家の中の敵  ≪景時side≫





 オレってば、一応主なわけですよ。
 だからね、仕事ってやつをしないといけないわけで───



「あはは!もぐもぐしてる」
「ほんと。何かを食べている夢でも見ているのかしら?」
「馬鹿ねぇ、朔。自分で動けるようになってきているシルシなのよ」



 ああ・・・羨ましい。
 まだ日があるうちに帰宅出来るなんて、かなり久しぶりなんだけど。
 沙羅を囲んで、毎日そんな楽しい事をしてたんだ・・・・・・。
 簀子でほのぼの楽しそうだな〜〜〜。いいな〜〜〜。
 ちぇっ。つまんないな、父親ってのは。


「たっだいま〜!」
「しぃ〜〜〜っ!!!」

 ・・・すっごい勢いで全員に睨まれた。オレ?


「おかえりなさい、景時さん。早かったんですね。ちょっと待っててね」
「あ!」
 ちゃんが駆けて行っちゃった。
 手拭なんていいのにさ。ちゃんがいてくれる方が嬉しいのになぁ。
 気を取り直して、
「沙羅〜、ただい・・・・・・」
「兄上!埃を落としてきてからにして」
「うわぁ!は、はい!」
 
 帰宅早々、なに叱られてるんだろ、オレ。

「景時は着替えてからになさい。そんな一日働いて誇りまみれの姿で沙羅ちゃんに
触らないでちょうだい」

 母上まで!オレだけ沙羅に触れないの?

「あのぅ・・・ただいまくらい・・・・・・」
 諦めきれずに上目遣いに言ってみたが───


「景時っ!」
「兄上っ!」

 揃ってオレを睨んでるよ〜。ちゃ〜ん!戻ってきて〜。助けて〜〜〜。
 オレの祈りは届いたらしい。



「あれ?景時さん?靴脱いで、こっち、こっち!はい!」
 ちゃんに手招きされて近づけば、階の高低さを利用して俺の顔や手を丁寧に
拭ってくれる。
 これぞ至福の時間。幸せ満喫中。
「おかえりなさいっ。沙羅ちゃんがね、転寝気味っていうのかな?こうね、口を
もぐもぐしてて可愛いのぉ〜〜。見てあげて?」

 ちゃんに手を引かれて、母上に抱かれている愛娘を覗き込む。


「・・・ぷふぅ・・・・・・・・・」

 おおっ!口がこんなに開くなんて!


「そろそろ話すのかな?」
「うん。もう少しで声を出してる感じになるんですよね?お母様」

 いいなぁ・・・声か。最初に何を言おうとするんだろうね。
 沙羅の始めての言葉は何だろうなぁ・・・・・・。
 うおっ?!


「あら、あら。景時が煩かったから、起きちゃったみたい」
「偶然ですよ。私、代わります」
 ちゃんが沙羅を抱っこする。
 
 ・・・沙羅が両目ぱっちりでオレと目が合ってるぞ?

「う〜・・・・・・う・・・う?・・・・・・」

 これって・・・・・・。

「オレだよね?オレに何か言ったよね?うわ〜〜〜、沙羅ってば、いつの間にか言葉を
覚えて!」
 
 やだなぁ、母上も朔もさぁ。そんな『全然チガウ』みたいな顔して。
 オレだよ!オレに何か言おうとしてくれたんだってば。間違いない!


「沙羅ちゃんは、お父様にお帰りなさいって言いたかったんだよね〜〜〜」

 オレの味方はちゃんだけだねっ。いや、いや。沙羅もだ!


「う・・・う〜、う〜・・・・・・」
 
 正直、人語とは言い難いが、沙羅の声と言葉だ!


「可愛い〜〜〜!早くもっとたくさん声を聞きたいなぁ・・・・・・」
「・・・は本当に前向きなのね」
 
 朔もなぁ。オレに対する態度と正反対だよ。
 ちゃんがいう事は、何でも肯定だしさ。母上だって───


「大丈夫よ、さん。そのうちするっとさんを呼ぶから。毎日お世話をしているのは
さんですもの。間違っても景時が先なんてないわよ。朔。夕餉の支度を始めましょう」

 そう、そう。もう、行っちゃって下さい。
 何気にオレの事、無視してるよ。
 オレの娘なんですよ、沙羅は。
 母上の娘じゃないし?朔の娘でもないんだって。オレのっ!!!
 ちゃんの隣に座れば、沙羅があちこち視線を彷徨わせている。


「ね、景時さん。さっきの“う〜”って、パパって感じでしたよね?次は誰かな〜」
 
 次って・・・さっきのは・・・何だったんだろう?本当のところ。
 ・・・て、ことは。
 誰が一番最初に沙羅に名前を呼んでもらえるか?
 つまり、誰が先に名前を覚えてもらえるかの争奪戦とみた!!!

 当面の敵は、母上と朔だな。
 少なくとも、この二人に負けると後々面倒だ。
 しかも、我が家は訪問者が多い。
 出来れば八葉の仲間には負けたくない。
 ど〜なんだろ、オレ。
 仕事、辞めたくなっちゃったな。
 まわり中、敵だらけ。
 父親としての威厳にかかわる大問題だよ〜〜〜。


「沙羅〜〜〜、今日も父上とお風呂に入ろうな?我が家の大切なお姫様なんだからね〜」
 
 いい動きをするようになったよな〜。
 首とかぐいぐいぃ〜って。実に頼もしい。


「そうですよね。女の子は、いつまでパパとお風呂に入ってくれるかわからないですし」

 !!!!!!!!!
 そ、それはないよ〜、ちゃん。
 オレ、また仲間はずれなの?
 サビシイなぁ・・・・・・。


「うん・・・そうだよね。だ〜よね〜〜〜」
 努めて明るく返事をしてみる。
 確かに、年頃の娘と父親はいかんと思う。
「そうですよ。でもね、男の子は結構長く一緒に入ってくれそうですよ?背中を洗ってくれ
たりとか〜。もっと大きくなったら、一緒にお酒飲んじゃったりとか〜」

 そうか〜。そこは、男同士ってヤツね。確かに。

「じゃあさ、沙羅はちゃんとお風呂に入る様になるかも」
「どうかな?女の子って、ひとりがいい気がする。髪は洗ってあげたいけど」

 ええっ?!そうなの?そうか〜。


「髪かぁ・・・・・・オレもちゃんの髪、洗いたい」
 うっかり、つるっと本音を零してしまった。
 ちゃんとお風呂をまったくしてない。最後は冬だったよな?



「・・・うん。その・・・私も・・・・・・でもね、沙羅ちゃんがいるから。もう少しだけ
待ってて下さいね?」



 もしかして、すっごい事言われたよな?



「・・・いいって意味だよね?」
「うん。いいんです。いいんですけど・・・その・・・沙羅を任せてもいいくらいになったらね。
ただし、時々ですよ?そんなにいつも頼むの悪いし」

「う!」

 二人で話していたら、沙羅の声が。

「・・・もしかして、沙羅は賛成してくれるのかな〜?」

 だって、オレの強い味方だし。


「う〜・・・う!」


「可愛いよぅ〜、沙羅ちゃん。でもね?パパにばかり返事しないで、ママにも何か言って〜!」

 え〜っと。確かに。どういったわけかオレの後にくるよな、沙羅の声。


「・・・ふぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・」

 ・・・あの・・・それは・・・まずいぞ、娘よ。
 ママに何という事を!無視はいかんぞ、無視は。


「ふ〜んだ。沙羅ちゃんはパパが一番好きなんだよね?ママだって負けないんだから!」


 あらら〜。ここでも小さなヤキモチが。
 なんだ。みんな同じか〜。



 結局のところ、梶原邸は今日も平和ですよ〜ってね!






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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→京で二人の子供が?!

 あとがき:泣き声→うなり声→第一声!という順番だったような?     (2006.06.15サイト掲載)




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