黒龍は朔中心らしい。
 ちっこいのにご苦労様だね〜。
 兄としては複雑だけど、嬉しかったりするんだ。

「よかった。白龍だったら、皆に言いふらされちゃう。黒龍は冷静だから助かっちゃった!」
「そういう問題でいいの?」
「うん!黒龍ね、沙羅と遊んでくれるし、最近たくさん話すようになったんですよ?朔も嬉しそうなの」
 そうオレに話をするちゃんの方こそ嬉しそうで。
 朔の事を本当に大切に思ってくれているのが、これまた嬉しい。

「そっか。早く行かないと・・・沙羅も待ってるね」
「あ!それなら問題ないですよ?皆が順番に抱っこして遊んでくれてるからご満悦なの」

 それこそ複雑だよ。
 お父さんは、沙羅の将来がとても心配です。

「急ごう!オレ、まだ沙羅ちゃんにただいましてなーーーーい!!!」

 オレが父親なんだぞって頑張らないと。
 この座は譲らないんだってば!
 八葉の仲間を信じてはいるけどさ。
 油断ならないこともご存知なオレとしては、気が抜けないわけ。



 来るかと思った雷様も、すっかり遠くに行ってしまっていた。
 ちぇっ。家にオレがいる時なら、ちゃんに抱きついてもらえるのに。
 今日はついてるんだか、ついていないんだか。
 水無月の晦日は厄払いって事で、明日からはイイコトだけありますようにっ! 






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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→京で二人の子供が?!

 あとがき:茅の輪をくぐったりとかのアレです。元々は半年分のお祓いとかなんとか。へ〜〜〜。     (2006.08.25サイト掲載)




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