初音  ≪景時side≫





 春だねぇ・・・・・・
 春ですよ。だってさ───


「ほぉ〜ホケキョ!だって!どこに居るのかな〜」

 
 沙羅を抱いたちゃんが、簀子で我が家の庭にいるであろう鶯を探している。
 まだ鳴き声がアヤシイ。
 初音だからね。
 春が終わる頃には、もっとしっかり“法華経”と鳴くんだろうな。
 そう。
 縁起がいいのは、法華経と聞えるからなんだよな〜。
 つらつらと他愛も無いことを考えながら、二人を眺める。


 オレは今日はお休み。
 沙羅が生まれて随分経ったな〜と思う。ひと月と少しかな。
 それにしても、ちゃんは本当によく沙羅に話しかける。
 かなり羨ましい。


「景時さん!鶯みたことある?」
 ん〜?それって、つまり・・・・・・鳥の姿をって事だよな?
「あるよ〜。山で見たかな。小さめな鳥だよ」
 手を伸ばせば、ちゃんが沙羅をオレに手渡す。
 抱っこ、覚えたからね!任せて!


「沙羅ちゃんはまだ見てないね〜?そのうちお庭で見られるかな〜?」
「オレが抱っこしたまま庭に行こうか。うん。それがイイ」
 毎日抱っこしてるよ〜。
 お父さんだからね。
 ほら〜、顔を忘れられたら悲しいし。
 

「外にいても、痺れるほど寒くなくなりましたよね!」
 ちゃんがオレの背中に抱きついた!
「そうだねぇ〜。庭もなんとなく明るくなった気がするね〜」
 平静を装っているが、かなり嬉しい。
 背中にちゃん。腕には沙羅。
 オレって夫で父親してるっぽくない?

「それにね、鶯は春告げ鳥って言われてるしね」
「春!それ、すっごくわかる〜。鶯色って、春色ですよね〜」
 のんびり庭へ降り立てば、ちゃんがオレの着物を掴んでついて来る。
 いいなぁ・・・こういうのって。


「ん?何か見えるのかな〜〜?」
 沙羅が一点を見てるんだよなぁ。
 何かいる?

「わからないけど・・・時々天井の隅とか見てますよ?最近ね、動くものに反応するの」
 天井の隅?それはまた変なトコだな。
 いよいよ何かいそうだ。

「動くものかぁ・・・早く大きくならないかな〜。・・・声、聞きたいね」
「そうですね!予想では、朔みたいに可愛い声の予定なんだけどな」


 ・・・ちゃん。
 オレとちゃんの娘なんだから、そこは是非ともちゃんに似て欲しいよ?


「朔かぁ・・・沙羅にまで叱られそうだな〜」
 朔が二人は勘弁して欲しいぞ。
 やっぱりちゃんに似て欲しい。

「あら〜?何か悪いコトしちゃう予定ですか〜?」
 くるりと前へ回りこむと、オレを見上げるキラキラの瞳。
 この目に大変弱いんだ。

「しない、しない。頼りなくてって意味でだよ」
 君は騙されてくれなかったしね。
 嘘なんて無意味だし、もう必要ないんだ。

「うふふ。知ってます。悪い事出来ないのなんて!ね〜、沙羅ちゃん!」
 まるで話を聞いていたかのように、沙羅の顔が綻ぶ。
 オレの欲しかったモノ、見つけた。



「ね、ちゃん。次は男の子だよね〜」
 オレは知ってるんだ。次は元気な男の子だよ。

「ええっ?!そうなんだ〜。・・・・・・景時さんのえっち!」
 あ〜らら。真っ赤になっちゃった。
 そういう意味で言ったんじゃないんだけど・・・な。
 そういう意味でもいいかな!

「沙羅ちゃんも兄弟欲しいってさ〜〜〜」
 沙羅の顔を窺えば、やっぱり知ってるぞって表情をしている。
 沙羅が見ているのは、弟なのかな。


「私もね、いつも兄弟欲しいな〜って思ってたから」
 ほ〜んと、ちゃんは真っ直ぐだ。
 飾らない言葉が返ってくるのって、こんなに安心するもんなんだな。

「そ?オレは・・・・・・そうだな。妹、嬉しかった」
 朔が追いかけてきてくれるのが。
 何があっても兄と呼んでくれるのが。

「ですよね〜。朔、めちゃしっかりさんで可愛いもの」
「あ〜、しっかりさんか。それはね、朔いわくオレがダメだからなんだって」
 環境が人格形成に与える影響っていうのかな。
 オレが当てにならないって事でしょ。その通り!

「二人でちゃらら〜んってしましょうか?そうしたら子供たちがしっかりさん!」
「・・・・・・あははははっ!そうだね、そうしようか!」
 いつもながらオレの奥さんは頼もしい。
 そっか。そういう考え方もあるね。


 ひゅんっ───


「あいてっ!」
 何か飛んできたぞ・・・・・・。


まで馬鹿な事いわないでちょうだい。これ以上兄上がいい加減になったら!」
 やっぱりね。我が妹君でしたか、この扇は。

「違うよ。景時さんはいい加減じゃないもん。大丈夫。ちゃんとわかってます」
 あ〜〜〜、オレの頭を撫でてくれてる。
 優しいんだよね、ちゃんは。


「あのね、皆で時々しっかりさんを交替ですればいいと思うんだよね」


 ・・・う〜ん。そうきたか。ちゃんは面白い。
 朔を黙らせられるのって、君ぐらいだよ?

・・・交替って・・・・・・」
「だって。朔も疲れるでしょ?かわりばんこにしよ。偶には朔もちゃらら〜んって」
 朔が!朔がもう限界って顔してるよ。
 笑った方がいいよ〜、無理しないでさ。

「もう!のんびりやさんなんだから、は。そうそう、今日の夕餉は何にする?」
 朔と譲君がお使いに行ってくれるらしい。
 それは、それは。お気遣いいただきまして。



 ちゃんの隣はあたたかくて。毎日が春───






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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→京で二人の子供が?!

 あとがき:鶯、見た事があるんですよ!田舎で偶然に。そんな想い出からひとつ☆     (2006.05.27サイト掲載)




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