五月雨 ≪景時side≫ 風が吹いたら・・・休みたい。 雨が降ったら・・・もっと休みたい。 毎日降ったら・・・行きたくない。 ま!オレの心の叫びはこんなトコ。 別に仕事が嫌とかそういうんじゃなくてね。 もう、なんていうか。 心配で、心配で。 あまり雨が続くと川が溢れたりするしねぇ。 天災っていうのかなぁ・・・我が家は丈夫に造られているからさ。 家が吹き飛ぶほどの・・・ってのはあまり考えられないけどね。 場所も川の水で流されて〜とは考え難いし。 それでも何が起きるかわかんないでしょ? 「景時さん。気をつけてね?」 「うん・・・・・・」 つい返事も小さくなっちゃうんだよ。 ちゃんに心配かけたいわけじゃないのにさ。 「お家の事は大丈夫ですよ?お母様も朔もいるし。しっかり守るから」 「・・・うん」 家が心配なんじゃなくてね。 そこで暮らしてる人が心配なんだけどな。 後ろ髪を引かれまくってるとね、沙羅が欠伸をする。 「ふぁ・・・ふぅ・・・・・・ぷふぅ・・・・・・」 思わずちゃんと目を合わせて笑ってしまった。 「やだぁ、沙羅ちゃんたら。パパを欠伸で送り出すなんて」 「いや、いや、いや。こうして安心して寝てますよって合図だよ」 物事、見る方向を変えれば単純な事も多いよな。 ちゃんにたくさん教わったけど、最近では沙羅にも教えられてる。 あらら・・・父親失格・・・・・・。 「景時さんがいないとね、景時さんを探してるんだよ」 「えっ・・・・・・」 意外な言葉に行こうとしていた足が止まってしまった。 「帰ってきたら教えてあげますね!昨日ちょっとね」 にっこり微笑んで手を振られてしまっては、これ以上尋ねられない。 くぅぅぅ。聞きたい!!! オレは何が何でも仕事を終わらせて帰宅すべく家を飛び出していた。 「景時」 誰か呼んだ? 「・・・景時っ」 沙羅ちゃんがオレを?気になるなぁ〜。 「景時っ!!!この馬鹿者っ!!!」 「あいてっ!」 何かで叩かれましたね、オレ。 顔を上げれば俯いて笑っている弁慶と、頭から湯気が出ている九郎。 あら、あら。 お急ぎの仕事でもありました〜ってね。 「ごめん、ごめん。何だっけ?」 一応聞き逃したフリ。 「・・・まだ何も言っていない」 うわ〜。 あからさまに不機嫌になっちゃってるよ、九郎が。 「な〜んだ。呼んだだけか。それで?」 先を促してみる。 聞くよ?ただちょっと考え事してただけでさ。 「川岸が崩れた箇所があるらしい。見てきてくれ。場合によっては人手を出す」 「御意〜ってね。でもさ、先に人手出した方がいいよ。オレが戻ってくるより 先に必要になったら困るでしょ」 早ければそれだけ多くのモノが助けられるかもしれないんだよね。 「・・・そう・・・だな。よし。一部隊お前に任せる」 「どうも!足りない時は誰か寄越すから」 さて、さて。川岸に住んでいる人たちの避難が先だね。 ちょっと行ってきますか!・・・のつもりが。 ものすごく行って来る事になるとは思わなかった。 「・・・ただいま」 よたよたと辺りも真っ暗になってからの帰宅。 疲れたというより、もう悲しいよオレは。 約束破る事になっちゃってさ。 「おかえりなさい、景時さん。お風呂がいいですか?」 振り返るとちゃんが立っていた。 「・・・起きてたの?」 「起きてました。沙羅ちゃんは寝ちゃったけど、パパがいるから大丈夫なの」 「・・・ん〜?」 オレは今帰ってきた。 けれど、ちゃんはオレがいるという。 ん〜?パパという違うモノでもあるのかな? 「ご飯はどうしますか?」 「いや・・・胃がもたれるから・・・・・・」 「大丈夫。おかゆにしてあるから。少しだけでもお風呂の後に食べてね」 オレの頭をテキパキと手拭で抜いていなくなってしまった。 もしかして、温めに・・・行ったんだろうなぁ。 ごめんね〜。 オレは、飛び込んで出てきたくらいの時間で風呂を済ませ、急いで食事をした。 「しぃ〜っ。静かにね?」 ちゃんが口元で指を立てているのが可愛いが、ここで飛びついたら怒られる。 大人しく彼女の後から寝所へ入ると、沙羅が寝息を立てて寝ている。が! 見たことはないが、見覚えのある物体に思わず口元を手で覆う。 声を出したらマズイって! 「・・・・・・ちゃん?」 「似てるでしょ?沙羅ちゃんのパパ」 悪戯が成功したとでも言うように笑う君が眩しい。 けれど、沙羅に押しつぶされているソレは間違いなく─── 「もしかして、オレだよね?」 「そうですよ。頑張ったんですもん。前髪のトコがとくに」 オレの人形だ。 何故わかったかといえば、服装と髪型。 見覚えあるハズだよなぁ。 「これがあるとね、沙羅がちゃんと寝てくれるの。・・・沙羅が起きている時に 景時さんと同じお香を焚き染めたり苦労したんですよ〜」 あ〜〜〜・・・参ったね。 ちゃんには絶対に勝てない気がするよ。 でもね。 「それじゃ・・・沙羅ちゃんの母上にはホンモノっていうのはどう?」 そろりとちゃんに腕を回せば、良い返事が─── 「えっと・・・私の分もあるの」 「・・・はい?」 沙羅の隣の褥を見れば、それこそ見覚えのある奴が寝ている。 いや、転がっている。 「そのぅ・・・私も景時さんが鎌倉とか行ってる時寂しいなぁ〜って。どうせ作るなら ひとつもふたつも同じだし・・・・・・」 思わず項垂れた。 何故ニセモノに負けるんだ、オレは。たはは。 「あ〜〜〜っと・・・・・・」 ちゃんに回した腕のやり場に困っていると、ちゃんがするりと抜け出す。 「少し待ってて下さいね」 褥に居座っていたオレのニセモノを衣装箱の上へ背を向けて置いてくれた。 「今日は・・・ホンモノとおやすみなさいにしますね」 背伸びしたちゃんからキスをもらった。 勇気百倍の今夜、ホンモノの意地を見せようと心に誓ったのは当然の結果といえる。 本日の日記、ここまで!!! |
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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→京で二人の子供が?!
あとがき:ホンモノは何かを頑張ったらしい(笑) (2006.08.07サイト掲載)