桜蕊  ≪景時side≫





 すっかり桜も散ってしまい・・・・・・庭も涼しげといいたいトコだけど。
 季節ごとに色々順番に咲くからね。
 そう寂しがるものでもないよな。



「景時さ〜ん!はい、交替ね?」
「あ・・・うん。沙羅、おいで〜」
 ちゃんから沙羅を受け取る。
 いいなぁ・・・庭を眺めながら、沙羅を抱っこというのも。

「だんだん日差しが強くなりますよね〜。でも、夏の前に梅雨が来ちゃう」
 確かに。
 雨が降り続く季節がそろそろ来るんだよな。
 春先は色々な意味で慌ただしくて。
 ようやく仕事もそこそこ楽になったのにな〜。
 とはいえ、家の中でも遊べるしね!
 
「沙羅って・・・泣かないね?我慢強い?」
 そうなんだ。夜泣は仕方ないとしてもだ。
「う〜ん。寝てばかりだからかなぁ。足はね、強いですよ。ほら」
 ちゃんの手のひらを蹴ってる。
 動かしたらあたった・・・の方が近いかな。

「何か手に持たせると、持つことは持つんですよ?」
 お手玉を持たせると握りっぱなし。
 何かはわかってなくて握ってるのかな〜。

「今度ね?小さいお人形を作ろうと思ってるんです」
「へ〜〜〜、お人形かぁ・・・・・・」
 実にちゃんはよく動くし、考えてる。
ちゃんもしたの?お人形遊び」
「しましたよ。ママにお洋服縫ってもらったり」
「そっか」

 ちゃんの世界のお人形は、オレが知っているものとは違うようだ。
 よく朔の相手をした・・・させられた・・・かな。
 紙だったけどね、人形。

「景時さんは?小さい頃の遊びって何してたの?」
「オレ〜?オレかぁ・・・・・・」

 遊びって・・・そうだなぁ。

「虫を取ったり・・・・・・泳いだり・・・とか?」
 一応、武士だからなんだけどね。泳法なんてしたのは。

「泳ぐ?!どこで?え〜〜〜、いいなぁ。私も泳ぎたいけど、水着がないし」
ちゃんが?・・・水着って・・・泳ぐ時の衣ってこと?」
 ほ〜んと、ちゃんの世界には何でもあったんだね。

「そうなの。この袖じゃ大変じゃないですか〜。もっとね、こうすぐに乾く
便利な布でできてて・・・可愛いの!」

 ふむふむ・・・可愛い・・・それは見てみたかったな〜。

「そうかぁ〜。可愛いのか〜〜〜。見てみたかったよ〜〜〜」
 かなり心から思ったんだ。
 ちゃんが絵を描くまでは・・・の話。

「ちょっと待ってて下さいね!絵を描くから」
 そう言ってちゃんが描いた絵は、確かに泳ぐには良さそうなんだけど。
 とても布地が少ない着物が描かれていた。

「・・・それが水着?」
「うん。これだと黒みたいだけど、ピンクとか可愛い色があるんです。それに、
デザインも色々あって〜〜〜」
「・・・・・・お腹でてるよ?」
 まあ・・・自分は出しておいて大変言い難いけどさ。
 ちゃんの・・・は、見せちゃダメだろ。
 かなり見せてはいけない部分だと思う。
 水着とは、隠している部分がかなり限定的で、刺激的すぎな着物だな〜。

「だって、布が少ない方が抵抗が少ないんですよ?」
「いや、いや、いや。・・・抵抗ある!ちゃんの・・・脚もお腹もダメ!」
 オレに!抵抗がありますよ。
 去年は庭先で脚を出して水に浸けてたっけ。
 脚だって嫌なのにさぁ。
 お腹に背中にもう大変だろ〜、この水着ってやつは。

「水の抵抗ってコト!ほら、流れに手を入れると、流れが変わるでしょ〜」
「その抵抗か〜〜・・・って、違うから!ちゃんを見せたくないっていう、
オレの心の抵抗の話だよ?」
 少しばかり声が大きくなっていたかもなぁ。
 沙羅が泣き出しちゃって。


「ふぇっ・・・ふぎゃあ!ふぎゃあ!」


「沙羅ちゃんが驚いちゃった!はい、こっち。交替しますね」
 ちゃんが沙羅を抱えてあやすのを隣で眺める。
 なんとなく言葉を発しにくくなっちゃったなぁ・・・・・・・・・・・・。





「ごめんね?景時さん。あの・・・わざとなの、あの絵・・・・・・」
「は?」
 絵がわざと?あの絵は嘘?
 オレの頭の中の疑問が見えたかのように、続きの言葉を紡いでくれた。

「最近、景時さんたら沙羅ちゃんばっかりなんだもん。私にもう興味がないのかなって。
水着は本当にああいうモノなんだけど・・・そのぅ・・・試しちゃった。ごめんなさい」
 いつのまにか泣き止んだ沙羅を抱えながら頭を下げる彼女の仕種が。
 それすら可愛いと思っているのに?!
 ちゃんがいるだけで、周囲はキラキラなのに?

「あ〜っと・・・うん。ごめん。オレね、あまりに可愛いを連発しすぎだよなって。
少しだけ気をつけていたっていうのは・・・ある・・・かも・・・・・・」
 誰がいてもお構いなしでちゃんにベタベタしていたから。
 少しばかりうっとおしがられたら嫌だなって、自粛していたかもしれない。
 昨年の夏の反省を踏まえて・・・なんだけど。
 またバラバラの夜は寂しいよな〜とか・・・さ。

「・・・どうして?気をつけるって・・・・・・」

 だよな〜。わかんないよね〜、言ったことないから。
 ちゃんが大好きすぎで離れたくないとか、そういうのって。

「う・・・うん。そのぅ・・・ひとりは・・・寂しいっていうか・・・・・・」
 かなりまずい状況だよな?
 ひとりで寝られませんって、意味不明だし。
 今年も蛍を集めてこようとか。
 そうすればちゃんから・・・とか。
 邪な思いが頭の中で交錯してますって・・・言ったらダメだろ!!!
 思いっきり頭を振るって考えを飛ばす。
 そう、飛ばす!!!

「可愛い〜〜〜。前髪がふるふるしてますね?」

 ちゃんの指が・・・オレの前髪に触れる。
 自然に伸ばされるその手に、どれだけ救われているのか知ってる?

「ちょっと長くなっちゃったかな?」
「景時さんが前髪かきあげるの好きだから、あまり短く切らないでね?」
 そんな事言われたら、もう一生切らなくても・・・って大袈裟か。
 さっきの答えを見つけないと。





「その・・・・・・オレね、・・・・・・好きなんだ」
「んふふ。私も大好きですよ?景時さんが」
 上手く言葉が探せなくて、最後に思いついたのが“好き”だった。
 それなのに、しっかり答えてくれる君が───



「オレ・・・本当にちゃんが大好きだよ・・・・・・」
 精一杯のいっぱい、いっぱい。

「・・・ん。知ってます。私も大好きだから。大丈夫。水着なんて着ないし。
でもね?今年も水遊びはしますからね。爪先だけの」

 頬に伝わる感触と、君も覚えていてくれたという喜びで胸が痛い。
 もう、ぱんぱん。
 オレが嫌だって言ったのと。
 ここまでならって言ったの、全部覚えていてくれてるんだな〜って。

「・・・風鈴だそうか?」
「はい」

 君との想い出が増えていく。
 同じ時を過ごせば過ごすほど、言葉が少なくても大丈夫になる。
 そんな関係がすごく嬉しい。



「もう、寂しくなくなりました?」
「うん。オレの・・・勘違いだったみたい・・・・・・」
 ちゃんの肩へ腕を回す。
 オレに寄りかかってくれる箇所が熱を持つ。



「今年も・・・蛍見ようね。庭で・・・さ」
「今年は、沙羅ちゃんも。来年は・・・もうひとり増えてるかも」
 あ〜〜〜、そっちもしっかり覚えておいでですか。
 なんとなく・・・だけど。
 オレもそんな気がする。



「そうだね」
「うん」





 短いけど、確かな言葉。
 確かな気持ちって、案外何もないところにあるんだな〜〜〜。
 またちゃんから教えられた。






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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→京で二人の子供が?!

 あとがき:葉桜くらいの季節を想定。ほのぼの夫婦なのでありましたv     (2006.07.18サイト掲載)




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